第589話 本日お休みDAYと俺の聖地探しフルフローラ編様




「じゃあ本日はお休みだ、みんなしっかり休養してくれ」


 

 二日後の朝、ローベルト様のご厚意で泊まらせていただいているお城の部屋で俺は高らかに宣言する。



 ロゼオフルールガーデンカフェ開店から四日目の夜に起きた巨大な光の花びら事件、それ以降一度もその現象は発生せず、なぜあんなことが起きたのか謎は深まるばかり。


 水着魔女ラビコやフルフローラ王族であられるローベルト様も分からないと言っているんだから、無学な俺が考えたって無駄である。


 頭を切り替え、本日はお休み。


 ガーデンカフェオープンから六日間連続でお手伝いをして、さすがにみんなお疲れだろうと休養期間とした。




「お休みね~。じゃあ社長さ~私とデートしようよ~」


 ベッドの上であぐらをかいている水着魔女ラビコがニヤニヤと俺を見てくる。


「なんにもないフルフローラ王都にいたってすることないんだから~せめて快楽っていう娯楽を~……」


「わ、私とお願いします! あなたと二人きりで花の国フルフローラ王都デートをしてみたかったんです」


 ラビコのセリフの途中で宿の娘ロゼリィがダッシュで近付き俺の左腕をつかんでくる。


 ……今ラビコさん、フルフローラ王都に何もないとか余計なこと言わんかった? いやさすがに何かあるだろう。この牧歌的風景の王都にだって、何かの娯楽施設はあっていい。あってくれ。



「……マスター、この辺りにある紅茶畑に挨拶回りをしたいです……」


 バニー娘アプティさんも無表情にアピールをしてきた。


 そういやアプティは王都内を歩いているとき、鼻をスンスンさせ紅茶畑のチェックをしていたな。


 ああ、昨日、アプティがみんなに送りたいと言うので、ロゼオフルールガーデンカフェのグッズを多量に買い配送をお願いしたぞ。


 みんなってのは、島にいらっしゃる蒸気モンスター、銀の妖狐さんと仲間たちになるんですかね。


 住所はアプティがソルートンの宿を指定してきたので、宿に届いたものをみんなに渡すのだろう。……頼むから銀の妖狐本人が取りにこないでくれよ。



「師匠! 実はフルフローラ王都内のとても雰囲気の良いホテルを何かあったときの為に取ってありまして、師匠の若さゆえの燃え上がるような突発的な愛にも応えられるようにしてあるのです! さぁ、お休みと言う名の愛の求め合いを……!」


 商売人アンリーナがズバっと手を上げ、何やらエロい雰囲気のホテルのパンフレットをバンバン叩きプレゼンを始める。



「を? そっか、これってキングからのお誘いってことか! 今日俺フリーだけど、誰か一緒にどう? ってやつか! いいぜぇ、このクロックリム=セレスティア様がその挑戦受けて立つぜぇ! フルフローラ王都ってどこ行っても畑に森に野っぱらだからよ、ヤるときは野外系になるだろうけどなぁ、ニャッハハ!」


 猫耳フードを揺らしながらクロがファイティングポーズを取る。


 俺の言ったセリフが一言も伝わっていないようだが、挑戦とは何なのか。ヤるときは野外系ってセリフもちょっと意味が分からない。本当に、分からない。



 本日はお休みだ、みんなしっかり休養してくれ。うん、俺はっきりと言ったよね。





「じゃあ俺出掛けてくるから」


 なんだか荒ぶる女性陣の頭を撫で落ち着かせ、俺は愛犬ベスにリードを付け準備。


「はぁ~? お休みじゃなかったの~?」


 水着魔女ラビコがムスっとした顔で俺を見てくる。


「こういうときじゃなきゃベスの散歩に行けないんだよ」


 俺は愛犬を抱え、普通に付いてこようとしたバニー娘アプティを止め頭を撫でる。


「ああ~。そういやそうだったね~りょ~かい。じゃあ女性陣はみんなでフルフローラ王都で人気の温泉施設に行こっか~あっはは~」


 納得してくれたっぽいラビコの顔に笑顔が戻り、フルフローラ王都観光の雑誌を開き皆でわいわいと盛り上がり始めた。



 ……よし、これぞ千載一遇のチャンス。


 俺は一秒でも惜しいとダッシュでお城を出る。





「あ、お早いですね。では今日はよろしくお願いいたします」


 お城の門の横に立っていたイケメン好青年が俺を見つけ、丁寧に頭を下げてくる。


「お待たせしました、すいませんイエロさん突然呼び出してしまって」


 俺は愛犬を抱え、フルフローラ王族であられるローベルト様の執事軍団の一人、イエロさんに駆け寄る。



 実は昨日の夜、ローベルト様にお願いをしてイエロさんのスケジュールをあけてもらったのだ。



「それで私に案内して欲しい場所とはどこでしょう。あの大国、ペルセフォス王都に何度も行かれている方、さらには英雄であられるあなたに喜んでいただける場所がはたしてフルフローラ王都にあるか不安ですが……」


「……イエロさん、実は僕には時間がないんです。いつ追手が来るかもしれない、なので至急、迅速に超特急で現場に向かいたいのです」


 ソルートンの俺の部屋にローベルト様が来て下さったとき等、彼とは何度か話す機会があって、この人は信用出来ると俺は判断した。


「お、追手……? 何か、どこぞの組織にでも狙われているのですか!? た、確かにあなたは成した偉業が相当なものですが……」


 イエロさんが俺の迫真の演技に驚き周囲に目を配らせる。


 さすがローベルト様ご自慢の執事軍団のリーダー格。理解が早くて助かります。






「……えっと、営業時間は分からないのですが、この辺りがご希望のお店がある場所かと」


「……そうですか。ここが例の……」

 

 イエロさんに案内され、俺は王都の駅近くにある怪しい雰囲気の一角に仁王立ち。


 愛犬は周囲にある屋台から香る肉の匂いに興奮気味。別に肉を食いにきたわけではないぞ、ベス。


 港街ビスブーケには夜にテントが立ち並ぶ有名な夜市があり、そこにはエロ本を買うお店、聖地があった。


 ならば王都にだってあるはずだし実際あった、そうここは俺の聖地なんだ。



「あ、あの……失礼かもしれませんが……あのお綺麗な女性たちとそういうご関係では……あなたにこういう本は必要ないのでは……あと未成年の方にこれ以上ご案内は……」


 俺の放つ異様なオーラに恐れをなしたイエロさんが弱々しい声で苦言を呈してくる。



「イエロさん、俺は未成年ではありません」


「え、いえ確かあなたは十六歳とお聞きしたような……」


 俺のウソに瞬時に反応してくるイケメン執事。


 くそ、俺のこと調べ上げ済みかよ。



「確かに俺は満年齢十六歳です。しかしこれには数え年というシステムがありまして、生まれた年がすでに一歳と計算するもので、そちらを当てはめ、さらに精神年齢等をブースト加算すると俺は未成年ではないのです」


「……ブ、ブースト加算……?????」


 俺のいた世界でも屈指の計算難度を誇る『俺時間律式年齢算出式』を理解できず、イエロさんがイケメン顔のまま固まる。


「あの、その、英雄であられるあなたに軽度な犯罪は……その、そういうエッチな本は不必要でしょうし、周囲の女性の方々に目を向けられたほうが……」


 周囲の女性陣の体は毎日ありがたく見ています。


 全員素晴らしいスタイルでして、ラビコなんて毎日水着だし、アプティなんか毎日バニー衣装。当然肌が多めに露出されていますので、俺は毎日数分置きにそれをこっそり見ては目に焼き付け、毎夜感謝のカーニバルを開催しているんです。


 でもその俺としましては、やはり服の上からではなく中身が見たいお年頃なんですよ。そしてその俺の正当な欲求を瞬時に叶えてくださるのがエロ本様でして、誰も傷付けることなくコッソリ自己完結で幸せになれるという奇跡のアイテム。


 ああ見たい、ああ見たい、裸が見たーい!



「お願いしますイエロさん……俺は、俺はどうしても裸が見たいんです! もう限界なんです……お願いします協力して下さい、俺に裸を見せて下さいぃぃ!」


「え、あの……い、いけません、わ、私はローベルト様一筋でして……!」


「う~わ、まさかイエロに裸を見せろって迫るとはね~。ひくわ~」


 感極まった俺がイエロさんのブ厚い胸板に抱きつき想いの全てを吐き出していると、上空から聞き慣れた声が。




「あのさ~これ何回目だと思ってる~? いい加減学習して欲しいんですけど~?」


 ラビコは女性陣で行った温泉施設を抜け出し、こっそりじっくり上空から俺のエロ本奮闘記の一部始終をご覧になっていたそうで……。そういやラビコって魔法で空飛べるんでしたっけ……そりゃあ音もなく上空から気付かれることなく追跡できるよね……。


 ってラビコが地面に正座している俺の頭をポンポン叩きながら言っているが、そうこれ何回目だよと。


 しかし……今回は上手く行くと思ったんだよな……ホームであるペルセフォスではなく異国の地だし、いくらラビコとはいえ、そこまでフルフローラ王都の地理には詳しくないだろうし。


 でもこうして御用となったわけだし、甘かったか。


 どうにも俺はエロに対しては視野が狭くなるっぽいな……学習せねば。



「申し訳ありませんラビコ様、私がついていながらこのような事態に……。彼の強くて熱くストレートな想いを断りきれず、つい体を許して……」


 ちょ、イエロさん、なに誤解されそうな言い方してんだよ! 


 よく分からんが、イエロさんも自分にも責任がとか言い出し地面に正座し、ラビコのお説教を聞いている。


 それはいいのだが、なんかその言い方だと俺がイエロさんに迫ったみたいじゃないすか!


 いや待てよ、俺のさっき言ったセリフって興奮状態だったから主語抜いて感情的に表現してしまって、俺がイエロさんに裸見せろと迫ったふうに聞こえなくもないな。


 うん、俺やべぇやつ。



「はぁ~……昨日の夜にローベルトに相談して執事であるイエロのスケジュール抑えたりさ~なんでそういうパワーを周りの女性に向けないのかな~。もうさ~私たちとのデート断ってエロ本探しに行くとか意味わかんないんですけど~。女に興味あるの、ないの、どっちなの~? 毎日飽きもせずチラチラ私たちの体見てさ~、お城で同じ部屋に寝泊まりしてるのに~期待して待っていても全っ然手ぇ出してこないしさ~」


 あれ? もしかして俺の行動って昨日から筒抜けだったってやつ……? 


 マジで?


 女性陣の体を舐め回すように見ているのはすでにバレていると分かっていたので、特に否定もしませんが。


 あー早くお説教終わんねーかな……聞き流しモード発動、さてラビコのエロい水着姿でも至近距離で眺めて過ごすかぁ。



「ちょ~話聞いてる~? この状況で私の体舐めるように見るとかさ~そこまで見たいんならもう触ればいいだろ~!」


 あれ、なんかラビコ怒ってんぞ。


 よく分からんが、ラビコの水着に包まれた大きめのお胸様がさらに揺れるようになったので、よし。



 満点。










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