第497話 お姫様お姫様お姫様 8 女性陣に先に読まれたエロ本と俺の屈折性癖疑惑様




「ちっ……クソ変態姫が~私の男になんもしなかっただろうな~。社長さ、ちょっと下半身露出させてみて~? 確認するから~」



 平和的に案内を終えサーズ姫様と宿に帰ると、入り口横の足湯近くに水着魔女ラビコが鬼のごとく立っていて、俺を見つけるとダッシュで駆け寄りジャージのズボンをパンツごとずりおろそうとしてくる。



「や、やめろラビコ! なんもねぇって! つーか毎回思うが見て何が分かるんだよ!」


 俺は慌ててラビコの手を掴みズボンを死守。


 お昼のお得なランチメニューがある時間で宿一階の食堂は混み合っている+足湯にも多くの利用者がいるのが見えねぇのかよ!



「ちぇ~いいじゃんちょっとぐらい見せてくれても~。昨日の夜はアプティに見せたくせにさ~。てか毎日でしょ~?」


 ラビコが頬をぷっくり膨らませ、不満そうにサーズ姫様を押しのけ俺の右腕に絡んでくる。



 あのな、アプティに見せたんじゃなくて、アプティが深夜勝手に俺の鍵のかかった部屋にどうやってか侵入してきて無言で俺のワンマンライブを眺めていった、な。


 にしてもなんでアプティはわざわざ俺がする時間帯を見計らって、狙いすましたかのようにライブ中に背後に現れるのか。だいぶ慣れてはきたけど、出来たら見られたくないんですが。


 ほら、たまに興奮のあまり変な声が出てしまうこともあるだろ? 


 え、変な声は普通出ないし、見られるのが嫌ならやめろ? 


 無茶言うな。


 これだけ毎日魅力的な女性に囲まれて、溜まらないわけがないだろう。俺は毎日する。声もちょっと出す。だって俺は生きているのだから。



「……マスターのは……すごいです……」


「ほぅ、アプティ殿は毎日君のを見せてもらっているのか。それは羨ましいな。私もその会に有料でも構わないから参加したいところだ、はは」


 ラビコに押しのけられちょっと不満そうだったサーズ姫様が、俺の背後に急に現れた無表情バニー娘アプティを羨望の眼差しで見つめる。


 会、ってなんですか。俺の深夜の想像の翼感謝祭に有料も無料もねぇっすよ。


 つか見に来ないで、そっとしておいて……。


「アタシも見てぇ。金払えば見れンのか? アプティがいっつもキングのすげぇって言ってるからよっぽどなンだろうし、アタシだってキングの女なんだから見る権利あンだろ」


「わ……あの、私も見た……いです」


 宿に入ろうとしたら、猫耳フード付きロングコートのポケットに両手を突っ込み、重心後ろの肩で歩く感じのザ・ヤンキー歩きでクロが近付いてくる。


 その後ろにこの宿の一人娘ロゼリィも付いてきていて、顔を下に向け、恥ずかしそうに呟く。


 猫耳フードのクロはただの怖いヤンキーだけど、ロゼリィの今の感じはいいな……大人しい文学少女なんだけど、ちょっとエッチィのに興味あるみたいなやつやん! 



「おかえりなさい先生! なるほど、ではこういうのはどうでしょうか! 今夜先生のお部屋に集まって私達の歓迎会を兼ねて騒ぐというのは! 先生には一発芸として脱いでもらって……」


「誰が歓迎会で脱ぐか! しかもハイラさん、一発芸ってこの状況で言うと違う意味にも思えてエロくね? ……っていうのはウソで、そういえば皆さんの歓迎会をやっていなかったですね。では今夜、俺の部屋で盛大に歓迎会をしましょう。俺とラビコのおごりで開きますよ」


 宿から飛び出てきた女性版オレンジジャージを着たハイラが左腕に絡みついてくる。


 そういやサーズ姫様達の歓迎会をやっていなかったな。その提案採用だ。


 宿の一階食堂じゃ他のお客さんの目があるけど、俺の部屋でなら俺の親戚設定じゃなくいつものサーズ姫様達として迎えられる。



「あ、それいいですね。分かりました、すぐにボーニングさんに言って、用意をお願いしておきます」


「お、やったぜキングの部屋でタダ飯だ! 酔ったフリして襲いかかンのもいいな!」


「はぁ~? なんで私が変態におごらなきゃいけないのさ~。社長って変態組に優しすぎると思うんです~」


「……紅茶……」


 俺の発案にロゼリィが笑顔で厨房に走り、クロが危ない思想を口走る。お前は十七歳でお酒飲めねぇだろ。


 水着魔女ラビコは露骨に嫌な顔をするが、サーズ姫様はお前の親友なんだろ。ちょっとはお金出せ。バニー娘アプティさんは興味無し無表情だけど、リクエストの紅茶があれば喜んでくれるのだろう。




「いやーなんか申し訳ないなぁ。急に押しかける形になったのに歓迎会を開いてもらえるとは。あ、さっき君の部屋にみんなで行ったけど、前回来たときには無かった増築したほうに部屋を作ったんだね」


 ニコニコ笑顔のイケメン王子フェイスアーリーガルが近付いてきたが、こいつがソルートンに来たのは宿の増築前だったっけ。


 ……ん? 今アーリーガルさん、みんなで俺の部屋に行ったって……?


「あ、ごめんよ止められなくて……サーズ様以外のみんなで君の部屋に行って、例のエロ本をみんなで見てきたよ。その、なんていうか、意外にも普通のやつで安心したよ。てっきり君のことだから、結構な特殊性癖系の本かと思って身構えたんだけど、ただの風景と一緒に女性の裸を撮ったやつで……」


「そうですよ先生! なんなんですかあのエロ本は! 正直期待以下でした! 先生ならもっとドス黒い救いようのない系のジャンルかと思っていたのに!」


 アーリーガルが本当に申し訳なさそうに謝っていたら、ハイラが突如怒り出す。


 あ……そういや俺のエロ本見るとか言っていたけど、マジで俺の部屋であのロゼリィに封印されしエロ本を読んだんですか。なんで持ち主の俺がいまだに熟読出来ていないのに、女性陣やらアーリーガルが先に読んでんだよ。


 あと君等さ、俺にどんなイメージ抱いてんだ。


 そんな特殊性癖持ちに見えるような行動したっけ? 俺は普通、いたってノーマルな少年ですって。


 それよりハイラの言う、ドス黒い救いようのない系のジャンルって、具体的に何? ハイラさんはこれ系に博識なんすかね。



「なんかもっとえげつない感じの、見た瞬間顔を手で覆いたくなるようなドギツい性癖のエロ本かと思ったら、普通にちょっと胸とかお尻とかを露出させているだけのつまらないやつでガッカリしました。先生ならもっと屈折した、私しか応えてあげられないような性癖を期待していたんですが……」


 なんでハイラはそんなに俺に屈折した性癖を望んでいるんだよ。


 俺はちょっとお胸様とかを見せていただけるだけでじゅうぶんな、とっても純粋な少年ですよ。


「あんなのエロ本じゃないですよ先生! 騙されちゃダメです! あの程度R15ぐらいの風景写真集です! ね、アーリーガルさん!?」


「え? ぼ、僕!? どうしてここで僕に話が……いや、うーん、確かにあの中身なら十五歳以上なら大丈夫なような」


 なんだかハイラが俺のエロ本に激昂しているんだけど、なんなのこの子……。


 ハイラってこんな弾けた子だっけ? 出会った頃は結構モジモジちゃんだったような。ああ、休暇を取って旅行に来ているから、普段出来ないようなことをしようと気が大きくなっているのかもしれないか。


 ……いや思い返すと、騎士を辞めてソルートンに行くとか言い出したり、ペルセフォスの駅に俺達が着いたらどんな体内レーダー積んでいるのか正確に感知し、飛車輪でぶっ飛んできて俺を上空へかっさらうような自分に素直な元気っ子だった。


 エロ本の中身、まぁ表紙から想像はしていたけど、やっぱそれ系の当たり障りのない系か……。あとさ、他の男に先に読まれたエロ本を俺が読もうとしたら、それは人妻に手を出したってことになんの? よく分からんが、なんか複雑な男女関係を背負ったエロ本になってしまったぞ。



 面倒だから言わないけど、あれは俺が自分で好みのを買ったわけではなくて、アプティが俺へのプレゼントとして世紀末覇者軍団達に相談して買ってくれたやつなんだよね。


 だからあのエロ本は俺じゃなくて世紀末覇者軍団の好みってことだと思うんだけど。


 ……いや待てよ、見た目ゴツイ世紀末覇者軍団がそんな刺激の少ないエロ本を好むか? 否、あいつらこそドギツい系のが好きだろ多分、多分絶対。イメージだけど。


 ああ、あれか。好意的に考えると、俺の年齢考えて、長いエロ本人生の一冊目の入門編として優しい感じのをオススメしてくれたのかね。


 つか十六歳の少年にエロ本勧めること事態が犯罪なんだろうけど。


 見た目通りやんちゃな奴らだぜ。




 これ以上混み合う宿の入口で騒ぐのは目立ってやばいので、ラビコとサーズ姫様の手を引っ張り食堂へ。このメンバーだと、この二人抑えときゃなんとかなる。


「ちょっと社長~私だけならまだしも、変態と一緒に宿に連れ込むってどういうこと~。こんな変態と両天秤にかけられるのは納得がいかないんですけど~」


「おっと、やっと私と強い子を残す気になってくれたのか。昼からスタートで朝までコース……いいだろう。私はそこのひょろい魔女よりは体力に自信があるし、君と長くロマンスを楽しめると思うぞ、はは。しかしこの私とラビィコールを同時に宿に連れ込める男はこの世界で君だけだろうな」


 なんか二人が言っているが無視無視。


 突っ込み入れると余計に話が膨れ上がりそうだし。


 腹減ったし、昼ご飯にしましょうよ、と。





「ではお昼からはついに私の出番です! 長かった……何度私は一人寂しく朝を迎えたことか……でもそれも今日で終わりです。明日からは先生と裸で抱き合いながら朝を迎える毎日を送れるのです! 行きましょう先生、二人の愛が花開き思わず子孫が出来ちゃう場所を求め旅立つのです!」


 とりあえずお昼を食べ終え、食後の紅茶をみんなで楽しんでいたら、急にハイラが立ち上がり吼えだした。


 や、やめろよハイラ……混雑している食堂内のお客さんが全員何事かとこっち見ているじゃねーか。



「愛人不倫現地妻……過去の女性達のことはとやかく問いません。私なら他の女性が逃げていった原因の先生のちょっと屈折した愛だろうと全て受け入れ、心も体も満足させてあげることを誓います!」


 うーん、うーん……ここまでハッキリ言われるってことは俺って屈折した性癖持ちなのかな……。普通にちょっと女性のお胸様とかが見えただけで大喜びで、それを目に焼き付けて部屋に帰って、深夜感謝のお祭りをソロで開催するぐらいなんだけど。


 ちょっと変な声も出すけど、普通、だよな? 


 あと愛人とか不倫とか現地妻とかありえないから。だってそう呼ぶ条件である本妻がいねぇんだぞ。それ以前に童貞だし。……これも十六歳なら普通だよな? な?



「さぁ先生、ラビコ様から指定された十五時までに二人の愛の巣を見つけて契約してきましょう! ソルートンの家賃の相場ってどのぐらいか分かりませんが、どんなに部屋が狭くても二人の愛は無限に広が──」


 女性版オレンジジャージを着たハイラが元気に吼え、俺をぐいぐい引っ張る。


 家賃? 愛の巣? え、俺がソルートンの街を案内するだけじゃないの?



 猫耳フードをかぶったクロが紅茶を雑に飲みながら、何言ってんだこいつ、的にハイラを見ているが、出来たら俺もそっちの普通の感覚の世界に行きたい。










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