16 異世界転生したらギルドを立ち上げることになったんだが
第594話 初心者冒険者たちのパーティーに加入様
「やぁ君、初心者だろ? 僕らとパーティーを組まないか?」
花の国フルフローラからホームである港街ソルートンに帰ってきて数日後、俺は冒険者センターに来ていた。
花の国からの帰り道、港街ビスブーケからは商売人アンリーナご自慢の大型高速魔晶船でソルートンまで送ってもらったのだが、そのアンリーナはすぐに次のお仕事へ向かっていった。
世界的企業の娘さんってのはやっぱ大変なんだなぁ。俺なんか毎日頭空っぽで生きているから何か申し訳ねぇ……。
港街ソルートンの中心街近くにある大きな建物、冒険者センター。
冒険者センターってのは、冒険者の資格を得た人が自分に見合ったお仕事を探しにくる場所。大きめの街なら大抵あるという、おそらく世界で一番有名で数が多い民間施設。
我らがソルートンにある冒険者センターは、地方にしては規模が大きいそうだ。
建物内には安い早い美味しくはないという三拍子揃った食堂や、無料で利用出来るトレーニングルーム、ある程度の歴史や冒険の一般知識が学べる本が並ぶ資料室などがあるので、それらが目的で集まる冒険者も多くいる。
あとは情報収集。
残念ながら異世界には気軽に通信ができる携帯端末なんて便利なものはないので、今世界で起きているリアルタイム情報が欲しけりゃ人が集まる場所に行って聞くしか無い。
冒険者センターは基本二十四時間開いているので、いつ行っても冒険者がいて活気ある場所。
そしてソルートンの冒険者センターには他の冒険者センターにはない特殊な特徴がある。
「君もあのルナリアの勇者に憧れて冒険者になったんだろ? 有名な彼等に習い、勇者たちが冒険を始めたこのソルートンの冒険者センターから同じように冒険を始める。分かる、分かるよ、俺たちもそうなんだから!」
どう見ても安い装備を身にまとった若い男性が目を輝かせながら熱く語る。
そう、ソルートンの冒険者センターにはルナリアの勇者に憧れた初心者冒険者が多く集まる、という特徴がある。
ルナリアの勇者というのは、この異世界で一番と言っていいぐらいの有名冒険者で、彼等の初期メンバーはこのソルートンで出会いパーティーを組み冒険に出かけ、仲間を増やしつつ世界を巡ったそうだ。
なぜ彼等がそんなに有名なのかと言うと、人間ではほぼ倒せないと言われる強大な相手、蒸気モンスターという種族に各地で戦いを挑み勝ち続けたという伝説があるから。
その行動は世界で多くの人の命を救い讃えられ、結果、英雄勇者として名を馳せた。
そりゃあ憧れるよな、冒険者を目指す若者は。
「君はまだ装備も整えられないぐらいお金が無いんだろう? 大丈夫、俺たちとパーティーを組んでクエストをこなしてお金を稼ごう!」
職業は剣士なのだろう。安物の剣を装備し、中古で買ったと思われる鎧を自慢気に見せ、男性が後ろに控えていたメンバーを指す。
……ああ、俺、日本から唯一持ち込めたオレンジジャージ一丁だからなぁ……確かにしょぼい見た目だから駆け出しの初心者に見えるのも納得。メイドインジャパンのジャージで動きやすさは抜群なんだが、さて防御力は……と言われると、皆無と答えるしかない。
日本で生活をするのに、防御力なんてパラメーターは必要ないしな。
「あ、いや俺お金ならある……」
「いやいや良くない、良くないよそういうのは! 装備にお金をかけてこそ冒険者、もったいないからって装備も買わずにケチっていたら命を落とすことになる!」
男性が俺の柔らかくて動きやすいジャージを指し言うが、まあそれには同感。
「そ、そうだよ……素手? ま、前に出る役職ならせめて金属製の装備を買うべきだよ。ね、初心者同士、みんなでがんばろうよ。お金だって少しなら貸せるしさ」
男性剣士の後ろにいた魔法使いっぽいローブをまとった女性が俺に少額のお金を差し出してくる。
「あんた、なんか不思議な雰囲気ね。今まで出会ったことのないタイプで面白そう。どう? 一緒にやらない?」
魔法使いさんの横で腕を組み様子を見ていた女性がニヤっと笑い俺に握手を求めてくる。動きやすさ重視装備、うむ、ザ・盗賊って感じ。
不思議な雰囲気? そうだなぁ、やらない? の「や」が「ヤ」だったら色々妄想が捗ったんだがなぁ。
そして俺、新たなパーティーを探しに来たわけではなく、花の国フルフローラでケルベロスにお城のてっぺんに運ばれたときに割れたと思われる冒険者カードの再発行に来ただけなんだ。
「では改めて、俺たちの初めてのパーティー結成記念ってことで、乾杯!」
剣士の男性が立ち上がり、笑顔で薄味オレンジジュースの入ったコップを掲げる。
ここは冒険者センター内の食堂。
まぁ……安い早い美味しくはない、で味は察してくれ。
「か、乾杯……! わはーパーティーだ、初めてで緊張するー……」
「有名な冒険者だろうが、誰でも通る最初の一歩ってやつさ、なんか変な奴らじゃなくて安心したよ。立ち振る舞いで厳選はしたけどね、ふふ」
魔法使い、盗賊の女性も続けてコップを掲げる。
「かんぱーい。俺完全に無能くんだけど、良かったのかな」
俺も薄味リンゴジュースを掲げる。
え? ああ、俺、パーティーに入ったぞ。
剣士の男性の熱心で真っ直ぐな勧誘に、たまにはこういうのも良いか、と活動場所はソルートン周辺のみで短期、という条件付きでパーティーメンバーに入ってみた。
まぁ一応ちゃんとした理由はあって、以前冒険者の国で出会った女性、クラリオ=クラットさんが、ルナリアの勇者がいなくなって以降、冒険者の数やレベルが落ちているって言っていたのがちょっと気になってな。
個人的に冒険者の今の状態を見てみようかと。
クラリオさんってのは冒険者センターを立ち上げた一族の娘さんで、世界中の冒険者の管理をしている人。
その彼女がそう言うのだから、実際冒険者の数が減っているのだろう。
……あの人、責任感が強いのか、自らルナリアの勇者を名乗り冒険者を活気付けようと話題作りをしてしまった人だからなぁ。
名乗ったのは確か『私はあのルナリアの勇者パーティーメンバー、クラリオ=クラットである』だったらしいが、伝言ゲームで分かる通り、有名な前半部分のパワーワード『私はルナリアの勇者』だけが残り独り歩きし、間違って世界に広まったというオチだった。
クラリオさんも悪気があったわけではなく、広まってしまったものについ偶然乗っかってしまった、ということらしいのだが。
「構わないよ、最初はみんな同じスタートライン! 実際に冒険をしてみたら違う職業のほうが合っていた、なんてのは日常茶飯事らしいじゃないか。君にだって隠れた才能が絶対にある! 一緒にそれを探す旅に出よう!」
剣士の男性、クロスが俺の肩をバンバン叩き笑う。
そう、クロス君は良いことを言った! 俺にだって憧れの魔法を使える才能が眠っているかもしれないんだ!
「そ、そうだよ……! 私だって魔法使いとはいえ、ライティングぐらいしか使えないし……」
「あんたさ、動きがソロじゃないんだよね。誰かと一緒なのが想定されたような身のこなしだから、こうやってパーティー組んだほうが才能発揮できると思う」
魔法使いの女性エミリナルさん、盗賊っぽい女性ルスレイさんも俺を応援してくれる。
ほら、なんつーかこいつら良い奴らなんだよね。
冒険者センターから『あんた街の人』って判定された俺なんかをここまで応援してくれるんだぜ。
水着魔女ラビコなら、爆笑しながら満足するまでもて遊ばれておしまいだろ。それに比べ彼等はなんと寛容で優しさに満ちているか……。
そして盗賊ルスレイさん、観察眼がすごいですな。確かに俺、基本近くに愛犬ベスがいる想定で動いているかも。
「じゃあ最初は簡単なクエストでもこなして……」
「待った! もう受けるクエストは決まっているんだ。知らないのかい、これを!」
俺がとりあえず誰でもクリア出来そうなクエスト、野草などの素材回収とか倉庫整理とか立っているだけでいい警備員系のお仕事でも、と提案しようとしたら、剣士クロス君が満面笑顔で一枚の紙を見せてくる。
「決まっている? えーと何々、冒険者センター主催、初心者応援プロジェクト……?」
イラストがたくさん描かれたその紙には、楽しそうな飾り文字でそう書かれていた。
最近あまり冒険者センターに来ていなかったから知らなかったが、どうやら何かイベント的なものが催されているらしいぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます