第520話 冒険者の国ヘイムダルト 2 王都ヘイムダルトの壁とデート感覚でダンジョンに潜ろう! 様




「みなさんお疲れ~ここが冒険者の国の王都ヘイムダルトさ~。ちょ~っと血気盛んな奴らが多いけど~お金かお酒でも与えればおとなしくなるから~あっはは~」


 

 連絡船が冒険者の国の王都ヘイムダルトに到着。


 水着魔女ラビコが簡単に説明を入れてくれたが、別に冒険者の全てがお金かお酒で満足するわけじゃないだろ……。


 ちなみに俺はエロ本な。


 未成年だから買えないけど。




 さて、ついに来たぜ冒険者の国ヘイムダルト。ここは港直結で王都なのか。


「ニャフー痛いニャフー……まさかこの胸の大きさでパーティーで一番小さい扱いとかビビるニャフー」


 連絡船を降りようとしたらクロが上半身の服を脱ぎだしたので、頭に手刀を入れて止めた。ニャフンニャフンと不満気だったので、猫耳フードの上から頭を撫でてご機嫌取り。


 つか止めなきゃ本当に脱いでたろお前。


 胸の大きさは……全てを過去にするサイズをお持ちのロゼリィさんがいるから色々諦めろ。





 船を降り、まず目に入ってくるのは活気ある街並み、ではなく、見上げる高さの分厚い壁。


「あ~王都に入るにはこの壁超えないとね~。ま~いわゆる城壁都市ってやつさ~。これが一番外側の壁で~お城までに合計十枚の壁を抜けないとならないのさ~。なんせたま~に地下迷宮や塔から蒸気モンスターが迷い込んでくるから~守りは頑丈にしないとね~あっはは~」


 水着魔女ラビコが数十メートルはある高さの壁を見上げている俺に気付き、右腕に絡みつつ説明をしてくれた。


 壁で覆われた都市、城壁都市か。


 蒸気モンスターがたまに迷い込んでくるってのは……あれだろ、さっき俺を脅すために言ったホームをどっちか選べ、みたいな毎回言う遥か昔の出来事ってやつなんだろ? もうその手は食わねぇぞ。


 つか二つあるとかいうダンジョンには蒸気モンスターがいるんですか……それは難易度が高いわけだ。



「なんかペルセフォスに似ている感じだな。あそこもお城の周りに七枚の壁があったよな」


 ペルセフォスは街全体ではないが、お城の周りが分厚い壁に囲まれていて守りはバッチリって雰囲気だった。


「さっすが社長~勘が鋭いね~。そうさ~ペルセフォスがこの王都ヘイムダルトの城壁システムを参考にして七枚の壁を導入したのさ~。もっとも、ヘイムダルトは外からの襲撃に備えたもので~ペルセフォスのは逆、だけどね~」


 へぇ、つまりペルセフォスより歴史が長い国なのかヘイムダルトは。確かにこの壁、近付いてみるとかなり年季が入っているように見える。


 ペルセフォスのは逆、ってのは意味が分からんが。



 壁にある巨大な門で簡単な入国審査みたいなものがあり、あるなら身分証の提示で番号を控えられる。なければ簡易登録書類に必要事項の記入を求められた。


 チラと門から向こうの街並みを見ると、ソルートンにいた世紀末覇者軍団を五段階ぐらいパワーアップさせたみたいな見た目のがっはっは系のゴッツイ冒険者で溢れているからそれ系はガバガバかと思ったら、国として管理はしっかりしているんだな。


 俺とかラビコ、アプティ、クロは冒険者カードでよかったが、ロゼリィは何もなかったので書類記入。


 っても名前と現住所ぐらいのものだが。


 ああ、地味に愛犬ベスにも冒険者カードはあるんだ……しかも街の人である俺なんかより高レベル冒険者、白銀犬士とかいう職業。


 はぁ……身分証の差ですら思い知らされる、異世界転生したら犬のほうが強かったんだが、だよ、マジで。




「ラ、ラビコ様! まさか……本物のラビコ様がヘイムダルトに来られるとは……やはりルナリアの勇者が復帰したってのは本当なんですか!」


「ラビコ様! あ、握手を……!」


 ゴツイ装備をした門番みたいな人に身分証を提示するのだが、さすがにラビコは世界的に有名な大魔法使い。


 カードを見せた途端門番たちが騒ぎ出し、大興奮。


「はいご苦労さま~ほ~らラビコさんが握手してあげるから~これ以上あんまり騒がないでね~あっはは~」


 ラビコがニコニコ笑顔で握手に応じる。門番さん惚けた顔で、マジ嬉しそう。



 ルナリアの勇者が復帰、か。


 ここの門番さんも情報があやふやなのか。……でもなんかおかしいよな、だってここで王都に入る人全員の身分証の確認をこうやってしているわけだろ?


 噂ではルナリアの勇者はここ、冒険者の国で活動を再開したと聞いた。


 なのに一度も王都に入っていないのか? 身分証を見ればすぐに本人かどうか分かるだろうに、ここの門番さんは情報を知らない。


 さすがに目立つ王都は避けて活動をしているとか? うーん、これだけじゃあ情報が足りないな。



「昨日なんて十階層まで降りてよ、換金率の高い鉱石がっぽりでよ」

「十とは欲出したじゃねぇか。次はお前帰ってこれないかもな、がはは!」


 一番外側にある城壁を越え王都に入るが、雰囲気が下町っぽい感じ。


 今は朝の八時半ぐらいなのだが、この時間から酒場で浴びるように酒を飲み冒険者たちが武勇伝を語っている。


 街道を歩く冒険者、見た感じかなり手練れ高レベル系が多い。


 なんとなく火の国デゼルケーノを思い出す。あそこも高レベル冒険者がたくさんいたなぁ。


 共通点としては、ガラが悪い……。


 建物が雑然と立ち並び、狭く暗い道が多くある。下町っぽいと思ったが……違うな、アンダーグラウンドが正しい表現だろうか。



「ニャッハハ、いいねぇ、アタシはこういう雰囲気好きだぜぇ。非合法当たり前、腕っぷしの強ぇやつが正義って感じか」


 猫耳フードをかぶったクロが嫌な笑顔で周囲を見渡す。


 そういやクロは、デゼルケーノのガラの悪い冒険者が集まる安い酒場で普通に一人でいたんだよな。


 慣れているんだろうが、俺のパーティーに入った以上そういうのはさせねぇぞ。なんせ金ならある。安い店なんて行かせねぇよ。



「あっはは~ここは一番端っこの、金も実力もない口だけの半端者が集まる地域だからね~。喧嘩なんて当たり前~恐喝強盗なんでもござれ~。王都としても、この地域はエネルギーの発散の場として黙認してて、取り締まりもゆっるゆる~あっはは~」


 ラビコが爆笑しながら言うが、恐喝強盗って……それマジ犯罪じゃねぇか。


「こ、怖いです……」


 宿の娘、ロゼリィが不安そうに俺の左腕に絡みついてくる。


「大丈夫大丈夫~なんかあったら、このラビコさんの雷がドド~ンと炸裂すっから~あっはは~。そして次の第九の壁越えたらそういうのは一切ないよ~取り締まりが急に厳しくなるから~。彼等も第十の壁だけこういう感じで、九以降は切り替えるんだ~。ま~上手く場所を使い分けている感じだね~」


 ラビコがすぐにフォローしてくれたが、じゃあ早く九の壁越えて安全な地域に行こうぜ……。


 ここ、俺も怖いっす。





「うわー花が綺麗……さっきまでとは雰囲気が全然違いますね。あ、あのカフェ見た目が可愛い……」


 水着魔女ラビコに先導してもらい、早歩きで第九の壁の門を超える。


 さっきまで俺にしがみつき怖がっていたロゼリィが笑顔になり、道路脇にある花壇、側にあるおしゃれな外観のカフェに寄っていく。



「本当だ、九の壁越えたら雰囲気がガラっと変わるのな。整備された道路に花壇、街の人が軽装で楽しそうに買い物をしてる」


 冒険者も多いのだが、十の壁にはほとんどいなかった子供連れの女性やお年寄りが普通に歩き笑顔。


 よかった、ここなら普通に観光できそうだ。


「昔、さすがに入ってすぐにあの危険な雰囲気は観光業に影響があるってなくそうとしたらしいんだけど~そしたら逆に王都全体の凶悪犯罪が急に増えてさ~。元に戻してあまり手を付けず、放っておいたほうが犯罪が減ったんだってさ~。ふっしぎな話だね~あっはは~」


 へぇ……それが正しいとは思えないが、俺が決めることじゃないしな。ここの王様がそう判断したのなら、それでいいんだろう。


 しかし本当にラビコは色々詳しいな。何も知らない俺にはありがたい存在だ。



「…………動き無し、か。さ~て社長~ダンジョン行こっか~。ケルベロス迷宮とフェンリル塔、どっちにするかいい加減決めたよね~? オススメは地下迷宮かな~過去私たちが行ったのがそっちだから案内出来るよ~」



 ラビコが街の様子を怖い表情でじーっと見て確認したあと、くるっと俺のほうを向き、いつもの笑顔で右腕に絡んできた。


 は? いや、だからどっちをホームにするとか、その話は遥か昔のお話で今は関係ないんだろ。あと蒸気モンスターいるんならダンジョン行きたくないんですが。


「え……ダンジョン行くのか? 確かに強力なルーインズウエポンってやつには興味あるが、仲間を危険な目には……」


「あっはは~そんな深いとこまで行かなくても多分大丈夫じゃないかな~。危険は危険だけど~私がロゼリィを絶対に守るし~、魔法の国の王女様にアプティもいるから~結構行けると思うよ~? あと正直社長の目とベスがいれば単独で未踏破階層行けると思うんだけど~」


 じ、冗談だろ……。


 って、そんな深いとこまで行かなくても大丈夫? なにかラビコには行く目的があるっぽいな。


「……情報が欲しいってことか? この王都にはその情報はなさそうだ、と」


「あっはは~さっすが社長。……門番ですらあの情報量、あれこれ王都中を探るのも面倒だし、噂なんて末端に行けば行くほど尾ひれがついちゃうからさ~。ここは噂の発信源か、情報を完全に把握して放置している人物を当たろうかな~って」


 ラビコって街に入ると必ずじーっと周囲を見て、住人の声をしっかり聞いているんだよな。結果、ここはハズレってことか。



「お、行くのか地下迷宮! いいぜぇ、さすがにアタシ一人じゃ行く気すらしねぇが、このメンバーなら成功のビジョンしか見えねえ。ルナリアの勇者なんか相手になンねぇぐらい、キングの武勇伝ってやつをヘイムダルトに響かせてやろうぜ!」


 猫耳フードのクロが鼻息荒く拳を構えるが、俺別に有名になりたいとか微塵も思わないんですが。


「え、え……? ダ、ダンジョンに行くんですか? あ、あの私足手まとい……」


 さすがに宿の娘ロゼリィが不安そうにしている。


 うーん、しかし置いていくのも怖いし……クロが言うように、ラビコにクロにアプティがいればなんとかなりそうな気もする。


「大丈夫、俺が必ず守る……と言いたいが、そこはラビコにクロ、アプティを信じよう。ベスもいるしな」


 俺に戦力は当てにしないでくれ。マジで見えるだけの人、だから……。


「わ、分かりました。確かにこのメンバーで不安に思うことが間違いですね。あなたもいますし。私は戦えないですが、それでも出来ることを見つけて頑張ります!」


 ロゼリィがぐっと拳を作り迷いを払う。


「……マスターは私が必ずお守りいたします……ご安心を……」


 バニー娘アプティがすっと俺の後ろに来て無表情に言う。


 ああ、マジで当てにしているぞアプティ。


「ベッス!」


 おっと、愛犬がフンフン言いながら俺の足に絡みついてきた。もちろんベスの力も当てにしている。頼むぞ、ロゼリィを二人で守るんだ。



「う~ん、このメンバーさ~マジで未踏破階層行けそうなんだよね~。ま、目的はそこじゃないし、社長は絶対に仲間の安全最優先だろうから深い階層には行かないけど~。じゃ、デート感覚で浅い階層に行こっか~いざ地下迷宮~あっはは~」


 ラビコがメンバーを見渡し笑う。


 一度ダンジョンに行き、辛かったから思い出したくもないとまで言ったラビコが、笑顔で行けそう、と言うのか。


 別に俺等、戦闘目的で集まったメンバーじゃないですよ。



「デート……! それいいですね! それなら笑顔で行けそうです!」


 ロゼリィの顔が明るくなる。


 ……デート感覚でダンジョンに潜るとかどんだけチート集団なんだ、俺たち。












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