第517話 冒険者の国へ 5 森と泥の街とスプーンマニア俺様
「森と泥の街ヒューリムスに到着~急いでお昼ごはん食べるぞ~あっはは~」
翌日午前十一時。
ティービーチ発の特別急行魔晶列車に揺られること十二時間、乗り換えポイントだという街に到着。
森と泥の街ですか。
確かに地図を見ると、未だに全貌が分からないという不思議な森、暗示の森にかなり近い街のようだ。
昨日の話、あれ以降ラビコがガックリ寝てしまい終了。
他にも色々聞いてみたかったが、寝てしまったものは仕方がない。紳士な俺はテキパキとラビコをベッドに寝せ、代わりにじっくり水着に包まれたお胸様等を至近距離で観察させてもらった。
触ってはいない。
そこは約束しよう。
でも、みんな寝てるし……これはチャンスかと一人DEカーニバルを試みたことは許してくれ。
突然背後にバニー娘アプティが現れ、お祭りは惜しくも中止になったけども。
……まぁ別にアプティさんには何度もお祭りの現場を見られているみたいだし、そのまま決行してもよかったのだが、俺はまだ人間という尊厳を捨ててはいないんだ。
一人の女性に見守られながら、寝ている他の女性たちをネタに一人神輿を完了出来たらそれはもはや武人。
尊敬は出来ない系の。
「ここから西に向かうんだけど~次に乗るのは今から一時間後、お昼十二時発の魔晶列車なんだよね~。あんまり時間はないけど~列車の固いパンよりはマシだろうお昼ごはん食べてこ~。あ、ちなみにこの街には泥風呂っていう有名な温泉があって~一度入ればお肌ツルツル~十歳は若返るとか言われててさ~」
「行きましょう! 一食ぐらい抜いたって大丈夫! そうですよね皆さん! ご飯より温泉! さんはいっ」
俺たちは魔晶列車を降り、水着魔女ラビコが券売所でチケットを購入。
一時間か、まぁ駅近くでお昼ごはん食べる時間はあるだろう、と思っていたら、最後ラビコが余計な情報を言いだした。
あーあ、うちにはそういう情報出したら絶対に黙っていないウーマン、宿の娘ロゼリィさんがいるんですよ。あ、ほーらラビコの情報に食い気味に目を輝かせて鼻息荒く俺の腕に絡んできた。
「……泥風呂……泥パック……ツヤツヤお肌……」
パーティー内で意見が別れたが、時間も無いし即決多数決。
結果二対四でご飯派閥の勝利。
最初「一対五」だったのだが、りんごチラつかせに惑わされた我が愛犬ベスがロゼリィ派閥について「二対四」。
つかリンゴにつられたのなら、ベスもご飯派閥だろ。諦めろロゼリィ。
そりゃあ俺だって入れるならお風呂に入りたいが、両方行ける時間もないし、今回はご飯優先組が多かった、それだけの話。今度来たら行こうな、とシュンとしているロゼリィの頭を撫で慰め。
駅近くにあったカフェ。
森でたくさん採れるというキノコ満載メニュー。
キノコシチューにパンを頼んだ。ちょっと物足りない味だけど、キノコから出るダシでカバー。まぁまぁいける。固いぼそぼそパンも我慢出来るレベル。
「あ、普通に美味しいかも。船と列車の辛いスープにパンに比べたら、ですけど……」
ロゼリィさんにちょっと笑顔が戻ってきた。単に比較対象である連絡船と魔晶列車で食べたご飯が酷いだけなんだけどね……。
「いけんなコレ! つぅかさ、キノコ自体が美味いっぽいし、この味のまとまりがないうっすいシチューがいらなくねぇか」
猫耳フードをかぶったクロさんが、褒めているようで褒めていないナイスな提案。
うーん、これキノコの素焼きとかあったら美味そう……。
「……マスター……紅茶がメニューに無いです……」
バニー娘アプティさんがキノコシチューのキノコだけ食べて、俺の前にキノコ無しシチューを配置。
口直しに頼もうとした好物の紅茶がないことに無表情ながら愕然としている。
「あっはは~まぁまぁ、旅で美味しいご飯は諦めたほうがいいね~。何でも美味いものが出てくるソルートンのジゼリィ=アゼリィが異常なんだと思いな~っと。ここは値段の割にそこそこランク高いほうじゃない~?」
水着魔女ラビコが味を楽しむ食い方ではなく、胃に流し込むようにシチューを飲み、パンを食いちぎる。
俺が元いた世界では、旅と言えば各地で堪能できる新鮮な地元食材を使った美味しいご飯、なんだがね。
違う世界で前の世界の常識を期待するのが間違いか……。
「命を繋ぐためのご飯~っと、あっはは~。さてそんな心が荒れている皆の衆に朗報だ~。次降りる街は中規模の港街、果物とかたくさんあるし~確か浜辺に自分で海産物焼くスタイルのお店があったはず~。そこは結構いけたと思うよ~。あとロゼリィ~そこでは二時間ぐらい待機時間があるから~お風呂、行けるよ~っと」
ラビコが簡単に地図を描き、次に降りる駅を教えてくれた。
どうにもそこで魔晶列車を降り、船で冒険者の国ヘイムダルトに行くらしい。
そうか、もうすぐ着くのか。
「本当ですか! やはり持つべきは理解ある親友です!」
それを聞いたロゼリィが大興奮で俺に抱きついてくる。
そこは親友呼ばわりしたラビコに抱きつくべきじゃ……まぁ、役得だからいいけど。……やっぱロゼリィのはでけぇなぁ……。
「マジかよラビ姉! だったらこんな薄キノコとはおさらばだぜぇ! 次でいっぱい食うぞ!」
と言い、猫耳フードをぴょこぴょこさせながらクロが立ち上がる。
なぜか俺の前に半分以上残った薄キノコシチューがずらされてきたけど……。
いいのか? 俺は喜んで食うぞ。
アプティのと合わせて二つだが、俺は味ではなく違う目的で笑顔で食うぞ。
ああもちろん、命を繋ぐため、の目的な。
邪推はよしてくれ。
……あ、出来ましたら使っていたスプーンは入れたままで。
うん、実は俺ってスプーンマニアでさ、頬張ることでその個々の微妙な違いを楽しむっていう紳士な遊びを……。
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