第521話 冒険者の国ヘイムダルト 3 お胸様教のパワースポット俺と到着ケルベロスの街様




「で、その地下迷宮とやらはどこにあるんだ?」


「ん~? 王都から西に行ったとこだね~。魔晶列車ですぐだからぱっぱと行こっか~」



 水着魔女ラビコが簡単な地図を見せてくれ、駅があるという北側に向かって歩き出す。



 そういや船を降りるとき、ラビコにからかわれていたら猫耳フードをかぶったクロが説明してくれたな。


 千年ぐらい前、地下迷宮派閥と天空の塔派閥の争いを収めるために中間に街を作ったとか。


 それが今の王都ヘイムダルトで、ここから西に地下迷宮、東には天空の塔があるそうだ。


 名前の響き的には天空の塔のほうが興味あるが、今回はラビコが以前潜ったという地下迷宮に行くことになった。


 いや別にダンジョン潜りに冒険者の国まで来たわけではないんだが、ラビコに王都には情報がなさそうだからダンジョンに行こうとか言われてな。よく意味が分からないが、ラビコが求める情報を持つ人物がそこにいるかも、ってことらしい。



 俺たちが冒険者の国ヘイムダルトに来たのは、ルナリアの勇者が活動を再開したらしいとの噂を聞いたから。


 しかしラビコから何度か聞いていた情報を総合すると、ルナリアの勇者が再び動き出すなんてありえないと思うんだ。


 この世界で唯一の回復魔法の使い手の女性、その人を守るため、そして仲間を守るため、ルナリアの勇者は決意しその女性と共に姿を消した。


 それなのに、名乗り活動を再開……ラビコは絶対にありえないと言った。


 だが今回は所持者が限られているというルーインズウエポン持ちらしいとのこと。


 ルナリアの勇者はそのルーインズウエポンの所持者だし、よくある有名人を語ってお金を得ようとする偽者ではなく本物なのでは、と噂が広がっている。


 ラビコがその話を完全に否定出来ないもう一つの理由として、冒険者センターがその噂をいまだに否定していないこと、それが引っかかるらしい。


 冒険者が名前を偽って報酬を得ようとする行為は、冒険者センターが定めるルールに違反している。これを放置すれば冒険者センター自体の信頼が落ちるので、すぐに調べて間違いなら否定するはず。


 それなのにいまだに否定をしていない。


 調べるのに時間がかかっている可能性もあるが、ラビコが魔晶列車で酒に酔っているときに言っていた、ヘイムダルトにはあいつもいるはずだからそれ系の判断は早いはず、という言葉。


 多分ラビコはこの噂の真意を確かめに、あいつと表現した人物に会いに行こうとしているのではないだろうか。


 その人がラビコの言う噂の発信源なのか、情報を完全に把握して放置している人物、どちらなのかは分からないが。




 王都の北側の門を超えたところに駅があり、そこから特急に乗って十分ほどで目的地につくらしい。



「近いな」


「ここは国とは言ってっけど、ちょっと大きめの島程度の面積しかねぇしな。でよキング、聞いた話じゃ胸を大きくするには好きな男に揉まれるのが一番いいらしいンだ。ほら、頼むぜ、せめてラビ姉より大きくしねぇとなんねぇンだ」


 門をくぐり王都ヘイムダルト駅に入る。


 チケット売り場の上に大きめの路線図があったので見るが、王都から西に一駅で目的のケルベロスという街がある。その先も数駅しかなく、本当に国土というか、面積は小さな国なんだな。


 東に一駅でフェンリルという街で、その先は北側に伸びていて、海を越えてそのまま魔法の国セレスティアへと繋がっているようだ。


 そういや魔法の国の南にあるのがこの冒険者の国だっけ。にしても近いんだな。


 こういう路線図とか見るの好きだからぼーっと見ていたら、猫耳フードが俺の胸元でぴょこぴょこ揺れているのが見えた。


 なんだ?



「ほらぁ、早く頼むぜキング。ラビ姉がチケット買って戻って来る前にパパっとアタシの胸揉んで大きくしちゃってくれよ、な?」


 そういや俺の独り言にクロが答えてくれていたが、面積以降の話は路線図に夢中で聞いていなかった。


 クロが上着をガバっと開き、薄いシャツに包まれた大きめの胸をグイグイ俺に押し付けてくる。


 な、何事……。


「あ、あの、その話は半分ウソで……まさか混雑する駅でするとは……でもその大胆さが私に足りない欠点なのでしょうか……。はふーははふー……わ、私もそのあなたにもっと見て欲しいので胸を大きくしたいです! どうぞ、人助けだと思って……」


 ラビコがチケットを買いに並んでくれているのだが、その隙を狙ったかのようにクロが動き、どうにも謎の助言を与えたっぽいロゼリィが慌てている。


 そしてそのロゼリィすら謎の言葉を発し俺の右腕に絡んできた。


 胸を大きくする? 


 そういや連絡船を降りるときクロが、このメンバーだとアタシが一番胸が小さい扱いなのかよ! とかキレていたな。


 どうにも根に持っていたらしい。



 男性に揉まれれば大きくなる、そんな話が本当にあるのか? 


 ぜってぇウソだろバッカじゃね……っていや、俺には分かるがそれは本当だ、もちろん、もちろんだとも。


 しかも異世界から来た少年に揉まれれば効果絶大! 


 さらにはダイエット効果、お肌の張りもよくなり、髪にも潤いが行き渡るらしいぞ! 家内安全心願成就、合格祈願に商売繁盛効果もオマケでお付けしよう!


 全ての願いが叶う、パワースポット俺! 


 さぁ、胸の大きさに悩む子羊たちよ……俺にお胸様を捧げ……



「おいコラお前らぁ! チケット買う数分ですらおとなしく出来ねぇのか~!」


 あ、ヤベェ、チケット片手にラビコさんマジ切れモードじゃないっすか。


 なにもキャベツまで杖に刺さなくても……ちょっと迷える子羊たちにお胸様教を伝授しようと教祖の俺が……って俺はまだ何もしていないし、一切悪くないぞ!



「ま、待てラビコ! これは大変デリケートな問題で、本気で悩む女性も多くいるらしく、例え怪しい投資話でももしかして……と子育てに疲れた一瞬の隙に何かにすがりたいと考えてしまった子羊たちの気持ちも分か……」


「いつてめぇに子供が出来たんだクソ童貞! 動揺して謎の言葉発してないで、いいからその伸びきった顔縮めてクロとロゼリィの胸を触ろうとしてキモい動きをしている手を降ろせってんだ!」


 あ、あれ、俺は誰をフォローしようとしていたんだ? え、俺顔伸びてる?


「……どうぞマスター……その伸び、今までで最高記録かと……」


 無表情におとなしくしていたバニー娘アプティが鏡を見せてくれたが、確かにそこにはエロい顔した少年の伸びきった顔が写っている。


 あと手の動きがワキワキとキモい。





「なんだ、根に持ってたのか~家出猫。そんなに胸を大きくしたいなら~毎晩床にでもこすりつけてたら~? あっはは~」


 よく分からないが俺はすぐに土下座で謝り、ロゼリィが必死に事情を説明してくれラビコの怒りモードが解除。


「あァ? よくもたったの数センチの差でそこまで態度デカく出来るもンだな。つかよ、よく考えたら大きさなンてどうでもよくて、キングが満足すればそれでいいンだよな。そしてアタシには若さって武器があるしよぉ、古BBA共なんか眼中になかったぜ、ニャッハハ!」


 や、やめろクロ……ラビコに普通に言い返せる度胸は買うが、これ以上は俺のヘイムダルトでの世間体がソルートン並になるからやめて……。駅ですげぇ注目浴びてるんだ、俺たち……。



「……マスター、何度か言われる、その『古BBA共』というのはどういう意味なのでしょうか……」


 バニー娘アプティが首をかしげ俺に聞いてくる。


 いや、気にしないでくれ……あれに意味なんてない。


 覚えなくてもいい、ただの煽り言葉だから……。






「着いた……」



 魔晶列車に乗って十分、本当に近いんだな。


 つかさ、間の揉め事削って、冒頭のセリフからここに繋げてよくないか。


 味気ない? でも削れば俺の世間体が守られるんだよね……。



「ほい到着~。ここが詳細不明の地下迷宮があるケルベロスの街さ~。命のやり取りをする覚悟は出来たかな皆の衆~あっはは~」


 水着魔女ラビコが駅の看板を指し笑う。


 ダンジョンかぁ……地味に異世界に来て初めてじゃないか。


 ワクワクはあるが、難易度が高いってのがちょっと怖いなぁ。



 駅前の広場に看板が立っていて、ファンシーな文字で『ようこそ地下迷宮へ(ハート)』とか描いてある。


 余ったスペースにガイコツたちが楽しそうに踊っている絵があるが……街の宣伝の仕方間違っているって、絶対。



「ケルベロスって、随分格好いい名前の街なんだな」


 街を見ると、武器防具屋がずらっと並び、かなりお金をかけた装備をした冒険者が多く歩いている。


 まぁ、命を守ろうとしたら、装備にはかけられるだけお金をかけたほうがいいよな……。


「ん~? それがさ~千年前からここの最深部には三つ頭のケルベロスが住んでいるって言われているんだよね~。深い階層に行くと、たま~にそのケルベロスに遭遇したって逃げ帰ってくる冒険者がいてさ~。私たちのときは運良く遭遇しなかったけど~見つかったら骨も跡形なく溶ける灼熱のブレスで消し炭になるとか~こっわいね~あっはは~」


 三つ頭のケルベロス……? 


 それってよく聞く地獄の番犬とか言われる怖ぇモンスターか? 


 骨をも溶かすブレスって……マジでそんなのが出るダンジョンに行くのかよ……。


 しかも俺、オレンジジャージ一丁だぞ。ラビコなんて水着だし。


 ゴツイ装備をした周りの冒険者たちとは随分雰囲気違うぞ、俺等。



「アプティ、化粧してあげますね。なんせデートですから!」


 ロゼリィがウッキウキで化粧箱をベンチに広げ、アプティの腕をつかむ。


 無表情にアプティが俺を見てくるが、うん、化粧してもらってこい……。



「ロゼリィ、アタシも頼むぜぇ。このダンジョンで大活躍して、キングの熱い視線を独り占めにすンぜ、ニャッハハ。つか、ダンジョンでキングを襲えばいいンじゃね? 狭い空間だと逃げ場もねぇしよ、順番にヤって……」


「私いっちば~ん。やっぱデートの最後はソレだよね~。あれかな~モンスターを倒した数順でいこっか~あっはは~」


「そ、そういうのはだめです! 私だけが不利じゃないですか!」


「……マスター、私が一番になってもいいです、か……?」



 結構どころかマジでやばめのダンジョンらしいが、みなさん余裕だなぁ。


 

 俺は半笑いで話題をスルーするが、どうやらダンジョンでモンスター以上に気をつけなければならない事案が出来たようだ。


 ダンジョンでは周り全てが敵、そう思おう。


「ベッス!」


 おお、がんばろうぜ、我が愛犬ベス……やはり異世界ではお前だけが俺の味方だ……。










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