第602話 冒険者の国からクラリオさん参上で元ルナリアの勇者パーティー大宴会と銅像様




「まさか仕事人間のあんたが休暇取ってソルートンに来るとはね、驚いたよ」


「そう、クラリオは一つのことに集中すると周りが見えなくなるクセがあったから心配していたんだけど、そうか、休暇を取ったか」



 夕方、宿ジゼリィ=アゼリィに多くの冒険者が集結。


 宿のオーナー夫妻であるローエンさんとジゼリィさんが上機嫌でクラリオさんと盃を交わす。



「はは、ソルートンに魔晶列車が開通するとは思わなかった。おかげで楽に来れたよ。いやぁどうしても気になる人物がいて、というかここのご飯、噂通りレベルが高いな」


 クラリオさんも笑顔で応え、イケボ兄さん特製メニューを目の色変えて食べている。


 気になる人物? 仲の良い水着魔女ラビコのことだろうか。



 ああ、冒険者センターでのラビコとクラリオさんの取っ組み合い。俺が決死の覚悟で突撃し、二人が驚いたところをバニー娘アプティに止めてもらった。


 アプティはロックベアキングとかいう数トンの重さのモンスターを簡単に持ち運べる、格闘家レベル30の近接無敵ガールだからな。


 ……まぁアプティの正体は人間ではなくて、蒸気モンスターとかいう常識外の力を持つ種族なんだ。内緒だけど。




「かかっ! わざわざ冒険者の国から来るとは、よほどの用事けぇ?」


「がっはは! しかしまさかこのメンバーがまた揃うときが来るとはなぁ! 俺は嬉しいぜ!」


 農園のオーナーのおじいさん、海賊風漁師ガトさんも来てくれ、ローエンさんにジゼリィさん、クラリオさんに水着魔女ラビコを合わせると、六人ものルナリアの勇者元メンバー大集結。


 みんなガバガバ酒を飲み、豪華な歓迎メニューを笑顔で食べている。


 ……いいよなぁ、命をかけて戦い抜いたパーティーメンバーの数年ぶりの再会って。



「な、なぁ俺たちここにいてもいいのかな……」


「わはー冒険者センター本部のお偉いさんもいるとか私たち完全場違いー……」


「でもチャンスよね。リーダーのよく分からないとんでも人脈のおかげでこの宴会に参加出来たんだし、こういう機会を生かさないと」


 一応一緒にいた初心者パーティーのみんな、剣士クロス、魔法使いエリミナル、盗賊ルスレイも誘って来てもらったのだが、三人ともルナリアの勇者メンバー大集結にビビってしまっているな。


 ルスレイだけは大変たくましい。


「ベテラン冒険者たちの会話だ、聞こえてくる話に耳を傾けているだけでも収穫はあると思うからさ、ルスレイの言った通りチャンスと思っていこうぜ。ここは俺が奢るからさ、ジゼリィ=アゼリィのうまいメシ食っていってくれ」


 俺が奢る、と言うと、三人が急にメニューを奪い合い注文をし始める。


 いや、つかあんたらさっき冒険者センターからもらった支援金がたんまりあるでしょうが……。


 



「……で~? 何しに来たのさ婚期逃しまくり女。さすがに毎日仕事仕事仕事~で、夜に一人寂しく男の銅像抱くのに危機感でも覚えた~? あっはは~」


 水着魔女ラビコがお酒片手にニヤニヤとクラリオさんに言う。


 ……おいラビコ、空気読め。


 今は感動の再会ムーブだぞ。


「……ちっ……相変わらず口だけは達者な女だ。さっきも言ったが休暇だ。ソルートンに魔晶列車が通ったと聞いてな、これは昔の仲間に会うチャンスだとスケジュール調整をしてきたんだ。って誰が毎日男の銅像抱いてるって? それするならせめて柔らかい素材で作るに決まっているだろ……!」


「うっわ出たよキモ思想~! うちの社長といい勝負かも~あっはは~」


 クラリオさんが舌打ちをし言い返すが、相手が頭の回転クッソ早いラビコじゃあ無理だろうな……ってなんか無関係の俺にもダメージが来たんですけど。


「ほぅ、少年……! もしやこういう話題がイケる口なのか? 素晴らしい! ではここからは同じ趣味の二人で仲良く……」


 ラビコの言葉に反応したクラリオさんがクルっと俺に顔を向け、お酒片手にグイグイ体を擦り寄せてくる。


 ちょ、もう酔っているんですか……うーん、柔らかい素材で作られた等身大ドールかぁ……そうだなぁ、超グラマラスボディの宿の娘ロゼリィをモデルにしたやつならちょっと欲し……


「てめぇ! なにを私の男に色目使ってんだよ! そいつを最初に抱くのはこのラビコさん……」


「ラビコ? 彼と一番お付き合いが長いのはこの私なんですよ? 一番の権利は私にあると思いますよ?」


 数年ぶりのルナリアの勇者メンバーの再会、ということで大人しくしていた宿の娘ロゼリィがガタンと立ち上がりニッコリ笑顔でラビコを睨む。


 怖……そして紳士諸君、見たか今の。


 勢いよく立ちがったもんだから、ロゼリィのとてもとても大きなお胸様がブルンって。


 ……クソ、なぜこの異世界には動画撮影が出来るカメラが無いのか。


 出会った記憶はないが、俺をこの異世界に呼んだ神、無能過ぎだろ。



「……マスターの側にいる時間を累計すると私が一番……」


 小さな声で無表情にバニー娘アプティが主張。


 累計? ああ、そういやアプティって寝てると勝手に俺のベッドに潜り込んでくるんだよな。そういうの足したら確かにまぁ……



「にゃっはは! この情報出したらキング泣いちゃうかもだけど、面白ぇから言っちゃうか! キングってば毎日夜にみんなから貰った色違いのクッション抱いて頑張ってるらしいぜ? そンなことするぐらいなら、アタシに言えば色々サービスしてやンのによぉ。キングってばホント可愛いよな、にゃっはは!」


 ク、クロさん……? 猫耳フードが大変お似合いのクロさん……? どうしてそういう思春期の少年の秘密にしたい情事を爆笑しながら大人数の前で披露するの……?


 さっきから地味に俺クリティカル被弾してんだけど、なんなのこの飲み会……ってやべぇ、冗談通じないロゼリィさんが引いてる……!


「ま、毎日なんかしてるか! ごく稀にどうしようもない高ぶりの日にたまに偶然短時間でばばっと……」


「うわ聞いたみんな~? 社長ってば毎日私たち全員一気に抱く妄想して頑張ってるんだって~。若さってすごいっていうか~隙あらば全員抱こうとしてるとか贅沢すぎ~。そういう変態的なところ全て受け止められるのはこのラビコさんだけなんだから~大人しく私と一緒になろうね~っと、あっはは~」


 ハッ……あれ俺、ラビコに乗せられてとんでもないことを言ってしまったような……


 いやいや、キチンと訂正はしないとならん。


 毎日じゃあなく、多いときでも週一、いや二……ほら常識の範囲内だろ? だって俺は紳士なのだから。



「いいぞやれやれー! アニキはそうでないとだめっすよ!」


「始まったぞジゼリィ=アゼリィ名物痴話喧嘩、これを肴に飲む酒が最高なんだよな!」


 近くにいたどこの荒廃した世界の漫画から飛び出してきたんだっていう、トゲ付き肩アーマーとかモヒカンスタイルの世紀末覇者軍団が大爆笑で盛り上がる。


 こいつら……明日からこの宿ジゼリィ=アゼリィに上質なスーツ着用じゃないと入店出来ないドレスコード作ったっていいんだぞ!


 脅しじゃないぞ、俺はオーナーであるローエンさんからオーナー代理の権利をもらっているんだぞ! 


 ……実行したら俺もオレンジジャージだから出禁になるけどな!



「それは良いことを聞いた。なんだ、君は結構どころか最高に私の相手としてピッタリではないか。思想も同じ、お互い独り身、共に夜に銅像を抱き合う仲、これはもう決まりだな」


 何を納得したのか、クラリオさんが酔っているのか真っ赤な顔で体を擦り寄せてくるのだが、いや俺、銅像抱く趣味は無いんですが……


 ってこの宴会、クラリオさんが護衛役として連れてきたっぽい関係者と、ソルートンの冒険者センターの職員さんも結構参加しているんだけど……次期冒険者センタートップの人の変態的告白って大丈夫なんすかね。


 その、士気とか尊敬とか。



「てめぇだからさっき言っただろ~! こいつは私の男だってんだ!」


 ああ……また前回の終わりと同じようにラビコがクラリオさんに飛びかかって……



 もうなんなのこの地獄みたいな宴会。


 確か冒険者センター次期トップとして本部で忙しく働くクラリオさんが、久しぶりに元お仲間のみなさんと再会したっていう感動の集まりだったはず。



「あの……その、銅像は誰のを作ったのですか……?」


 もうこうなったら最強の愛犬ベスに吼えてもらうしか止めようがない、と思っていたら、宿の娘ロゼリィが困り顔で謎の言葉を俺の耳元で囁いてくる。


 は? 銅像?


 いやそれ俺じゃないっすよ、それはそこで取っ組み合いをしているクラリオさんですって。


 さすがに理想の異性の銅像作って毎日抱いていたら、それは変態の領域ですよ。



 つか俺の部屋にそんな銅像がドカンと置いてあったら全員気が付いているでしょ……。









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