第481話 ベスの湯と五人娘アタック様
「ベッスベッス!」
「あ、こらベス、ちゃんと足洗ってからにしろ!」
朝食も終わった午前十時過ぎ、我が自慢の愛犬をお風呂へ誘う。
宿ジゼリィ=アゼリィは以前大改装をして、内部はもちろん、外にも施設を充実させた。
一階の温泉、正確には川の水を引いて魔晶石ボイラーで沸かした銭湯なのだが、そこからお湯を引っ張り、お店の入り口横に大きめの足湯を作った。
これがお客さんに大好評。
朝から晩まで結構な人だかりが出来るぐらいの人気っぷり。なにせ無料だしな、紳士諸君も遠慮なく毎日使っていってくれ。
ただしこの足湯には注意事項があって、突発的な水しぶきに注意と書いてある。
これが何かと言うと、俺の愛犬が度々ダイブしてくるんだ。
どうにもこの足湯は自分の為に作ってくれたんだ、とベスが思っているっぽい。
「……よし、ちゃんと足拭いたぞ。いいかベス、ゆっくり静かに……」
「ベッスベッス!」
「きゃー! ベスちゃんの幸運のダイブよー!」
「ベスちゃん、こっちにも!」
俺の言うことも聞かず、愛犬が華麗に地を蹴り足湯に十点満点ダイブを決める。
俺とベスは付き合いが長いので、目を合わせるだけで大体お互いの気持ちが通じるのだが、今の俺の足湯の使い方指南はベスには『イケイケGO!』に聞こえたらしい。
……全然通じてねぇな。飼い主失格っすわ。
まぁ、利用者の皆さんにはベスのダイブに居合わせられるのは運が良い=幸運が授けられるみたいな構図がなぜか出来上がったらしく、不思議と好評なんだが。
この通り、足湯は俺の愛犬がよく飛び込んでくることさえ我慢出来れば快適に使えるのでご自由にどうぞ、と。
名前も、宿の娘ロゼリィ命名『ベスの湯』という。
「あ、いました隊長! 確保ー!」
「さぁみなさん、前後左右からみっちり隙間なく挟み込むのです」
「おお、兄貴の背中ひっさしぶりだぜ」
「隊長の服からはいっつも女の匂いがする……複数の」
「五人揃えば無敵の看板娘、隊長を無駄におだててご飯を奢ってもらう計画ン」
愛犬の華麗な泳ぎを眺めていたら、いきなりオールレンジから柔らかいものが押し寄せてくる。
な、なんぞ。
アルバイトさんから昇格し、いまや宿ジゼリィ=アゼリィの主力にまでなった正社員五人娘がフルメンバーで迫って来て意味不明だったが、最後のフランカルさんの言葉で全てを理解出来た。
俺のモテ期ではない、と。
「ロゼリィさんから許可はいただきました! お昼を隊長と食べたいです!」
五人娘のリーダー的存在、ポニーテールが大変似合うセレサが上目遣いで訴えてくる。
ふふ、長き遙かなる悠久の童貞キング俺とはいえ、この異世界に来てそれなりに女性とは話せて免疫は出来ているんだ。その程度のことではよし、お兄さんに任せなさい、すべて俺が奢ろうじゃないか。
別にエロい気持ちではないぞ。
宿の経営をある程度オーナーであるローエンさんから任されている身として、主力メンバーである正社員五人娘をもてなすのは当然のこと。
実際彼女達がいないと食堂の接客の効率が落ちるんだって。
「お昼ってもどこ行くんだ? 味については、申し訳ないがソルートンでこの宿以上のお店はそうそう無いと思うが」
まだ愛犬がお風呂タイムだが、満足したら勝手に上がるだろ。近くに俺がいなかったらロゼリィのとこ行くだろうし。
俺は一応ロゼリィに声をかけ、正社員五人娘を引き連れ宿を出る。
ヘルブラとフランカルは今日お休みの日で、セレサとオリーブにアランスが仕事上がりだそうだ。
「それはそうなのですが、ここだとその、知り合いが多過ぎてデートっぽくならないというか、出来たら可愛らしい雰囲気のお店がいいなぁと、あはは」
薄い水色のシャツに黒の長めのスカートというシンプルな服装なのだが、お化粧がいつもお店で見るレベルじゃない気合いの入りようのセレサが右腕に絡んでくる。
デート? お昼食いに行くんじゃないのか?
「そうなのです、なるべく宿から離れた場所がいいのです! 隊長を一人連れ出せたこのチャンス、無駄には出来ないのです! このまま私達を連れてソルートンを出て、観光地にお泊りデートでも構わないのです!」
可愛い花びらのワンポイントが入ったTシャツに短めのスカート、その持てるボディはロゼリィクラスのオリーブが鼻息荒く、ぐいぐい左腕に絡んでくる。ソルートンを出るって……それは無理だろ。時間的に厳しいし。あとモンスター等のトラブルに対処出来る戦力がない。
「明日の朝番に間に合えば問題ないかな……お泊り会……したい。隊長いたら楽しそう」
花柄ワンピースを着たアランスがボソっと呟く。アランスは明日朝勤務なのか。じゃあそれまでには帰らないと……ってお泊り会ってなんだよ。みんなでお昼ご飯を食いに行くだけだろ。
「キャンプしようぜキャンプ! 砂浜にみんなでテント張って、みんなで騒ぎながらご飯作んだよ、絶対楽しいぜ! 宿増築のときにみんなで夜の砂浜で宴会やったろ、あれ最高に興奮したんだ!」
オシャレというよりはすぐにでも走り出せそうな、動きやすさ重視の服を着たヘルブラがソルートン南側にある砂浜を指す。
キャンプって……お昼を食べに行く、という話からどんどん離れていくんですが。
「キャンプにデートにお泊まり会、さぁ隊長を独占出来る答えはどこに。次回、そういえばセレサが一人暮らし始めたようですよ、をお楽しみに」
短めの赤いスカートにピンク系のパーカーを着たフランカルが、明後日の方向を見ながら次回予告。
あのフランカルさん、そういう来週のアニメは、みたいな言い回し、こっちでもあるの? ああ、雑誌での連載物語のあおり文章とかならあるのかな。
「あ、それなのです! セレサがついに一人暮らしを始めたのです! セレサの部屋なら隊長を独占出来るのです! さすがフランカル、頭が良いのです」
オリーブさんがそのとても大きなお胸様をぐいぐい俺に押し付けながらセレサを見るが、おや、セレサさん一人暮らし始めたんですか。
「え……? わ、私の部屋来るの!? い、いいけど……ち、散らかっていますよ……」
セレサがまたもや上目遣いで俺を見てくる。正直可愛くてたまりません……。
ってなにこの流れ。俺、セレサの一人暮らしの部屋に入れんの? すっげぇじゃんそれ。
……可愛い女の子五人と密室デート……これは何か起きないとおかしい展開ですよ! ねぇ、紳士の皆さん!
正社員五人娘に手を出したら、最終覚醒状態のロゼリィ(星の怒り)に何されるか分かんねーから何もしないけど……!
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