【書籍化&コミカライズ】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】
第461話 花の国の王都フルフローラ 8 カフェ常設案とアンリーナの思惑様
第461話 花の国の王都フルフローラ 8 カフェ常設案とアンリーナの思惑様
「本日は臨時ロゼオフルールガーデンカフェをご利用いただきありがとうございました!」
夜二十二時、花の国フルフローラ城近くにあるロゼオフルールガーデンに開いたカフェ閉店のお時間。
スタッフ全員で頭を下げ、当日宣伝、当日オープンにも関わらず立ち寄ってくださったお客様に感謝を示す。
「そしてお忙しいなか集まってくださったスタッフの皆さんもお疲れ様でした!」
お客様を見送った後、俺はスタッフさんに向けても頭を下げる。
きちんと謝礼は支払うのだが、皆さんそれぞれのお仕事を終えた後に集まってくれたんだから、しっかり感謝を言わないとな。
「今日出したメニュー、本当に美味しかったんだけど、うちでも参考にしていいかな」
「他のお店のスタッフさんと垣根を超えて一緒に接客出来て楽しかったー!」
「兄ちゃんお疲れ。自分の店よりお客さんいっぱい来たから楽しかったぞ!」
調理担当さんがレシピメモ片手に俺に相談してきて、接客担当だった女性達が楽しそうに言う。最後、個人レストランを経営しているというご年配の男性の発言にスタッフ一同が笑い出す。
なんというか、さすがアンリーナが揃えてくれたスタッフさんといった感じ。
「うん、いいな。皆とても良い笑顔をしている。やはりお金があれば笑顔に……あ、いや、えーと、そう、普段はライバルで競合店といえる者達が、こうして一つの目的の為に集い力を合わせる。実に素晴らしいじゃないか! 私も今回の臨時カフェを参考に、国民の笑顔の為に頑張ると誓うぞ! それぞれのお店が儲かればその分税金収入が増えて、城壁の補修費用もまかなえる好循環……」
スタッフさんの様子を見ていたこの国のお姫様、ローベルト=フルフローラ様が熱く語るが、この人ちょいちょい本音が混ざるんだよな……。
「このロゼオフルールガーデンをもっと観光客を呼べるような施設にしたい。それでその相談なのだが……出来たら君達にご協力を……例えば今回みたいなお店を常設で作れたら、その……」
ローベルト様が急に俺に上目遣いで迫ってきたんだが……うーん、と言われてもなぁ。
しかしこの光る桜という、看板としてとても強い武器があるガーデンに展開するオープンタイプのカフェはちょっと興味がある。
あれ、最近俺って経営者目線だな……。
「……どうだろうアンリーナ。正直、訪れる観光客数とか少なめでマイナス面が多そうだが、この桜がある環境のお店というのは世界でも売りになると思う。周囲に競合店と言えるお店も少なく、独占状態にはなれると思うが……売上はどうかなぁ。アンリーナのとこで出している化粧品とコラボして、ロゼオフルールガーデンの香り系の商品展開とか、ここでしか買えない強み押し出せばいけるかな」
俺は後ろにいた商売人アンリーナに小声でボソボソと話しかける。
王族様の前で失礼だが、専門家&ローズ=ハイドランジェの次期代表であるアンリーナの意見がないと俺ではどうにも出来ない。
「そうですわね……こちらに着いてから、今後のローズ=ハイドランジェ商品の展開の為に見える範囲での調査はしていましたが、厳しそうですわね……。一応王都フルフローラにもうちのお店はあるのですが、データだけ見るとやはり売上は少なめで、人口の少なさと観光客数の少なさが目立つ感じでしょうか」
アンリーナがメモ帳を取り出し、パラパラとめくりながら難しそうな顔をする。
「……しかしまぁ、何もお店を出すということが売上だけを望むというわけではありません。それ以外の目的で出店を決めるケースもあります」
売上以外の目的もあると。ああ、宣伝とかだろうか。
「これは出店数が多いからこそ出来ることではありますが、例え売上がマイナスでも、他のお店での売上でカバー出来れば問題はありません。売上が見込めなくても、有名な場所に出すことで話題になれば、それが噂として広まり、結果世界に名を売ることが出来ます。つまり宣伝ですわね。あとは……繋がり、でしょうか」
最後ボソっと言い、アンリーナがちょっと悪い顔になる。
「師匠の発想と、今までジゼリィ=アゼリィの料理人から学んだ技術を少し使わせていただけるのなら、勝算はあります。どうでしょう、ここは師匠のお手を煩わせること無く、我がローズ=ハイドランジェにお任せ頂けないでしょうか。もちろん師匠とジゼリィ=アゼリィ様側にも売上の一部をお支払いいたします。つまり……今までちょっと手薄だったフルフローラ王族様との繋がりが欲しいのです」
ほう、お店展開はアンリーナ側で全部やってくれるってことか。
イケボ兄さん系の味付けをアンリーナ側の料理人で再現し提供する、と。
まぁアンリーナなら任せて大丈夫だろ。
本音は売上じゃなくて、フルフローラ王族との繋がりか。確かに王族様と繋がっていれば、企業としてはそれだけ信頼があるところと世間から見てもらえるだろうしな。
「……ほ、本当か! いいのか、いいんだな! すごい、すごいぞ……こんな田舎王都と、あの世界有数の右肩上がり企業ローズ=ハイドランジェがコラボ……! もちろん、もちろん全面的に協力するぞ! ロゼオフルールガーデンに、王都に、花の国フルフローラにもっと観光客を呼べるのなら、もう私はなんでもするぞ!」
アンリーナがにこやかフェイスでさきほどの案に乗ると言ったら、ローベルト様が大興奮で俺とアンリーナの手を握ってきた。ん、今二回目のなんでもするって……冗談さておき、ここまで喜ぶほど厳しい状況だったってことなのかな。
でも花の国フルフローラって花とか紅茶がすげぇ売れていると思うんだが、国の経済全体をまかなえるほどではないのか。
細かなお話は後日、アンリーナの会社の人が来て進めていくとのこと。
「ではお疲れ様でした! みなさん本当にありがとうございました!」
臨時ロゼオフルールガーデンカフェの撤収作業も完了。
みんな最後まで残って協力してくれたおかげで、スムーズに片付けが出来た。
皆を見送り、時刻はすでに二十四時手前。
泊まるところを確保していなかったのだが、ローベルト様が配慮して下さり、お城に泊めてもらえることになった。ありがてぇ。
「……今宵の桜は、今まで見た中で一番暖かい光を放っている。そうか、そうだよな……それが皆の願いだったものな。大丈夫だ、フルフローラはとても良い国になった。いや、これからもっと平和で笑顔あふれる良い国にしてみせるさ。見ていてくれ、みんな」
さすがに疲れ切り、皆眠い目をこすってお城に行こうとしたら、ローベルト様がふと立ち止まり後ろを振り向き言う。
俺には言っている意味が分からないが、ローベルト様はとても満足そうに、優しそうに微笑み、ロゼオフルールガーデンの光る桜に丁寧に頭を下げた。
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