第570話 シトロン=エイロヒート様




「はい、ワンツートンワンツートン、トントンワンツー!」




 紳士諸君はフィットネスクラブなどを利用したことはあるだろうか。



 このお店もよくあるタイプのお店らしく、会員になり月額の利用料を支払えば何回お店に来てもOKというものらしい。


 宿の娘ロゼリィがこのお店に大変興味があるらしく、三十分間の無料体験に申し込もうかお店の前で悩んでいた。


 しかしこのお店、ものすごい布面積の少ない水着を着てダンスをするという、結構勇気がいるスタイル。



 お店を経営している女性は商売人アンリーナの知り合いらしく、世界的に有名な『美の伝道師』と呼ばれるお綺麗な方。


 なんとなく顔立ちがラビコ系の美人顔。同じ水着スタイルのせいか、ぱっと見シルエットが似ている。


 もちろんこの女性もちょっと動いたら色々見えそうな水着を着ていて、正直俺は目のやり場がない。


 もしこれをロゼリィが着れば……絶対にポロリ。うん、絶対。


 ぜひ見たい……ロゼリィのお胸様等が揺れる様子を……カメラ片手に……!



 ロゼリィは興味があってここに来たらしいし、俺が笑顔で「君が今より綺麗になったら、この世界に美しいより上の言葉を作らないとね」と背中をポンと押せばやってくれるんじゃ、とヨダレを垂らしながら言ってみた。




「ワンツートン……トントンワンツー……き、きつい……」


「ヘイボーイ、足はもっとぐいっと上げないとだめ」



 くそ、これ簡単そうに見えたが、やってみたらかなりキツイぞ……。


 あ? 揺れ? んなもんねぇよ。


 俺が今はいているV字パンツを脱げば、可愛いアニマルさんが飛び出して勢いよく回転するかもしれんが。



 結局ロゼリィは恥ずかしい、とのことで、なぜか俺が体験フィットネスをやることに。


 女性だけではなく、男性も極小V字パンツ一丁が決まりらしく、さっきからビジュアルは大変お見苦しいものになっているだろう。


 絶対に想像してはいけないぞ。俺のほとんど裸V字パンツ姿を。


 


「……ロ、ロゼリィの揺れ……ロ、ロォ……」


「だ、大丈夫ですか!? やはり思っていた以上に激しいダンスなんですね……」


 三十分間の体験フィットネスを終えた俺は癒やしを求めロゼリィの体に極小水着を脳内コラージュ。


 ピンクの桃源郷が見えたところで満足顔で床に倒れ込んだ。



「ヌフフォ……し、師匠、仰向けで、仰向けでお願いしますフォォ! さすが師匠……とても良い身体を…………特に下腹部のラインが……!!」


 うつ伏せで倒れ込んだ俺を心配してロゼリィが膝枕をしてくれ、アンリーナが興奮気味に俺を仰向けにひっくり返してくる。


 やめて、超くすっぐったいから俺のへそあたりをなぞらないでアンリーナさん。


「……ふぁっ……わ、私も……!」


 アンリーナの悪ノリに感化されたロゼリィまでもが俺の腹をなぞってくるが、汗だく貧弱君の体になんぞ価値ねぇだろ……。




「うん、ボーイは無駄なお肉はついていないけど、体力もついていないわね、ハハハ」


 俺の体験フィットネスに三十分間ビッチリ付き合ってくれたこのお店の代表者シトロンさんがニコヤカに笑う。


 ぐう、同じ量のフィットネスをこなしたのに、余裕の笑顔ですか。


 周囲には極小水着をつけて踊っているお綺麗な女性が多数いたので、横目で見て脳に焼き付けて夜に使わせてもらおうかと思っていたが、そんな余裕はなかった。


「ボーイはたいした筋力も無いし……体力系の冒険者ではないのかしら? 魔法系?」


 シトロンさんが不思議そうな顔で俺の腕の筋肉をさすってくる。


「え、いえ、俺は冒険者センターでしっかり測ってもらった結果『街の人レベル2』ですが」


「ハハハ、面白い冗談ね! だってあなた、あの銀の妖狐を殴って追い返したんでしょう?」


 ふふ、なんだい、見たいのかい? 俺の可愛いハンコが押された冒険者カードを。




「へぇ、フゥン……つまりボーイの力は冒険者センターでは測れない、規格外の力である、と。どうりで冒険者として名が広まっていないわけだ。そしてあなたはこのソルートンにある宿ジゼリィ=アゼリィを世界的に有名なお店へと導いた張本人。やっぱりすっごく興味あるな。どう? アンリーナじゃなくて私にしない?」


 俺の自慢の冒険者カードを見せると、ささっと流し見てすぐにカードを返してくれた。


 特に驚くわけでもなく、肯定的。


 そしてぐいっと顔を近付け、耳元で甘く囁いてくる。


「ヌフフ……私の目の前で愛しの師匠を寝取ろうとか、いい度胸していますわねシトロン」


 満面笑顔ではあるものの、怒りゲージが瞬時にMAXに達したアンリーナが地獄から聞こえるような低い声でシトロンさんを脅す。


「だ、だめです……!」


 ロゼリィが泣きそうな顔で俺に抱きついてきて、二人から俺を引き離す。



「……ハハハ、こっちも噂通りか。これはしっかり対策立てないと無理かなぁ? 蒸気モンスターにすら打ち勝てる力に世界で通用する商才。ぜひ私のところに来て欲しいね。ライバルがとんでもないランクの女性とか聞くし、これは攻略のしがいがあるなぁ」


 シトロンさんがニヤァと笑いアンリーナとロゼリィを睨む。



「さて自己紹介が遅れたね。今はシトロン名でフィットネスクラブを世界展開しているけど、本業は魔晶石アイテムの開発メーカー『ウエルス=エイロヒート』の娘シトロン=エイロヒートさ」


 魔晶石アイテム開発メーカー? あまり聞いたことないが……。


「師匠、宿ジゼリィ=アゼリィや王都のカフェ ジゼリィ=アゼリィにも導入した大型の魔晶石冷蔵庫、あれを世界で初めて開発をし、販売を手掛けているメーカーですわ。……大げさでもないですが、この世界に出回っている魔晶石アイテムのほとんどが彼女の会社『ウエルス=エイロヒート』製と思って間違いないです。そこの次期代表の立場がシトロンさんです」


 アンリーナが小声で教えてくれたが、魔晶石冷蔵庫? そういや宿にある冷蔵庫には何かメーカー的なロゴか書かれていたな。


 この世界に出回っている魔晶石アイテムのほとんどって、それって世界シェア何割占めているんだ。


 そんなでかい企業の娘さん……!



 見た目は極小水着で、肌露出シェア八割の完全に痴女なんだけど……!












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