第478話 森の民との遭遇 3 ラビコのお師匠と裸の女の香水様




「もしかして……お師匠……?」



 ラビコがそう言い、声の主を探す。




「待って……待って! 私はもっと強くなりたい……いや、もっと強くならなきゃならない! お願い、私にもう一度魔法を……!」


 声を荒げ、最後は泣きそうな声でエルメイシアさんに懇願する。


 ラビコはエルメイシアさんが張っている結界のせいで見えていないし、どこにいるかも分からない状態。


 なのに必死に周囲に目を走らせ、その姿を探している。



「………………大きくなったな、ラビィ。お前のことは各地で耳にしている。我が弟子の活躍は師として嬉しい限りじゃ。……またいつか会おう」



 エルメイシアさんが去ろうとした歩みを一旦止め、かなり悩んでから口を開いた。


 声は小さく、感情を込めないように淡々と。


 そうか、ラビコが魔法を習ったお師匠ってのがエルメイシアさんなのか。どうりで戦い方や魔法が似ているわけだ。



「待って……! だめなんだ……このままじゃだめなんだ! 今の私の力では大切なものが守れない……届かない……それじゃだめなんだ! せめて銀の妖狐、あのクラスと戦える魔力がなければ側にいれない……横に立てない……一緒に歩けない……!」


 ラビコが珍しく感情をモロに表に出し、必死に声を絞り出している。


「………………お前は人間のディスティネーションタイプとしては最高クラス。世界で一番を誇っていいじゃろう。それ以上魔法使いとして何を望む」


 ディスティネーションタイプ、それは大いなる者の力を借りて放つ魔法。


 確かに俺はペルセフォス、ケルシィ、セレスティア、フルフローラ、デゼルケーノにオーズレイクという国を見てきたが、出会った冒険者、騎士含めラビコを超えるような魔法使いはいなかった。


 ……だが、セレスティア王族の血のなせるわざと言われる柱魔法、ティアンエンハンス。


 千年幻の巨体から繰り出される攻撃を完全に受け止めることが出来たあの魔法の伸びしろと可能性を考えると、俺はそれが短時間とはいえ使えるクロのほうがラビコよりも将来性は高いと思っている。



「魔法使いとかどうでもいい! 私にはどうしても守りたいものが出来たんだ……守れるのだったら何でもいい……剣だっていい、素手だっていい……私はこの生命がある限り社長の隣にいたいんだ!」


 ラビコが求めるその力、それは多分セレスティア一族が使う柱魔法のようなイマジネーションタイプの魔法。


 ……俺には魔法のことはさっぱり分からないけど、ラビコが使う空を飛ぶ魔法、あれは他に使える人を見たことがない、この世界ではチートクラスのものだと思うんだが。


 そしてあれ、他の魔法と違って特に詠唱も呼称もすることもなく使うんだよな、ラビコ。



「………………ラビィが自分の為ではなく誰かの為に、か。人間とはここまで考えを変えることが出来るのじゃな。そしてその原因はやはり少年か」


 エルメイシアさんがふと虚空を見つめ、昔を思い出すように言う。


「………………いいじゃろう。立派に成長した弟子に師として言葉を残していこう。何、簡単なことじゃ、ラビィは少年の女になれ。以上じゃ」


 少年って俺のこと……か? 突然何言ってんだこの人は。


「その少年はまだ未成熟。それを側で支えることがラビィの心の成長となり、望む力と未来を手に入れる一番の近道となるじゃろう。そしてラビィが望む力はすでにラビィの中にある。己の中に眠る力とは何なのか、感覚ではなく心で理解し形と成せ。その少年と共にいれば、必ず答えは出る」


 エルメイシアさんの姿が見えないラビコは相変わらず明後日の方向を見ているが、師の言葉を聞き逃すまいとしている。



「…………じゃがそれを成すには大きな障壁がラビィにのしかかるじゃろう。それは何かと言うと……その少年の周りには今後も女がわらわらと寄ってくることじゃ!」


 真面目な顔で聞いていた俺とラビコがずっこける。


「冗談を言っているのではないぞ。ではラビィ、その少年の隣に行こうとしたとき、何人の女が邪魔をしてくるか考えてみよ」


 もう話聞く必要ないんじゃないかな、と思うが、ラビコが顎に手を当て数を数えだした。


「ロゼリィ、アプティ、クロ、アンリーナ……。ちっ、宿の従業員系とかは金と魔法で黙らせるとして……一番ヤバイのはペルセフォス組……!」


「いいかラビィ、望む力と未来を手にしたくば人として、女としても成長しなければならない。ライバル達を蹴散らし踏みつけ地深く埋め蓋をし、そこまでして初めて安心して笑顔で少年の隣にいれる状態になるじゃろう。負けるなよラビィ、私は師として応援しよう」


 うーん、この人も結構ヤバめの思想の持ち主かぁ……。


 よく考えたらラビコの師匠をやるぐらいだもんな……魔法もそっくりだし、何か波長が合うところがあるんだろう。



「……少し長く語り過ぎたな、ではまた会おう。ラビィと少年に森の加護があらんことを────」



 そう言うとエルメイシアさんの気配が消え、虫の声が聞こえる静かな森へと姿を変える。



 



 俺がいなくなったとロゼリィ達は街を探しているとのことなので、ラビコにおんぶしてもらい、空を飛び街へ帰還。



 街では昼間会ったサイス家の二人が率いる騎士達も加わり、結構な大捜索が行われていて驚いた。


 いや、申し訳ない……すぐに事情を説明し騒ぎは収まったけど。



 夜寝れなくてぼーっと歩いていたら対岸まで行っていた……って言い訳をしたが、夜の森を数十キロ歩いていたってもはや遭難だよな。皆深くは聞いてこなかったけど、無事だからそれでよし、と納得してくれたのだろう。


 愛犬ベスにはめっちゃ寂しかったと、頭ぐいぐい顔に押し付けられたけど。



 なんにせよ疲れた……エルフの存在とかラビコのお師匠とか、情報で頭がパンクしそうだ。





「……マスターから裸の女の匂いがします……」



 とにかく寝かせてもらおうとホテルのベッドに入ったが、当たり前のようにベッドに入ってきたバニー娘アプティが余計な一言。


 嘘だろ……そんな匂いがあるんなら香水にして売ってくれ。


 俺の全財産出したって構わない。



 それを聞いた女性陣全員がしかめっ面で睨んできたが、今のはアプティの無表情ジョーク、そういうことにしてくれ……お願い、僕、眠いんだ……ねぇパトらっsy──














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