第588話 ロゼオフルールガーデンカフェ5 シトロンさんの帰還と恋愛談義様




「ハァイ、みなさんお見送りありがとー! 出来たらもっと一緒にいたかったけど、次のお仕事があるからここまでね!」



 光る桜の出来事の翌日の朝、商売人であるシトロン=エイロヒートさんをフルフローラ王都駅にてお見送り。


 本当は初日の様子を見て帰る予定だったのだが、ガーデンカフェが気になって四日も滞在してくれたそうだ。さすがにこれ以上はスケジュールがやばいらしく、お供の黒服軍団を引き連れ次のお仕事へ向かうらしい。




「ねぇ英雄ボーイ。本命は誰なの?」


 列車が到着し、ドアが開いたところでシトロンさんが俺に顔をぐいっと近付けささやく。


「え、ほ、本命? い、一体なんのことやら……」


「……フゥン。つまんない答えだけど、ようするにまだ決まっていないっと。ならまだチャンスありそうね、アハハ!」


 俺がモジモジ答えると、シトロンさんがへの字口で不満そうな顔をしたあとコロっと表情を変え笑う。



「シトロン、それ以上私の夫にちょっかいだすと血の雨が降るわよ」


 いきなり俺の真横に物体が現れ、悪魔みたいな微笑みで恐ろしいことを言う。


 あのアンリーナさん、何度も言うけど勝手に俺を夫にしないで。あとセリフがマジ怖い。



「なんでそういうときに迷わず本命は大魔法使いラビコ様~ってはっきり言わないのかな~」


「か、彼と一番お付き合いが長いのが私なので、多分私がそういう立場なのかと……モニョモニョ……」


「……島で結婚が決まっています……」


「つかよ、そういうのペルセフォスにいたらどうでもよくねぇか? 条件整えたら何人とだって結婚出来ンだしよ、キングってこういうことには疎いし、とりあえず一緒にいりゃあダラダラ流れで結婚出来ンだろ。ニャッハハ!」


 俺の横にさらに四人、ラビコ、ロゼリィ、アプティ、クロが密着してきてシトロンさんを威嚇するように言う。


 そしてアンリーナも加わり、五人が打ち合わせも無しに左手薬指に付けた銀の指輪を光らせポーズを取る。



「アハハ! 何かみんな指輪してておかしいなぁと思っていたけど、なによボーイ、ヤルことはヤってのんかしら? アハハ」


 シトロンさんが急に現れた五人の指輪戦隊を見て笑うが、ヤ、ヤる? いや俺何もしていないっすよ! 


 そんなカタカナ表記のヤるとか出来ていたら、なんで俺は毎晩感謝のソロカーニバルを開いているのか、意味分からないでしょ!


 あとその指輪、もう説明が面倒だけど、それは感謝の指輪であって、婚約とかそういう意味で贈ったものじゃないっすよ!



「そ、そうか、今どきはそういう恋愛方法があるのか。なるほど……勉強になる。わ、私も君には興味があるし、ロゼリィ嬢と一緒に私もダラダラと流れで結婚とか……そうすれば我が花の国フルフローラがより一層発展繁栄の未来が……!」


 見送りに一緒に来て下さった花の国フルフローラの王族、ローベルト様も妙なテンションになり始めたぞ……。


「おう、いいンじゃね? ローベルトも一緒にキング育てて遊ぼうぜ、ニャッハハ!」


 クロさんよ、あなたが余計なことを言うからこんなことになったんだって自覚ありますか?


 俺を育てて遊ぶとか、どういうルールのゲームなんだよ。



「アハハ、ああ面白い! やっぱりボーイってとっても不思議で魅力的な少年ね。こんなにワイワイしていて笑顔の絶えないお仕事、初めてかも。最後に夜空に光る花びらの奇跡とかも見れたし、とっても楽しかった! また絶対会おうね英雄ボーイ。それでは皆様、何か良いお仕事がありましたらウエルス=エイロヒート社までご相談を! あなたの生活を一つ楽にする商品が見つかるかもネ? アハハ!」


 俺の手をぐいっと握ったあと、開いていた魔晶列車に飛び乗りビシっと姿勢を整えたシトロンさんがお仕事の決まり文句みたいなセリフを言い丁寧に頭を下げる。



 全員でシトロンさんの乗った魔晶列車に手を振り見送り、フルフローラのお城まで戻る。




「アンリーナはまだ大丈夫なのか?」


 徒歩での帰り道、同じ世界的商売人である大きなキャスケット帽をかぶった女性、アンリーナにスケジュールを聞いてみる。


「はい、私は元々一週間はこちらに滞在して様子を見る予定となっております。……正直言いますと、少々不安でしたので……」


 後半声が小さくなり、アンリーナが俺だけに聞こえる音量で言う。


 まぁ、なぁ……フルフローラ王都のこの広大な田舎風景……失礼、全ての人に優しい牧歌的な風景を見て多くのリピーターと売上を望むのは無理があるってもんだ。


 さすがのアンリーナですら、セカンドライフ移住者や企業の保養所的なものを誘致したりと人口を増やそうと動き回っていたもんな。


 人口=売上、という図式は結構当てはまってしまうことが多い。


「ですが杞憂でしたわね、フタを開けてみれば毎日行列大混雑。フルフローラ王都内の宿泊施設はほぼ全て満室。そちらにも恩恵があったのであれば、ロゼオフルールガーデンカフェは王都観光の呼び水として役目を果たせているのでは、と」


 アンリーナが前方を歩いているローベルト様に聞こえないよう言う。



 帰り道は馬車を用意してあったのだが、ローベルト様が俺たちと王都を歩きたいとおっしゃり、今のんびりと王都の様子を見ながらお城に向かっている。


 ローベルト様の横には水着魔女ラビコにロゼリィとクロがいて、楽しそうに笑い恋愛談義に花を咲かせているようだ。


 アプティさんは俺の後ろで無表情に歩いている。ときおり鼻をスンスンさせ、王都内にもある紅茶畑の場所を確認しているようだ。


 愛犬ベスもこの牧歌的な風景が好きらしく、今すぐにでも走り出したい欲がリードに伝わってくる。


 まぁ建物やら何やらと人工物が多い場所より、こういう大自然の風景のほうが動物には合っているだろうしな。



「……だから~ぶっといロープとかでガッリチ拘束して~薬とか魔法で眠らせて無抵抗にさせてお互いの愛を~……」


 ……ラビコがなにやら恐ろしい犯罪計画を笑顔で語っているが、お互いの愛? その話、本当に楽しい恋愛談義の一部なの?




「昨日の夜の出来事は少し驚きましたが、あれが大きなニュースになり、さらに多くの人にロゼオフルールガーデンカフェの名前が広まったのでは」


 アンリーナが新聞に載っている記事を指し言う。


 昨夜のロゼオフルールガーデンカフェでの光る桜、いつもとは違い、ラビコ曰く花の国フルフローラの盾騎士フォリウムナイトの光る盾が現れた事件。噂を聞きつけた雑誌や新聞の記者がガーデンカフェに殺到。


 あんな事例は初めてらしく、フルフローラ王族であられるローベルト様が本当に驚いていたからなぁ。


 

 俺たちはこれ以降の予定は特にないので、アンリーナも言っていたがもう何日か様子を見てみようか。





 ……そういえばフルフローラ王都にあれはあるのだろうか。


 何を呆けた顔をしているんだ紳士諸君、ホラあれだよ、俺たちのような清らかな体と精神を持つ者の聖地、エロ本屋だよ。








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