第496話 お姫様お姫様お姫様 7 サーズ姫様とトラブル無しソルートン巡り様





「えっと、ここが港の裏にある安めの商店街で、住宅街は街の北側に集中している感じです。中心街にちょっとお高めのお店があって、子供向け騎士体験教室を開いてもらった冒険者センターも中心部にあります」



 朝ご飯を終え、俺はサーズ姫様とソルートンの街を散策することに。



「随分と他人行儀な言葉を使うのだな、君は。姉である私にはもっと耳元で愛をささやく感じでお願いしたいのだが?」


 大きなサングラスをかけ、青系のシャツに白いヒラヒラのスカート、白いお高そうな肩掛けバッグという格好のサーズ姫様が、ニヤニヤと笑い俺の右腕に絡んでくる。


 ふぉぉ……腕に素晴らしい感触……。


 サングラスで少し顔が隠れているからパッと見でサーズ姫様だとは絶対に分からないだろうけど、どう見ても美人さんなのと、大きなお胸様だったり、あの真面目男アーリーガルを虜にした大きく美しい形のお尻様の持ち主なので、周りの男達の視線がすげぇ。


 頼むから浮気だの不倫だのと、童貞の俺の変な噂は流さないでくれよ。




「あのサーズひ……ね、姉さん……普通の姉弟って腕組んだり耳元でささやいたりしないんじゃ……」


 お忍びでソルートンに来ているサーズ姫様御一行の正体がバレないように俺の親戚と設定したのだが、どうにもその設定が気に入ったらしく、サーズ姫様がノリノリで姉を演じてくる。


 ラビコよろしく、俺のザ・童貞な反応が楽しくて遊んでいるんだろうけど。


「はは、普通とはなんだ? 私にはリアル弟であるリュウルがいるが、小さい頃はよくフォウティア姉さんと二人で裸にひんいてお風呂に入れてあげたものだ。そうしたらリュウルがよく私の耳元で「も、もうやめて下さい……」と涙声で言ってきてな。あれは心たぎるものがあったな、ははは」


 こ、この人……。


 そういやお城でサーズ姫様のおパンツをくれた弟君であるリュウル様は、純粋でおとなしい感じの性格だったな。多分そこに付け込まれてサーズ姫様とかに色々されたんだろうなぁ……正直……羨まし、いや、かわいそうに。



 水着魔女ラビコがよくサーズ姫様のことを変態と呼ぶが、そういうリュウル様への行為を指しているのだろうか。


 俺との姉弟設定にノリノリなのは、普段からやっているからか。


 結局サーズ姫様のおパンツはロゼリィに取り上げられてしまったが、あれ、どうなったのかなぁ……捨てていないのなら返してくれないかなぁ。




「あれ兄貴、また新しい女っすか? 取っ替え引っ替えでさっすがだなぁ。あ、あれっすか、話題のサーズ様と同じ大きさの巨乳ちゃんを選んでナンパしてサーズ様とデート気分ってことっすか! ヘヘ、なんにせよ兄貴自慢でまたあちこちに言いふらしておきますぜ。やっぱ俺の兄貴はすげぇんだって」



 今度王都に行ったときリュウル様にお願いして新たな至高アイテムをいただけないか頼んでみよう、とか考えていたら、こないだ一緒に趣味の登山をしたモヒカン頭の世紀末覇者軍団の一人がサーズ姫様の大きなお胸様をジロジロ見て笑顔で走って行った。


 お、おい待て! お前か……お前なのか俺の妙な噂を流して広めているヤツは! 


 つかお前すげぇな。遠くからちょっと見ただけのサーズ姫様の胸の大きさを目測で正確に測れたり、俺の横にいる女性がそのサーズ姫様だとは知らないのに胸の大きさが同じだと一瞬で分かったり。


 俺は靄の先がちょっと見える千里眼とかじゃなく、エロに数値極振りしたお前のその目が欲しい。


 真実を言える日が来るのか分からないが、お前が今舐めるような目で見ていた女性が本物のサーズ姫様なんだぞ。



「君の新しい女、か」



 やべぇ、さすがにサーズ姫様の気分を悪くさせてしまったか。


 どうすんだよモヒカン一号! 


「はは、気分がいいぞ。やはり分かる人には分かるものなのだな。私と君が姉と弟ではなく、恋人同士なんだと。二人の出す空気、なんだろうな。ははは」


 ああ、良かった……サーズ姫様がちょっとおかしい思考の人で。





 サーズ姫様と二人、のんびりと住宅街から商店街、港を見て回る。



「王都住まいのサ……ね、姉さんからしたらソルートンなんて見てもつまらないんじゃないですかね……」


 さすがに王都ペルセフォスと比べられるような街じゃないしな、ソルートンは。


 人口も少ないし、規模も小さい。目立った観光スポットも無いし、本当に普通の街の風景をサーズ姫様と歩いている。


「はは、君と二人きりなのだ、どこだろうと楽しいさ。それに王都は内陸にあるから、海があるこのソルートンの風景が新鮮で楽しい」


 サーズ姫様がニコニコと言う。


 そうか、王都は海に接していない内陸にあるもんな。確かにそれは王都にはないソルートンの強みかもしれない。



「もうお昼近いのか。君と一緒だと楽しくて時間の経過が早く感じてしまうな。では最後にソルートンの砂浜を下見がてら見たいのだが」


 港をのんびり歩いていたら、サーズ姫様が南のほうを指す。砂浜か、確かにそれも王都には無いものだな。


 下見、の意味は分からないが。




「ここですね。今はちょっと混雑していますが、夜になると人もほとんどいなくなって、海の波の音と綺麗な星空が楽しめるいい場所になりますよ」


 お昼直前、砂浜到着。


 今日は天気もよく気温も高めのせいか、ソルートン南側にある砂浜は結構な混雑。


 水着姿の女性がたくさんいますな。うーん、星空もいいが、俺にはこっちのほうが素晴らしい景色に見える。


「なるほど、夜か。では人がいないというそのタイミングで実行しよう。それ用の物は持ってきたが、さすがに水着は持ってこなかったな。君を誘惑するのならそちらも持ってくるべきだったか。この通り中は普通に下着でな、はは」


 サーズ姫様が俺の視線の先にいる水着女性に気が付いたらしく、シャツの胸元をぐいっと開き、大きなお胸様を優しく包んでいるおブラジャー様をチラっと見せてくる。


 うおおおおおおおおおおお!


 ありがとう太陽! 砂浜! そして海よ! 


 俺は今この瞬間生きていることに喜びを……人のいないタイミングで実行? それ用の物は持ってきた? サーズ姫様は何か休暇中にやりたいことがあるのだろうか。


 俺でよければ全力で手伝いますぜ! おブラ様も見せてもらえたし!



「ね、姉さん! 人の多いところでそういう行動は……」


 心とは全く正反対の紳士ぶった言葉が出たが、童貞なんてこんなもんすよ。


「はは、別に君に見せるのに抵抗は無いが、他の男性に私の下着を見られるのは君が良い気がしないか。すまなかった、君の女として自覚が足りなかったな」


 面白いからってモヒカン一号が言った俺の新しい女ネタを引っ張らなくても……そういうことじゃなくて、公の場でエロっぽい行動はあかんってことです。



「にしても、普通に街を見て回ったぐらいで宿に帰る時間になってしまいましたけど、よかったんですかね……」


 てっきりおしゃれなカフェとか、中心部にある高級なお店でも行くのかな、と思っていた。


「そうだな、君とならすぐにでもホテルに行って「ご休憩」というものを利用してみたかったのだが、お昼までという制限では、若くパワーのある君とだと短いような気がしてな。それはまた時間が多めに取れる別の機会にトライさせてもらうよ、はは」


 ご休憩……な、なんのことですかね、それ。


 うーん、もし俺が女性とそういう状況になっても、初めてなもんだからって一人興奮してわけわかんなくなって、すぐに出……って何を言わすんだ! 


 ち、違うぞ、興奮してどうしていいか分からなくなって、すぐにホテルを出てしまうって意味な。変な誤解はよしてくれよ。



「──私がどうしても見たかったのは、ソルートンの街の復興具合だったんだ。銀の妖狐の襲撃でこの街は相当の被害を受けたからな。街はこうして直せるが、人の命はそうはいかない。人的被害が出なかったのは奇跡としか言いようがなく、本当に君の活躍には感謝している」



 あ……す、すいません俺一人エロい想像していました。真面目なお話だったのか。


「街の建物が直っても、また襲われるかも、この街は危険なんじゃ、と考え街を離れる人や、住んでいる人も不安を抱え笑顔が消えていく。そうなるのでは、と心配していたのだが、君が身を削り街に色々な明るい話題を振りまき、ソルートンの宿ジゼリィ=アゼリィを王都にまで知れ渡る存在にした。結果ソルートンの住人に笑顔が戻り、観光客が異常なまでに増えた。毎日お城にソルートンに行く交通の便について改善の要望書が多量に届くほどなんだ。蒸気モンスターに襲われた街は衰退していくことが多かったのだが、これほどまでに右肩上がりで発展していく街は見たことがない」


 サーズ姫様がじっと俺の顔を見て言うが、そういえば以前、俺が宿に家を作ったとき、世紀末覇者軍団があんたがこの街に住むならソルートンは安泰だな、俺もここに家を作ろうかなとか言っていたな。


 今は王都のカフェで料理を作っているシュレドは海を越えたケルシィという国にいたのだが、彼を迎えにいったときに見たケルシィの状況はあんまり良いものではなかった。


 ラビコ曰く、次々と若者がケルシィからペルセフォスに移っていっているとか。


 蒸気モンスターに怯える生活。それは耐え難い苦痛だろう。


 安心安全安定を求め移り住む人の気持ちはよく分かる。


 ジゼリィさんやローエンさんだって子供が安心して暮らせる街や国や世界を求め、小さかったロゼリィを宿に置いていくという辛い決断までして街を離れ、世界を巡り蒸気モンスターと戦った。


 そりゃあ住むなら安全で、ある程度発展しているところがいいしな。


 あと……俺が身を削り明るい話題を振りまいたってとこですが、愛人だの不倫だの浮気とかのことですかね。だとしたらさっき見た通り、世紀末覇者軍団の野郎どもが勝手に広めたものであって、正直俺の心は粉砕ブロークン状態なんです。


 俺の世間体? んなもん回収不可能レベルまで潜っていきましたよ。



「昨日ソルートンの代表者達と話し合い、最終確認も済ませてきた。もう少し時間はかかるが、完成すればこのソルートンはさらなる発展が望めるだろう。そしてこれら全てのプラス案件は一人の男の行動が起こした、まさに奇跡。そう、世界レベルで集客力のある宿を育て運営し、あのルナリアの勇者達さえ倒せなかった銀の妖狐の襲撃から人的被害ゼロで街を守った。これがどれほどすごいことか……私は君の名を世界の歴史に刻み、後世にまで伝えていきたい」


 体験型騎士教室以外にも別件があるとか言っていたが、ソルートンの代表者達との最終確認? なんか大きな事業でも動き出すんですかね。


 まぁソルートンが発展するのなら、嬉しい話です。


 あと俺の名前を歴史に刻むのはやめてください……。絶対色々と嘘と誇張が乗っかって、女性関係の悪い話が盛られそうなんで。



「ふふ、これだけの実績を上げておきながら少しもおごり高ぶらず、増長もしない。君は今まで一度も出会ったことのないタイプの本当に面白い男だ。気が付いたら私は毎日君のことを考えているのだが、こんなことは生まれて初めてでな。君の優しい笑顔で落ちない女はいないのではないかな」


 そう言いサーズ姫様が俺の右腕に絡んでくる。うっへ、お胸様が……。


「ま、長々と語ったが何が言いたいかというと、これ以上君にまとわりつくライバルが増えるのは得策ではないと判断した。二十歳までは待って欲しいとは言われたが……まぁ、希望とは得てして叶わないものだ。私の夢だった綺麗な砂浜でのロマンスの下見も出来たし、都合のいい時間も聞き出せた。あとは邪魔者が来ないタイミングを見計らって実行あるのみ。まぁ期待して待っていてくれ、はは」


 ん? 街の発展がどうのの話はどこいった。俺頭悪いんで、あんまり理解出来なかったんですが……。


 とりあえず待っていればいいんですかね。




「時間だな。約束を守らないとラビィコールがうるさいから宿に帰るとするか、はは」


 サーズ姫様がこれから起こる楽しいことを想像しているのか、いい笑顔で俺の右腕を引っ張る。あれ、帰っていいんですか。


 ラビコが許したのは、サーズ姫様と俺が一緒なのはお昼まで、という条件。


 てっきりサーズ姫様のことだから、ラビコに抵抗して色々強引に何かしてくるのかなと思ったが、実に平和的に街を案内して終わった。


 さすがにサーズ姫様といえど、ラビコの怒りは出来るだけ避けたいってことなのかな。まぁラビコは怒るとおっかねぇからなぁ。



 トラブル無しなのはいいことだ。サーズ姫様も満足してくれたようだし、宿に帰ってお昼にしますか。


 正直昼食後に案内することになっているハイラさんのほうが、トラブルがごっそりと起きそうでね……。体力はなるべく残しておきたい。



 そして今思い出したが、俺の部屋のエロ本はどうなったんだろうか。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る