第514話 冒険者の国へ 2 連絡船トラブルと謎の白い粉様




「え~と、今回のルートは~船で南下~魔晶列車で北上~西に進路変えて港街から船で到着~って感じ~」



 早朝六時、ソルートン発ティービーチ行き連絡船。



 船がソルートンを出たところで水着魔女ラビコが冒険者の国へのルートを教えてくれた。


 こういうのは、以前ルナリアの勇者のパーティーメンバーとして世界を巡ったラビコさんが頼もしいぜ。


 にしても南下~北上~とか説明が適当過ぎねぇか。地名が一切出てこないし。


 まぁラビコの頭の中にしっかりとルートが出来上がっているのなら問題はないが。




「南から行くのか。てっきり魔法の国セレスティアの南にあるっていうから、ペルセフォス経由の魔晶列車で行くのかと思っていたぞ」


 以前魔法の国セレスティアに行ったが、ペルセフォスから魔晶列車に乗れば一本で行けたからな。


「ヘイムダルトに行くのにペルセフォス経由だと北側に大回りになって時間かかるのさ~。あと正直言うと~ペルセフォス経由の魔晶列車に乗ろうとしたら、ソルートンからフォレステイの馬車半日移動がキツイんだよね~。まぁ……最後に一回乗ってもよかったんだけど~時間的にも身体的にも楽な船経由かな~って」


 まぁ、確かにソルートンから一番近い魔晶列車の駅があるフォレステイに行こうとしたら、馬車で十二時間移動がかなりネック。狭いし揺れるし……それに比べたら船のほうがマシか。


 俺にはこの異世界の地理は分からないからラビコに従うのみだが……最後に一回馬車に乗る? はて、どういう意味だろうか。



 

「えーと、朝六時発で、ティービーチに着くのが夜二十二時か。結構かかるな……あと、連絡船って、揺れるな……」


 どうにも最近は世界的化粧品・魔晶石販売で有名なローズ=ハイドランジェ次期代表らしいアンリーナ所有の豪華な船に乗り慣れていたから、連絡船の揺れが新鮮。


 アンリーナの船はほとんど揺れない上に早いのだが、連絡船は揺れて遅い……。


「あっはは~あれと比べられちゃ連絡船はキツイね~。アンリーナのグラナロトソナスⅡ号は、今この世界で作れる最高技術が注ぎ込まれたこの世に二隻とないレベルのやつさ~。量産タイプ流用の連絡船とは格が違い過ぎかな~」


 一応船内を歩き回り、食堂、トイレ等の施設のある場所を確認。


 乗り合いの連絡船なので、他の一般のお客さんも多くいる。


 この連絡船の行き先はペルセフォス王国が誇るリゾート地ティービーチ。なのでそれ系の、リア充リア充家族みたいなお客さんで占められている。


 あ、あのカップルの男、彼女のお尻触ってんじゃん……くっそ……まだリゾート地に着いていないってのに公共の場で水着とか着てイチャイチャとぉぉ……。



「ちょ~聞いてる~? この世界的大魔法使いラビコさんが説明してあげてんだぞ~? 他の女とか見てないで、お礼としてラビコさんの水着を褒めて肩とか揉むべきだと思うんです~」


 あ……つい羨ましくてカップルの主に女性の食い込む水着に心奪われていました。


「ごめ……やっぱアンリーナってすっげぇんだな。なんか普通に一緒にいることが多かったから忘れがちだけど、本来なら俺なんかが仲良くしてもらえるわけないんだよな」


 共有スペースを抜け、俺たちは追加料金を払って取った有料ゾーンの個室へと向かう。


 そこそこのお値段はしたが、まぁ金ならあるし、快適さに払うお金を惜しむつもりはない。パーティーメンバーは女性が多いしな。


 ムスっと膨れっ面になった水着魔女ラビコに謝りつつ、ご機嫌取りで歩きながら肩を揉んでやる。


 うーん、肩ですらエロいなぁラビコは……。


「あっはは~今日はやけに素直な童貞君じゃないか~。そしてこのラビコさんだって本来貧弱少年なんかが話しかけることすら出来ない格の身分で~……」


「おっとラビ姉、それ言い出したらアタシこそ本物になるよなぁ? なンせセレスティア王家の血筋ってやつでよぉ、言いたかねぇが格っつー話ならアタシが一番じゃねぇの? ニャッハハ!」


 調子に乗ろうとしたラビコを猫耳フードをかぶったクロが粉砕。


 まぁ……クロは本名クロックリム=セレスティアって言う、マジもんのセレスティア王族様だしな……。


 つかクロがパーティーに入ってくれて本当に良かったわ。こういうとき、ラビコと同格で言い返せるのってクロだけだしな。


「はぁ~? 今は家出中のくせに何を生意気にセレスティアの名前出してんだか~。高貴な王族名乗りたいんなら、せめてその言葉遣い直せっての~。ね~社長だってそう思うよね~」


 ああそうだった……ラビコって絶対に引かない女だった……。


 そして俺に振るな。


「い、いやクロは身分を隠すためにワザと乱暴な言葉遣いと態度なのかもしれないだろ。俺はクロの自分に素直な言動は結構好きだぞ」


 クロは王族の身分を隠すために本来のおしとやかな自分を偽って、真逆の言葉遣いに態度を取っている可能性は……無いな。こいつのは、心から滲み出る生まれたままヤンキー気質。


 たまに大股広げて座る態度や、乱暴な言葉遣いを注意するが、一向に直らねぇんだよなぁ。



「ニャハーーーー! おい聞いたかラビ姉! キングってばアタシにゾッコンだってよ! ンだよ、アタシを抱きてぇってンならそう言えよ。一発でキメてやンぜぇぇ!」


 俺の言葉に目を見開き笑顔になったクロが華麗なステップでヒュンヒュン拳を素振りしてくるが、あのさ……なんで一対一の伝言ゲームなのに、俺が一言も言っていないセリフが伝わっているんだよ。


 あと毎回思うが、なんでこういうときクロはシャドーボクシングみたいなのしてくんの。高貴な生まれの王族じゃなくて、あなた生粋のボクサーなんじゃないの。


 八の字に身体振って相手の視界外から左右高速パンチを放ち続ける技とか教えてやろうか。


「今の好きは社長お得意の誰にでも言う優しさ&フォローのやつだっての~! あ~やだやだ真に受けちゃって~。家出猫と違って私は何度も女性として魅力的で好きって言われたし~キスだってしたし~!」


 あーあ、キレたラビコが子供みたいになってしまったぞ。


 おとなしくしてりゃあクール系の格好いい美人様なんだがなぁ。


 正直、ラビコは見た目、性格共に俺のどストライク。



「……そういえばマスター……結婚なのですから、キスというものも当たり前にすると本で……」


 後ろでおとなしくしていたバニー娘アプティが無表情ながらも、良いこと思いついた風に俺のケツを掴んでくる。


 おっふ……出来たら女性にケツを掴まれるんじゃなく、さっきのカップルの男みたいに、俺が女性のお尻様を触りたかった……。


 これも長年の謎なのだが、なんでアプティさんはいつも俺のケツをすくい上げるように掴んでくるのか。



「あ、ああ……船酔いが酷いことに……あの、船酔いなんです私。だめです……ああ、一刻も早く薬を飲まないと……なので何も疑問に思わずこの白い粉を飲み干してください!」


 他のメンバーの動きに焦ったらしい宿の娘ロゼリィが、絶対に船酔いなんてしていないしっかりとした踏み込みで俺にショルダータックル。


 よろけた俺の口に、出港時にお父様であられるローエンさんから受け取った包みを突っ込もうとしてくる。


 もごぁあああ……ちょ、もうちょい上手い使い方あんだろ! 船酔いした本人じゃなく、なんで横にいる俺に飲ませようとすんだよ、白い粉を。作戦が雑すぎだろ。


 つかその粉の正体はなんなの。



 うーん、騒ぎすぎで注目を浴びているなぁ。周りのカップル、家族からの視線が劇画タッチ漫画の濃い集中線。



 ああもう……まだ船でソルートン出たとこだぞ。


 なんでこう、毎回トラブル旅行になるのか。











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