【書籍化&コミカライズ】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】
第523話 地下迷宮ケルベロス 2 ルナリアの勇者の情報といざ迷宮へ様
第523話 地下迷宮ケルベロス 2 ルナリアの勇者の情報といざ迷宮へ様
「この街にも王都にあった巨大な壁があるのか」
冒険者センターから馬車でダンジョンのある場所へと向かう。
「そうさ~でもあの壁は街を囲っているんじゃなくて、ダンジョンを囲っているのさ~」
ダンジョンに近づくと巨大な壁が見えてきたが、確かに壁は街方向ではなく、向こう側にある物を囲うように作られているな。
「地下迷宮が見つかって、そこに潜る冒険者が近くに住むようになって、それがいつしか街になりました~って感じだったかな~。しばらく経って王都を作るときに一緒に壁が作られたとか~。たまにダンジョンからモンスターとかが出てくるけど~街を囲うより、ダンジョン囲って封鎖したほうが対策立てるの早かったみたいね~」
水着魔女ラビコが馬車の窓から見える壁を指し、説明をしてくれる。
なるほど、王都とは違い、街を守るのに壁で街側を囲うより、ダンジョン側を囲ってモンスターが出てくる元を封鎖したほうが早かったのか。
しかし……冒険者センターから馬車で二十分ほどでダンジョンに着くらしいが、そのモンスターなりが出てくる可能性があるダンジョンのこんな近くに、よくみんな住めるな……。
小心者の俺には絶対に無理な立地条件だ。
二枚の巨大で分厚い壁の門を越え、馬車はダンジョン近くの広場に到着。
「はい到着~ここがケルベロス広場さ~。ちょっとしたカフェとか休憩所もあるから~現場の生の情報が欲しかったら、ここで手に入れるのがいいね~」
広大な広場で、壁に沿ってお店が軒を連ねている。
マジかよ……ここってダンジョンの入口目の前だろ? なのにお店構えている人がいるのかよ、安全面は大丈夫なのかな……。
本当にここの住民はヤンチャな奴らだぜ……。
広場にはテーブルと椅子が多く置かれていて、高級そうな装備で身を固めた冒険者たちが笑い合い、肉やらパンをお酒で胃に流し込んでいる。
ダンジョンの入口があると思われる方には多くの冒険者が集まっていて、向こう側が見えないほど。
何やら騒ぎになっているが、なんだろうか。
「景気はどう~? やけに広場に冒険者が多いけど~なんかあった~?」
ラビコがニヤニヤと笑いながら冒険者の集団に近付き、十Gコインを人数分テーブルに置く。十Gは日本だと千円ぐらいの感覚だろうか。
「あ~? ってその格好、あんたもしかしてルナリアの勇者のメンバーだったラビコ様じゃ……」
「すげぇラビコ様に話しかけられた! そ、それが地下十階層にとんでもねぇ強さの蒸気モンスターが出たとかでみんな潜るのを控えているんすよ。負傷者も多く出ていて……」
「これじゃこっちも商売上がったりなんで困っていたんスが、さっきルナリアの勇者様が仲間と共に蒸気モンスターを倒してくるって潜っていったんスよ。あれ、でもラビコ様はご一緒じゃないんスね……」
世紀末覇者軍団のパワーアップ版みたいな集団の男たちがラビコを見て驚くが、お金を手にし情報を出してくれた。
へぇ、ここでは先にお金ばら撒くのが流儀なのか。
「ふ~ん、ありがと。ルナリアの勇者様、ね……ほい、追加の情報料~」
ラビコがダンジョンの入口方向を睨むが、すぐに笑顔に戻り、もう十Gを追加でテーブルに置く。
「ルナリアの勇者様が本当に戻ってきたのか! 見に行きてぇが、蒸気モンスターは俺には無理だし……」
「大丈夫だみんな、勇者様のパーティーが蒸気モンスターを討伐してくださるそうだ!」
「蒸気モンスター相手にも恐れないとは、さすがルナリアの勇者様だ! 世界に名を馳せる冒険者なだけはある!」
広場からダンジョンの入口方向へ歩くと数百人近い冒険者が集まっていて、みんな口々にルナリアの勇者が、と言っている。
「……ラビコ、ルナリアの勇者様だってよ。やっぱり本物なのかな」
「…………さぁね~。私と違ってあいつは写真が出回っていないから~見た目じゃ判断つかない人が多いだろうし~」
そう言うとラビコが冒険者の集団に近付きお金をばら撒く。
「誰かルナリアの勇者を見た人はいる~? どんな装備だった~?」
「お、景気がいい女じゃねぇか……ってこの特徴的な姿は……ラビコ様!? まじか! あ、その、四人パーティーで、男が二人の女が二人に見えましたが……どれがルナリアの勇者様か俺にはわからなくて……」
「俺も見ましたラビコ様! リーダーっぽい人が紺色の騎士が着るような制服とズボンで、ニメートル以上ありそうな大剣を持っていました! 名乗ったみたいだし、あれがルナリアの勇者様なんですよね? サイン貰えばよかったなぁ……それでラビコ様! よろしければサインを……」
ラビコと分かり驚いた冒険者が情報を出してくれたが、確かにルナリアの勇者の見た目を知っている人はいないんだな。
名前は有名だが、容姿は知られていない……なるほど、だからよくそれを利用して偽者が現れるのか。
「これは予想が当たったかな~…………じゃ、行こっか~社長~。いざ、ケルベロス地下迷宮~あっはは~」
サインをねだってきた冒険者の上着にサラサラとサインをしたラビコが何事か呟き、くるっと振り返り笑顔で俺の右腕に絡んできた。
あれ、さっきまでルナリアの勇者って単語を聞くたびに顔をしかめていたラビコが、すげぇ晴れやかな笑顔になったぞ。
「おい道を開けろお前ら! 大魔法使いラビコ様が来てくださったぞ!」
「すげぇ! ルナリアの勇者様に加えて元メンバーのラビコ様まで……!」
「ラビコ様! そんな貧弱な案内人じゃなくて俺を連れて行って下さい!」
「おいオレンジひょろガキ! ラビコ様の邪魔だけはすんなよ!」
さっき情報を出してくれた冒険者が叫び、ダンジョンまでの道を開けてくれた。
ほんと、ラビコってすげぇよな知名度が。常に水着にロングコートだから目立つのもあるのだろうが。
どうやら俺も注目を浴びているみたいだが……俺は貧弱な案内人じゃなくて、一応このパーティーのリーダーな。
うん、オレンジひょろガキって見事で素晴らしい表現じゃないかな。的確で反論出来ないぞ。
「ニャッハハ、見た目だけで判断するとかアイツら救えねぇな。キングが本気出したらお前らなんて一瞬で消し飛ぶのによぉ」
「その、やはり服の色が目立つから、こういうとき軽口の対象になりやすいだけでしょうからお気になさらずに」
「……マスターに対する敵意……全て消し去ります……か?」
クロ、ロゼリィ、アプティがフォローしてくれたが、アプティさん、もちろん消し去っちゃダメですよ。
冒険者たちが開けてくれた道を通り、俺達は地下迷宮の入り口の前に立つ。
「これが噂のケルベロス地下迷宮かぁ。なんというか、もっと自然の岩場の間とかそういうのをイメージしていたんだけど、かなり立派に作られた入り口なんだな」
長方形の岩を綺麗に並べ作られたしっかりとした入り口。
かなりの間口で、トラックとか普通に入っていけそう。イメージとしては国道にある大型車も通行出来るトンネル、が近いだろうか。
少し先に地下に続く階段があり、なんとなく嫌な感じの風が吹いている。
入り口の左右には昼間なのに煌々と光る明かりが灯っているが……これ、異常に魔力が込められた人工物だぞ。
「ああ、実は今社長が気にしてたオブジェの中に組み込まれている明かり、あれもルーインズウエポンなのさ~。つまりこの入口含め、誰かが意図的にダンジョンを作ったっぽいんだよね~。千年以上前から光続けているらしいけど、詳細はいまだに分からないみたいね~。最下層にでも行ければ分かるのかな~あっはは~」
ラビコがニヤニヤと右腕に絡んでくる。
え、あの明かりもルーインズウエポンなの!? ……よく今まで盗まれなかったな。
意図的にダンジョンが、ね。
さて、誰が何の目的で作ったのやら。そのルーインズウエポンってやつを作った人物がダンジョンも作ったとか?
……まぁいい、今はルナリアの勇者様が入っていった、という情報を追おう。
「よし、行くぞ、みんなでロゼリィを守りながら慎重に……」
「あれ、これって集団デートじゃねぇのか、キング。アタシはマジでそのつもりだぞ。だって辛気臭いダンジョン探索とかつまンねぇって」
俺が地図をしっかり持ち、それぞれの役割分担をリーダー権限で決めて安全に、と思ったら、猫耳フードをかぶったクロが余裕の発言。
「ふふ、ダンジョンは怖いですけど、あなたとデートなら楽しみでしかないです」
ロゼリィがにっこり笑い、左腕に絡んでくる。
「……つまり、モンスターの撃破数によってはマスターと結婚……」
……バニー娘アプティが妙なこと言い出したぞ。あなたは戦場のエースにでもなるつもりか。
そして戦いのあとの結婚ってワードは、何かのフラグが立つからやめて。
「大丈夫だって社長~。このメンバーなら余裕余裕~。一度潜った私が言うんだからさ~」
ラビコが俺の肩をバンバン叩き笑う。
うーん、確かにベスにラビコにアプティにクロがいれば、火の国にいた千年幻ヴェルファントムクラスぐらいなら余裕だと思う。
……千年生きたという千年幻ヴェルファントム。そして千年以上前からあると言われるこのダンジョン。
なんか千年幻クラスかそれ以上の、とんでもないクラスの蒸気モンスターとかいそうでなぁ……。
ってもラビコたちが行ったという当時未踏破階層だった地下三十階ならまだしも、浅い階層なら大丈夫か……。
「ほら行こ行こ~! 多分その地下十階層でルナリアの勇者とやらに出会えると思うし~気軽にデートしてこよ~あっはは~」
ラビコが背中を押してきて、そのままケルベロス地下迷宮の入り口をくぐる。
うっへ、異世界に来て初めてのダンジョン、せめて自分のタイミングでくぐりたかった……
「……ん?」
入口に踏み入った瞬間、すげぇ違和感……なんだろうこの感覚、過去にどこかで一度味わっているような。
……別の世界……に繋がっている感じだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます