第70話真相
「レイノ宰相が、殿下たちが襲われる可能性があるからと、急いでわたしたちを派遣したんです」
バートが馬上から説明する。
「杞憂で終わればよいと、陛下はおっしゃっていました」
「なんでわかったんだ?」
「ベルント・ハイトラー侯爵が関係してます」
「ベルント・ハイトラー?」
「それって、今までずっと、我々が茶葉の輸入で取引していた相手だよね?」
アレクシスとバートの会話に、シルヴェストが加わる。
「はい。そのベルントが治めるナット地方で先日工場で火事の報告が騎士よりあがったそうです」
「火事?」
「はい。その時はまださほど、気にかからなかったそうですが、ベルントが殿下たちをお見送りしたことがレイノ宰相の不審をかったようです」
「それだけで?」
「あいつの勘の良さは今に始まったことじゃないからな」
「ベルントを取り囲む状況を鑑みた結果だと思います。ベルントが治めるナット地方がザヴィヤと国境を接しているのはご存知で?」
「ああ」
「わたしはそこを経由して来たからね」
「おまけに最近はビロック産の茶葉におされています。それから、シルヴェスト殿下が常日頃、狙われていることもご存知です」
他国の裏側を把握するのも、為政者の務めである。それによって自国に利があるかそうでないかの判断がされ、国間交渉にも影響が出る。
間者が送りこむことは何も不思議なことではないため、シルヴェストも特に口を挟まない。
「それらを踏まえて、怪しいと判断されたようです。商売が商売ですから、火事には気をつけているはずです。それなのに、火事がおこったので、レイノ宰相が再び詳しく調べたそうです」
有事の際には騎士が駆けつけることになっている。
火事がおこったとき、国境を守る第五騎士団のもとへ、ベルントが直接赴いて、火事を消すよう発破をかけたそうだ。領主の圧力に負けて、その時、一時国境が手薄になった。その報告があとから調べにはいったレイノのもとに寄せられた。
レイノが更に調べると、その直後にベルントの領主の館に、男たちが集団で寝泊まりしたことがわかった。使用人に聞き込みをすれば、大道芸と剣舞を披露させるために呼び寄せたと説明されたと言う。その物々しい雰囲気に首を傾げたが、領主がそう言うならとあまり深く考えなかったようである。しかし、実際はそのような催しを領主の館でなされた気配はなく、周りの町や村を調べてもそのような一行が訪れて興行した形跡はなかった。レイノが調べに行かせた時は、すでに集団の姿は消えていた。
ベルントが不審な集団を国を招き入れただけでも重罪である。
しかし、証拠がないため嫌疑をかけるわけにもいかない。
ベルントが治める領地が、ザヴィヤと国境を接していること。そのベルントが最近、ザヴィヤへの茶葉の輸出量を減らしていること。その上、シルヴェストが自国で命を狙われていることと、ベルントが治める領地で火事が起こり、そのとき都合良く国境が手薄になったこと。
そこから、導きだされた答えはベルントが都合のよい密約をザヴィヤと交わしたのではないかとのことだった。
それをたった一日半でレイノは導き出したのだから、王の片腕として遜色ない働きである。
だが、その答えも確定したわけではない。
レイノもよもや、このアルホロンで騒ぎを起こすとは思えなかったが、疑惑の芽を放置することはできなかった。
急ぎ王に報告し、アルバートによってバートたちが派遣される経緯となったのである。
「賊たちがいた時点で、急ぎ報告をするため、早馬を出しております。その早馬が着けば、ベルントが捕まるのも時間の問題でしょう。賊たちも捕らえましたから、領地の使用人たちに館に泊まった男たちと賊との顔を照らし合わせをさせれば言い逃れもできません。充分な証拠となります」
クリスティーナはほっと息を吐いた。
旅の後半は散々であったが、襲撃事件が収束すると知って安心したのだった。
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