第601話 初心者応援クエスト 7 ランキング一位の報酬と冒険者の国からの来訪者様




「じゅ、じゅじゅ、十二万G……!!」



 クエストを終えた俺たちは馬車でソルートンに帰り、冒険者センターでクエスト完了の報告をする。


 角ウサギクエストの報酬が二百G、二万円。


 まぁ……最弱に分類されるモンスターらしいしな……。これでも初心者クエストで報酬アップしているらしい。



 ちなみに宿ジゼリィ=アゼリィのお手伝い、あれの報酬は百G、一万円。


 安全に稼げて美味しいご飯付き、俺ならジゼリィ=アゼリィを選ぶな。




「ど、ど、どどどどうしよう……リーダーどうしよう、こんな大金見たことないよ……」


 剣士クロスが慌てふためき、大金の入った袋を震える手で俺に渡してくる。




 ソルートンの冒険者センターに帰ると、職員が総出で迎えてくれ、ロックベアキング討伐のお礼を言われた。


 滅多に手に入らない貴重な素材のかたまりらしく、バラして売るだけで相当な金額になるとか。


 当然ロックベアキング討伐のクエストもあり、後付でそれを受注、総額での報酬が冒頭の十二万G、つまり一千二百万円の報酬ってわけだ。


 冒険者センターとしても受注はしたものの、誰も達成出来ず数年放置されていた案件を完遂できてクライアントへの信頼が保たれ安堵したそう。


 数年放置されていたので追加発注が重なり、今回の報酬金額に膨れ上がっていたとか。


 冒険者センターにはモンスター解体所があるのだが、そこにバニー娘アプティが無表情にドカンとロックベアキングを投げ込んだので、最初ロックベアキングが攻め入ってきたと勘違いして大騒ぎになったそうだ。


 アプティが近くに無言で立っていたので、ああ、ラビコ様のお仲間の、ということになり騒ぎは落ち着いたそうだが……なんかすいません。


 そういやアプティって基本的に無言無表情だったわ。


 ご迷惑をおかけした冒険者センターの皆さんに謝り、数トン近い重さのロックベアキングを運んでくれたバニー娘アプティの労をねぎらい頭を撫でる。


「……クマの上にマスターを乗せて運んでも余裕でした……」


 アプティが無表情ながら嬉しそうに謙遜っぽいことを言うが、それはやめてくれ。


 ロックベアキングに包まれて運ばれるとかどんな罰ゲームなんだよ。


 まぁお疲れ様、あとで紅茶とアップルパイを奢ってあげるからな。




「わはーリーダーすごーい! お金持ちさんだー」


 魔法使いエリミナルが俺の周りを飛び跳ね喜ぶ。


 だから俺いつの間にリーダーになったんだよ。


「すっごいねぇ、こんな大金が一気に……まさに冒険者ドリームってやつかぁ。倒したのはリーダーのあんただし、しっかり受け取りな」


 盗賊ルスレイも興奮気味に俺の肩を叩いてくる。


 いやだから俺リーダーとかじゃ……。



「えーと、俺除きで三分割だから……一人四万Gだな。ほい、俺からの餞別だ、それぞれの夢に向かって大事に使えよ」


 大金が入った袋から三人に四万Gずつ、日本感覚四百万円を渡していく。


「え……、ちょ、い、いいのかい……?」


「わは? た、大金だよー?」


「餞別、か。そういやあんた、ソルートン近隣の短期間って約束してたっけ……」


 三人が複雑な表情でお金を受け取る。



 正直俺、お金ならあるんだよね。


 確かに十二万Gは大金だが、そのお金を今必要としているのは俺ではなく駆け出しの彼等だろう。


 借金を背負っていたり、実家の農地拡大がしたかったり、お店を持つのが夢だったり、三人の現状はこのお金で多少解決出来るんじゃないかな。


 夢は夢として、それを今後の目標とし、冒険者としてやっていくための資金にしてもらっても構わない。


 それは自分で選べばいい。


 まぁ……クロス君の借金は早急に返したほうがいいと思うが。



「え、もしかしてパーティー解散なのかい? そ、それは辛いなぁ……」


「えええええええ……! それはイヤー! せっかく楽しいパーティーだったのにぃ! いらない、それならこのお金いらない!」


「……同感だね。手切れ金ってんならこれは受け取れないね。こんなお金より、このパーティーで今後手にする思い出のほうが私には大事だね」


 三人がお金を返そうとしてくるが……うーん、短期とはいえいつの間にかリーダーになった責任もあるのか。



「ちょっと言い方が悪かったか、パーティー解散はしない。俺、本業が宿の社員でラビコとかもパーティー組んでるし、ちょっと参加率が落ちるのは許してくれ。そして俺がいないあいだはこのお金を遠慮なく使え。お金で回避できる命の危機は必ずある。それでも何かあったら、困ったらすぐに俺に言え、そのときはどんな状況だろうが必ず助ける」


 俺はお金を改めて三人に渡す。



「そ、そうか……君、宿屋ジゼリィ=アゼリィの社員さんだったのか。それにあのラビコ様たちともパーティーを組んでいる。それは忙しいよな……分かった、俺たちのリーダーがそう言うんだ、受け入れよう」


「わはー……そういえばラビコ様と先にパーティー組んでいるんだもんね……そうだよなぁ、リーダーの才能ってそれクラスだもんなぁ。でも私たちのパーティーリーダーも兼任してくれるんだよね? それなら良いかなぁ」


「……正直悔しいね。単に出会った順番……私たちと先に出会っていたら……あーやめやめ! 解散ってわけじゃないんだし、とにかく私たちはあんたと出会えた、この運命に感謝だよ」


 ラビコとか放っておいたら何するか分かったもんじゃないんでな、すまんが許してくれ。






 そして数日後、冒険者センターに呼び出されて何かと思ったら、『初心者応援プロジェクト』のランキング一位おめでとうございます! と職員総出で祝われた。



 ランキング……? そういや水着魔女ラビコがランキングがどうのと言っていたな。


 上位に入れば報酬が貰えるとかだったか。



 初心者パーティーのみんなも呼び出されていて、俺と同じように何が起きた……という表情。


 どうも俺たちが倒したロックベアキング、単体とはいえあれのポイントがずば抜けて高かったらしく、他の初心者の人がどうあがいても覆らないぶっちぎりの一位だったそう。


 冒険者センターのでかい中央ホールに料理がドカドカと並べられ、なんだかソルートンの偉い人に表彰されたりした。


 その偉い人の中に水着魔女ラビコも紛れていて、ニヤニヤしながら半笑いの顔で賞金を渡してきた。


 ……てめぇ……普段なら絶対こういうこと断るくせに、俺が面白いことになっているからって志願して渡す側になりやがって……。



 宿の娘ロゼリィ、バニー娘アプティに猫耳フードのクロも来ていて、振る舞われた料理を食べていたが、みんな無表情だった。


 まぁこれ作ったのは冒険者センター内食堂で、『安い早い美味しくはない』でおなじみのところだしな……いや、悪くは言っていないぞ。


 早い、の一点だけはジゼリィ=アゼリィが負けているかもしれないしな。


 注文したら秒で出てくるし、冒険者センター食堂。


 なぜか来ていた世紀末覇者軍団の連中がタダ飯だー! と大盛りあがりで食い散らかしていたから、俺のも彼等に分けてあげよう。




 賞金は一人一万G、日本感覚百万円。まぁありがたいよな。


 これは受け取ってバニー娘アプティに良い魔晶石を買ってあげようかな。


 

 報酬は他にもいっぱいあって、冒険者センター食堂の三十回分無料チケットとか、指定のお店で使える装備品割引券、十回分の馬車無料チケット、王都ペルセフォスまでの魔晶列車往復無料券……など盛りだくさん。


 冒険者センター食堂のチケットは世紀末覇者軍団にあげようかな。



 他に、各職業の高級装備一式ってのが報酬にあったのだが……



「見てくれ、この新品の剣に鎧を! こういうの夢だったんだ……剣士装備一式、これは嬉し……あ、いや、リーダーのもラフな感じで良いと思う……よ」


「わはー、お高い魔法使い装備一式もらったー! これで見た目だけはラビコ様クラスかなぁ? あ、リーダーは、えーと、その……質素で飾らない感じが素敵な服かな……」


「大盗賊ルスレイ様登場……ってね、あはは! いやぁこれでしばらく投げる短剣に困らないよ。……そういえばリーダーって『街の人』なんだもんね……まさか『ザ・街の人』っていう装備を用意されるとはね……あははっ……笑っちゃいけないけど面白くて……あはははは!」


 ぱっと見一流の剣士装備クロス、ベテラン魔法使いっぽいエリミナル、本人も言っていたが女大盗賊っぽいルスレイ。

 

 それぞれ職業の高レベル装備を報酬としてもらい、鏡で我が姿を見ながら笑顔。


 そして俺を見て困り顔。


 おかしい……ランキングで一位になったのは俺のおかげであって、活躍したのは俺が一番のはずなのに、なんで一番冷遇されたみたいな物なの……納得できん。



「あっはは~……ぷぷ~……あれれ~社長ってばなんで不満顔なの~? 超お似合いじゃ~ん、その新品の半袖とハーフパンツ……私が無理言って社長に一番似合う格好用意してもらったんだよ~ラビコさんに感謝してもらわないと~あっはは~」


 水着魔女ラビコが笑いを堪えきれない顔で俺の肩をバンバン叩いてくる。


 ……お前か、お前がこれを用意させたのか……このオレンジの半袖とオレンジのハーフパンツを……!



 みんな鎧に武器にと貰っているのに、俺だけ布の服二枚だけ。


 こんなん着て街の入り口に立ってたら、「ここはソルートンの街だよ」とか言うだけの街の人の中でも一番いらない看板キャラに見えるじゃねぇか!


 クソが……! こんな装備断固拒否する!


 そうだ、魔法使い、街の人なんかではなく俺が異世界での憧れの職業、魔法使いになっていればこんなことにはならなかったんだ!




「魔法、そうだ魔法さえ使えれば俺は……」



「なれるぞ。君なら確実に魔法使いになれる。その方法を私が教えてあげようじゃないか」



 魔法を使えるようになるために、とその専門である水着魔女ラビコと猫耳フードのクロを見るが……思い出される嫌な記憶。


 以前、魔法使いであるラビコやクロに教えてくれと懇願するも、もてあそばれて終わりだった。


 ──無しだ。あの二人は無しだ。


 しかし他に頼れる師は……と思っていたら、背後から聞いたことのある声が。



「げぇ……! て、てめぇ~何しにきやがった! 冒険者の国で仕事に追われて婚期逃し続けていればいいものを……!」


 水着魔女ラビコが珍しくしかめっ面になり、ひどい言葉を発する。


 ラビコのこの反応、仲が良くて何でも言い合えてお互い信頼し合っている関係の人物、だろうな。


「くく……私にそんな口をきいていいのかラビコ。お前が子供のときの恥ずかしーい話をその少年に話したっていいんだぞ? そうだなあれは魔法の国を訪れたとき……」


「て、てめぇヤメロ! じゃあてめぇが見合いの席で必ず言う、火はお好きですか? そう、炎こそ命の源であり原点だのなんだのってキモ発言をばらすぞ……」


 

 えーと、ラビコが急に激昂して後ろにいた女性に飛びかかっていったんだけど、取っ組み合いになっているその女性、冒険者の国で出会ったクラリオ=クラットさんだよね?


 冒険者センターを立ち上げた一族の末裔で、現在は冒険者の国の本部でお仕事をしているという。


 クラリオさんとラビコはルナリアの勇者メンバーの仲間で、いつも上から目線のラビコが俺に頭を下げてでもクラリオさんを助けようと動いたし、クラリオさんもラビコのことをとても信頼していた。


 ……それが出会い頭ケンカになっているんだけど、これが仲が良い関係の二人の姿、なのかな……うーん、自信がなくなってきた。


 

 初心者パーティーのみんなは口ポカンだし、冒険者センターの職員さんは雇い主を守ろうにもラビコ相手に手を出せず、みたいな状態。


 

 ええ……これ、俺が止めるの?


 これがラビコと一緒にいる、パーティーを組んでいるってことなんだよな……ああ面倒……ああ面倒……。



 やっぱ俺、初心者パーティーの方に積極参加しようかな……








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