第502話 お姫様お姫様お姫様 13 三人の王族の恋バナとハイラと夜の砂浜へ様




「……マスター……素敵な物が手に入りました。これで結婚の紅茶の準備は整いました……」



 よく分からないが俺の部屋に集まってしまったお姫様ズ。



 サーズ姫様は体験型騎士教室と何か別の事業の話し合いでソルートンに来て、そのついでに休暇を取り宿ジゼリィ=アゼリィに寄った感じ。


 ローベルト様は以前俺達がフルフローラに立ち寄った時ロゼリィと仲良くなり、今日は親友として会いに来たということらしい。



 俺の後ろでバニー娘アプティが無表情ながらも幸せそうに、何やら高級な紅茶葉が入った缶に頬ずりをしている。


 ローベルト様がわざわざお土産を下さり俺が受け取ったのだが、中身は紅茶なんだろうとアプティに渡したら抱えて離さなくなった。まぁ紅茶の管理はアプティに任せて正解だろう。


 それはいいけど、最近ずっと言っている結婚の紅茶って単語はどういう意味なのかそろそろオレンジジャージのお兄さんに教えてくれないかな、アプティ。




「はは、本当に君がいると何が起こるか分からないな。まさかソルートンの君の部屋でフルフローラのローベルト殿とお会い出来るとは。偶然? いや、これも君が引き寄せた縁ということだろう。ならば私はこの出会いを大事にしたい」


「お、分かるぜそれ。キングはなンか周りに強ぇやつが集まってくンだよな。一緒にいたら次はどこで誰と引き合わせてくれんだろってワクワクすンだよ! ニャッハハハ!」


「お、お話しさせていただだだだ……! は、初めてでございますになります! ローベルト=フルフローラ、田舎者ではありますが、ああああああダメだ! 頼む、君があいだに入ってくれないか!」


 ペルセフォスのサーズ姫様、セレスティアのクロ、フルフローラのローベルト様、三人の王族トークが始まったが、ローベルト様がとんでもないテンパり気味。


 真っ青な顔で俺の左腕を引っ張り救援を求めてくる。


 ローベルト様の後ろにいる執事軍団も手を合わせ、お願いします的に俺に頭を下げてくるが、別にサーズ姫様とクロはちょっとしたことで怒るような人じゃないっすよ。


 まぁ聞く限りローベルト様はサーズ姫様やクロと話すのは初めてらしいし、慣れるまではあいだに入っておくか。ロゼリィも心配そうにローベルト様を見ているし。



 つかこういうお偉いさんが集まったときはラビコがあいだに入るのがいいんだろうが、当の水着魔女はハイラとアーリーガルに勧められるがままに高級酒をがぶ飲みで超笑顔。


 宿のオーナーであるローエンさんもお酒好きなので一杯もらっていたが、すぐに引っくり返りダウン。


 おい、あのサーズ姫様が持ってきてくれたデューエルブとかいうお酒、大丈夫なのか? 


 ローエンさんってお酒好きなだけあって、そう簡単には酔わないイメージだったんだけど、一杯でダウンって……。ラビコはそれをがぶ飲みしているんだが。


 だらしないねぇ、と妻であるジゼリィさんがローエンさんを抱えて部屋を出ていってしまい、あとは若いもんで楽しみな、だと。


 ……若いもんでくくるにはちょっと身分差が激しすぎないですかね……。



 



「ははは、皆苦労しているようだな。ところでローベルト殿、恋愛のほうはどうなっているのかな」


「恋愛! 聞きてぇなそれ! 当然色々ヤってんだろ? ニャッハハ!」


「れ、恋愛!? あ、いえ、国の財政状況で頭がいっぱいでそっち方面は……クロックリム様も今はラビコ様の元で修行中の身でお忙しそうですし、サーズ様も休む暇もないぐらい動き回っていますから私と同じ状況なのでしょうか……」


 夜二十二時過ぎ、ローベルト様もだいぶ慣れたっぽく、三人の王族様が仲よさげに恋愛トークをされているな。


 このあたりは王族だろうが、若い女性が集まれば自然とこういう話題になるのか。まぁ、それだけ三人が打ち解けたってことだろうし、微笑ましい感じですな。



「私か? もう相手は決めてある。現在作戦を実行中で、あとは誘い出すだけ、という段階だな」


 ほうほう、サーズ姫様は想い人ありでいつでもご結婚が出来る状態、か。さすがにモテるだろうしなぁサーズ姫様。


 王族様の恋愛トークなんて滅多に聞けないから、俺はローベルト様の執事軍団の苦労話を聞くふりをして耳はバッチリ三人のほうへ向ける。


 イケメン執事達によると、マジで王都フルフローラの人口が減ってきて、逆に港街ビスブーケの人口が増えつつあるんだと。


 まぁビスブーケは海があってリゾート地っぽくて雰囲気良かったからなぁ。人気なのも分かる。


 王都フルフローラは……うーん、田舎、いや牧歌的、みんなの心の故郷、的な優しさに包まれたところ……かな。



「ニャハハハ。奇遇だなぁ、アタシも相手は決まってンだよ。つか誘っても全然乗ってこねぇからよ、もうメンドイから無理矢理ヤってやろうかと思ってンだ」


 うへ、ヤンキーお姫様クロがおっかねぇ発言してんな。


 無理矢理とか……相手の男がちょっとかわいそうだぜ。……いや、ウソです、すっげぇ羨ましいです。


「す、すごい……! やはりこういうことは積極的に行くべきなのか。二人共もう心に決めた相手がいるとは……さすが大国の人は考えが進んでいる……というか、お二人の狙っている相手ってもしかして同じ……」


 大国だから恋愛事情が進んでいるとは限らないけど、サーズ姫様とクロは自分の将来像がもうハッキリ見えているってことなのかね。



「うっっははっはは~これやっばいよ~これなんかもうお酒とかじゃなくて~犯罪すれすれのガツーンとくるやつだ~!! うっひゃははは~おら~社長は私の男なんだから脱げよあっははっはは~」


 ローベルト様が最後、サーズ姫様とクロが同じ相手を狙っているって話をしだしたので詳しく聞こうと耳をぐいぐいそちらに向けていたら、とんでもなく酔っ払った水着魔女、ラビコが俺の下半身に突撃をかましてきた。


「おごっ……てめぇ、この王族様大集合の状況で脱いだら俺、三カ国またぎの犯罪者になんだろが、このクソ魔女……!」


 ジャージのズボンに両手をかけてきたラビコの腕を掴み、下半身を死守。


 こいつどんだけ飲んだんだよ……! マジでベロベロじゃねぇか。


「うは~また告白失敗しちゃった~……社長はガードかったいな~求める女のレベルが高いのかな~……私もっと頑張んなきゃな~……社長好みの女に~……ああ~社長の匂いは安心するなぁ……」


 ラビコの体の力がどんどん抜けていき、言葉の最後で俺の股間に顔を埋める。


 え、何このそれ系の動画でよく見たカメラアングルは。いや、俺未成年だから見ていないな、うん。


 つか俺のズボンを下げようとして失敗したのを、こちらの世界では告白を失敗したと言うのか? 多分ラビコ酔いすぎて自分で何言っているか分かっていないだろ。


「す~……すか~……」


 そして満足顔で俺の股間を枕にして寝るな。




「……マスター、食べてもいいです……か?」


 俺に寄りかかって寝てしまったラビコをベッドに寝かせようとしたら背後からバニー娘アプティの声が聞こえ、振り返ると彼女の前に大量のアップルパイと紅茶が並べられていた。


「あれ、いつのまにこんなに頼んだんだアプティ。まぁ今日はいいんじゃないか」


 確かにアプティはアップルパイと紅茶が大好物だけど、こんな多量に頼まなくても。歓迎会でアプティのテンションが上がったのかね。


 と思ったが、アプティがハイラとアーリーガルを指している。


 ああ、もしかしてあの二人が頼んでくれたのか。


 俺、ローベルト様のほうに付きっきりだったからな。気を利かしてくれたのかね。


 俺が頷くと、アプティがぴょんぴょん跳ね、無表情ながらも幸せそうにアップルパイを吸い込むように食べていく。



「……」


「……」


 ラビコとアプティの様子を確認するように見ていたハイラとアーリーガルが無言で頷き合い、サーズ姫様に顔を向ける。


 なんだ? まぁいい、まずは酔い潰れた水着魔女を俺のベッドに寝せないと。つかここ使われたら、俺今日どこで寝ればいいんだよ。



「……ラビコは酔うとすぐにあなたの元に行きたがりますね。酔った勢いで大胆に抱きついたりして……いいなぁ、私もお酒が飲めるようになったらやってみようかなぁ」


 幸せな夢でも見ているのか、すげぇ笑顔で寝るラビコに布団をかけていたら、宿の娘ロゼリィが手伝ってくれた。


 ラビコは抱きついてきたんじゃなくて俺のズボンを下げようとしてきたんですけど。


 酒乱みてぇな酔っぱらいの対処はラビコだけで勘弁して欲しいっす……。


 ロゼリィって今十八歳だっけ? ならあと二年後にお酒が飲める年齢になるのか。ロゼリィってお酒飲むとどうなるのかなぁ。

 

 急にエロ~い感じになって、脱ぎだしたりしたら……うん、それ最高だな! ぜひそうなってくれ。酔いつぶれても俺がしっかりロゼリィの面倒をみるぞ。


 ……気が付かれないようにちょっと、ほんのちょっとお胸様なんかを触らせていただくかも、ですが。それぐらいやってもバチは当たらな……犯罪? ああそうですか……。




「先生ー! なんだか体が熱くなってきたので、外の風を浴びたいですぅ」


 ラビコも寝かしたし、さぁてご飯でも食うか、と意気込んでいたらハイラがうっとりした顔で左腕に絡んできた。


「体が熱い? ハイラもまだ十九歳でお酒飲めないだろ?」


「お酒は飲んでいませんが、なんかー、人が多くて顔が熱くなってきてしまってー。夜に一人で外出るのも怖いし、先生と一緒がいいなぁ、と」


 ああそうか、会場である俺の部屋にはかなりの人数がいるからな。


 熱気とかで顔が熱くなってきたのか。人酔いの可能性もあるし、少しハイラを連れて外歩くか。


 時刻は夜二十二時半、結構長い歓迎会になっているな。まぁ楽しいからいいけど。





「初めてソルートンに来ましたけど、賑やかでいい街ですねー。ここなら先生と幸せな新婚生活が送れそうです!」


 結構な遅い時間だが、宿一階の食堂は多くの冒険者で溢れ、皆楽しそうにお酒を飲み、武勇伝を語っている。


 騒がしい宿から夜の風が吹く外に出ると、ハイラがニコニコ笑顔で俺の左腕に絡みついてくるが、新婚生活とかなんの話だ。



「あ、先生! 私、海が見たいですぅ! 王都にいるとなかなか海を見る機会がなくて……。先生と二人、人のいない雰囲気のある夜の砂浜を散歩したりして、そしたら流れ星なんかが見えたりして、二人は自然と見つめ合い流れ星に愛を語り、我慢しきれず吸い合うように口づけを……! ついには服を脱ぎ去り……! ……!」


 ハイラが大興奮で海への想いを語るが……後半愛だの吸い合うだの服を脱ぐだの、一体海で何が起こるんだよ。


 サーズ姫様もそうだったが、ペルセフォス王都は海に面していないからハイラも海への憧れが強いっぽい。


 

 ま、ちょっと砂浜歩いて帰って来るぐらいみんなに報告無しで大丈夫だろ。



「さぁ作戦実行地点へ向かいましょう先生! 今は仕える身なのでどうしても順番は私が二番手になりますが、それでも私は構いません! なんでもいいからとにかく早く先生と一つになりたいんですぅ!」


 宿を出て南にある夜の砂浜に向かい歩き出すが、なーんかハイラの言動がおかしくね?


 あー……いや、ハイラはいつもおかしい言動しているな。じゃあこれが普通か。



 しかし作戦実行だの二番手だの……まぁ俺の考えすぎだろう、うん。















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