第500話 お姫様お姫様お姫様 11 花の国フルフローラからロゼリィの親友来訪様




「イケメン……イケメン軍団……」


「……きゃあ! すごいイケメン集団よ!……」



 王都からお忍びでソルートンに来ているサーズ姫様御一行。


 街を見たいというのでサーズ姫様、ハイラ、アーリーガルと順番に俺が案内し、さっき宿に帰還。



 この後十九時あたりから俺の部屋でサーズ姫様達の歓迎会を開くことになっているのだが、イケメンボイス兄さんの気合いの入りようがすごく、かなり豪華な料理が振る舞われるようだ。


 今回の歓迎会の費用は俺とラビコ持ち。普段お世話になっているサーズ姫様に感謝を込めた歓迎会なのだから、ケチったりはしないぞ。嫌がっていたラビコもキチンと半分負担してくれたし、豪華にいこうじゃないか。


 身分を隠しお忍びで来ているサーズ姫様達の歓迎会なので、誰でも参加出来るわけではないのは申し訳ない。残念ながら、宿の常連の世紀末覇者軍団達は参加出来ない。つかさせない。だってモヒカン一号が絶対情報漏らしまくるだろうし。



 そんなわけで事情を知っているこの宿のオーナーであられるジゼリィさんローエンさん、宿の神の料理人イケメンボイス兄さん、正社員五人娘に手伝ってもらい着々と準備が進められている。


 それ以外の宿のスタッフには俺の親戚という扱いになっているので、多少の特別扱いも納得してもらえるのでは。



 実はさっきサーズ姫様達が宿のお風呂を普通に利用されたので、居合わせたお客さんはラッキーでしたね、と。一応故障中とかの理由でサーズ姫様達が入っているあいだは規制しようかと思ったのだが、それはサーズ姫様側から断られた。宿に迷惑はかけたくないので普通のお客として扱ってくれ、と。


 サーズ姫様とハイラが温泉を利用している間、なんとか宿の従業員特権で女湯に侵入出来ないか画策してみたが、鬼と化したロゼリィが背後に現れ無理だった。無念。



 アーリーガルが入っている男湯にはフリーで入場出来た。


 ええ、ええ、彼は顔ばかりでなく、その肉体もイケメン王子でしたよ、と。


 顔はイケメン王子、体は鍛え上げられた逆三角形、性格は温和そのもの。街を歩けば若い女性から黄色い声が飛ぶ、俺とは正反対のモテモテ人生を歩んでいる彼だが、俺と共通点が一つあって、なんとアーリーガルも俺も童貞なんだよね。


 あんなに毎日モテているイケメンが童貞か……じゃあ俺なんてどうすりゃいいんだよ。


 せめて俺に夢を与えてくれよ王子。





 歓迎会の準備も整い、そろそろ……というところで宿一階の混み合う食堂がざわつき始めた。主に女性たちが。


 な、なんだ? 確かに王子フェイスアーリーガルは騒ぎが起こるほどのイケメンだが、軍団に集団? 


 アーリーガルはソロイケメンであって、ユニット・グループは組んでいないぞ。




「間違いありませんローベルト様、こちらがジゼリィ=アゼリィ本店のようです」


「そうか! ここが憧れの宿ジゼリィ=アゼリィ! 彼等がいるといいが……そこのメイド服店員! 彼女は、ロゼリィ=アゼリィ嬢はいるだろうか。フルフローラから親友が訪ねてきたと伝えてくれないか!」



 執事っぽい服を着たイケメン五人衆を従え、ちょっと深めにフードをかぶっていた女性が正社員五人娘の一人オリーブをつかまえ吼える。


 フルフローラからロゼリィの親友が来た? 誰だろうか……いや待て、イケメン執事が彼女のことをローベルト様と言ったぞ。


 ローベルト様ってもしかして……



「え……え、え!? ほ、本当にローベルトさんがソルートンに!? ど、どうしたのですか!?」


 サーズ姫様の歓迎会の準備で右に左に走り回っていた宿の娘ロゼリィがオリーブに呼ばれ、その女性と対面。


 目を見開き驚くロゼリィ。あの反応は、やっぱ本物なのか……。



「あはは、良かったいてくれたか! 騒がしかった君等がいないとフルフローラは本当に静かでな、楽しかった時間が忘れられず会いに来てしまったぞ!」


 銀の妖狐の島から脱出したあと、商売人アンリーナの提案で花の国フルフローラ、水の国オーズレイクを観光で回ったのだが、そこで知り合った花の国フルフローラのお姫様であるローベルト=フルフローラ様。優しく気さくな人で、知り合ったばかりの庶民である俺達にも笑顔で接してくれた。


 お城近くにあった光る桜で有名なロゼオフルールガーデンという自然公園でカフェを開くことになったのだが、その時以降ロゼリィとローベルト様が急に仲良くなっていた印象。



「どうだ、彼はモノに出来たか? 親友のためならばこのローベルト=フルフローラ、一肌脱ぐぞ!」


 ローベルト様が大きな声で吼え、自分の胸を叩く。


 フードをかぶっていたり、どう考えても非公式のお忍びでここに来たっぽいのに、大声で王族名出すのはまずいんじゃ。イケメン執事五人衆のせいで注目浴びているし、ちょい誤魔化すか。



「ロゼリィ! 親友のロベルト=フローラさんを事務所に案内してあげてくれ! ラビコも手伝ってくれ! アプティにクロも事務所に集合! セレサ達は今ここにいるお客さん全員に紅茶ポットを俺のおごりで振る舞ってくれ! 以上行動開始!」


「社長ってば人使い荒い~ったく~。おら~聞いていただろ、動けお付きの執事共~」


 俺がわざと似た名前を呼び、さっき本人が名乗った名前とどっちが正解か分からなくする。そこに紅茶ポットが無料で配られたらそっちに気がいって、本人達もここからいなくなったらこの話題もなくなるだろう。

 

 皆に指示を出すと、すぐにラビコ達が反応して動いてくれた。助かる。


 サーズ姫様が来ているだけでも手一杯だってのに、ローベルト様まで来られるとは……。なんというタイミングで来るのか……。




「おおおおおおおおおおお! 本物……! 本物のジゼリィ様! 目が、目が癒やされる! ぜひ肉体の感じも味わっておきたいぃぃぃ!」



「……これは一体どういうことだい? 何人この宿に王族が来るのか……ってなんだいこの子は! 人の体にまとわりついて……女に尻を触られる趣味はないんだよ! この……離れろ小娘! これ本当にフルフローラのお姫様なのかい!? この妙な動き……偽物じゃないのかい!?」



 宿入り口で王族名を出され、騒ぎになったらまずいと誤魔化しローベルト様御一行を宿の事務所にお連れした。


 サーズ姫様に続き今度はフルフローラの王族と聞き、この宿のオーナーであるローエンさんが困った顔をし、奥様であられるジゼリィさんが王族相手だろうが容赦のない言葉を浴びせる。


 娘であるロゼリィはおろおろするばかり。


 つかジゼリィさんはマジ精神つぇぇわ。


 ローベルト様はジゼリィさんをキラキラした目で見て、大興奮で抱きつきジゼリィさんの体を執拗にまさぐる。



 ローベルト様は花の国フルフローラを代表する盾騎士、フォリウムナイトの一人。同じ盾使いとして有名な元勇者パーティーの一人ジゼリィさんに憧れを抱くのはまぁ分かるが、なぜエロい感じでジゼリィさんの体を触りまくるのか。

 

 うーん、女性同士のこういうシーンを眺めるのは貴重だし、結構いいものだな……。


 頼むから娘であるロゼリィにそれをやってくないですかね。僕、ロゼリィのちょっとエロい声を聞きたいです。もちろん脳内録音して永久アーカイブ化しますし、夜の一人DEナイトフィーバータイムに使いたいのです。



「このっ……顔押してもビクともしないとか……体の重心の使い方の上手い子……! この動き、あんた防御系の専門だね? そうか、フルフローラの盾騎士ローベルト=フルフローラ……あのちびっ子が成長したのかい」


「おおお! 覚えていてくださいましたか! そうです子供の頃一度だけフルフローラで言葉を交わしました! 我等フルフローラの騎士は全員ジゼリィ様の活躍に心踊らせ、その生き様に憧れを抱いております! このローベルトも同じくジゼリィ様に憧れを抱く一人で、ぜひともご指導を頂戴したく……あと下着を一枚頂きたく……!」


 顔を押されようが足払いを喰らおうがビクともせず、ローベルト様は蛇のようにジゼリィさんに絡みつく。


 すげぇなこの人……ジゼリィさんの強めの攻撃を平然と受け流せるのか。さすが盾騎士。


 あと最後に下着が欲しいって言った? 


 そういやフルフローラでもそんなこと言っていたが、ブレずに本人目の前にしても言うとか、この人一貫してマジモンのやべぇ人じゃん。



 水着魔女ラビコは超面白いことが起きたと大爆笑だし、猫耳フードをかぶったクロもゲラゲラ笑いこの光景を見るばかり。


 立場的にこれを抑えれるのは、ペルセフォスの王と同じ地位を持っている水着魔女ラビコか、魔法の国セレスティアのお姫様であるクロぐらいしかいないのだが、お前らが率先して笑いSE担当の野次馬になるなよ。



「……すんすん……マスター……極上の紅茶の香りがします……あの入れ物……あの入れ物です……守り手は五人……秒で粉砕出来るレベル……奪ってマスターと結婚の紅茶にします……」



 俺の後ろで興味なさそうに突っ立っていた無表情バニー娘アプティだが、執事五人が大事そうに持っている豪華な装飾が施された缶を見た途端、無表情ながら興奮気味に飛び跳ね、戦闘の構え。


 お、おい……落ち着けアプティ! 俺には何も香りが伝わってこないが、よくあの中身が分かるな。


 まぁ花の国フルフローラから来た、お土産っぽい物を持っている、この二つのキーワードから導き出される答えは贈答用の紅茶なんだろうけど。


 ってアプティさんちょっと目が紅く光ってるやん! 蒸気は出していないが、なんで急にマジ戦闘モードになってんだよ。


 多分あれ、お土産でいただけるものだろうから、襲って奪い取る必要ないって!



 なんとかアプティを後ろから羽交い締めにし動きを抑えるが、アプティの言う結婚の紅茶って何?


 もう……ペルセフォスのサーズ姫様に花の国フルフローラのローベルト様が同時に宿に来るとか、俺の貧弱な容量のトラブル対処能力じゃ対応出来ねぇっての……。












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