第598話 初心者応援クエスト 4 指輪所持者が集合して俺の世間体がさようなら様




「み、水着のロングコート姿……もしかして……」


「え……え……? あれれ、あれぇ……」


「うわ……うわわわわ……まさか本物の……?」




 冒険者センター主催、初心者応援プロジェクト。


 本来はクエストを受けてクリアをしても額面通りの報酬しか貰えないのだが、この初心者冒険者だけが参加できるプロジェクトはクリア回数ごとにスタンプが貯まり、豪華報酬と交換できるという美味しいもの。



 とりあえず一回クリアで貰える小さな魔晶石、俺鑑定で五千円相当の参加賞はゲットした。


 さてお次は数回のクリアで貰える三百G、およそ三万円相当の魔晶石目指し行動開始。


 初心者同士でパーティーを組んだ三人、剣士クロス、魔法使いエリミナル、盗賊ルスレイはルナリアの勇者に憧れソルートンの街から冒険を開始した人たち。


 当然会えるならルナリアの勇者メンバーに会いたいと、彼等が発注しているクエストを迷わず選び受注。


 海賊風漁師ガトさん、農園のオーナーおじいさんのクエストをこなし、本日最後のルナリアの勇者メンバーがらみのクエストとして選ばれたのが、宿屋ジゼリィ=アゼリィ。


 元ルナリアの勇者メンバーで宿のオーナー夫妻であられるジゼリィさん、ローエンさんが優しく迎えてくださり和やかな雰囲気でまかないの夕飯をいただいていたら現れてしまった水着魔女。



 しかも何か知らんが超不機嫌。




「わ、わはー、本物……? 本物だよね? やった……私の憧れ、英雄ラビコ様だー!」


 魔法使いエリミナルが懐から紙を取り出し、そこに写っているラビコの写真と見比べ大興奮。


 つかそれ、冒険者センターに貼ってあったポスターから無断で切り抜いたやつじゃん……。あとでちゃんと謝るんだぞ。


「す、すごい……ソルートンすごい! 王都でも滅多に見ることが出来ないという幻の存在『大魔法使いラビコ様』……! それがこんな間近で、お触り出来る距離で見られるなんて……!」


 冷静な盗賊ルスレイもガタガタ震えながら興奮しラビコを凝視。


 お触り出来る距離って……どういう表現なんだよ。


 まぁ興奮して言葉の選別が狂ってしまったんだろうが。


「ラ、ラビコ様……まさか生きているうちにラビィコール様をこんな間近で拝めるとは……良かった、冒険者になって良かった……!」


 剣士クロスもご飯中にも関わらず立ち上がり涙を流す始末。



 まぁ……ラビコっつったらルナリアの勇者メンバーの中でも人気ダントツらしいしな。


 メンバーの中では火力ナンバーワンの魔法使いで、見た目と行動が派手で若くて超美人。


 ルナリアの勇者パーティーってのは今から五年前ぐらいに突如活動を停止、解散したが、ラビコだけはペルセフォス王国に所属し、支援を受けながら、現在に至るまで五年間、強敵である蒸気モンスターとの戦いを続け、多くの民の命を救った。


 合計すると十年、蒸気モンスターとの戦いを最前線で行い生き抜いた、まさに英雄。


 正直すごいと思う。



 ……が、それは文字で活動履歴を見て持つ感想であって、実際のラビコってのは超のつくほどの面倒な性格の持ち主。


 言う事聞かねぇワガママ口が悪い、と、いや悪口じゃねぇよ。


 俺がラビコと結構な期間一緒にいての率直な感想だ。

 

 ペルセフォス王国の名を背負いし王族、サーズ姫様だってラビコの扱いに相当苦労していたんだぞ。


 見ろよ魔法使いエリミナルが大事に持っているポスター切り抜き写真のラビコを。


 あれ、サーズ姫様が広報用の写真が一枚欲しいと必死に丸め込み、抵抗するラビコと悪戦苦闘の末なんとか撮ったのがあの仏頂面写真なんだぞ。



「初心者~? 何さそれ。冒険者センター主催の企画~? どうせあの勇者不足女が足りねぇ脳で捻り出した駄策愚策だろ~? 毎日忙しいラビコ様が協力する義理はないね~、あっはは~」


 同じルナリアの勇者元メンバー、ローエンさんが宿にも貼ってある冒険者センターのポスターを指しなだめるが、ラビコが鼻で笑う。


 見ろ、俺がさっき並べた言葉は悪口じゃあなかっただろ?


 夢も希望もねぇが、あれがラビィコールとかいう大魔法使い様なんだよ。


 あとお前毎日忙しくなんかないだろ。


 夜遅くまで浴びるように酒飲んで寝て、お昼ごろに不機嫌そうに起きてきて夜までダラダラして、また酒飲んで……の繰り返しだろ。


 どこに忙しい要素があるんだよ。



「ったく……お前な、彼等はルナリアの勇者に憧れて冒険者になったんだぞ。当人のお前がそんなじゃ百年の恋も醒めるだろうが。毎日酒飲んで寝てるだけなんだから、少しはクラリオさんの思惑を理解して冒険者センターの企画、初心者応援プロジェクトに協力して……」


「恋~? 憧れ~? 知らないね~。実際の私のことを知ろうともせずに頭の中だけで都合のいい英雄の偶像作り上げられて迷惑だっての~。あげくその作り上げられた偶像の私に合わせろだ~? そんな存在もしない英雄なんて絵物語の勇者で充分だろ~。憧れるんなら、その完璧な英雄である本の勇者に憧れな~。冒険者なんて憧れだけじゃやれないよ~、頭使って、体鍛えて、仲間を頼って、泥臭く命を懸けて切り開く自分の物語なんだ。誰かに乗っけて、誰かのせいにして逃げんじゃないよ」


 初心者の三人をチラっと興味なさそうに見たあと、女性二人を軽く睨み、ついでに俺にも睨みを利かせてくる。


 うっわ、ラビコさんマジご機嫌ななめだな。


 憧れとかで包んで厳しい冒険者生活の現実から目を背けて逃げるな、って言っていることは正しいのだが、それでも彼等は冒険者を選んだんだ。


 その成功者であるラビコに憧れを抱いたっていいだろう。



「つかさ~、すでに私とパーティー組んでいるのに浮気して二股かけるってどういうこと~? このケーキうま~」


 ラビコが初心者の三人を不満そうに指し、俺のまかないセットのケーキを食う。


 って、おいそれ最後の楽しみに取っておいたやつぅ……



「え……? き、君、伝説の大魔法使いラビコ様とパーティーを組んでいるのかい……? ラビコ様っていったらルナリアの勇者パーティー解散以降、多くの有名冒険者パーティーの誘いを断り誰とも連れ合わずにいたはず……それなのに君と二人でパーティー……?」


 剣士クロスが驚き目を見開いてくる。


 いや、ラビコと二人ではないが。


「わは……す、すごい……! ど、どうやったら憧れのラビコ様とパーティーが組めるの!? お金? お金なの? そういえば最初にあなたお金ならあるとか言っていたよね……? ラビコ様に貢いでいるから装備にお金かけられないとか……そういうことなの!? じゃ、じゃあ、わ、私の全財産一万G……ど、どうぞ!」


 魔法使いエリミナルが大興奮でカバンから一万Gを差し出す。


 あの、お金でラビコは雇えないと思いますよ。


 奇跡が起きて雇えたとして、コイツ、俺に毎日一万G要求していたから、その額面じゃパーティーは一日が限界かな。


 つかエリミナルさん、結構お金持っていたんすね。一万Gっていったら俺感覚百万円ですよ。


「うわー、なんかあんた初心者にしては動きがベテランっぽかったけど、そういうことかー。おかしいと思ったんだ、ルナリアの勇者メンバーのガト様、三千騎士様と親しげだったし、ジゼリィ様ローエン様とも見知った関係っぽいし。しまいにゃ大魔法使いラビコ様とパーティー組んでいるとか、もしかしてあんたルナリアの勇者の隠れメンバーだったとか……?」


 盗賊ルスレイがデザートのケーキをガードしながら俺を見てくる。


 ……さすがのラビコも見ず知らずの人のケーキに手を出さないだろう。



「え、いや俺はルナリアの勇者メンバーとかそういうんじゃないよ。本当にただの初心者で……」


「この少年がルナリアの勇者メンバー? バカ言っちゃいけないよ~そういうんじゃなくて~こいつは私の夫、なのさ~あっはは~」


「え……?」

「わは……?」

「お、夫ぉ?」


 俺はルナリアの勇者メンバーではないと否定したら、ラビコが超面白いこと思い付いた顔で、こういうときに一番言っちゃいけない冗談を満面笑顔で言い放つ。


 やった……やったよこいつ……話を最高に面倒な方向に持っていきやがったよ……。


 クソが……こういうの後で全部俺がフォローしなきゃならないのを分かって言ってんのかよ……! 


 いやそうか、それが目的だ。こいつは俺を困らせて楽しむとかいう、超の付くクソ魔女だった。



「も~毎晩激しくてさ~、見ろよ初心者ども、この光り輝く結婚指輪を~! というわけで初心者パーティーは解散! こいつは私の物だから~浮気とか絶許なんだよね~あっはは~」


「指輪を貰った順番は私が一番なんですよ、ラビコ。二番目の愛人は王都に帰ってもいいんですよ? ふふ……」


「…………島で結婚……」


「ああン? なんだこの集まりは。キングの結婚指輪ならアタシももらったぞ、おら、カッケェだろ! にゃっはは!」


 大爆笑で勝ち誇るラビコの後ろから鬼の化身(宿の娘)ロゼリィが現れ左手薬指のシルバーリングを光らせ、俺の背後に突然現れたバニー娘アプティが同じく指輪を無表情に光らせる。


 最後に下着とシャツ一丁でかったるそうに宿の階段を降りてきた女性、クロが指輪を自慢気に見せ戦隊ヒーローがごとくポーズをとる。それはいいから服を着ろ。




 あああああああああ……終わりだ……もうおしまいだ、今この時をもって、楽しかった俺の初心者パーティーは終焉を迎えることになった。



 ラビコ一人のときは初心者パーティーのみんなの顔は驚きと祝福が混じった感じだったのだが、指輪所持者が一人増え二人増え、三人増えたところで祝福が完全に消え、四人目登場で疑問と人間性を問う系フェイスになった。


 ……なんでこのタイミングで全員集合するんだよ。



 さようなら、俺の世間体。




 一応言っておくが、その指輪は俺が感謝の気持を込めて贈ったものであって、結婚どうのじゃあないからな……。



 あとこの場に商売人アンリーナがいなくて本当に良かった。


 彼女がいたら指輪所持者五人目、になるからな。



 ……でもちょっと見てみたかったかな、五人目が登場したときの彼等の顔を──











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