12 異世界転生したらお姫様が集まったんだが

第480話 久しぶりのソルートンの朝でお尻様




「こうかな、いや、こうか」



 やぁ紳士諸君お元気だろうか。



 俺? ああ、エロ漫画家になろうと日々勉強中さ。


 この異世界にはあんまり漫画とか小説がなくてさ、そこに目をつけた俺がパイオニアになってやろうと頑張っているんだが……。




「社長おっは~って、う~っわ何これ~。ま~た掃除用具描いてんの~?」


 水着にロングコートを羽織った魔女、ラビコが宿のいつもの席に座っている俺の右隣りに座る。そして絶賛練習中のエロイラストを見て眉をしかめる。


 掃除用具って……。




 俺達が水の国オーズレイクからソルートンに帰ってきて一週間が経過。


 アプティが突然いなくなり街のみんなに協力して探してもらった経緯があるので、俺はすぐにアプティを連れ街中を巡って無事を報告して回った。


 彼女がいなくなった後俺もいなくなったのだが、そのことをラビコ達はみんなには言わず、すぐにアンリーナの船に乗って探しに来てくれたそうだ。


 蒸気モンスターである銀の妖狐の島に少数で乗り込むなんて行動、下手したらというか、普通なら命がいくつあっても足りない無謀な行動。さすがに出る前にラビコが元勇者パーティーの仲間でありロゼリィの御両親であるジゼリィさんとローエンさんには真実を言ったとか。

 

 危険なのにも関わらず娘を送り出したジゼリィさんローエンさんと、助けに来てくれたラビコ、ロゼリィ、クロ、アンリーナと船のクルーには感謝しかない。



 この騒動、結局何だったのかというと、火の種族の蒸気モンスターであるアインエッセリオさんが俺に会いに来て、それを見たアプティが俺の身の危険を感じ一度島に戻り、兄である銀の妖狐に相談したら俺を島に連れてくるようにと指示された結果、アプティが寝ている俺を抱え銀の妖狐の島まで海を越え走ったって話。


 ようするに銀の妖狐、全てあいつが悪い。


 うん、そういうことにしておこうじゃないか。



 とはいえ、島では蒸気モンスターの貴重な生態を見ることが出来た。


 銀の妖狐率いる水の種族は島で果樹園や野菜等の農作物、さらにはお土産向けの工芸品を作り人間の市場で売り、得たお金で魔晶石を買うというサイクルを作っていた。


 千年幻ヴェルファントムの名前の由来だったり、異世界に最近来た俺が知っている限り千年以上も人間を襲い命を奪っていた蒸気モンスター。彼等は生きる為に必要な魔力を人間の命から得ていたということなのだが、襲われるこっちとしてはたまったもんじゃない。


 銀の妖狐はその行為を止め、人間のお金を稼ぎ命を繋ぐ魔晶石を買うという平和的な方向にシフトしたことは評価したい。まぁでもこれ、勘違いしてはいけないのが、銀の妖狐が俺に嫌われたくないから、という理由でやっているものだということ。


 別にあいつが人間と共に生きようと改心したわけじゃあない。



 それに対し火の種族であるアインエッセリオさんは小さな集団を作り、この世界を人間と共に生きようと決め、俺に会いに来た。


 まだ言葉だけしか聞いていないが、俺はこの考えを応援したい。


 今度いつ会えるか分からないが、俺はアインエッセリオさんのあの真っ直ぐな目と言葉を信じたいし、協力したいと思う。


 大丈夫、いつかは分かり合える。


 実際俺は蒸気モンスターであるアプティと普通に生活出来ている。これがゆっくりでもいい、世界に広がればな、と思う。


 今は小さな箱庭だが、俺はこれを維持して世界に見せつけてやるんだ。



 世間知らずで甘い考え? いいじゃないか、諦めなかった男の+1の積み重ねが世界を変える力となったことをこの異世界の歴史に刻んでやるのさ。




「ちぇっ、やっぱ俺には絵の才能は無いか……神絵師の称号ゲットイベント起きず……無念」


 ラビコには掃除用具とバカにされたが、これ一応ラビコをモデルに描いたんだがな。



「お待たせいたしました、本日のモーニングメニュー『ふわふわクリームとオレンジが乗ったパンケーキ』ですよー」


「おっ待ってました~! うっは~美味しそ~」


 俺がモップを逆に描いて服着せたみたいな絵を渋々片付けたら、代わりにテーブルに華やかな色のモーニングメニューが乗せられた。


 焼き立てのパンケーキに甘さ控えめホイップクリームと新鮮なオレンジが乗った、イケメンボイス兄さん特製モーニングメニュー。もちろん五杯は飲める紅茶が入ったポット付きだ。これを見てヨダレを出さないやつは人間じゃあない。


 この宿の一人娘であるロゼリィが笑顔でテーブルにお皿を並べ、今や正社員となった五人娘の一人、ポニーテールが大変似合うセレサが紅茶ポットを持ってきてくれた。


 ラビコが笑顔でパンケーキにがっつく。


「うっま、うっま~。やっぱここのご飯食べたらソルートン帰ってきたな~って感じだよね~あっはは~」


 うん、それは同感。


 この異世界はなぜかご飯が美味しくないところが多い。


 だがこの宿の料理人、イケメンボイス兄さんが作る料理は本当に美味しい。異世界に来てからの俺の体はイケメンボイス兄さんで出来ている、と言っても過言ではない。


「……紅茶が美味しいですマスター……あとアップルパンケーキも……」


 俺の正面に座っているバニーガール姿のアプティが紅茶を飲み、ほうっと息を吐く。イケメンボイス兄さんがリンゴ好きなアプティの為に、オレンジではなくリンゴバージョンをわざわざ作ってくれたとか。



 ちなみに花の国フルフローラ、水の国オーズレイクを一緒に巡った商売人アンリーナは、ソルートンに船で俺達を送ってくれた後、仕事があるとそのまま自慢の船で次の目的地へと行ってしまった。


 別れ際、演技がかった振る舞いで「もうずっと師匠のお側にいたいのですが、仕事という名のナイフが私達の愛を切り裂いていくのです……! しかしアンリーナは負けません。この事業を成し遂げさえすれば二人の愛は永遠の物に……! 数千年語り継がれるレヴェルの荘厳でビューティフォーな挙式が……! 子供は十人……! さらに……!」と後半は興奮し過ぎて何言っているのか分からない感じで劇団アンリーナ(一人)を乗せた船が離れていった。




「あれ、クロはまだ起きていないのか。せっかく出来たてのパンケーキだってのに……よし、俺起こしてくるわ」


 時刻は午前八時を少し回ったあたり。


 宿一階のいつもの席に座っているのだが、一名足りない。


 デゼルケーノで出会い俺達のパーティーに入った、頭にはゴーグルを付け、腰に二丁の魔晶銃を装備した女性で、本名はクロックリム=セレスティアという。


 そう、名前の通り、あの魔法の国セレスティアの現国王であるサンディールン様の妹で、セレスティア第二王女様となるらしい。


 ……の割にはがさつなヤンキーみたいな言動を繰り返し、言われなければお姫様なんだとは絶対に気が付かない。俺もたまに忘れるほどだ。


 魔法の国の王族様なだけあって、血のなせる業といわれる柱魔法を使えたりと相当に優秀な魔法使いなのだが、興奮すると魔法を忘れるのかファイティングポーズをとり、拳で語る系ヤンキーになる。


 なんかワケあって家出をしているそうだが、このがさつな性格が原因で姉妹喧嘩とかいう理由じゃないことを祈るばかりだ。



 ああ、愛犬ベスなら俺の足元で元気に犬用イケボ飯にがっついているぞ。やはりソルートンにいるとベスの機嫌が良い。多分ここが新たな家だと思っているんだろう。




「おーいクロ、朝飯だぞ。出来たてをみんなで食おうぜ」


「…………」



 宿二階のクロが借りている客室のドアを叩くが、なんの返答もない。


 用事がなければ昼まで起きてこないラビコですら起きているってのに、クロはまだ寝ているのか。


 鍵は……かかっていない。女の子だってのに不用心だなぁ。



「入るぞクロ。鍵はかけておけ……ってうわっ!!」


 鍵のかかっていないドアノブが抵抗なく軽く回り、部屋内を覗き見るが、広くはない部屋のベッドにうつ伏せ大股開きで寝ているクロがケツ丸出し状態。うん、もちろん生の。


 クロって寝る時薄いシャツにパンツ一丁で寝ることが多いのだが、そのおパンツ様が寝相悪いせいかずり落ちて膝辺りで止まってエロ漫画がごとく超エロい状態に。



「ニハハ……すすー……ニハハ、すすー……こえ全部食っへいいのふぁ……ニハハ」


 い、生きているよな……なんか良い夢でも見ているのか、枕に突っ伏した顔からリズミカルな呼吸と寝言が聞こえる。



「………………ふむ」


 紳士な俺の脳が音を立てて高速回転し始めた。


 ドアを開けたらいきなり女性のお尻が見えたから、今は視線を床にそらしている。え、早く直視して実況しろ? バカ言え、許可なく見たら怒られるだろ……というのが今までの弱気紳士な俺で、異世界に来て多くの苦難を乗り越え成長した今の俺なら女性の生尻を五秒……いや十、そう、二時間ほど直視しても許されるのではないだろうか、と考えている未来志向の強気紳士俺も誕生しつつある。


 うん、正直ちょっと目を凝らしたらエデンの先が見えそうな感じだったんだよね、あの大股開きっぷりだとさ。


 確認してみる? 


 うん、確認。


 そう、これは思いついた疑問の答えを求めた学術的な探究心であって決してエロい気持ちではないことをここに表明する。



 行こう友よ、俺と共にエデンの先へ──



「あ~~~!! 社長ってばクロが寝ているからってパンツずり下ろしてる~!」


 見えない戦友と肩を組みエデンへ一歩踏み出したところで、背後から羽交い締めにされる。な、何事……! ってラビコか。


「え、いや違……エデンにはまだ……じゃなくて開けたら最初からこうなっていた……」


「そうですか……ではそれを証明するものはありますか? ないですよね……? ふふ……」


 さらに背後からドス黒いオーラをいきなりレベルマックスで放つ鬼が現れる。天井突き破んぞ、その勢い。




 第一話からいきなり最終覚醒した鬼を止める手段は初期装備状態の俺にはなく、廊下に正座でロゼリィのお説教を聞く羽目に。


「いいですか、あなたは隠れてコソコソ小細工していないで、そういうことに興味があるのなら普通に私に言えばいいんです。甘い言葉の一つでもかけて下されば、私はいつでも……」


 あーくそ、早くお説教終わんねーかな……せっかくの出来たてパンケーキが冷めちまう。


 つかラビコがゲラゲラ爆笑しながらこの様子を見ているが、絶対こうなること分かって曲解したろ。





 一時間後、これだけの騒動でも起きてこなかったクロが尻を掻きながらやっと起きてきて「あー悪ぃ悪ぃ、寝てたらケツが痒くて掻いたのは覚えてンだけどよ、そのまま寝ちまったみてぇだな、ニャッハハ! いやーこの宿だと安心して寝ちまうから鍵も忘れちまってよぉ、悪い悪い」と一応俺の無実を証明してくれた。



 あとクロさんよ……あんた一応魔法の国のお姫様なんだから、ケツが痒かったとか笑いながら言わないで欲しいな……。


 異世界に来る前にゲームとかで抱いていた俺のお姫様イメージが、ドンドン地に落ちていくんですよ。



 まぁ、落ち具合いでいえば俺の世間体には勝てないだろうがな。















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