第587話 ロゼオフルールガーデンカフェ4 オープニング期間終了と花開く光の花びら様




「師匠、ガーデンカフェのオープニング三日間のデータが出てきましたが、予想を大きく超えた数字で、これならローベルト様もお喜びになるかと」



 花の国フルフローラに完成したロゼオフルールガーデンカフェ。


 これは商売人アンリーナの会社がメインとなり、宿ジゼリィ=アゼリィはレシピ提供という形で展開したコラボカフェ。


 俺たちはオープン直前に花の国フルフローラに入り多少お手伝いをし、あっという間にオープニング期間として設定した三日が過ぎ、そのデータをアンリーナが持ってきたようだ。


 お店にずっといて見ていたが、朝から行列が出来、常に混雑状態だった。お客さんの総数はさすがにペルセフォス王都のカフェには敵わないが、人口差を考慮すると相当な来客数と売上だと思われる。



 現在は四日目のもうすぐお昼という時間。


 また例によって端っこに作ってもらった臨時の専用席に座り、適度に手伝いつつお店の様子を見る。


 やはり行列がフルフローラのお城あたりまで出来ているらしく、オープニング期間が終わったとはいえ、まだまだ混雑する日々が続きそうだ。




「うん、やっぱアンリーナの移住者計画と企業の保養所的な計画が効いていたなぁ」


 花の国フルフローラ王都は正直『ザ・田舎』なのだが、アンリーナはそれを逆手に取り、落ち着いたセカンドライフを求める層、さらに大口である企業の保養所的なものを誘致したりと長期と短期移住者を取り込んだ。


 彼らには特典の一部として、新規開店するガーデンカフェの割引券が渡されている。


 三日間のデータを見ても、その割引券を使用したお客さんの数がかなり多く、アンリーナの計画の効果が大きいと取れる。



「ありがとうございます。あとはサーズ様が打ち出して下さった支援が大きいです」


 アンリーナが俺に向かって丁寧に頭を下げたあと、書類の別の数字を指し言う。



 サーズ姫様が行ったフルフローラ支援計画。


 いつだったか俺の部屋に奇跡的な確率でペルセフォスのサーズ姫様と花の国フルフローラのローベルト様がプライベートで同時に来て下さったとき、二人がなにやら意気投合し、支援の話が約束されていた。


 ……ここでなぜそうなったのか説明が出来たら格好いいのだろうが、何でそうなったのか俺にはさっぱり分からないんだよな。


 俺の記憶では野生化したピンクのクマさんズが港街ソルートンに現れ、夜の砂浜で俺を襲撃してきたが、それを助けてくれたのがローベルト様。


 そのあとだよな、サーズ姫様とローベルト様が急に仲良くなったのって。


 ほら分からない。


 説明役として力不足で申し訳ないが、俺には二人が意気投合した理由が全く見えないんだよね。


 誰か教えて。



 で、そのプライベートで口約束だったものをサーズ姫様が公式に即行動し、資金援助、交流としてペルセフォスの騎士を数百人単位で派遣、魔晶石アイテムの開発メーカーである『ウエルス=エイロヒート社』に依頼し魔晶列車の車両を冷蔵仕様に改造したものを納入。


 その列車をペルセフォス王都とフルフローラ王都間で往復させ、フルフローラの特産物であるお花を劣化の少ない状態でペルセフォス王都に運び販売。


 さらにその臨時往復列車の客車部分の料金を通常の半額で販売、『花の国フルフローラに行こう』キャンペーンを打ち出し観光客がフルフローラに行きやすい環境を作ってくれた。



「確かにペルセフォスから来たって観光客がかなりいたな。ペルセフォスから派遣されている騎士の皆さんもプライベートの時間で食べに来てくれていたみたいだし」


「サーズ様の行動の速さには私も驚きです。まぁ……行動のキッカケが誰であろう師匠ですからね、納得は出来ます」


 俺? なんか関係あるのか?


「あとは師匠発案のポイントカードですわね。特典が欲しいと、多くの方が二度三度と来店されていまし……」


「そう、それ! これスッゴイいいね。絶対にうちでも使わせてもらうからね、いいわよね英雄ボーイ」


 俺とアンリーナの間に突然入ってきた女性。


 彼女はシトロン=エイロヒートさんと言い、魔晶石アイテム開発メーカー『ウエルス=エイロヒート社』のご息女で、こないだ港街ソルートンに出来た駅直結の大型商業施設にフィットネスクラブも展開し手広く活動している商売人。宿の娘ロゼリィ曰く、美の伝道師として有名らしいぞ。


 まぁその名の通り、スタイルは良いわ美人さんだわ商才あるわと天が二物以上をお与えになったと思える人物。



「そうですわね、このカードの効果の高さ……師匠、これうちでも使わせていただきますわね。ええ、キチンと使用料をお支払いいたしますし、もしお金で解決が不服であればこのアンリーナ=ハイドランジェ、体でお支払いすることも、いえむしろ体でお支払いしたくアンリーナは毎日師匠のことを想い寂しい夜をrty……ヌフプギュポルレェ……!」


 ああ、またアンリーナさんが言語の違う向こうの世界へ行かれてしまった……って興奮したアンリーナが俺に飛びかかって……


「ま、まてアンリーナ! クソ、どっからこんな握力湧いてくるんだよ……!」


 つかいきなり俺の下半身に飛び込んでくるのはなんでなの。


「アッハハ! こういうアンリーナは滅多に見れないから新鮮!」


 シトロンさん、爆笑していないで同じ商売人であるアンリーナを止めてくれないですかね。


 アンリーナが俺のズボンを悪魔みてぇな微笑みでつかんで離さないんですが、それ以上はうちのバニー娘アプティさんが異形の敵判定しますよ。




「……おほん、失礼いたしました。やはり師匠のこの発想の豊かさ、まるで商売人になるために生まれてきたような、いえ、私アンリーナ=ハイドランジェの夫となるために生まれてきたとしか思えないこの運命それは神々の祝福であり二人の出会いは必然で見つめ合う若い男女の燃え上がる欲は二人を包みいくつもの夜を抱き合い過ごし子供が十人ンンrtyh愛jk……! ……!」


 ちょ、またズボン……失礼いたしましたじゃなかったのかよアンリーナ……!


 バニー娘アプティに無表情で睨まれ一回落ち着いたと思ったが、臨時燃料緊急投下で再度激しく燃え上がったアンリーナが俺の下半身にダイブ。



「落ち着け~アンリーナ~。ほらローベルトが来たぞ~、フルフローラ王族の信頼が欲しいんだろ~?」


 俺とアンリーナが腕力と愛の押し合いをしていたら、やれやれ気味に水着魔女ラビコが言い、ガーデンカフェの入り口を指す。


 そこにはいつもの執事軍団を引き連れたローベルト様がいて、ニッコニコ笑顔でこちらに歩いてきた。


 ローベルト様はお城での公務があるので基本お城でお仕事をし、ちょっとでもあいだ時間が出来るとすぐにこちらのガーデンカフェに来られている。



「あら、では師匠、続きは夜に二人きりでヌフフプヨレ……」


 瞬時に身なりを正したアンリーナがジュルリとヨダレを拭う。怖。







 ──日も落ち、空が暗闇に覆われ始めたころ、ガーデン内の桜から微量の光が漏れ出す。



「さぁ始まるぞ、我が花の国フルフローラの笑顔の絶えない新たな観光スポット、ロゼオフルールガーデンカフェの真骨頂……あれ、なんか様子が……」


 ローベルト様がガーデンの光り始めた桜を指し「さぁ見ろ!」ぐらいの勢いで自信満々に言うが、後半声色が変わり口をポカンと開け呆けた顔になる。



「わあ、すごい!」


「なになに? 何かの演出ー?」


「おっきな光る花びら! きれーい!」



 満員のガーデン内のお客さんから感嘆の声が上がるが、これは桜が光りだすこの時間になるとよく聞かれる声なのだが……


「うは~……」


「き、綺麗……」


「こ、これは一体……」


「ニャハー! なんだこれ、すっげぇ!」


「ハァー……光の花びらの羽ばたき……」


 側にいる女性陣、ここにはもう四日目で見慣れているはずのラビコ、ロゼリィ、アンリーナ、クロ、シトロンさんが木の上のほうを見てローベルト様と同じ顔になっている。ああ、アプティさんはいつもの無表情だけども。



「なんと……これはなんということだ……奇跡、いやこれは……そうか、そうなのか……皆の想いが今ここに……」


 

 ローベルト様が光る桜を見上げ、感情的な声を漏らし涙を流す。



 何事かと光る桜を見ると、ガーデン内の一番大きい桜の木がいつもとは違う光り方をしていて、光の粒子が集まり三枚の巨大な花びらの形を成し、まるで光の翼が羽ばたくアニメーションのように動いていた。


 大きさは十メートルぐらいか? かなりの大きさ。


 これは……何かの魔法なのかとすぐに水着魔女ラビコを見るが、首を横に振りなんだか分からないと伝えてくる。



「……花の国フルフローラの盾騎士、フォリウムナイトの光の絶対盾」


 ラビコが上空に光る三枚の花びらを見て声を漏らす。












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