第590話 深夜の番犬お散歩1 エロ本を越えた先にあるもの様
「…………行くか」
深夜、俺はムクっとベッドから起き上がる。
ここは花の国フルフローラ王都のお城。ローベルト様のはからいでお城の客室をお借りしている。
部屋はガラ空きだから一人一部屋でもいいとローベルト様がおっしゃってくれたのだが、ラビコが一部屋でいい、とか言い出し全員一つの部屋で寝泊まりしている。
かなり大きな部屋なので特に文句もないし、お城の客室ということで豪華だし、なによりお綺麗な女性陣とずっと一緒の部屋、感謝しかない。
「……みんな寝ているな」
深夜に当たり前のセリフを口走ってしまったが、大事なことなのである。
昼間は失敗したが、それはみんなが起きている時間に決行したから。
ならばみんなが寝静まった深夜こっそり決行すればいい。邪魔さえ入らなければ俺のエデンに辿り着けること間違いなし。以前もこの境地に達したことがあった気がするが、三つ子の魂百までとかいう言葉がある通り、人はなかなか変われないものなのである。
つかこっちの異世界に来て深夜に港街ソルートンの聖地に行ったことがあったな。
結局あのときも失敗に終わったことから考えると、昼間だろうが深夜だろうが成功率に影響はないような気が。
「…………ふむ」
一応ロゼリィ、ラビコ、アプティ、アンリーナ、クロ、女性陣全員のベッドに近寄り起きてこないか確認。我が愛犬ベスもぐっすり就寝中。
「…………」
む、バニー娘アプティさんが起きているようないないような。
「──トイレ行ってくる」
俺は超小声で言い訳をつぶやく。アプティに反応はない。
ウソではない。トイレには寄っていく、が、目的地はトイレを超えた遥か先にあるエデン、エロ本屋。
昼間に執事であるイエロさんに場所は教えてもらった。ラビコの邪魔が入り無念の途中解散にはなったがね。だが場所は覚えたぞ、ただでは転ばん精神。
この時間にお店がやっているのか知らないが、エデンの入り口に立てるだけでも俺のすさんだ心は満たされる。
……一応ラビコの様子を再確認。
昼間はこいつのせいで失敗に終わったからな。
「……ラビコは水着だからいつも超エロ……すんげぇ俺好みの美人さんだし……」
おっと、寝ているラビコの水着に包まれたお胸様を眺めていたらいつの間にか手を構えていて、危うく触るところだった。
それはやっちゃイカンだろ。反省だ、俺。
──深夜二時手前あたり、俺は静かなお城を抜け出し外へ。
何人かの警備の騎士と会ったが、トイレですと軽くウソを言い誤魔化した。
「……うへ、超暗い……」
お城から駅へと向かう街道を歩くが、さすがに深夜二時、誰もいないし街灯が少なくて超暗い。
比較して申し訳ないが、ペルセフォス王都とか深夜でも街灯が煌々と付いているし、我らが港街ソルートンですら明かり無しで歩けるぐらいバッチリ街灯が付いている。
フルフローラ王都は……ちょっと街灯の間隔が広くて光量が弱く真っ暗な部分が多い。
少々怖い……。
しまったな、用心棒として愛犬を連れてくるべきだったか。そうか、ベスさえいれば何かあっても深夜に愛犬の散歩に出ただけだって言い訳できたもんな。失敗した。
「…………そうだ、そういえば夜か暗いところがあったら散歩に連れてけって言ってるやつがいたな」
俺はふと思い出し、自分の右手首に巻かれている首輪を見る。
確か何か言うんだったよな。
「何だっけ……えーと、ぐ、ぐーぐる、違うグークヴェル・ケルベロース、だっけ?」
以前ケルベロスから貰った首輪に向かってキーワードっぽい文言を言うが、特に反応が無い。
あれか、さすがにここは遠いのかな。
一回呼び出したことがあるが、あれはあいつの住処、地下迷宮の近くの冒険者の国ヘイムダルトだったからな。
『……きゃは……きゃはははー! ボスの呼び出しキター!』
突如女性の声が響き渡る。
うお……そういやこの、空間外から聞こえるような不思議な感じだったっけ。
「ドーン! ボス、ボス、ボスー! やったーお外だ! ……うわ、何ここ超暗い! 最高、最高の暗闇ー! なんだよボスーこんな人里離れた野っぱらで呼び出すとかー、もしかしてそういう目的ー? きゃははー」
いきなり俺の真上の空間が裂け、黒い豪華なドレスをまとった女性が現れ地面に着地。
俺の顔をベロベロ舐めたあと周囲をくるくる走り周り、勢いよく抱きついてくる。
彼女はケルベロスといい、冒険者の国ヘイムダルトの地下迷宮で知り合った。……彼女とは言ったが、頭に犬の耳が生えていたり、お尻に三本の犬の尻尾が生えていたりとどう見ても人間ではないと思うが。
蒸気モンスターでもないっぽいし、一体何者なのかね。
「ひ、久しぶりケルベロス。そしてここは人里離れた野っぱらではなく、フルフローラの王都がある場所だ」
「うそー、王都って都会でしょー? ここどう見ても野っぱらだよー、ボスってば冗談ばっかーきゃはは」
ケルベロスが周囲をキョロキョロ見て笑うが、これは俺がエロ本を買いに行く道中だからなるべく人と建物が少ない街道を選んだからであって、ここ以外の街道はそれはもう都会なんだぞ。
……すいません、俺ウソを言いました。
アンリーナやサーズ姫様の仕掛けでフルフローラ王都の人口は増えたものの、まだまだ発展途上の野っぱらでした。
「それでボスどこ行くのー?」
「あ、ああエロほ……」
ハッ
しまった……ここまで気付かない俺もどうかと思うが、こいついたらエロ本屋いけないじゃん。
女性連れでエロ本屋に突撃は出来ないというか、こいつは女性扱いでいいのか? 見た目は完全に美人の女性だが、人間でも蒸気モンスターでもないっぽいし、地下迷宮では大いなる存在である火の柱ファルミオの名前を上司として出していたりしたし、格としては神様とかになるんか?
神様に性別とかってあるのか? よく分からんが、今後の為に一応こいつが自認している性別を聞いておこう。
「ケルベロスさんは女性でいいんですよね?」
「さん? さん付けとかやめろよボスきもー! 私どう見ても女だろーなんだよもーホラ、結構デカイだろ? きゃはは!」
俺が改まって確認すると、ケルベロスがゲラゲラ笑いながら着ている豪華な黒いドレスっぽい服のお胸様部分をペロンとめくり、中身の生のお胸様を惜しげもなく見せつけてくる……って、おいコラぁぁ!
「……ば、バカなにやってんだこの……! 早くしまえぇぇ!」
「な、何怒ってんだよー……ボスが喜ぶと思ってやったのにー!」
かなりの大きさのお胸様、そうだな、水着魔女ラビコかバニー娘アプティぐらいだろうか。ふいに飛び出してきた美しい生のお胸様に思わず凝視してしまったが、これはアクシデント。絶対に通報はよしてくれ。
瞬時にバッチリ脳内に焼き付け、永久アーカイブ化したけども。
「喜ぶって、そりゃあ嬉しかったけど、深夜とはいえここは王都の街道、人間には色々面倒な法律ってものがあってだな……」
「嬉しかった? なんだよもーボスってやっぱそういう目的で私をこんな夜の野っぱらに呼び出したのかー、いやーこわーい、きゃははは!」
ケルベロスが楽しそうに俺の周りを走る。
……ああ……
……エロ本屋とか……もうどうでもいいや。
賢明な紳士諸君なら当然お気付きだろうが、その、まだ丸出しなんだよね、ケルベロスの大きなお胸様。
ふぅん、走るとああいうふうに揺れるんだぁ……へぇ……ほーん……
これは俺が今後この過酷な異世界を生き抜く上で大変為になる動画資料だ。
──ありがとうケルベロス。
俺は涙を流し両手を合わせ、体を張って貴重な資料を提供して下さったケルベロス様を拝む。
その、なんというか、うん──エロ本超え。
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