第498話 お姫様お姫様お姫様 9 ハイラの激しい新婚生活計画様
「ハイラはソルートンのどこを見たい……」
「不動産屋です! 二時間じゃ何軒見れるか分かりませんが、ダッシュで十軒以上は見て周りましょう!」
サーズ姫様を案内し終え、一旦宿に帰ってお昼。
次の番のハイラがぐいぐい俺の腕を引っ張るが、ソルートンの街案内なのになんで不動産屋に行く必要があるのか。
まぁハイラが見たいっていうんだから案内はするけどさ。
──一軒目
「アパートの三階、うん、景色はいいですね。でもちょっと壁が薄いかなぁ……これじゃ夜に声が漏れちゃいます」
不動産屋のお姉さんに案内され、宿近くのちょっと古めだけど景色が売りの物件を見に来た。
確かにソルートンの港方向に大きめの窓がある設計で、海がとても綺麗に見える。
ちらっと景色を見たと思ったら、ハイラがお姉さんをどかせて壁をコンコン叩き厚さチェック。夜の声って何。
月七百G、七万円はまぁ妥当かな。
──二軒目
「ソルートンの中心部で雰囲気は王都に近い地域ですね。新しめの建物の五階、と。さすがに新しいだけあって魔晶石コンロに冷蔵庫と設備は整っていますね。壁も厚めで声も漏れなくて良さげです。建物に囲まれて景色はあれですが、お店が近いのがいいですね。しかし月二千Gかぁ……ちょっとお高いかなぁ」
かなり最近出来たっぽい新しい建物。石造りでしっかりとしていて、外観デザインも良い。ソルートン中心街にある高級なオシャレ系アパート。二千G……月二十万感覚か。ソルートンにしては結構なお値段。
──三軒目
「一軒家ですよ先生! うわぁ、ちょっと古めだけど味になっていますね。ほら先生、小さいけどお庭もあります! ここならベスちゃんも喜んでくれるんじゃ。お隣の家とも少し離れていますし、これなら声の問題も大丈夫そうです!」
ソルートン北側にある閑静な住宅街の一軒家。壁で囲われた庭付きの二階建。
築三十年以上らしいが、綺麗にする工事の予定があり、一ヶ月待てばそこそこの設備が追加されるとか。
家賃は千三百Gの十三万円感覚。
さっきからしきりに声が声が言っているが、ハイラは何を気にしているのか。
そういや以前から騎士辞めてソルートンに住むとか言っていたな。それの下調べか? でも住むっても騎士を辞めてからだろうから、少なくとも数年後だろ? 物件探しは気が早くねぇか。
「よく分からんが……いつかソルートンに住みたいっていうのなら、とりあえず宿に来ればいいだろ。ハイラなら大歓迎するぞ。身内割引もするし、宿で働いてくれるのならご飯半額のお風呂は無料で入り放題。しばらく宿にいて落ち着いてから自分の家を探すってのはどうだろう」
どう考えても一人で家借りるより、宿で暮らしたほうが楽だぞ。
「むぅ、あの宿はあまり良くありません……だってソルートン組の皆さんがいるじゃないですか。絶対に私と先生の新婚生活の邪魔をしてくるに決まっています! 先生の夜の激しい攻めの姿勢の最中にひょいひょい来れられても困るんですよ! ああ……早く騎士を辞めてソルートンに住まないと、ソルートン組の皆さんの欲まみれの毒牙が先生に……!」
新婚生活だの毒牙だの俺の夜の激しい攻めの姿勢だの、ハイラは一体なんの話をしているのか。
「でもハイラは今年の代表騎士ウェントスリッターになったんだから、数年はしっかり騎士として役目を果たし王都でその才能を発揮して……」
「もちろん騎士のお仕事はキッチリやっていますよ先生。サーズ様のお仕事が円滑に進むようにお手伝いし、国民を守るため日々体と技と心を鍛え、騎士としての役目を全うしています」
俺の言葉の途中でハイラが真面目な顔を向けてくる。うん、素晴らしい働きっぷりじゃないか。だからそれを続けて……
「私は物語上の空想の勇者様に憧れて騎士になったのですが、現実の私の憧れの勇者様は王都ではなくソルートンにいるんです。だから王都にいる私は仮の私で、ソルートンに住むことで初めて本当の私になれるのです」
ん? いやだから王都でその飛車輪を扱える騎士という才能を発揮してもらってだな。
「私は騎士ではありますが、その前に恋する一人の女なんですよ。国民を守るお仕事は先生にもらった勇気を胸にキッチリやります。それが騎士ですから。でも、私にもプライベートな時間もあれば、自分の幸せを優先したいと考える瞬間だってあります。というかソルートン組の皆さんがズルいんですよ! なんで私の先生と毎日一緒に寝たり、一緒のお風呂に入ったりしているんですか!? 私だって先生と裸で抱き合って寝たりお互いの体をねっとり洗いっこしながらお風呂に入りたいんですぅ!」
お、落ち着けハイラ……今は一軒家を見終えて次の不動産屋さんに行こうと、そこそこ人が多くいる街道を歩いている最中で、俺が毎日ロゼリィ達と一緒に寝たりお風呂に入っているっていうのは完全な誤解だ。
つかどっからそんな激しく間違った情報仕入れたんだよ。
ラビコか? 多分ラビコだろ。
バニー娘のアプティさんはまぁ……朝起きたら俺のベッドに潜り込んできていますわ。
「あれ兄貴、さっきと違う女連れてるんすね。でも兄貴と同じ色の服ってことは、兄貴の妹さんっすか? 一緒にお風呂かぁ、まぁ兄貴なら妹さんに手を出していても不思議じゃないっすね。大丈夫っすよ俺等は何があろうと兄貴の味方っすから。それじゃまた自慢してきますぜ」
よく分からんが興奮するハイラを抑えていたら背後から世紀末覇者軍団の一人モヒカン一号が現れ、ハイラをジロジロ舐めるように見て、メモ帳を取り出し何事か数字を書き込みダッシュで冒険者センターの方向へ消えていった。
ちょ……なんでこの余計なタイミングでお前が現れるんだよ。
いくら同じ街に住んでいたって、宿以外の街道で二回も遭遇するっておかしくねぇか!? 絶対俺の後をつけていたろ!
何かメモったのは、多分ハイラのスリーサイズを目測で書き込んだんだろうが、もしかして他のロゼリィとかラビコはもちろん、サーズ姫様のとかもメモった? だったら後でそれ見せてくれねぇか。
いやほらアレだって、俺の大事な女性達のスリーサイズを勝手にメモるなって注意するためだぞ。決してアイツの目測の正確さを買って女性陣全員のスリーサイズを教えてもらい、夜の想像のエデンに飛ぶときのブーストパックにしようなんて思っていないぞ。
あとハイラは設定上妹だけど、実の妹じゃないし手も出していない……ああああ、もう説明が面倒だし、すでにモヒカンいねぇし。
「むぅ……そういえばサーズ様が言っていましたが、さっきの方、サーズ様を先生の新しい女って言ったとか」
ハイラが俊足で走り去ったモヒカン一号を目で追い、不機嫌そうに言う。
あ、いやアイツに悪気はないんだ。確かにサーズ姫様に失礼な態度をとったり、兄貴の新しい女っすか、とか王族様に絶対言っちゃいけない軽いトークをしたけど、それは正体を知らないからで……
「ちっ……なんで私だけ迷わず妹って断定したんですか!? 先生と同じ色の服を着ているんですよ? 普通ペアルックがお似合いの新婚さんですか、って言わないですかね! おかしいですよあの人!」
ハイラが激怒。
ああ……自分の尊敬するサーズ姫様に失礼なことを言った、ではなく、自分が一瞥で妹判定されたことに怒っているのか。
まぁ……ハイラって美人さんなんだけど、ちょっと童顔系なんだよね。実際は俺より三つも年上の十九歳なんだぞ。あと舌打ちはやめようハイラ。
その後数軒の不動産屋を巡り、部屋の間取り図を多量にもらいハイラは満足したようだ。
非常に、疲れた……。
「うーん、なかなか先生との激しい新婚生活を送れる理想の家は無いなぁ。どこか一個足りない感じです。しばらくは先生の宿で暮らすしかないかぁ……あとは騎士を一発で辞められるぐらいの不祥事を起こすだけかなぁ」
ハイラが間取り図を見ながらブツブツ言うが、騎士を一発で辞められるぐらいの不祥事を起こすのはマジでやめろ。それ、サーズ姫様に迷惑かかるから。
ラビコが絶対守れとうるさかった約束の十五時からちょっと遅れて宿に着いてしまい、すんげぇ怒られた。
これでも何とか説得し、ハイラの物件巡りを半分ぐらいに抑えたんですがね……。
「じゃあ最後は僕だね。実は以前来たときに地図は描いたんだけど、長居も出来なかったから記入漏れもあってさ」
ラビコに怒られてちょっとシュンとしていたら、モテモテイケメン王子フェイスマンこと、アーリーガルが満面の笑みで手書きの地図を見せてくる。
え、お前も俺が案内すんの?
男同士でキャッキャと街を巡れ、と? いや……もしかしたら女性を案内するよりトラブルなく安全に楽しい時間を過ごせるかも……。
しかし見せられた地図のタイトルが「ソルートンの暗い場所ベスト百選」って書いてあって、すっげぇつまんねぇことになりそうなんだけど。
誰が読むんだ次回の話。
なんだよ暗い場所百選って。百ヶ所も見て回るのか? それハイラの物件巡りよりキツいじゃないか。
まぁアーリーガルってペルセフォスが誇る隠密らしいし、仕事で身を隠せる暗い場所を探していたら、それが逆に楽しくなってしまったパターンかね。
お前羨ましいぐらいのイケメン顔なんだからよ、女性が喜ぶお店、観光名所百選とか今すぐ抱ける会話術とかそういう情報を集める趣味にしろよ。俺がデータバンクとして使わせてもらうから。
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