第607話 冒険者センター大改革 2 冒険者センター公式ガイドブック様



「攻略本……?」


「あ、すいません、つまり初心者の冒険者さん向けに手引書、ガイドブック的な物を作れないかと」



 攻略本じゃあ分からないよな、俺は最近知り合った初心者パーティーでの出来事をクラリオさんに色々話してみた。



「…………なるほど、確かに冒険者センターがクエストをただ提示し、さぁ好きなのを選べ、では初心者はクエストの難易度を判断が出来ない可能性があるか。一応冒険者センターの受付である程度の相談は受けているが、受付の人間だって全てを知っているわけではない……ふむ」


 剣士クロスたちは初心者応援クエストの賞品を目標に動き、モンスター相手のクエストを受注、だが遭遇したモンスターの効果的な倒し方は全く知らない感じだった。


 しかも自分たちがそのモンスター相手に勝つことが出来るのか、すら分かっていなかった。これは極めて危険な行動。


 賞品というエサに釣られ行動したが、相手と自分の力量を測りきれず失敗……冒険者にとってそれは最悪の結果、死を意味する。


 そこに経験者などのベテラン冒険者さんがいればアドバイスも受けられるだろう。だがそれ目的でギルドに入っても初心者育成を全くしないギルドだと、何も知らない初心者が捨て駒にされる可能性だってある。


 これらが起こる原因、それは情報不足。



「冒険者センター公式のガイドブックがあれば、初心者にも情報が行き渡ります。その冒険者センター周辺地域の地図情報、モンスター情報、クエスト対策案など、せめて初心者を脱するまでの指針となるような情報が載っていれば、彼等はその本を片手にレベルアップすることが出来るはず」


 攻略本片手にクエストクリアを目指す、ゲームっぽくてワクワクするなぁ。まぁゲームと違うのは、命懸け、なんだけど……。


 でも情報が足りていない今の状況よりよっぽどマシだと思う。


「ガイドブックか……それは一案だな。しかしその情報をどこから集めようか……これを言って良いのか迷うが、その『情報』で食っているギルドもあるのだ。強いモンスターの倒し方を知っていて、その情報を独占しているようなギルドがある……」


「じゃあさ~買い取ればいいじゃ~ん。金ならあんだろ~冒険者センター次期代表様~?」


 俺の話にクラリオさんが少し顔を曇らせる。確かにその情報で金を稼いでいるところもあるだろう。なので中級者以上向けの強敵相手の攻略情報は出さなくてもいい、でも初心者を食い物にしているような情報独占は若い冒険者の芽を摘む行為にもなる。


 やはり難しいか……と思ったら水着魔女ラビコがニヤニヤと助け舟を出してくれた。


「社長は言ったよ~、初心者を脱するまでの情報って。そんな低レベルの情報を独占している野郎は駆逐しちゃえ~。希望あふれる若い冒険者を守るのが冒険者センターの仕事だろ~? そいつらが黙るぐらいの金でドカ~ンと買っちゃえばいいのさ~あっはは~」


 ラビコが俺の横に立ち、頭をポンポン叩きながらクラリオさんに言う。


 そうか、情報を買えばいいのか。さすがラビコだ、それなら多少トラブルは減るかもしれない。


「私、社長のこの案、とっても良いと思う~。冒険者の平均レベル上げたいんでしょ~? だったら一番数が多い初心者守らなきゃ。なんなら……このラビコさんが公式に情報出してもいいよ~。私が出したのなら怒る冒険者もいないだろうし、つか黙らせる……おっと、その本にも『情報提供者、大魔法使いラビィコール』って抑止力のためにでっかく書いて宣伝してくれてもかまわないさ~あっはは~」


「なっ……! いいのかラビコ! 冒険者センターの公式ガイドブックにお前の名前を使ってもいいんだな! それは良い! それは売れるぞ……! 写真も新たに撮って売れる感じの表紙に……」


 うわ珍しい、こういう面倒なことを避けがちなラビコが乗ってきたぞ。しかもラビコの持っている情報を出すだと……? 


 ラビコは十歳で冒険者になってルナリアの勇者メンバー入り、そこから十年、世界を巡り最前線で戦い続けて生き残った、まさに英雄。その情報……それってとんでもなく貴重で説得力のある情報じゃねぇか。


 クラリオさんがガタンと立ち上がり興奮しだしたが、あれ、ガイドブック売るんすか……俺の考えでは冒険者になったときに無料でもらえる小冊子、的に考えていたんですが。


 まぁ情報は金だしな……そこは仕方がないのか。


 ……しかしラビコが表紙なら本当にすげぇ売れそう。つか俺も欲しい。


「ありがとう……! やはり君がいればラビコが動く! 素晴らしい、冒険者を守りつつ金稼ぎも出来るとかいう奇跡のオヒュウ……!」


「そういう言い方はやめろ冒険者センター次期代表~。つか私の男に触るな」


 クラリオさんが大興奮で俺の手を握ってきたが、イラっとした顔になった水着魔女ラビコが彼女の脇を小突く。



「……し、失礼、ちょっと興奮してしまった。ふぅ、さて改めてありがとう少年。そうだな、今までは少しやり方を間違えていたのかもしれない。賞金で釣って動機作りだけしても、レベルアップにはつながらない。我々が出すべきなのは賞金ではなく、彼等が安心してクエストに望めるようになる情報、これを出すべきだったのだ。うん、職員の情報レベルも一定になるように勉強会もしよう。冒険者にだけ努力を強いるのでなく、我々もレベルアップが必要だった。ありがとう、君のおかげで冒険者センターは変われる。そして多くの勇者を生み出しさらなる好循環を生むのだ!」

 

 以前冒険者の国ヘイムダルトに行った時に地下迷宮ケルベロスに潜ったが、そのときラビコが冒険者センターから地図を買っていたんだよね。


 ベテラン冒険者は事前に情報を買うのが当たり前、という雰囲気だった。それを初心者のうちから体に染み込ませる。


 クエストに必要な情報を事前に買うなりして仕入れられたら、最悪の結果である死を回避出来る、ということを早めに覚えられるかもしれない。


 初心者だろうがベテランだろうが、情報集めこそ冒険者が取るべき最初の行動である。



 ラビコが表紙の本か……やはり水着姿が一番映えるシチュエーションが最良、つまり海、快晴の太陽の下、ビーチでラビコにオイルを塗っている感じで、水着なんかもちょっとずれていて……


「うん、いいぞ、青い空、青い海、そして水着がちょっとずれて見えてしまいました的な最高の写真が……」


「真面目な顔してるからまた次のアイデアでも思い付いたのかと思ったらさ~何さそれ、もしかして私のエロい写真が目的でガイドブックだとか言い出したのかな~?」


 ハッ……もしかして声に出して……いた……?


 あれれ、みんなすげぇジト目……さっきまで俺のことを尊敬とかの眼差しで見ていなかった……? 


 あれれ?








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