第608話 冒険者センター大改革 3 冒険者センター公式エロ本様




「冒険者センターの冊子、数分でなくなったってさ~。やっぱあれかな~この美しいラビコさんが表紙だったからかな~? あっはは~」



 一週間後、とりあえず反応を見てみようとお試しで無料の小冊子を作成。昨日朝九時からソルートン冒険者センターで無料配布を開始。


 噂を聞きつけた冒険者たちが殺到し、先頭の集団は前日から並んでいたとか……。


 中身は数十ページのモンスター図鑑。この港街ソルートン周辺で出る主なモンスターの特徴を書いた、初心者向けの物。


 表紙を冒頭喋った水着魔女ラビコ、なにやらエロいポーズで俺にアピールしてきている彼女の写真を使ったのだが、そのラビコの写真欲しさに男たちが集結したそうな。


 ……正直俺も欲しかったが、前日から並ぶ体力は無かった。


 つかラビコ見たいならここにいるしな……いや違う、俺たちの使用目的は深夜の緊急時であって、やはり写真でなければ……



「え~、そんなに本欲しかったの~? というか社長は毎日生ラビコさんの水着を拝んでいるじゃないか~、言ってくれれば中身だって~……」


「そういうのは間に合ってます!」


 午前十時すぎ、宿ジゼリィ=アゼリィのいつもの席に座り握りこぶし作って悔しがっていたら、ラビコがニヤニヤと右腕に絡んできて、左側から宿の娘ロゼリィがラビコの顔をぐいぐい押す。


「ほんとに~? ねぇロゼリィそれほんとに~? じゃあ社長に今すぐ脱いでとか言われたら対応出来る~?」


 ラビコが顔を押されながらもニヤニヤとロゼリィを煽る。


「……! それは……その……二人きりでなら……その……」


「ほらラビコ、ご注文の生クリームたっぷり季節のフルーツパンケーキが来たぞ。ロゼリィのメロンの生ロールケーキも来た。ほら、兄さんがわざわざ直接持ってきてくれたんだから受け取れ」


 ったく、ラビコは面白そうなことがあったらすぐに遊びだすからなぁ。


 俺はこの宿ジゼリィ=アゼリィの神の料理人、イケメンボイス兄さんが持ってきてくれたお皿を指し二人をなだめる。


「うは~! これこれ~やっぱこの宿のパンケーキって最高過ぎ~あっはは~」


「メロンの生ロール……! ありがとうございますボーニングさん、大事にいただきますね」


 それぞれの好物デザートを見た二人が目の色を変えお皿を受け取る。


 そういやイケボ兄さんの名前を久しぶりに聞いた。


「がんばるんだよロゼリィ。宿の従業員一同、僕たちはずっと君の味方だからね」


 イケメンボイス兄さんがロゼリィに小声でつぶやき調理場に帰っていく。


「あ、こら~! 社長は私の物なんです~! ったくこの宿連合は結束固くて面倒だな~」


 ラビコが怒りながらもパンケーキを頬張る。


「まー、なンつーか、いつもの宿ジゼリィ=アゼリィって感じだな、にゃっはは」


 猫耳フードのクロは紅茶にちょっとお高いケーキセットとかいう上流な雰囲気。つかクロは魔法の国セレスティアの王族様なんだから上流階層雰囲気で当たり前なんだよな。普段はそれを一切感じさせないヤンキースタイルだけども。


「……ここの紅茶は神です……」


 バニー娘アプティが紅茶から立ち上る湯気に向かって満足気に一言。


 うーん、紅茶に対しては忖度一切無しのアプティさんにここまで言わせるイケメンボイス兄さんはやっぱすげぇ料理人だよ。


「ベッス」


 おっと、我が愛犬には好物のリンゴだ。



「うん、美味いなここのパンケーキ。もう毎日でも食べられそうだ……さて、それでは冒険者センターで配った冊子の報告なんだが……」


 ラビコと同じパンケーキを注文していたクラリオさんがフォークを置き、何やら書類を取り出す。


 クラリオさんは冒険者の国にある冒険者センター本部から休暇半分お仕事半分で来ているのだが、さすがに休暇の期間は過ぎ、現在は本部のお仕事をやりつつ滞在している状況。


 溜まっていた書類確認のお仕事らしいが、本当に忙しい中よくソルートンに来てくれたよな、クラリオさん。


「情報量を初心者が最初に受けるモンスター討伐、に絞って情報公開したが、反応は上々。小冊子片手にモンスター討伐のクエストを受注、無事完遂する初心者と思われる冒険者が多くいたとデータをもらった」


 昨日の今日でもう活用している冒険者がいるのか。


「彼等が冒険者センターでクエスト完遂の報告の際に必ず言うセリフが、この本の続きはないんですか、だった。初めてのモンスター討伐で怯えるでもなく、すぐに次に向かおうとする姿勢……素晴らしい、これだ、これなのだよ私が求めていた冒険者の活性化ってやつは!」


 つまり、本があったから危険な目には遭わなかった。事前に準備さえしっかりすれば、情報さえあれば大丈夫だと学んだ、ということだろう。


 そしてその情報仕入先として冒険者センターが発行する「ガイドブック」を求めた。


 同じ冒険者仲間やベテランの方に聞くのもいいだろう。だが初心者ではまだ知り合いも少なく、聞きやすい相手がいないかもしれない。


 そこで本の出番となる。しかもこれは冒険者センター公式の本、情報に嘘もなければ不安を煽るような誇張もない。淡々と情報が羅列してあり、分かりやすく図解なんかも入っている。


「やっぱ~世間はこの大魔法使いであるラビコさんの表紙と情報を求めているってことだよね~あっはは~」


 そう、今回の小冊子を作るのに冒険者やギルドから情報を集めている時間が無かったので、今ドヤ顔で何か言った水着魔女ラビコから情報を提供してもらった。


 本にもしっかり「情報提供者:ラビィコール」と書いてある。


 ラビコといえば世界的に有名な大魔法使いで、ルナリアの勇者メンバーとしての活躍を知らない人はいないだろうし、彼女が最前線で戦い続け生き残った十年間の情報、それは誰もが欲しがるだろう。


「今回は緊急で作ったページ数の少ない無料冊子だが、これをしっかりとした本として作れば絶対に売れる……! 冒険者センターの信頼度も上がるし売上も爆上がり……素晴らしい、素晴らしいぞガイドブック! これも全て君のおかげだ、さぁ……キレイなお姉さんにして欲しいことはないかい……? いいんだぞ、私は何だろうと勇者である君の欲求に応え……ヒュゴゥ」


 クラリオさんが大興奮でフォークを天にかざすが、この人冒険者センター次期代表ってよりは商売人の魂ってものを感じるのはなぜだろう。


「だから私の男に手を出すなってんだろ、この勇者不足女~」


 目が怪しく光り、クラリオさんが獣のように両手を構えたところで水着魔女ラビコが脇腹に手刀。不思議な音が漏れクラリオさんが地面に座り込む。



「……ち、年齢的に余裕がないってのに……まぁいい、チャンスはいくらでもある。ところでラビコ、表紙用の写真は在庫としてまだまだ撮らせてもらうぞ。なんせお前の写真はただ置いておくだけで売れるんだからな、くくっ」


 この人やっぱ商売人だろ。


「え~……もうイヤ……あ、そうだ~じゃあ~私と社長が裸で抱き合っている写真を撮ってガイドブックの表紙にして全世界で販売しよ~。そうすれば二人の愛を世界に発信できるし~あっはは~」


 ものすごい高級そうなカメラを構えたクラリオさんに水着魔女ラビコが嫌な顔をするが、すぐに最高に面白いことを思い付いた顔になり俺に抱きついてくる。


 は、裸……? おいそれマジか、それ俺絶対に買う。もうあれだ、俺の全財産突っ込んだっていい、全部買い占め……って俺も裸? それはいらん。


 何が悲しくて自分の裸が写っている写真で深夜頑張らなくてはならないのか。



 そして男女が裸で抱き合っている写真が表紙の本って、それエロ本じゃん。










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