第516話 冒険者の国へ 4 ルナリアの勇者パーティーの装備品と噂の真相様




「その、もしかしてルナリアの勇者ってパーティー全員がルーインズウエポンを持っていたってやつ……なのか?」



 夜二十三時ティービーチ発王都ペルセフォス行きの魔晶列車に乗車。



 俺たちは王都に行くわけではなく、途中の街で降りて西に向かう。


 目的地は冒険者の国ヘイムダルト。



 深夜一時過ぎロゼリィ、クロ、アプティ、愛犬ベスが寝息を立てたころ、俺は眠れずに起き上がる。


 ソルートンからティービーチには船で来たのだが、なぜか俺は乗ってすぐ爆睡。気がついたら十六時間経っていてティービーチに着いていた。


 よく分からんがロゼリィがね……粉をね……。


 まぁその白い粉、睡眠薬のおかげで体スッキリしているからいいけど。




「まぁそうなるね~。いや~苦労した苦労した~思い出すのも嫌なぐらいさ~あっはは~」


 魔晶列車最後尾のロイヤル部屋。


 窓際に設置されている椅子に座り、お酒の入ったグラスを傾けている水着魔女ラビコ。


 月明かりに照らされたその姿はエロいというより格好がいい、だろうか。


 ラビコって寝る前にお酒を飲むことが多いよな。



 ソルートンが銀の妖狐に襲われたとき、ロゼリィのご両親であられるローエンさんジゼリィさんも共に戦ってくれたが、ローエンさんは腕輪から凝縮された魔法の円盤みたいな物を生み出し飛ばし、バッサバッサと空を飛ぶ蒸気モンスターを切り裂いていた。


 ジゼリィさんは二刀流の細身の剣をかざし、港付近で戦っている冒険者ほぼ全てに魔法シールドを展開した。


 二人が持っていた腕輪と二刀流の剣、あれが噂のルーインズウエポンってやつだったのか。


 ローエンさんなんか、宿の事務所の机にポンと無造作に置いていたぞ……もっとしっかり見ておけばよかった。



「ってことは元勇者パーティーのメンバーだったラビコも持っている、と……」


 目の前にいる酔っぱらい。


 こいつはただの酒好きの露出狂ではなく、十年前ソルートンを出発し、世界中で蒸気モンスターに戦いを挑み撃破し続けた英雄、ルナリアの勇者のパーティーメンバーの一人。


 この世界で有名な冒険者といえば、と聞くと大体の人がルナリアの勇者の名を上げる。


 ネットなどの通信が発達していないのに、世界規模でその功績を讃えられ名を馳せているってすごくねぇか。



「いんや~私は持っていないよ~。だって必要無かったし~あっはは~」


 見れるならそのルーインズウエポンってやつを間近で見てみたい。ラビコは魔法使いで、お高そうな杖みたいな物をいつも持っている。


 ラビコは魔法ブーストに魔晶石よりも、なぜかキャベツを杖にぶっ刺して使うんだよね。


 とんでもなく強いんだけど、その戦闘スタイルはちょっと……と思っていたが、それがチートクラスに強いっぽいルーインズウエポンの能力を最大限活かすためってんなら仕方がない……って違うんかい!


 じゃあなんなんだよそのキャベツが刺しやすいように先っぽが尖っている杖は!



「あ~残念だったね社長~これはルーインズウエポンじゃあないのさ~。期待してた~? ねぇ期待してた~? あっはは~」


 ラビコが立て掛けていた杖を持ち、爆笑しながら俺の肩をバンバン叩いてくる。


 くそ……すっげぇ期待して、キラキラとした少年の瞳で見ていたってのに。


「あっはは~軽く少年の夢を壊しちゃったみたいだけど~これはお師匠がわざわざ私専用に作ってくれた杖なのさ~。確かにルーインズウエポンですっごい杖はあったけど、私にはお師匠が作ってくれたこの杖が一番合っていたんだよね~」


 へぇ、その杖、エルメイシアさんが作ってくれた物だったのか。


 ルーインズウエポンって物の正体がどういうものかよく分からないし比較のしようもないが、とんでもない魔力の持ち主、エルフであるエルメイシアさんが作ったというのなら、ルーインズウエポンに近い価値と能力がありそう。


 そういやラビコは子供の頃、孤児院抜け出して砂浜に行き、エルメイシアさんに魔法を習ったんだっけか。


 そのエルメイシアさんがラビコのために作ってくれた杖、か。


 ……そりゃあ大事な物だよな。



「そっか、なるほど、やっと理解したぞ。ソルートンの宿にモヒカン一号が持ってきた、ルナリアの勇者が活動を再開したという情報。どうにも今回は定期的に現れる偽物とは違って、とか言っていたが、入手が難しいルーインズウエポンを持っている=ルナリアの勇者の可能性が高いからか」


 ラビコは持っていないようだが、他のルナリアの勇者のパーティーメンバーは全員ルーインズウエポン所持者だった。


 その武器を持つ人物が現れ名乗りでもすれば、ああ、あのルナリアの勇者さんが帰ってきたんだ、と思う人が多いかもしれない。


 ……でもルーインズウエポンって記録上千年前からあるってさっきラビコが言っていたし、この世に出回っている数が少なかろうが、ルナリアの勇者以外にも所持者がいるんだろ?


 その人が名乗った場合もあるよな。


 流言の噂としては面白いが、ルーインズウエポン所持者、この情報だけでは決定的と言えないような……。


 しかし、元勇者のパーティーメンバーだったラビコがその情報に困惑していた。他にも何か今回は可能性が高いと思える情報があるのだろうか。



「まぁ一般的にはそう判断出来るね~。私がなんかいつもと雰囲気違うな、確認に行かなきゃな~と思ったのはこっちが本命で、冒険者センターがこの噂を否定していないんだよね~」


 ラビコが窓の外を見ながら溜息をつく。

 

 冒険者センターが否定をしていない? なんか関係があるのか、それ。



「有名な冒険者を名乗って高額の依頼料を求める詐欺とか昔っからあってさ~。でもそれは冒険者センターが定めるルール違反の一つ、名前を偽って実力外の報酬を得ようとする行為になるわけで~。そういうことを見逃していると、冒険者センター側がどんどん信頼を失っていくから~基本すぐに調べて、本人じゃない場合否定するんだよね~」


 冒険者センターの定めるルール。


 そういうものがあるのか……ってそういやソルートンで冒険者になったとき、なんかペラい紙もらったな。おっそろしく小さな字で色々書いてあったが、あれにルールがどうとかあったような。


「……でも今回はその名乗っている冒険者を放置で、冒険者センターが否定をしていないんだ~。もしかしたら、確認に時間がかかっている可能性があるけど~……そこがどうにも引っかかってさ~、これは現地に行かなきゃな~って」


 なるほど、いつもならすぐに反応する冒険者センターが、今回は放置気味なのが気になる、と。



 ルナリアの勇者さんはかなりの決意のもと、行方をくらました。


 仲間を守るため、回復魔法を使う女性を守るため……その決意が揺らぐってどういう瞬間だろうか。


 ……うーん、お金が無くなった……? 安易すぎか。


 よくラビコがルナリアの勇者さんのことを、女ったらし、とか言っているけど……女性問題でも起こした? って俺、ルナリアの勇者さんを下げ過ぎだな。


 あのわがままラビコが長い間所属していたほどだし、多分とってもすごい人で人格者なのだろう。



「ヘイムダルトにはあいつもいるはずだから~それ系の噂なんて何よりも判断早いはずなのになぁ~……」



 ラビコが再び溜息。


 あいつ? 


 冒険者の国ヘイムダルトに知り合いがいるのだろうか。














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