第515話 冒険者の国へ 3 ティービーチ到着とローエンの過去様




「着いたよ~ペルセフォスが誇るリゾート地ティービーチ~。あ~でも社長には残念だったね~夜も遅いから~太陽降り注ぐ砂浜で水着見放題タイムは終わっているみたい~あっはは~」



 夜二十二時前、俺達は十六時間の船旅を終えティービーチに到着。


 ペルセフォス王国の最南端付近にあるリゾート地。これで三度目だろうか、来たのは。毎回美女の水着天国を夢見て来るのだが、今回も俺のささやかな夢は叶いそうもない。




「夜か……」


 船から砂浜を見るが、水着美女はほとんどいない。


 まぁ夜二十二時だしな……数組カップルが夜の暗い砂浜でイチャついているぐらいか。そんなもん見とうない。


 くそぅ……昼間だったら、それまで見たもの全てを過去にするボディをお持ちのロゼリィさんの、水着からこぼれそうな大きなお胸様が見られたかもしれないのに。


 今もそうだが、基本ロゼリィは肌の露出がほとんどない服だからな……しゃーねー、常に水着のラビコをじっくり見て旅の疲れを癒そう。



「うわ~ロゼリィの身体見て肌の露出なくてがっかりして私の身体見てきた~露骨~。残念だったねロゼリィ~社長のご期待に応えられたのは私だったみたいだよ~あっはは~」


 水着魔女ラビコがニヤニヤしながら言うが、あれ、今の俺の心の声……漏れてた?


「わ、私は知らない人に身体を見られても嬉しくありません。見て欲しいのは一人で、言っていただければその……薬もありますし……」


 ラビコに煽られたロゼリィがすぐに反論。


 チラチラと上目遣いで俺を見てくるのはとても可愛いのだが、薬って何。


 そういやソルートン港を出てすぐのトラブルでロゼリィが俺に白い粉を飲ませようとしてきたが、あれは何だったのか。


 どうにもちょっと粉が俺の口に入ったらしく、有料で取った個室に入った途端とんでもない眠気に襲われて寝てしまったんだよな。


 おかげで船旅のほとんどを寝て過ごしてしまった。他の女性陣は何をしていたのかなぁ。



 ティービーチに着く直前、目を覚ますと部屋に鍵をかけたのに当たり前のようにバニー娘アプティさんが横にいて、ラビコにクロにロゼリィと睨み合っていたけど……みんな俺の部屋で遊んでいたのかね。




「夜でも暑いな……ティービーチか、リゾート地だけあって遊ぶとこたくさんありそうだけど目的地はここじゃないしな。夜も遅いが、ここで泊まるのか?」


 船を降り、夜でも混雑しているティービーチの街を歩く。


 カップルが多いなぁ……時間も時間だから、ホテルに入っていくカップルの後ろ姿がエロく見える。……え、俺だけか? 視界にこのピンクフィルターかかってんの。


「ティービーチで泊まったら~女に飢えた社長が砂浜で大暴れしそうだからすぐ移動だよ~。今から一時間後の二十三時発の魔晶列車に乗るつもり~」


 ラビコが俺の質問に応えてくれたが、俺のおとなしい性格上、どんなに女性に飢えていようが暴れたりしねぇって。


 エロ本一冊与えてくれたら笑顔で自室に引きこもるっての。





「ふぃ~生き返るぜ」


 ティービーチ駅側にある温泉施設。


 あまり時間は無いが、ロゼリィがちょっとでも時間があるのならお風呂に……というのでみんなで温泉。男女は別。


 以前、デゼルケーノに行く途中にこの温泉に入ったが、相変わらずリゾート地の温泉だけあって良い体したイケメンたちがウヨウヨいる。


 紳士諸君は別に見たくはないだろうが、今の俺の視界を映像化してもいいぞ。見渡す限りのイケメンズスティックが見られるから。



 スティックにも見飽き、つか見たくないので入って数分、俺はすぐにお風呂に入れてご機嫌の愛犬ベスを持ち上げ温泉を出て、施設内にある食堂でご飯。愛犬がちょっと不満気。


 すまんベス、俺、なぜか船で十六時間寝ていたから今日一日何も食べていないんだ……。



 美味そうに見えた海鮮チャーハンなる物を頼んでみたが、コンロの火力が足りないらしく、水分多めのベッチャリご飯にちょっと貝とかエビが見える物が出てきた。


 美味しくねぇ……これなら白米に刺し身でも頼んだほうが良かったな……。


 俺が寝ている間、女性陣は連絡船内の食堂を利用したそうだが、ただ辛いスープに固いパンしかなかったそう。


 ソルートンを離れると分かる、宿の神の料理人イケメンボイス兄さんのありがたみ。


 愛犬は美味そうに素のリンゴを食っている。





 夜二十三時、俺たちはティービーチ発ペルセフォス王都行魔晶列車に乗り込む。



 ああ、別に王都に行くわけではなく、ここから北上し途中にある駅で降りて乗り換えてそこから西に向かうそうだ。


 ラビコが最初に言っていた、船で南下~魔晶列車で北上~西に進路変えて~の部分だな。



 例によって列車最後尾の豪華な個室、十人は余裕で入れるロイヤル部屋を取った。


 値段は高いが、窮屈な直角椅子に朝まで、は体が持たん。何度も言うが、金ならry。


「ふあ~ねむ~……え~と~乗り換えの駅があるヒューリムスには明日の午前十一時到着予定だね~時間も時間だし~さっさと寝ようか~」


 水着魔女ラビコが眠そうに説明。


 小脇にはしっかり駅で買ったと思われる酒瓶を抱えている。


 寝るんじゃないのか。







「すー……すー……」


「にゃふー……にゃふー……」


「…………」


 深夜一時過ぎ、さすがに皆さんお疲れのようで、ロゼリィ、クロ、アプティの寝息が聞こえてくる。


 アプティさんは……多分寝ていないかね。俺の後ろで目を閉じてはいるが。


 愛犬もぐっすり寝ている。うん、我が愛しのベス様は寝姿もかわいらしい。




「…………」



 俺は船に乗ってすぐ、さっきまで爆睡していたからさっぱり眠くない。


 ロゼリィのお父様、ローエンさん印の薬ってすげぇんだな。



「おや~トイレかい少年~。おばけが怖いだろ~? 付いていってあげよっか~? あっはは~」


 窓際の椅子に座り、お酒の入ったグラスを傾けていた水着魔女ラビコが静かに声を発し、起き上がろうとしている俺をニヤニヤ見てくる。テーブルには数本の空き瓶。結構飲んだっぽいな。


 おばけって……ガキじゃあるまいし、さすがにそれはねぇよ。


 ……でも、いるはずのない架空の生き物だったドラゴンだったりエルフだったりがいるこの異世界。もしかしておばけもいるの……? 



 窓から注ぐ月明かりに照らされたラビコ。


 お酒を傾け、足を組んで座っている姿はなんか格好がいい。


 車窓の外の流れる景色を見るが、真っ暗でなにも分からん。ティービーチから北上しているってことは、例の未だに全貌が分かっていない広大な森、暗示の森の横あたりを通っているんだろうか。


 バニー娘アプティが反応しないように静かに立ち上がり、ラビコがいる窓際までいく。



「昼間寝すぎて寝れなくてさ」


「あっはは~社長ってばロゼリィの包みから漏れた微量の薬で倒れちゃったからね~。さっすがローエン、元工作員なだけはあるわ~あっはは~」


 こ、工作員? スパイとかそれ系ってこと?


「ああ、別に悪い意味じゃないよ~。ローエンは当時、自分に割り当てられた仕事をキッチリやっていただけさ~。まぁペルセフォスでいうと隠密のリーガルに近いかな~。隠れて潜んで情報入手したり、敵陣に紛れ込んで間違った情報ばらまいたり、時にはさっきの「薬」系をブン撒いたり~。あ~でもこれ内緒ね~悪く捉えちゃう人もいるからさ~あっはは~」


 ラビコが口に人差し指を当て笑う。


 ローエンさんの過去か。そういや全然知らないな。


「ローエンって優しい性格だからさ~その仕事が相当嫌だったみたいで~、すぐに騎士辞めちゃったとか~。嫌々ながらもキッチリ仕事こなして実績上げていたから、出世コースに入っていたのにもったいないよね~」


 騎士? ローエンさんって元騎士だったのか……それは知らなかった。


 ソルートンが銀の妖狐に襲われたとき、もの凄い切れる魔法の円盤ぶん投げて戦ってくれたが、あれはすごかったなぁ。



「セレスティアはさ、良くも悪くも魔法の国、なんだよね~。ちょっと魔法が使えるぐらいの剣士は扱いが悪いんだ~。魔法を使えない人はさらに扱いが悪くて~、ローエンとしては同じ命懸けの仕事をこなしていた魔法を使えない同僚の扱いが悪かったのが許せなかったみたいで~上司に逆らって待遇改善求めて一発アウトでクビ~って聞いたけど~。さすがにローエンも若かりし頃は血気盛んだったのかね~あっはは~」


 え、ちょ、ローエンさんって魔法の国セレスティアの騎士だったの? 


 マジで?


 ラビコはかなり酔っているらしく、普段聞けない情報が知れたのだろうか。まぁ、酔ったラビコが俺の面白い反応を期待したウソ、かもしれないが。



「へぇ、まぁ話半分で聞いておくよ。やっぱみんなそれぞれに歴史があるんだな」


「これは酔ったローエンが昔ボソボソ言っていたことだから~本当か分からないし~話半分でちょうどいいと思うよ~。んでクビになったローエンは世界各地を放浪して~辿り着いた港街ソルートンでジゼリィに出会って喧嘩売られて~数回適当にあしらっていたら気に入られて気がついたら子供が~とか。ローエンってばジゼリィに襲われてやんの~あっはは~」


 ……うーん、それ本当の話じゃ……ロゼリィもそれっぽい話していたし、ジゼリィさんの性格考えたらありえるんだよなぁ……。


「お、面白い話……だな。ウソか本当かは置いておくとして。でもローエンさんもジゼリィさんも強いよなぁ。ソルートンが銀の妖狐に襲われたとき、ばっさばっさと蒸気モンスター倒していく姿は未だに覚えているよ。さすが元ルナリアの勇者のパーティーメンバーってやつか」


 この目の前にいる水着魔女ラビコもそうなのだが、ローエンさん、ジゼリィさんもこの世界で有名なルナリアの勇者のパーティーメンバーだったんだよな。


「あ~、私に言わせたらローエンたちは最初それほどでもなかったかな~。その辺りで腕が立つ、ぐらいで~。アイツ率いるパーティーが世界的に有名になったのって、これから行く冒険者の国に辿り着いた以降の話なのさ~」


 ラビコが笑うが、私に言わせたらって……まぁ実際ラビコって桁外れに強かったらしいし、今でも世界屈指どころか、一番を名乗っても良いとか水の国オーズレイクで出会ったエルフ、エルメイシアさんに言われていたもんな。



 ルナリアの勇者が有名になったのは、冒険者の国に着いて以降の話。


 まぁ、いきなり有名にはならないだろうからな。


 ネットなどの通信技術が無いこの異世界では噂が伝わるのに段階を踏むのだろう。それまでの活躍が認められ、世界的に認知され始めたのがそのあたり、ってことなのだろうか。



「あの女ったらし勇者とかローエンたちが強くなったのは、冒険者の国でルーインズウエポンを手に入れたからさ~。いや~もう思い出したくないくらいキツかったな~あれ、あっはは~」


 ル、ルーインズウエポン!? 


 え、ローエンさんジゼリィさんの持っていた武器ってルーインズウエポンなの? 


 

 ローエンさんとか、宿の事務所に無造作に自慢の装備である腕輪を置いていたぞ……。



 あれが入手するのに命が数個必要だと言われるルーインズウエポンだったのか……マジかよ……。














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