第595話 初心者応援クエスト 1 漁船で人間ベルトコンベア再び様




「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほ……ほいほぃぃ……!」


「気張れオレンジ兄ちゃん。娘と結婚してぇならこれぐらいドーンとこなしてみろ、がっはは!」



 ──翌朝四時。俺たちは太陽が登り始めたソルートン港に来ていた。



 筋肉の塊が海賊服を着ている、こと漁師ガトさんが俺の肩をバンバン叩きながら笑う。


 む、娘? ああ、あのクッソかわいいシャムちゃんのことか。つかあの子まだ十二歳とかでしょうが。そして俺、漁師にはなりません……!



「き、きついな……しかし毎朝これをやれば、憧れのルナリアの勇者メンバーガトさんみたいな丸太腕に……う、ぐはぁ……!」


 俺の隣で魚が多量に入った木箱、おそらく重量二十キロ以上を次々と船から港へと運ぶ人間ベルトコンベアの一部になっていた男、剣士クロスが白目になり倒れる。


 お、おい……! お前が倒れたら俺の負担が増えるだろうが……!


 つか剣士のくせに俺より腕力体力ないってどういうことだよ。



「ひぃっ……ヌルヌル……ヌルヌルー……!」


「ほい、大きいの、小さいの、お、カニがいるよ。これ美味しいんだよね」


 魔法使いの女性エリミナルが目をくるくるさせながら魚を網ですくい、盗賊女性ルスレイが余裕で魚を選別して水槽に入れていく。





「ありがとうございました、ガトさん! 報酬の増額嬉しいです!」


「おう、お疲れ。お前ら頑張ってたし、いいってことよ。……つか兄ちゃん金なんて稼ぐ必要ねぇだろ? ああ、やっぱあれか、将来シャムと一緒に漁船に乗るための勉強ってやつか、期待してるぞ。がっはは!」


 四人が頭を下げ、漁船お手伝いの報酬をいただく。


 ガトさんがちょっと色を付けてくれたらしく、予定の報酬よりかなり多めにもらえたが、俺は漁船には乗らないっすよ……。




「……な、なぁ君、ガトさんといえばあのルナリアの勇者の一人、冒険者の憧れのお人だけど、もしかして知り合いとか?」


 剣士の男性クロスが冒険者センターへの帰り道、俺に聞いてくる。


 ああ、ガトさん、やけに俺にご機嫌に話しかけてきていたからな。


「え、あ、まぁ俺ソルートン在住だし。それに以前このクエストやったんだ。だから向こうも覚えてたんだろうし、俺の服はオレンジだから認識しやすかったんだろ」


「ああ、そうか、君はソルートン在住だっけか。いいなぁ、あのルナリアの勇者のメンバーの近くに住んでいるとか、羨ましいよ」


 剣士クロスが納得したように相槌を打ち笑う。


「す、すごいよね、あのルナリアの勇者のガトさんに会えるなんて思っていなかったぁ。サインとか欲しかったなぁ……」


 魔法使いエリミナルが多めの報酬にホクホクしながら言う。


「私たち他の地域から来たから感動したけど、そういえばあんたソルートンに住んでいるんだもんね。そりゃあ会う機会もあるか。……にしてはやけに親しげだったけど……」


 盗賊ルスレイがジロジロと俺を見てくるが、そういや三人はソルートンの外から来てるんだよな。






「はい、初心者応援プロジェクトクエスト一つクリアですね。おめでとうございます、参加賞の魔晶石になります」


 二十四時間開いている冒険者センターに戻りクエスト完了を報告。


 受付の女性が笑顔でハンコを押し、紙袋に入った小さな魔晶石を俺たちに渡してくる。


「やったぁ、魔晶石だぁ……! これ高くてなかなか買えないんだよね、小さくても嬉しいー」


 魔法使いの女性エリミナルが魔晶石を取り出し嬉しそうに頬ずりをする。



 参加賞。

 

 今俺たちが参加しているのが、『初心者応援プロジェクト』という冒険者センター主催のイベント。


 全国で開かれているイベントで、冒険を初めて一年未満ぐらいの冒険者が参加できる。


 ようするに以前クラリオさんが言っていた、冒険者のレベル底上げ計画ってやつっぽい。どうにもそれが実行されているようだ。


 とりあえずクエストを一個クリアすれば参加賞の小さい魔晶石が貰える。


 魔法使いの女性エリミナルが喜んでいたが、初心者には小さかろうが魔晶石を貰えるのはありがたいだろうな。


 商売人アンリーナのお店で俺もよくバニー娘アプティ用に魔晶石を買うが、これは……そうだな、五十Gぐらい、日本感覚五千円ぐらいの魔晶石だろうか。


 それでも初心者には何にでも使える魔晶石は嬉しいだろう。


 魔法使いであるエリミナルには魔法のブーストとして使えるし。


 ……街の人である俺には使い道ないがな……。


 魔晶石コンロとかには使えるけども。



「よし、まずは参加賞。そして次の目標が本命の三百G相当の魔晶石! やるぞみんな!」


 剣士クロスが初心者応援プロジェクトのポスター、参加賞の一個上にある報酬、中くらいの大きさの魔晶石のイラストを指す。


 三百G、つまり三万円相当の魔晶石か、それはなかなか。


「ああー……ラビコ様ぁ……今私はあなたと同じ空気を吸っています……」


 魔法使いエリミナルが魔晶石のイラストの横にある写真、目つきが悪く無愛想な顔の女性を凝視し別世界へ意識を飛ばす……ってこれラビコじゃねぇか!


 なんで初心者イベントのポスターに載ってんだ……。


 多分これ、ペルセフォス王国が宣伝用に無理矢理撮った写真の流用だな。そういや以前見たことがある。サーズ姫様が苦労して撮ったとか言っていたな……。


「はぁ、あんた本当にラビコ様が好きなんだね。まぁ私も会えるなら会ってみたいけど、ラビコ様ってルナリアの勇者メンバーの中でも一番気難しい性格らしいじゃない。ソルートンにいるとか聞いたけど……雲の上も上の存在、初心者の私達になんか会えるチャンスはないだろうね」


 盗賊女性ルスレイがエリミナルの頭を撫でながら言うが、ラビコが気難しい性格ってのは大正解だ。俺が保証しよう。


 さらにトッピングで超面倒って単語も追加していいぞ。


「で、でもこのポスターに載っているんだから……会えるもん! 冒険者センター公認のポスターなんだよ、ウソは書かないよ……!」


 エリミナルが頑張って言い返すが……ラビコからこの初心者イベントの話を聞いたこと無いし、多分これクラリオさんが集客用に無断で使った写真だろ。


 大魔法使いラビコっていえば世界で通用する知名度だしなぁ、憧れる冒険者も多いのだろう。



 初心者応援プロジェクトのクエストをいくらこなそうが水着魔女ラビコには会えないと思うが、宿屋ジゼリィ=アゼリィに行けば簡単に会えるぞ。


 一通りクエストが終わったら、みんなをジゼリィ=アゼリィに連れて行ってあげるか。



 ……まぁ、魔法使いの女性エリミナルが頭の中で作りあげた憧れのラビコ像とは全然違うラビコが出現するだろうがな……。











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