第3話 未知との邂逅

 少しといっても数分なのか数秒なのかはわからないけど意識が飛んでいたため、復活した時には結構冷静になっていた。しかし冷静になっただけであり情報の整理ができたわけではないため混乱は続いている。


言い訳ではないが脳内に来た情報はしっかりと伝わってきている。けれどその情報のあまりのインパクトにそれを受け入れるということができないのだ。わかりやすく言うとするならば激辛麻婆豆腐を食べたはいいが飲み込めない感じだ。俺がこんな状態になっているのに元凶である彼女はずっと笑っている。爆笑している。


「あっはっは。面白いねぇあんた。ふっと棒立ちのまま止まったかと思えばすぐにまた何かを考えている。人というよりは壊れた機械みたいだね」


 これはとてもウザい。なんか俺をやたら馬鹿にするが、こんな状況でまともな思考をすることができる人間がいたらそれは人間じゃない。いや人間なんだけど。たぶん素晴らしい教育を受けていた人か危機的状況に慣れてしまっているクレイジーな人だ。残念ながら自分は凡人界の底辺を駆け抜ける男なのでそれは不可能である。しかし、このまま考えたふり(すでに考えをまとめることは放棄している)を続けていても事態が変化することはなさそうだ。


「お、おい」


「なんだい?やっとあたしと話してくれる気になったかい?それにしても急に強気に出たね。あたしに舐められないように立場は対等だよっていうアピールかい?」


 俺という人間の強さをアピールする作戦が完璧に裏目に出た。図星だよ図星。これほどまでに完璧に俺の考えを読み取るなんてありえない。まさか彼女はさとり妖怪なのではないのか?だとすると次のセリフは・・・


「なんだいあたしをじっと見てさ。やっぱあたしに惚れたんだね?」


・・・あれ違うぞ。ここは普通なら そうさあたしはさとりだよ。とか あんたあたしを知っているのか。あたしも有名になったねぇ とかが来るはずだ。けど実際は違った。これが意味することは・・・なんだ?未だ頭の回転があまり良くない。落ち着けば少しは回り始めるだろうがいかんせん今の状況に落ち着ける要素がない。皆無だ。


「お、お前は本当にさとりじゃないんだな?」


「ああ、ちがうね。自信を持って言えるよ」


「嘘じゃないだろうな?」


「妖怪は種族にもよるだろうが嘘を嫌うよ。だから断言できる、嘘じゃないってね」


 聞いた感じ嘘じゃないだろう。人は嘘をつくとその時の不安感が表情や行動、話し方に出ると前にどこかで聞いたことがある。それで見る限りだと嘘はついていない。もっとも今相手をしているのが人ではないのでこの方法が通用するかどうかすら怪しいのだが。


「・・・わかった。じゃあお前は何者だ?」


「うーん、それを簡単に言うことはできないねぇ。もっと昔だったりあたしがアホだったりしたら言えるんだけどねぇ。人間の怖さも十分に理解しちゃってるからねぇ・・・とりあえず今言えることはあたしは妖怪だということだけかね」


 薄々わかっていたが改めて彼女が妖怪だということがわかった。もともと幽霊か妖怪かの二択だったが個人的イメージとして幽霊は恐怖を与えてくる存在で、妖怪も恐怖を与えるがどこか人に近い暖かさを有しているイメージだったので会話をしていく中で彼女は妖怪なんだろうなと感じていた。


「とりあえずということはいつかは全て教えてくれるということか?」


「なんだい?あたしに興味津々かい?可愛いねぇ」


「なっなわけないだろ!」


 やはり俺は彼女に手玉に取られているようだ。嫌悪感を抱くというわけではないが不満が募る。例えて言うならば年の離れた姉を相手にしているようだ。姉などいないのでこの例えが正しいのかはわからないが。


「そういう言い方も愛い奴だねぇ。まあ心配しなさんな。あんたが次ここに来たらもう少し教えてあげようかねぇ」


「・・・・そうか。じゃあ帰る」


「あたしはいつでもいるから好きに来なさんな」


「気が向いたらな」


そういってこの場を離れる。少し離れて彼女がどうなってるのか気になって後ろを振り返ったがそこには誰もいなかった。


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『偽りの世界で。』第三話を読んでいただきありがとうございます。

今回で物語上の一日が終わったため、短いですがこれで一話分とさせていただきました。

☆やレビューなどで改善してほしいところを含め評価していただけるとありがたいです。

次の話も今回と同じような時間に投稿されると思うのでよろしくお願いします。

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