第586話 ロゼオフルールガーデンカフェ3 俺は花の国の救世主様




「フゥン、これうちでも使えそうな発想ね。お店側のリピーター確保が目的なんだけど、お客様からはお得なシステム、と捉えてもらえるワケかぁ」



 花の国フルフローラに新たに出来たロゼオフルールガーデンカフェ。


 そこに現れた身なりの良い女性、シトロン=エイロヒートさん。


 彼女はソルートンの大型商業施設で出会ったが、アンリーナ曰く魔晶石アイテム開発の世界的メーカー『ウエルス=エイロヒート社』の娘さんだそうだ。


 どうやらサーズ姫様の依頼で冷蔵仕様の魔晶列車を納入したとか。


 なんだか、また大きなお金が動いた感がすごいんですが。




「ねぇボーイ、このポイントカードってやつ、うちのフィットネスクラブでも導入していいかしら? ああ、もちろん使用料はしっかり支払うわよ」


 ガーデンカフェで使用されているスタンプを押すデザインになっている紙製のカードを興味深そうに眺めたあと、シトロンさんが俺にウインクをしてきた。


「あ、は、はい。それは構いませんけど、使用料をいただくほどのものではないような……」


 こんなもの、日本じゃどこでもやっているやつだしなぁ。


「イイエ、私は商売人だからさ、効果高そうなアイデアにはしっかり評価して報酬を支払わないとネ。それにボーイとは今後もお付き合いがしたいから、キチンと筋は通しておきたいの。……だってあなた、普通じゃ絶対に考えられないことを成し遂げたうえ、ありえないメンバーを集められるすごい人なんですもの、アハハ」


 シトロンさんが俺の周囲にいる人物に視線を送り、楽しそうに笑う。


「詳しくはここで言わないほうがいいみたいたけど、私、ボーイの成した行動と考え方にすっごい興味があるの。ね、私のとこに来ない? ボーイが魔晶石アイテム開発に関わってくれたら、今よりもっと革新的な、誰も思いもつかなかったアイテムが出来ると思うの」


 え、来ないってシトロンさんの会社にってこと? そ、それはなぁ……


「ヌフ……我が夫を目の前で誘うとか……それはあれかしら、このアンリーナ=ハイドランジェを敵に回すということかしら……?」


 シトロンさんのセリフに商売人アンリーナがニコヤカ激怒。


 いやあのアンリーナさん、怒り方が間違っていると思うんですよ。


 うん、俺はアンリーナの夫ではないんだ。


 しかし魔晶石アイテムの開発か、それはちょっと興味がある。日本にあった家電品とかをヒントにこちらでも似たような物が作れないか、と日々考えているし。


 ほらあれ、遠くにいる人と会話できるやつとかさ。



「ハハハ、怖い怖い。アンリーナもだけど、大魔法使いであられるラビコ様にクロ様を敵に回すとか、ウエルス=エイロヒート社が一瞬で潰されそう、アハハ! 後ろにいるバニーちゃんとかスタイルの良い女性もだけど、噂通りライバルがすごいメンバーね」


「あっはは~この男に手を出したいんなら、それこそ命がけでくるんだね~」


「キングは絶対に独占させねぇ。アタシはこいつの才能は世界の運命すら左右するって思ってる。目先の損得勘定の軽い気持ちで誘ってンなら帰んな。ああ、キングを世界最高の男に育てようグループに加入して一緒に遊びてぇってンなら話は別だけどな、ニャッハハ」


 俺の前に壁のように立つ二人の女性。


 水着魔女ラビコと猫耳フードのクロがちょいキレ気味なんですが、え、何? 俺ってみんなに育てられてんの? いやまぁ、俺まだ子供と言える年齢だし、みんなを頼りにはしているけども。


 ん、あれ? 育てて……遊んでるって言わなかった? 


 ん? 本音そっちじゃ……



「あはは、いやぁやはり君たちがいると本当に面白い! 世界でトップクラスの実力者たちの恋模様を目の前で見られるとか、しかもそれがこの花の国フルフローラで行われているとか最高じゃないか!」


 俺たちのやり取りを楽しそうに見ていた花の国フルフローラの王族、ローベルト様がゲラゲラ笑いながら俺の肩を叩いてくる。


 恋模様……だったら面白かったかもしれませんが、残念ながら誰が俺を小突いて遊ぼうかの集まりで、その中での揉め事らしいですよ……。



「ご機嫌だな~ローベルト~。やっぱ人間、金があると笑顔になるのかね~あっはは~」


 水着魔女ラビコが嫌な笑顔でローベルト様に絡む。

 

 ……金があるから機嫌が良いとか、これ王族様に対して最悪の絡み方だろ。


「あはは、いやぁついに念願だったお城修理の予算の目処が立ち、花の売上で外貨を得られ、ガーデンカフェ開店で王都にこんなにも人が集まった! これだけのことが一気に起きて笑顔になるなと言うほうが無理ですよラビコ様、あはは!」


 うむ、ここで否定をしないローベルト様が俺は大好きです。


 今まで相当苦労していたみたいだし、それが改善の方向に向かったのなら多少は笑顔を見せてもいいだろう。



「何もかも君のおかげだ! うちの国の外交がこんなにもスムーズかつ円滑に進んだことなんて数えるぐらいしかないことだ! ありがとう少年、私は君に最大の感謝を送りたい!」


 腰に手を当て大笑いしていたローベルト様の目が急に俺をロックオン。カバッと手を開き抱きつき、俺の頭を自分のお胸様に押し当ててくる。


 ンゴー、け、結構大きめなローベルト様のお胸様が顔全体に……! って端っことはいえ、今ここは大混雑中のガーデンカフェだから人目が多いからマズイですって!


 ……と紳士ぶった思考とは裏腹に被害者ぶりつつも俺は顔をクイクイ小刻みに動かし花の国フルフローラの王族であられるローベルト様のお胸様を楽しむ……が、宿の娘ロゼリィが激睨みしてきたのであえなく終了。


 気付くのが早いぞ、ロゼリィ。


「あの大国ペルセフォスの聖女、サーズ=ペルセフォス様がわざわざフルフローラに来てくださったり、世界的大企業ローズ=ハイドランジェ、さらにウエルス=エイロヒート社のご息女が同時にこの地に来てくれているとかまさに奇跡! そう、この奇跡の道筋を作ってくれたのが少年、君だ!」


 ラビコも言っていたが、マジでローベルト様のテンションが高いな。


「君と出会ってからというもの、全てが良い方向に進みだした。先程クロ様も言われていたが、本当に君は世界の運命すら変えてしまえる人物なのかもしれない! ほら見てくれ、ロゼオフルールガーデンに溢れる多くの人々の笑顔を! 君は種のまま腐りかけていた私たちに暖かい光を当ててくれ、まだ弱い芽の進むべき未来を、そして力強く花を咲かせる方向を示してくれた。まさに君は花の国フルフローラの救世主!」


 きゅ、救世主? なんかすげぇ持ち上げられているが……あの、そろそろ離していただけないでしょうか。



 ロゼリィがね……睨んでるの。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る