第606話 冒険者センター大改革 1 ギルドの仕組みとSSランクギルド様




「クラリオさん、ギルドについて詳しく聞いてもよろしいでしょうか」


 俺は冒険者センターの次期代表であるクラリオさんに聞いてみる。



「お、おお! そうかやってくれるか……やはり君は勇者の生まれ変わりで前世からの正義の思いがより強く燃え上がる炎のように……」


「おい待て~! ちょ、どういうつもりなのかな社長~?」


 俺の言葉にクラリオさんが念仏のように呪文を唱え始め、水着魔女ラビコが俺に掴みかかってくる。


「話を聞けって……俺はギルドを立ち上げる気はないよ。正直今ここにいる俺のパーティーメンバーを守るので手一杯な状況なのに、無責任なギルド創設は出来ない。というか、俺はギルドってものがどういうものか全く知らないんだ」


 ゲームとかでなんとなくは知っているが、それぞれに違いがあるからな。この異世界ではどういうシステムなんだろうか。


 初心者が欲しい情報はギルドで手に入るのだろうか。


「素晴らしい、やはり勇者の素質を持つ者は前向きでいい。知らなければ聞けば良い、だがこんな簡単なことが出来ない者もいてな、くく、素直な少年は好みだ……じゅる」


「おいてめぇ! 欲丸出しじゃねぇか~!」


 うーん、ラビコとクラリオさんって仲が良いのは分かるんだけど、すぐケンカになるな……。


「おっと失礼。ギルドってのは簡単に言うとパーティーの延長だな。単純に人数が増えてくると創設を考える人も多い。ある程度お金に余裕のあるギルドだと大きな拠点も持っているから、みなで集団生活をしているところもある」


 クラリオさんが正気を取り戻し、本業である冒険者センター代表の顔になる。


 拠点か。俺たちのパーティーも基本宿ジゼリィ=アゼリィで集団生活しているから、今のこの状態がギルドとも言えるのか。


「そうだなギルドの最大の特徴と言えるのは、冒険者センターから直接大口の依頼がある、ということだろうか」


 ほう、個人ではなく、集団であるギルド単位での依頼なんてものがあるのか。


「ギルドは冒険者センターがそれぞれの実力ごとにランク分けをし管理している。作りたては【D】、そこから実績を重ねると【C】【B】【A】【S】と上がっていき、最高ランクは【SS】なのだが……まぁSSランクギルドってのは冒険者センター千年の歴史の中でも一つしか生まれていないので、【S】が最高なんだと思って良い。このランクごとに冒険者センターが適切な難易度の依頼をすることがある」


 ギルドにはランクがあるのか。そして最高ランクであるSSの評価を得たのは千年間で一つ……そのギルドはよっぽどすごいんだろうなぁ。伝説クラス? いいな、憧れるぜ。


「ニャハー、その世界で唯一のSSランクギルドってのがさっき言った『蒼天の聖騎士団』ってやつだな。誰も倒せなかった『龍』を倒し千年経つ今でも塗り替えられない記録をブチ上げた世界最高ランクギルド、かぁーかっっけぇよな。……でもよ、アタシはキングならそのランクまで余裕で到達出来ると思うぞ、にゃはは」


 猫耳フードのクロが俺をニヤニヤ見ながら言う。なるほど、さっき名前が出ていた『蒼天の聖騎士団』がこの世界で唯一無二の最高ランクSSギルドってわけか。


 え、俺? 職業街の人の俺がどうやったらそんなランクに到達出来るんだよ。


「そうだな、君の今までの実績、将来性を考え、ギルドの構成メンバーを加味すれば……私なら君の作るギルドに世界で二つ目の【SS】ランクをつけるだろうな」


 いやいや、だから俺はギルド作りませんって。そしてクラリオさん、今の俺のパーティーメンバーをギルドメンバーにしたんですかね。


 まぁ水着魔女ラビコがいるってだけでも相当ポイント高いんだろうが……って、ラビコって元々ルナリアの勇者メンバーにいたし、そもそもルナリアの勇者のギルドならその【SS】ランクなんじゃねぇの?


「俺はギルド作る予定はないですよ。というか、クラリオさんとラビコが所属していたルナリアの勇者パーティーはどのランクのギルド……」


「私たちはギルド作ってないよ~、めんどいし~。あっはは~」


 俺の疑問に水着魔女ラビコが食い気味に答えてくれたが、あれ、ルナリアの勇者はギルド作っていないのか。彼等の成した偉業を考えたらそれこそ【SS】ランクだと思ったのだが。


「冒険者センターに管理されるとか最悪~。めんどい高難易度クエスト押し付けられるの目に見えてたし~。それに私たちの目的はすごい集団作って有名になってやろう、とかじゃなくて~、この世界を蒸気モンスターに怯えることなく生きていける、子供たちが安心して暮らせる世界を手に入れたかった、からだし~成り上がりが目的じゃあないんだよね~あっはは~」


 そういや以前宿の娘ロゼリィのお母様であられるジゼリィさんもそんなことを言っていたな。


 すげぇなぁ、自分の子供だけを守るのではなく、世界中の子供を守ろうと命を張ったのか。そしてそれをある程度やり遂げ結果を出した……かっけぇなぁ。


「あれれ~? 少年の熱~いエロ視線が私の胸に刺さってきたよ~? これはあれかな~ラビコさん惚れられちゃったのかな~? あっはは~」


 マジで尊敬の視線を水着魔女ラビコに送っていたら、ゲラゲラ笑いながら俺に絡みついてきた。確かに見るついでにラビコの水着に包まれた大きなお胸様もチラとは見たが、ほんの数秒っす。


「ち、いいだろ少しぐらい見たって……おっと、それでクラリオさん、ギルドってのは後進の育成という役割は兼ねているのでしょうか」


 宿の娘ロゼリィがすっげぇ睨んできたので、絡んでくるラビコを剥ぎ取りながらクラリオさんに聞く。


「育成? そうだな、それはギルドの目的によるのではないかな。それこそ成り上がりが目的の武闘派ギルド、お金を儲ける目的の商業系ギルド、物を作るのに特化した生産系ギルドなんてものもある。それぞれの目的にあった即戦力の人材を加入させてはいるだろうが、育成目的のギルドは……少ないだろうな」


 ギルドに入れば上級者がいるから、彼等に聞けば多少情報が手に入るのかもしれない。

だがそのギルドの目的によっては育成は考えに無いのかもしれない。


 やはり手に入る情報に差が出る。それでは強い冒険者は育ちにくい。


 冒険者センターはもっと公式に情報を出すべきだ。



「クラリオさん……攻略本を作りませんか?」












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