第479話 ソルートンに帰ってエロい絵の練習をしよう様 ── 十一章 完 ──




 翌朝七時、眠い目をこすり起床。ホテルの食堂で朝食をいただく。


 外の天気は濃霧。


 まぁ、これが王都オーズレイクの普通の光景らしい。




 昨日の夜のことを頭を下げて謝ったのだが、ラビコが「ま~ま~いいじゃない、社長もこうして無事だったんだし~。てか、社長と一緒にいてトラブルが起きないなんて誰も思っていないさ~。みんなそれを承知で、どんなときも社長を信じてこうして側にいるって自分で考えて自分で決めてこの道を選んだんだ。何が起ころうが一緒に乗り越える。今いるメンバーはそういう集まりだよ~あっはは~」と笑いながら肩をバンバン叩かれた。


 ラビコの言葉に皆がうんうんと頷き賛同。


 昨日の森での出来事をラビコは一言も喋らず、いつも通りの感じで振る舞っているし、みんなも特に何があったのかと聞いてこない。


 ラビコ含めみんな大人な対応ってことなんだろう。


 ありがたく、その厚意に乗っからせていただきます。



 まぁラビコ自身もお師匠のことだったり、考えがまとまっていないように思える。


 これはラビコの孤児時代の話が含まれるだろうから、俺からその話に入っていくわけにもいかないしな。


 つか俺も昨日のことは何が起きたのか上手く説明出来ない。


 別の異世界から来たらしいエルフという存在、ホテルから二十数キロ先にある場所に一瞬で飛んだ現象、もう本当にあれ全部夢だったんじゃないかな……と思いたい。


 うん夢だった、今はそうしておこう……。






 午前九時過ぎ、ホテルを出て島王都へ通じる橋へ向かう。



 昨夜の騒動で捜索隊を結成してくれた騎士さんにお礼を言わねばならんのだ。


 ラビコに聞くと、大抵毎朝同じ時間に湖上を走り警備と橋の点検をしているとか。

 

 昨日この時間に出会ったから、今日も……お、いましたサーフボードみたいのに乗った騎士軍団が。



「これはラビコ様、おはようございます。君も無事だったようでなにより」


 騎士軍団を率いる女性リーダー、リリエル=サイスさんが橋の上からのラビコの呼び止めに応じ、昨日のように壁を蹴り湖面から一気にジャンプし着地。


 ラビコに頭を下げたあと、俺の方を向き笑顔を見せてくれる。


 なんというか、あのメラノスのお姉さんってのを忘れてしまうぐらいのお美人様ですな……。



「き、昨日は大変ご迷惑をおかけいたしました!」


「はは、構わないよ。てっきり噂の誰もいないのに声が聞こえてきて、湖に誘われるように落ちてしまったのでは、と心配していたが、無事見つかってよかったよ」


 ちょっと年上のお姉さまオーラを放つ美人様に見惚れて噛んだが許してくれ。ラビコにも軽く睨まれているし……。



 今も昨日の森の中のような濃霧が周囲を覆っているが、確かにこの霧で誤って夜の湖に落ちてしまったら、と思うとぞっとする。


 あと、その噂の誰もいないのに声が聞こえてくるって何なのかね。昨日エルメイシアさんが周囲に結界を張って姿が見えないようにしていたが、壁の外にいたラビコに声は聞こえていたよな。それと似たようなことが起きていたんだろうか。


 ってもエルメイシアさんは追われている身で、あまり人間と関わりたくない的なことを言っていたからあの人の仕業ではないと思うが……。


 別の何かがあるのかね、この湖。



 遅れて登ってきた男性騎士アルルシス=サイスさん達にも頭を下げお礼を言う。



「……ラビコ様。我らが王、ブローニルがラビコ様にお会いしたいと……」


「嫌~行かないよ~っと」


 お礼も言い終わりお仕事の邪魔も出来ないのでホテルに帰ろうとしたら、リリエルさんがこそっとラビコに近付き耳打ち。


 しかしラビコがムスっと膨れた顔になり拒否。


 そういやせっかく王都に来たのに、ラビコはお城には案内してくれなかったな。


「承知致しました。王にはラビコ様は次の目的地に向かわれた、と伝えておきますのでご安心を」


 リリエルさんがラビコに向かってすぐに頭を下げる。


 もうなんて返って来るか分かっていました風。


「ごめんねリリエル~。社長の見聞を広める為にもお城は寄りたいんだけど~、どうせあのヒゲが息子と結婚しろとかしつこく言ってくるだろうし~鬱陶しくてさ~」


 オーズレイク王をヒゲ呼ばわりっすかラビコさん……。まだ会ったことないのに、なんとなくビジュアルが脳内で出来上がってしまったぞ。


 息子ってこの国の王子様ってやつか。


 ペルセフォス並の大国っぽいし、ここの王子と結婚出来るのなら結構な生活が出来そうだが、ラビコは他人から与えられる贅とかそういうのを求めていないだろうしなぁ。


 ラビコは見た目、実力に実績、名声を兼ね揃えた、ハイクラスイケメン達がわらわら寄ってくる超モテウーマン。


 さて、実際ラビコほどの女性を落とすにはどんだけイケメンだったらいいのかね。


 想像してみるが、俺みたいなヒヨコレベルの貧弱少年はパッと見で相手にされないだろうな……。



 とりあえずラビコが嫌だって言ってんだ、無理にお城に行く必要はないだろう。


 騎士さん達と別れホテルへ向かう。





「さて、花の国フルフローラ、水の国オーズレイクと満喫出来たしそろそろソルートンに帰ろうかと思う。早くアプティの無事をみんなに伝えないとならないし……ってそういや俺も宿から急にいなくなったんだっけか。そのへんどうなっているんだろう……」


 最初はアプティがいなくなり街の皆に協力してもらって探したが、その後いなくなった俺って街ではどういう扱いになっているのだろうか。



「はい師匠、その情報でしたら花の国フルフローラの港街ビスブーケに着いたとき、簡単な経緯を書いたお手紙をソルートンの宿ジゼリィ=アゼリィにお送りしておりますわ」


 大きなキャスケット帽をかぶったアンリーナが控えめな胸を張り、さぁ褒めろ顔。


「おお、さすがアンリーナ。そのへんは抜かりないなぁ」


「ヌッッフォオオ! これです、これ! 師匠の優しい笑顔と絶妙な力加減の撫で具合……これぞ未来の妻だけが味わえるという至福のロマンスタイム……! つまり今夜は寝かせないという合図──! 子供は六人以上──!」


 これは褒めどころだとアンリーナの頭を撫でると、いつもの感じで吼えだした。


 ……何がつまり今夜は寝かせない、なんだよ。相変わらずパワーあるな、アンリーナの妄想は。



「あんまりここに長居してるとヒゲがうるさそうだから~ソルートンに帰るの賛成~。あとジゼリィ=アゼリィで美味しい物食べたいかな~あっはは~」


 ラビコが笑うが、ヒゲってのはここのオーズレイクの王であられるブローニルさんだっけか。ヒゲって情報でもう想像のお姿は出来上がったけど、その答え合わせはまた今度でいいだろう。


 あとジゼリィ=アゼリィで美味いもん食いたいってのは超同意。宿の神の料理人、イケボ兄さん手製の料理……ああ、想像だけでヨダレが出るぞ。



「そうですね、花の国の王都に水の国の王都が見れましたから、旅の思い出としてはもうお腹いっぱいでしょうか。あとは宿に帰って美味しいご飯でお腹を満たしたいです」


 ロゼリィも実家である宿での美味しいご飯を想像し笑顔。


 まぁこの異世界って基本ご飯が美味しくないんだよな……。素材は良い物が多いのだが、ネットとかの通信技術が無いせいか調理法があまり伝わっていない感じ。



「肉! 最高に美味い肉が食いてぇぞキング! あと宿の温泉のボイラーが気になるからよ、早く帰ろうぜ」


 肉か、いいな……ってそういやクロって魔晶石アイテムのことに詳しいから、宿では魔晶石コンロとかボイラーとか管理してお給料貰っているんだっけ。確かに宿の人気施設である温泉が使えなくなっていたら、と考えたら不安だな。



「……宿でアップルパイと紅茶のセットが食べたいです、マスター……」


 みんなが宿の美味しいご飯とか言うから、無表情バニー娘アプティまで心がソルートンに飛んでいるじゃないか。


「ベスッ!」


 ああ、愛犬ベスまで想像で……ってベスは言葉分からないだろうし、みんなが笑顔で楽しそうだから吼えただけっぽいけど。



「アンリーナ、今回は観光旅行の案を出してくれてありがとうな。おかげで花の国フルフローラでロゼオフルールガーデンの光る桜、そしてここ水の国オーズレイクのナイアシュートなんてすっごい噴水イベントをみんなと見れて、すげぇ楽しかったよ。そして遠く離れれば離れるほど分かるソルートンの故郷感。やっぱりあそこが俺の帰るべき場所なんだな、と強く感じたよ」


 観光に来たキッカケは、アンリーナが銀の妖狐の島の件で下がり気味だった俺の心に気を使ってくれた、だからな。きちんとお礼を言わねばならん。


 おかげで、何があろうが俺の心はソルートンにある、と分かった。


 花の国フルフローラも水の国オーズレイクもとてもいいところだが、住もう、とは思わない。数日いると、ああソルートンに帰りたいなぁと思いが募る。


 皆に迷惑がかかるのなら一生銀の妖狐の島で、とも考えたが、こうして俺を信じ共に歩いてくれる皆がいる。


 ならば俺が取るべき行動は、逃げる、ではなく皆を守り共に生きる道を模索すること。



「いえいえ、こちらもアイランド計画の視察が出来ましたので……というのは半分口実で、少し落ち込み気味だった師匠に元気になってもらいたく、強引に観光にお誘いしたのですが、こうして師匠にいつもの笑顔が戻りました。アンリーナはそれだけで満足でございます」


 そう言い、アンリーナがにっこり笑う。


 いつも助けてもらってばかりですまない、アンリーナ。


「そうだね~パーティーのリーダーが落ち込んでいたら、メンバーの私達はどうしたらいいか分からないからね~。や~っとすこ~~しだけ男の顔になったかね~あっはは~」


 ラビコが右腕に絡み、俺の頬をツンツン突き笑う。男の顔って言われてもよく分からんのだが。


「あなたの帰る場所はソルートン。そして宿ジゼリィ=アゼリィこそ、あなたの帰るべき家。さぁ帰りましょう、みんなが待っていますよ」


 ロゼリィが左腕に絡み満面の笑み。ああ、実際に俺の家があるしな、ジゼリィ=アゼリィには。


「あの宿マジで居心地いいんだよなぁ。温泉タダだし飯はウメェしよ。でもやっぱキングがいなきゃジゼリィ=アゼリィは完成しないンだよなぁ。だから早く帰って皆を安心させてやろうぜ、ニャッハハ」


 猫耳フードをかぶったクロが拳を見せ笑う。クロは本当にジゼリィ=アゼリィでは我が家がごとくくつろぐからな……下着一丁でうろついたり。いや、俺には嬉しい光景なんだが、他の男には見せたくないっつうか、ね。


「……紅茶がおいしい宿で結婚も……ありです……」


 結婚ってのがいまだに意味分からないんだが、アプティさんの中では常に美味しい紅茶が最優先なのね……。




「よし、帰るぞ俺達のソルートンへ! ……ってちょっと待って」


 いざソルートンへ、と思ったのだが、狭い路地の先にいい感じの小さなお店が見えた。


 あの違和感なく静かに街と同化するステルス性、控えめなオーラにも関わらず伝わってくる秘めたパワー……あれは間違いなく……聖地。


 そう、この王都オーズレイクはペルセフォス王都並に栄えている都市。ないわけがない漢達のエデン。


 危ない……ご挨拶もせずに素通りするところだった……。



「えーと、ううーんと……そ、そうだお土産! お土産を買わないとさ、さすがに手ぶらじゃ帰れないし。今から三十分自由時間で、各自買うようにしよう! 集合はここ、じゃあ解散!」


「はぁ~? 何その泳いだ目は~何かこの先の路地に視線が行ってるし~」


 水着魔女ラビコが俺の不自然な雰囲気にすぐに気が付き、ダッシュでその店に走る。


 お、おいバカやめろ。


「お、おお、ここのお店の何の料理にも突き刺せる棒とか最高じゃ……」


「や~~っぱエロ本屋だったじゃないか~。なんであんな奥まった場所にある看板も無いお店を目ざとく見つけるかね~この童貞は~。ったく、そういう変な方向にばっかパワー使って、どうして周りにいる私達に手を出さないのかな~」


 目の前にあった食器とかを売っているお店の、オーズレイクでは当たり前に使う木の棒を褒めるも、早送り動画が如く戻ってきたラビコに首を締め上げられる。


 むぐぅ……誤魔化しきれんかった……か……。


「ふふ、あなたにそういう本は必要ないですよ?」


 やばい、ロゼリィの内なる黒き鬼が久しぶりに目覚めてしまった。もの凄い圧を放ち、俺の左腕を握ってくる。


「……マスター、私が買って来ましょう、か?……」


 おお、バニー娘アプティさん……! なんと素晴らしい提案! 


 俺じゃなく、女性であるアプティが買ってくれればロゼリィも怒りにくい! 買っていい年齢問題も回避!


「別に本ぐらいはいいンじゃねぇの? キングだってヤリたい盛りの少年なンだしよ、むしろ普通じゃね?」


 す、素晴らしいお考えですクロ様! 


 さすが王族、俺なんていう、一般市民の中でも最下層でうごめく微小童貞君なんぞにも広いお心を見せてくださるとは! すごいぞ、ここにきて俺の味方についてくれる女性が二人も……!


「クロ様、ロゼリィさんとラビコ様が危惧しているのは、本で満足されては困る、ということではないでしょうか。つまりそれ系の本を師匠が手に入れてしまうと、周りにいる私達に欲を抱かなくなるかもしれない、と」


 アンリーナが冷静に分析。


 え、い、いえ、別に本で満足するってわけでは……。単に寂しい夜のお供に、と、ね……。本と女性は別でございます。本には本の良さがあるわけで。


「へぇ、でもキングの欲って本程度じゃ収まらないぐらい半端ねぇだろ。ああそうか、そういうのを制限することで、キングの抑えきれない欲を意図的に暴走させようってやつか! なるほどな! そして暴走して欲の化身となったキングに抱いてもらおうと! へぇ、それいい作戦だな。ニャッハハ!」


 いえクロ様、俺は無理矢理とかは……どんなに欲があろうが、心は紳士でいたいっす。


 って、以前魔王を名乗るエリィの部下であるジェラハスさんと戦った時、暴走して服はめくったけど。


 でもあれは生き残るためにやったのであって、その、あの、たまには、ね。



 そしてさ、朝とはいえ観光スポットである島王都へ渡る橋付近って結構混んでいるんだよね。そこで男女がエロ本だのなんだので騒いでりゃ、そりゃあ注目集まりますわ。ええ、もちろん不審な目で見られていますよ、俺が。


 しかも味方だと思っていたクロさんの、ヤリたい盛りの少年だの欲の化身だの発言がより一層、ね……。




「か、帰るぞ! 初めて来たオーズレイクでいきなり俺の世間体マイナスイベントは回避!」



 俺は愛犬を抱え駅方面へダッシュ。お土産は駅で買うぞ!



「ま~だ世間体とか言ってんの~もう諦めたら~? いいじゃない他人の言葉なんて~。それより近くにいる私達を見ろっての~」


「そ、そうですよ! 本ではなく私達を見るべきです! あ、お土産は駅で買いたいです!」


「いいことを考えましたわ師匠! 私と師匠のヌード写真集的な物を作って、それを師匠のお部屋に飾ればいいのでは!」


「……私もマスターと裸で一緒に写っている本が欲しいです……」


「ニャッハハハ! それすげぇなアンリーナ! エロ本はエロ本だけど、そこにはアタシ達の裸が載ってるわけだろ? それこそお互いの意見が合致する最高の形じゃねぇの?」


 マジで!? ろ、ロゼリィとラビコとアプティとアンリーナとクロの裸が載ってるエロ本……だ、と!? 


 それ欲しい! 今すぐくれ!



「あれれ~社長の走るペースが遅くなったぞ~? あれ絶対私達の裸想像してるって~」




 素晴らしい……素晴らしいぞその本。


 多分絶対に実現出来ないだろうけど、ソルートンに帰ったら絵の練習をして、そのネタで薄い本でも描こう。


 俺の絵のスタートラインはマッチ棒人間なんだが、一ヶ月ぐらいでなんとか商業レベルまでいけないもんかな。


 どうすかね、神絵師の皆様。どうぞ未熟な俺にアドバイスを頼む。




 つか誰か描いてテレパシーで送ってくれ。


 ああ、描いた本を持って異世界に転移して来てくれても構わんぞ。


 本のエロさ加減が俺の心にドストレートに響く系だったら、俺が君のこっちでの生活を全面的に面倒みようじゃないか。



 有志の紳士諸君、俺はいつまでも待っているぞ!










異世界転生したら犬のほうが強かったんだが 11章 


『異世界転生したら森の民がいたんだが』 


    ──完──











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