第501話 お姫様お姫様お姫様 12 歓迎会開始と非公式三カ国会議様




「えーと、そ、それでは宿ジゼリィ=アゼリィプレゼンツ、俺の親戚(期間限定)とロゼリィの親友……の歓迎会を始めたいと思います……」



 夜十九時半、予定より三十分遅れたが、二組の来訪者の歓迎会が始まった。


 会場は宿一階の食堂ではなく、俺の部屋。




「プライベートとはいえ王族が三組も童貞少年の部屋に集まるとか、こ~んなおっもしろいことが起きてんのに何なのその暗~いテンションは~。あっはは~」


 俺の歯切れの悪い感じの挨拶に、水着魔女ラビコがニヤニヤ笑い俺の肩を叩いてくる。


 無茶言うな……こんな状況で一般人の俺がまともな挨拶出来るかよ。


 あとこの大勢の前で童貞とか呼ばないで。事実だけども。





 さて、状況を整理しよう。


 歓迎会に参加しているメンバーは以下の通りとなる。



 ──ソルートン組参加者──


 ・俺(街の人で童貞)


 ・ベス(俺の愛犬、部屋にいる人数の多さにちょっとビビってる)


 ・ラビコ(水着魔女、この国の王と同等の権力持ち)


 ・ロゼリィ(宿の娘、集まったメンバーで一番お胸様が大きい)


 ・クロ(魔法の国セレスティアのお姫様、ヤンキー、大股開きでしゃがんでる)


 ・アプティ(内緒だけど蒸気モンスターで銀の妖狐の妹さん)


 ・ローエンさん(宿のオーナー、ロゼリィのお父様、紳士)


 ・ジゼリィさん(ローエンさんの奥様でロゼリィのお母様、逆らえるのはラビコぐらい)


 ・正社員五人娘(一階からイケボ兄さんが作った料理を運んでくれている)



 ──ペルセフォス組参加者──


 ・サーズ=ペルセフォス様(この国のお姫様、ラビコと同じぐらい俺が尊敬している人)


 ・ハイライン=ベクトール(今年のペルセフォス代表騎士になった女性騎士、超優秀だけど言動が危うく暴走しやすい)


 ・アーリーガル=パフォーマ(ペルセフォスでトップの隠密騎士、イケメン王子フェイス、数歩歩けば女性が告白してくるレベルのモテメン、憎い)



 ──フルフローラ組参加者──


 ・ローベルト=フルフローラ様(花の国フルフローラのお姫様で盾騎士フォリウムナイト、ロゼリィと親友になったらしい)


 ・執事五人衆(これまたイケメン、ローベルト様が各地から集めた執事軍団)



 以上、ちょっと俺の偏見の説明も入ってしまったが、このありえない参加メンバー感がお分かりいただけるだろうか。


 ヒント、王族様が三人いる。


 俺の部屋に。



 そう、お姫様お姫様お姫様ってやつだ。





「…………」


「…………」


「…………」


 サーズ姫様、クロ、ローベルト様の王族トリオが壁に飾ってある俺のエロ本をチラ見するが、そういや片付けなかった。もう手遅れ。



 俺の部屋は縦長の作りで、広さは十二畳ほど。


 置いてあった家具、ベッドを端っこにずらし、なんとか全員が入れるように工面。サーズ姫様御一行の歓迎会の予定が、まさかローベルト様御一行まで来られるとは予想外すぎ。


 この人数で座る形式は面積的に厳しいので、高さのあるテーブルを運び込み、立食形式の歓迎会とした。壁際に俺の部屋にあったソファーと、椅子を並べて置いてあるので、お疲れの際はご自由にお休み下さい、と。


 あ、ただしベッドに腰掛けていいのは女性のみ、な。


 間違ってもアーリーガルやイケメン執事軍団は座んなよ。こんなに美人さん達が俺の部屋に集まるなんて滅多にないチャンス。このチャンスを利用しないで何が童貞だ、と。


 歓迎会が終わったら俺はこの部屋のあのベッドで寝る。


 俺は歓迎会の間、ベッドに座った女性と位置を目に焼き付け、夜にそのお尻様があった場所に顔を埋めてかつてここは古戦場であった、と個別に残り香を追い求めるロマンチストドリーマーにジョブチェンジする。


 違う違う、ドがつく変態じゃなくて夢追い人、つまりロマンチストドリーマーな。



 ……話題を変えるために料理の話をしよう。


 宿の神の料理人、イケメンボイス兄さんがかなりの気合いを入れて用意してくれ、テーブルの上は美味しそうなお肉系や魚系の料理が盛られたお皿が並び、見ているだけでヨダレが出るレベル。


 立食形式に合わせてくれたらしく、つまみやすい一口サイズ、手持ちのお皿で味が混ざりにくく傾けてもこぼれないようなジュレタイプのソース等、随所に配慮が見られる。


 特にデザート系に力を入れたらしく、ケーキやら果物やらの種類が半端ねぇ。


 普段この宿のご飯を食べている俺ですら驚くレベルのコースをイケボ兄さんが用意してくれた。本当にありがとうございます。まぁ三カ国から集まった王族様に料理を振る舞うなんて、そうそう出来る経験じゃないからなぁ。




「わざわざ歓迎会を開いてくれてありがとう弟よ……と、ここは事情を知る限られた人しかいないからその設定はいらないか。どうだ、そろそろ私の男にならないか? 私なら君の限りない無限に湧く欲を受け入れるし、君なら私の欲も受け入れてもらえるんじゃないかと……」


「おいてめぇ! 歓迎会だっってんだろ~! なにをいきなり私の男口説き始めてんだよこの変態姫!」


 とりあえず手に持った飲み物に口つけた瞬間、サーズ姫様がぐいぐい体を密着させてきて、耳元で囁いてくる。


 な、なんすかいきなり……。水着魔女ラビコがすぐに反応し、サーズ姫様を俺から引き剥がそうとする。



「ちっ……ハイライン=ベクトール、アーリーガル=パフォーマ、例の物を魔女に捧げよ」


「はいっサーズ様! ささラビコ様、こちらをどうぞ!」


「ラビコ様、今回王都よりお土産をお持ちしました。このお酒なんですが、ラビコ様でしたらこれが何かお分かりかと」


 サーズ姫様がラビコに舌打ちをすると、部下二人になにやら命令を下す。


 ハイラとアーリーガルがサーズ姫様と俺からラビコを引き離すように動き、きれいな緑色のお酒らしき瓶を掲げる。



「はぁ~? うっさいぞ変態部下共~! そこをどかないとこの部屋に雷を……」


 激昂したラビコが杖を持ち出し暴れ……ってやめろラビコ、ここに雷なんて落としたら全員やべぇって! 


「ってあれこのお酒~……うはっ、これデューエルブじゃん! すっごいの持ってきたな~これ飲んでいいの~?」


 体から紫のオーラを出し始め、こいつ本気で魔法放つ気かよってところでラビコが部下二人が差し出したお酒の瓶に気付き目を見開く。


 デューエルブ? 


 なんだそれは。


「これあれじゃ~ん、ペルセフォスが誇る超高級酒で~一本一万G以上はする貴重品じゃないか~うっは~どったのこれ~?」


 い、一本一万G以上……それって日本感覚百万円以上……とんでもねぇお酒があったもんだな。


「はい! なんと今回はサーズ様がお世話になっているラビコ様にと、デューエルブを二本お持ちしました!」


「デューエルブ、それは一滴飲むだけで全身に快楽を得られ手放せなくなり、楽しい夢だけを朝まで見続けられるという素晴らしいお酒です。引き換えにちょっと記憶を失いますが、それはまぁ、等価交換ということで……ささっラビコ様、ガブっと飲んでしまいましょう」


 ハイラとアーリーガルが上司を持ち上げる平社員のようにラビコのコップにお酒を注ぐ。


 なんかすごいお酒らしいが、アーリーガルが記憶を失うとか変なこと言わなかった?



「うっはは~さすがに初めて飲むなこれ~! 随分奮発するじゃないか変態のくせに~、んぐっんぐっ……これやっば~い! するする飲めて頭にカツーンってくる~あっはは~」


 注がれたお酒をぐいぐい飲みラビコが笑顔になる。


 まぁ……ラビコが暴れず静かになったからいいか。俺の部屋に雷落とされるのは嫌だし。




「……あはは……あ、これ本当に美味しい。ロゼオフルールガーデンにもこれぐらいの味のお店が出来るのか、楽しみだなぁ、あはは……」


 ローベルト様とイケメン執事軍団が部屋の隅っこに居辛そうに固まり、チラチラサーズ姫様を見ながら料理を軽くつまんでいる。


 こちらの都合でローベルト様も歓迎会に巻き込んでしまったが、身分関係なく楽しむプライベート旅行とはいえ他国の王族と一緒にって俺の配慮がなさすぎか。って、みんな突然来たしなぁ……でもせっかく集まったんだから、楽しくやりたいな。



「サーズ姫様、ご存知かもしれませんが、花の国フルフローラという大変美しい国を訪れた時お世話になったローベルト=フルフローラ様……」


「もちろん知っている。このような形でお会いするとは思わなかったが、色々背負った公式の場ではなくプライベートな場でお会いできたのは幸運だったかもしれない。ぜひとも一度本音で語ってみたかった人物だ」



 俺が隅っこに固まっていたローベルト様御一行をご紹介すると、サーズ姫様がニコニコと笑いローベルト様に手を差し出した。


「あ……ほ、本物……本物のサーズ=ペルセフォス様……! わ、私はローベルト=フルフローラという大国ペルセフォス王国の南に位置する小国、フルフローラから来た……その、田舎者でして……!」


 ローベルト様がロボットのような動きと、上ずったド緊張ボイスでサーズ姫様の手を握る。


 すごい萎縮しているが……同じ王族だけど、大国小国みたいな見えない力関係があるのだろうか。



「おぅ、そういやこないだは世話になったな。あのときは名乗れなかったけどよ、この歓迎会は非公式、全員お忍び旅行なんだからバラしても大丈夫だろ。なんか問題起きたらキングがなんとかしてくれンだろーし、つかそのほうがトラブル起きて面白ぇしな、ニャッハハ! よぅローベルト=フルフローラさん、アタシはクロックリム=セレスティアだ。よろしくな」


 サーズ姫様の横に猫耳フードをかぶっていない、顔をモロに出したクロがヤンキー歩きで威嚇しながら近付き名乗る。ワザとじゃなくクロは普通に歩いたらこうだし、口調もヤンキーなんだよね。


 お前……王族様に失礼なことを言うが、マジで外交向きの性格じゃねぇな……。まぁ、そうやって王族だからって形式張らなかったり、思ったことそのまま本音で語るところは好きだけどさ。


 そして名乗ったほうがトラブル起きて面白いって、すげぇこと言いやがったな……。それ、俺が苦労するやつじゃん。


 一応皆さん非公式のお忍びで来ているみたいだから、同じ立場として騒ぎを大きくするようなことは全員しないと思うが……。



「……ハ!? セ、セレスティア……セレスティアぁぁぁ!? ク、クロックリム=セレスティアって、魔法の国セレスティアの女王、サンディールン=セレスティア様の妹君で第二王女であられるクロックリム=セレスティア様……!? そういえばフルフローラではフードとゴーグルかけていた女性がいたけど……あなただったとは……。わ、私田舎者の分際で失礼なことをしなかったですか……!?」


 目の前に立つ二人の女性の出身と身分に驚き、ローベルト様が口をあんぐり開けて狼狽える。


 花の国フルフローラの王都を訪れた時、クロは猫耳フードをかぶってゴーグル付けてて名乗らなかったからな。



 つか大丈夫ですってローベルト様。


 クロは見ての通りこういう人なんで、細かいことは気にしない系ですよ。失礼なことをしなかったか、についてはうちのクロが大股開きでしゃがんでいたり、ヤンキー口調だったり、こいつが一番失礼な態度取っているんで。



「た、大国ペルセフォスのサーズ様に大国セレスティアのクロックリム様……ど、どうしようイエロ……私、花の種トークぐらいしか面白いお話出来ないぞ……! お土産だって向こうは一万Gのお酒二本とかなのに、こっちはせいぜい百Gぐらいの紅茶の葉しか持ってきていない……」


「お、落ち着いてくださいローベルト様。お土産は値段ではなく気持ちです。お金の数字での争いに持ち込むと我がフルフローラでは絶対に勝てません。そこは上手く誤魔化していただいて、あと花の種トークはやめましょう。あれ、面白くないですから」


 真っ青な顔になり、半泣きで後ろを振り返り執事の一人にすがるローベルト様。


 さすがに執事達も震えているが、リーダー格っぽいイエロさんってのは話の分かるイケメンっぽいな。




 なんか大変なことになって来たが、とりあえず分かったことは、ローベルト様の持ちネタである花の種トークは面白くないそうだ。












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