【書籍化&コミカライズ】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】
第518話 冒険者の国へ 6 白い粉で全滅と港街スプレートの海鮮網焼き様
第518話 冒険者の国へ 6 白い粉で全滅と港街スプレートの海鮮網焼き様
「は、腹が重い……」
昼十二時ヒューリムス駅から魔晶列車に乗り込み、最後尾にあるロイヤル部屋の床に寝っ転がる。
「あっはは~社長さ~キノコシチュー三人分は欲張りすぎじゃない~? あれかな~押したら出るかな~? 出しちゃう~?」
水着魔女ラビコがすっげぇ楽しいこと見つけた嫌な笑顔で、仰向け状態の俺の腹に跨がってくる。
や、やめろ……今腹押したら口からキノコ噴水マンになるっつーの。
お昼に駅近くのカフェでキノコシチューをいただいたのだが、バニー娘アプティと猫耳フードをかぶったクロが残したので、俺が全て飲み干した。三人分は腹に負担が……。
ああ、スプーンは丁寧に舐め……ウソです。
もちろんそんなことはしていないです。
ここまで共に歩んだ俺を信じろ、紳士諸君。
「にゃはーその体位すっげぇな、ラビ姉。ヤル直前のカップルみてぇだ! ア、アタシも……!」
ヤル直前って……何をだよ。腹を押すのだけは絶対にやめろよ。
……ええ、ええ分かっています……いい子ブリました、すいません。正直エロい体位だし、ラビコのお尻様が腰に当たって最高です。
「ってやめろクロ! マジでキノコが出……ほげぇええええ!」
俺たちの格好に目を見開いた猫耳フードのクロが、本当に猫みたいな動きで俺の顔面に跨がってきた。
なんで顔にくんだよこのクソ猫……!
確かに腹に来られたらキノコ噴いていたから、顔で良かっt……ってなるか!
なんも見えねぇっての!
「……マスターが大人気です……では私は手を抑えます……」
おいアプティ、では私は手を……じゃねぇ! あ、こら俺の両手をとんでもねぇ握力で掴むんじゃない!
このっ……たまにはトラブルなしで移動出来ねぇのかよ!
やはりラビコ、この発端はあの水着魔女が俺に跨がってきたから始まったトラブル。あいつだ、あいつが俺の平和な旅を邪魔する……
「ううっ……なんでみなさんこんなに大胆なのでしょう……まずいです……これはまずいです! え、はい……はい、わ、分かりましたお母さん! 薬ですね……今こそアゼリィ家秘伝のあれを使って既成事実を……! 一度目は失敗しましたが、今度こそ確実に……噴霧! せ、せいりゃあああ!」
クロの股の隙間から宿の娘ロゼリィが焦って挙動不審になっているのが見え、何かとチャネリングしたかと思ったらポケットから白い包みを空高く掲げ、勢いよく左右にばらまき始めた。
あ、おいバカやめろ! それとんでもねぇ効力の睡眠薬…………
「…………マスター、もうすぐ目的地に着くようです……」
「……はっ!」
何かに軽く揺すられ目を覚ます。
アプティか……ってどこだここ!
魔晶列車……俺は何時間寝た!?
下半身は……しっかりジャージを履いている。どうやら無事、のようだ。
急に脳が動き始め、俺は慌てて周囲を確認。
魔晶列車の床にラビコ、クロ、ロゼリィ、愛犬ベスが寝そべり、すやすやと寝息を立てている。
……そういやロゼリィが白い粉ブン撒いていた記憶が。
「……みなさん乗ってすぐに寝てしまいました……あれから六時間ほど……でしょうか」
俺の動きを理解してくれたっぽいバニー娘アプティさんが無表情に言う。
ろ、六時間? マジかよ……ローエンさん特製のあの薬、ちょっと吸っただけなのに効力発揮しすぎだろ。
とんでもねぇぞ、この睡眠薬……絶対に処方箋レベルじゃねぇな。うん、もはや毒で資格がいるレベル。
そしてアプティさん、一人あの高レベル睡眠薬に耐えたんですか……。
さすがです……。
「いや~助かったよアプティ~。もうちょっとで降りる駅、スプレートを通過するとこだったよ~あっはは~」
俺はすぐに全員を叩き起こし、直後に着いた駅で魔晶列車を降りる。あっぶね。
「……も、申し訳ありません! あまりにみなさんが大胆で羨ましくて……私も混ざろうと慌ててしまいました……」
宿の娘ロゼリィがペコペコ頭を下げてくる。
まぁ……その、なんだ……やっぱ普段おとなしい子って、暴走したらおっかねぇのな。ロゼリィは鬼覚醒もこぇえし。
普段はすんげぇ可愛い、守ってあげたい系の女性なんだがなぁ。
「ちょっと腰痛ぇけど、体がすっげぇスッキリしてンなぁ。熟睡したって感じで気分いいぜ!」
「ベッス!」
猫耳フードを揺らし、クロが元気に体を動かす。
その動きに釣られた愛犬ベスが吼え、俺の周囲をぐるぐる。うむ、愛犬はいつも可愛い。
熟睡ね、確かになんかあの薬で寝ると、体がスッキリするんだよね。絶対眠らせる以外の成分入っていそう。
そうだな、多分半分は眠らせてごめんねっていうローエンさんの優しさ、かな。
「ここ、どこ……」
初めて来る場所だが、来る前に中規模の港街とかラビコが言っていたよな。
駅出たばっかで海はまだ見えないが、なんとなくソルートンに近い雰囲気。
時刻は夜十八時。もう夜が近い。
「ここは港街スプレートだね~。ここから船に乗っていざ冒険者の国へ~てやつさ~。船の時間は二時間後かな~。だからロゼリィご期待のお風呂入って頭冷やして、みんなで笑顔で浜辺で炭火焼き海鮮食うぞ~あっはは~」
ラビコが地図片手に言うが、港街スプレート、か。……森と泥の街ヒューリムスからここまで記憶が一切無い。
もっと流れる車窓からの景色を見て微笑を浮かべて紅茶を飲む、とか紳士の移動時間を堪能したかった……。
「そうか、もうすぐ冒険者の国に着くのか。ああ、さっきのは気にしなくていいぞロゼリィ。おかげで体がスッキリしたしな。よし、時間もあるみたいだし、お風呂入って気分変えて美味い飯でも食って明日に備えようぜ」
「ほ、本当に申し訳ありません……」
ペコペコ謝るロゼリィの頭を撫で、大きな温泉施設へ向かう。
「うーん……ごつい」
さて、ライブ実況はいるかい?
もちろん男湯の、だけど。
リゾート地のティービーチの温泉とは客層が真逆。ごつい筋肉の塊さんがいっぱいいるぜ。多分船乗り系なんだろうなぁ。広背筋がすげぇの。
「ごつスティック……いやアナコンダ巨木……かな……」
──男湯からは以上です。
「あ、焼けましたよ。はい、どうぞ。うふふ」
お風呂後、港付近の砂浜のお店へ。
砂浜のテーブルの横に炭火が起こしてあり、それに自分で注文した海鮮などを網に乗せ焼くスタイル。これは海の開放感といい、夜に火を囲う感じといい最高のシチュエーションだぞ。
なんかキャンプしている感じがして、わくわくしてくる。
「おお、ありがとうロゼリィ。うん、美味いぞこれ。ただ焼くだけが最高に美味い」
なんだかニッコニコ笑顔なロゼリィが、焼けた食材を次々俺の皿に入れてくれる。念願のお風呂に入れて上機嫌っぽいな、よかったよかった。
「美味しいね~ただ焼いているだけなんだけど~……どれいい感じのとこで~ずず~っ。あっはは~うま~」
水着魔女ラビコが大きめの貝にお酒を注いで加熱。
いい感じに火が入ったところで貝殻に溜まったダシとお酒をすすり、熱そうにしながら貝の身を頬張る。それ……日本でもよく見る食い方だが、マジ美味そうだな……。
ほんと、食材に関しては最高にレベルが高い。そして調理法がクソ。
内緒なのだが、紳士諸君には特別に異世界攻略情報を公開しよう。
ここでは調理しないで素のままで食うのが一番美味い。異世界に来る前にぜひ覚えておいてくれ。
まぁネットとかないし、本と口伝だけじゃ美味しいレシピは出回らないみたいだなぁ。
「くっそ、ラビ姉大人の食い方しやがって……なぁキングーアタシもお酒いいよな? 十七歳ってもう大人だよなぁ?」
猫耳フードをかぶったクロがヨダレを垂らしラビコの食い方に見入る。いや、そりゃ美味そうだが、俺たち未成年組はダメだっての。
エロい感じでクロが体を擦り寄せてくる。
「ほらぁ、調理の過程でお酒入れんのもあンだろ。よく宿のボーニング兄貴がやってっけど、アルコールを火で飛ばすって言ってたぞ。アタシたちそのアルコールを飛ばす調理をしたご飯をよく食ってんだろ? じゃあいいじゃねぇか。貝にお酒入れて火を通せばアルコールは飛ぶ。な? あれはお酒じゃない、調理の過程の一個ってことでよぉ……」
クロが食い下がってくるが、ダメなもんはダメだっての。
「ほらクロ、醤油にレモンかけたの食ってみろ。これも美味いぞ」
テーブルに備え付けの調味料を使い、飾りで付いてきていたレモンを絞り醤油をかけ貝を焼く。
「うわっすっげぇいい香り! にゃっはは、これ美味いな!」
クロが笑顔で貝を頬張る。ふぅ、これでトラブル回避っと。
さすがに酔っ払いはラビコだけで手一杯なんでな。
「……美味しいです……さすがマスターです」
同じものを全員に作る。バニー娘アプティさんが無表情ながらも上機嫌。お口に合ったようでなによりです。
「レモンですか、うん、さっぱりして美味しいです」
「おっと社長の手作りは私絶対に食べる~。あ、ほ~ら美味しい。あっはは~」
ロゼリィもラビコも笑顔で食べてくれた。
うむ、やはりご飯が美味しいと女性陣の笑顔が素敵ですなぁ。
写真撮っておくか。
「うわ~社長が海で開放的になった私たちのエロい写真撮ろうとしてる~胸隠せ皆の衆~あっはは~」
よく考えたらこのカメラ、フラッシュないから暗いとほとんど見えないな。って別にエロ写真じゃねぇよ! 旅の記録ってやつだよ。
胸隠せとか言いつつ、みなさんフレームに収まるように集まってくれて満面笑顔じゃねぇか。ラビコなんて魔法の光出してくれてるし。
海鮮網焼きを堪能し、夜二十時。
港から連絡船に乗り込み、追加料金を支払って取った有料ゾーンへ。
連絡船ってのはだいたいどこも同じ作りなのな。
「あ、そうそう社長~明日の朝八時には冒険者の国ヘイムダルトに着いているんだけど~『地下迷宮派』か『天空の塔派』か決めておいてね~」
ちょっと愛犬ベスの散歩がてら船内でも歩いてから寝るか、と思っていたら、水着魔女ラビコがニヤニヤと笑いよく分からん二択を迫ってきた。
地下迷宮? 天空の塔?
なんだよそれ、すっげぇゲームっぽくてワクワクするじゃねぇか。
「派ってなんだ? 派閥でもあんのか?」
「もちろんさ~。なんせ冒険者の国はその二つのダンジョンで成り立っている国だから~どっちのダンジョンをホームに選ぶかは、と~っても重要で命に関わることなのさ~あっはは~」
い、命? なんだよそれ、すっげぇ怖いんですけど……。
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