第522話 地下迷宮ケルベロス 1 冒険者センターで事前情報を様
「ここが第一号の冒険者センターか、なんか感動するなぁ」
ケルベロス駅の正面の街道を歩くこと十分、かなり古い感じはするが巨大な建物の中に入る。
「東にあるフェンリルの街の冒険者センターも第一号だけどね~。ま、喧嘩しないように両方第一号ってことになったらしいよ~あっはは~」
水着魔女ラビコが俺たちを先導しながら笑う。
そういや地下迷宮派と天空の塔派で揉めて争いになったんだっけ。両方第一号って形にするのが正解だったのか。
「それよりダンジョンに行くんじゃなかったのか? ここでクエストでも受けてから行くのか?」
てっきりすぐにダンジョンに行くのかと思ったら、ラビコが案内してくれたのはこの街の冒険者センター。
まぁゲームとかでもダンジョン行く前にクエスト受けたほうが報酬もらえるしな。そういうことなんだろうか。
「クエスト~? まっさか~社長はこんなところではした金稼ぐ必要ないでしょ~。さすがに準備無しでは危険だからね~、金に物言わせて情報を買おうかな~ってね~あっはは~」
情報? ラビコは過去に潜ったから案内出来るとか言っていなかったか?
「おひさ~。久しぶりにケルベロス迷宮潜るんだけどさ~最新の地図もらおうかな~そうだな~、ドーンと地下二十階層まで~」
「え、ラ、ラビコ様!? に、二十!?」
ラビコが受付で冒険者カードを提示すると職員さんが目を見開き驚く。
「お、おい、あれ本物のラビコ様じゃねぇか? すげぇ、俺初めて生で見た」
「写真ではよく見るが、やっぱ本物は放つオーラがちげぇな。しかも二十階層までとか、さすがルナリアの勇者パーティーのラビコ様だ」
「ラビコ様だって? ってことはやっぱルナリアの勇者って復活したのか!?」
周囲にいた高レベル装備に身を固めた冒険者たちもラビコを見て騒ぎ出す。
うっへ、さすがラビコ、知名度が世界レベル。
「その、どんなにレベルが高い冒険者だろうと、地下十五階層以上になると生還率が二割を切るのでオススメは出来ないのですが……でも過去に未踏破階層であった三十階層まで踏破したルナリアの勇者のパーティートップ火力、ラビコ様であれば……。ですが、さすがにお一人ではないですよね……?」
職員さんが後ろの棚から紙を揃えラビコの前に置く。
地下十五階層以上は生還率が二割……だ、と……それアカンやつやん!
「ん~? ああ、仲間ならいるよ~。そしてこのパーティーだと私が三番手になっちゃうかな~。ほんと、おっそろしいメンバー集めたもんだよこの少年は~あっはは~」
ラビコが笑いながら後ろにいる俺たちを指す。
「……え、あのラビコ様……その子供たちがお仲間、ですか……?」
職員さんが呆けた顔になるが、まぁその反応が正解です……。
どう見ても散歩途中の犬連れた少年にコスプレバニーさん、戦闘には向かないふわっふわのスカートはいてる少女に自分の胸を揉んでいる猫耳フード……ってなにやってんだクロ!
まだ気にしていて、ロゼリィの言った揉めば大きくなる話を信じてんのか。そう都合のいい話はありはしない、──夢から醒めろ、クロ。
「はい社長~地下二十階層までの地図~これは私のおごりでいいよ~あっはは~」
購入した二十枚の地図の束を俺に渡しラビコが笑う。
ラビコの言った情報ってこれのことか。
確かに事前に地図があればダンジョン探索は楽になる。
これは階層ごとに値段が上がり、地下一階が十Gの日本感覚千円、二階が二十Gの二千円となり、十Gずつ加算されていくそうだ。
「過去に私が潜ったのなんて数年も前だからさ~。このダンジョンって日々難易度が変わるんだよね~、戦闘だったり崩落だったりで内部が壊れて道が変わっていたり~。あとホラ、蒸気モンスターがいて~人間を喰おうとしてウロついてんのさ~。だから~情報は最新の物にしないとね~あっはは~」
そ、そういやこのダンジョン蒸気モンスターいるんだっけ。
「ラビコ、この十階層だけ値段が五百Gだったのはなんでだ?」
十Gずつ加算されるのに地下十階層の地図だけそのルールから外れ、百Gではなく五百Gも取られていた。五百Gって五万円だぞ、五万円。
「ん~、買った情報だから見て声には出さないで欲しいけど~昨日から地下十階層にけっこうなランクの蒸気モンスターが確認されたんだってさ~目撃場所が書き込まれているから、行くならそこは避けたほうがいいってことらしいよ~。こっわいね~あっはは~」
蒸気モンスターが確定でいるんじゃねぇか……はは、さ、さすがに一日過ぎているからどっかに移動してんだろ。
うん、多分絶対。お願い、移動していて。
「あとこれ、冒険者センターで初心者向けに配っているダンジョン安全セットね~。私以外初めてだから貰えたけど~買ったらお高い魔晶石カンテラとか入っているからお得なんだよ~」
なにやら物が入ったリュックを渡されたぞ。
どれ中身は、ダンジョンの心得と書かれた本にお水、クッキー、包帯、火起こし装置、手持ちカンテラに……なんだこのおもちゃみたいな筒は。
「ああ、それは緊急信号だね~。命の危機を周囲に知らせる物なんだけど~、でもバンバン鳴ったところで助けに来てくれる人なんて滅多にいないけどね~。むしろこの音聞いたら全力で上層に逃げたほうが賢明かも~あっはは~」
花火みたいな物か。
自分の身を守るためだけなら、聞こえた途端逃げたほうがいいだろうな。
「あ、ラビコ様お待ちを、案内人はお付けいたしますか? 冒険者センターに登録されている公式案内人で戦闘もこなせるレベルの高い人もいますが……」
「いらないよ~。このメンバーだと案内人は足手まといで邪魔かなぁ~? じゃ、行ってくるね~あっはは~」
建物内の休憩所に座り地図とダンジョン安全セットを確認していたら、先程受付をしてくれた職員さんがデータが書き込まれた書類を持ってきた。
案内人? ほう、そういうのがいるのか。あれか、傭兵みたいなシステムか。
しかも公式ってことは、そうじゃない、個人でやっている人もいる、と。なんかいろんな商売があるんだなぁ。
ラビコは書類も見ずに断り、俺の右腕に絡んでくる。
「案内人ってのは臨時で雇う仲間的なやつか?」
テーブルにラビコが買ってくれた地図を広げ、みんなである程度の情報を共有。ロゼリィは何が書かれているか記号やら専門用語が理解できず、不思議な顔をしている。
まぁ、俺も分からないが。
猫耳フードを揺らし、クロがウンウン頷きながら見ているし、大魔法使いラビコと魔法の国の王女様であるクロが情報持っていれば大丈夫だろう。
バニー娘アプティさんは地図に興味なし。食堂方向をジーッと見て、紅茶の値段を確認しているご様子。多分美味しくはないだろ、冒険者センターのは。
「そうだね~でも戦闘もこなせる人は少ないし、全くアテには出来ないね~。基本情報屋だと思ったほうがいいかな~。彼等はダンジョン内の情報を知識として蓄え、それを武器に冒険者をサポートするのが仕事なのさ~。もちろんその情報、地形が以前と変わっていた地図だったり、最新のモンスターの情報だったりを冒険者センターが買い取ってくれるから、そっちでも結構なお金になるのさ~」
傭兵じゃなく情報屋か。なんにしても命懸けだよな。
「おい見ろよキング! トイレポイントとかあるんだってよ、ニャッハハハ!」
クロが爆笑しながら地図の一部を指してくる。
ああ……さすがに危険なダンジョンに潜るんだから、事前に情報を頭に叩き込んでいたんじゃなく、地図の面白いところ探しをしていたのか……。
クロってさ、家出してからずっとソロで冒険者やっていたんだろ? 正直頼りにしていたんだが……ダメっぽいな。
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