第569話 ロゼリィと美の伝道師様




「どういうことですか師匠、あれほどの状況でホテルに連れ込むどころか逃げ出すとは」



 ソルートン駅直結の大型商業施設ソレイローラ。


 なんだか女性陣がそれぞれ見たいお店に直行してしまったので、探して回収している最中。


 最上階にある高級っぽいホテルに行ってしまった商売人アンリーナをなんとか回収したのだが、なぜかお説教を受けている。




「す、すいません……つかホテルは予約でいっぱいで部屋なかったんだろ?」


「確かに部屋はありませんでしたが、その気になれば例え通路だろうと二人の愛の巣になるものですわ」


 俺が事実を言うも、アンリーナは顔色一つ変えず真顔で即通報逮捕案件を言い放つ。


 ……ダメだ、今のアンリーナはまともじゃねぇ……。







「あら、あそこにいるのはロゼリィさんでは」


 とりあえず五階から降りて四階の美容系やフィットネスクラブ的な物が集中しているゾーンを歩いていたら、アンリーナが大きめのお店の入り口を指す。


「本当だ、ロゼリィだな。……なんかウロウロしているけど、何してんだろ」


 商業施設でもかなり大きなスペースをとっているお店の前でロゼリィが入ろうか入るまいか、と迷うようにウロウロしている。



「あら、ここが来る前に言っていた『美の伝道師』と呼ばれ、最近人気のある女性のお店ですわ師匠」


 アンリーナがパンフレットの写真付きで紹介されている記事を指す。


 美の伝道師? そういやロゼリィがここに行きたいとか言っていたな。


 フィットネスクラブ系だろうか、正直興味無いが……俺はお店の中の光景に目が釘付けになる。



「な、なんだあの極小水着は……ラビコなんて目じゃねぇぞ……! ほぼ丸見え……ゆ、揺れ……お胸様が……」


 ガラス張りになっているので中の様子が見えるのだが、女性がとんでもなく布面積の少ない水着を着てダンスをしている。


「……師匠、私だって少しは揺れますわよ。オホン、あれがあのお店の特徴で、隠すことなく肌を露出させることで誤魔化すことなくマイボディを鍛え、美スタイルを維持しましょう、ということらしいです」


 アンリーナがちょっと不機嫌そうに自分の胸部分を触り、言う。


 しまった、つい興奮してお胸様が、とか言ってしまった……。俺の今まで積み上げてきた紳士イメージが台無しじゃあないか。




「ロゼリィ、入らないのか? 興味あるんだろ?」


 ゆっくり歩きロゼリィに声をかける。


「あ……は、はい……興味はあるのですが、どうもまだ勇気が出なくて……その、格好が……」


 俺に気付いたロゼリィがパッと笑顔になるが、すぐに恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。


 まぁ……いつも水着姿のラビコなら抵抗なくあの姿になれるんだろうが、ロゼリィはいつもほとんど肌露出のない服装だからなぁ。



「ハァイ、ミスアンリーナ! 今回はとても良いお話を持ってきてくれてありがとう! すごくいい街ね、噂のソルートンは」


 お店の前で話していたら、中からその『すごい格好』である極小水着を着た美しい女性がニッコリ笑顔で手を振ってきた。


「お久しぶりですわ、シトロン。まさか私が変なお話をあなたに持っていくとでも思っていたのですか? ああ、ご紹介いたしますわ師匠、こちらがこのお店の代表者で『美の伝道師』と呼ばれるシトロン=エイロヒートさんですわ」


「……え? エロい人?」


 二人が親しげに話し、アンリーナがその女性を紹介してくれたが、今エロい人って言わなかった?


「……ヘイボーイ、あなたはお耳の調子が悪いのですか? 私はシトロン=エイロヒート、絶ッッッ対にエロい人とか呼ばないように」


 やべっ、初対面の人に失礼なことを言ってしまった……エロい人じゃあなくて、エイロヒートさんか、アンリーナの知り合いなのに申し訳ないことした。


「す、すいません! 僕の耳が悪かったようです!」


「……分かればよろしいのです、人間誰しも間違う生き物なのですから。って、あら……? もしかしてあなたが噂の英雄ボーイなのかしら?」


 ちょっと不機嫌そうにしていた女性が急に俺の顔を覗き込んでくる。


 噂?



「そうですわシトロン。このお方こそソルートンを救った英雄、そしてもうすぐ私の夫となる男性ですわ」


 横にいたアンリーナが満面笑顔で俺に抱きついてきて、とんでもない嘘を言う。


 誰がもうすぐ夫か。


「ヘェ……あの仕事が恋人アンリーナを落とすとは大したものねぇ。ってあら、そちらの素晴らしいボディをお持ちの女性が抗議していますよアンリーナ」


 俺の後ろでもじもじしていたロゼリィがアンリーナの言葉に反応し、がばっと俺の左腕に抱きついてきた。


「もちろん、師匠はとても魅力的な男性ですからね、ライバルは多いというわけですわ。しかしまぁアイランド計画ももうじき完成いたしますし、早く婚姻の書類を作成したいところですわね」


 アンリーナがカバンから白紙を取り出し、朱肉片手にニヤリと嫌な笑顔……。



「ハハハ! なんだか楽しそうねアンリーナ。こういうアンリーナは滅多に見れないから新鮮! フゥン、あなたが噂のボーイなのね。私も冒険者の端くれ、ちょっとボーイに興味がありますね」


 シトロンと紹介された女性もニヤニヤと笑い、俺の体を測るように見てくる。



 ……あれ? 初めて会ったんだけど、この女性の顔どこかで見たことがあるような……。












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