第460話 花の国の王都フルフローラ 7 開店臨時ロゼオフルールガーデンカフェ様





「うわぁ……本当に光りました! これが有名なロゼオフルールガーデンの光る桜!」



 夜十八時ちょっと前。


 数百本と並ぶ桜の木の花びらが一斉に光を放ち、夜のガーデンがぼんやりと明るくなる。



 眩しいではなく、じんわり、ぼんやり明るい感じ。


 一つ一つの光が弱いとはいえ、それが数百本もあると、この広大なガーデン全体に光が灯ったようになる。なんというか、とてもムーディーな感じ。


 ロゼリィがとても嬉しそうに光る桜を見上げ、ピタっと俺の横にくっついてくる。おおぅ……左腕に柔らか感触……。



「師匠、鼻の下を伸ばしている場合ではないですわよ。臨時カフェ開店のお時間です、さぁ号令を!」


「お、おう……胸、じゃなくて、みんなそれぞれの役割を頭に入れ行動して、なんか困ったらすぐに俺に言ってくれ。じゃあいくぜ、臨時ロゼオフルールガーデンカフェ開店だ!」


 ちょっとぼーっとしていたら、ムスっとした顔のアンリーナに小突かれた。


 ってもう開店の時間だったのか。


 桜が光りだす時間とかぶったもんだから、そっちに気を取られてしまった。


 いえ、嘘を言いました。ロゼリィのお胸様の感触を、時を忘れ楽しんでいました。





「いらっしゃいませ! お得なセット、ガーデンAセットはいかがでしょうか。フルフローラ近辺で取れたキノコがたっぷり入ったクリームパスタとフルフローラ産厳選紅茶のセットでございます! Bセットはビスブーケから直送海鮮クリームスープにこんがりパンに、こちらもフルフローラ産厳選紅茶が付きます!」


 夕方終わりのレストランから来てくれた接客担当さんの元気な声が響きだす。


 調理さんも含め、アンリーナのお知り合いの高級レストランから集まってくれ、さすがにみなさん手慣れた感じで丁寧な仕事をしてくれる。


 ガーデン内の入り口横、石畳で舗装された広い空間にお城からレンタルした椅子とテーブルを並べ、そのど真ん中に魔晶石コンロを並べ調理スペースをとった配置。いわゆるソルートンの宿と同じ感じで、調理風景もお見せして楽しんでもらおうというスタイル。



 見上げると夜空にぼんやりと光る桜、たまに花びらが夜風で舞い散りとても幻想的な雰囲気。


 地面に落ちた花びらはゆっくりと光を失い普通の桜に戻るのだが、完全に光が消えるまで少し時間があるので、地面も舞い落ちた桜でじんわり光って見える。


 簡易カフェだから屋根は作れなかったが、逆に屋根なしがこのロゼオフルールガーデンの素晴らしい雰囲気を味わうには正解だったな。



 準備期間が数時間しかなかったので、メニューは二種類のみ。


 近隣で取れたキノコ満載のクリームパスタセットと、港街ビスブーケから届いたという新鮮な海鮮を使ったクリームスープセット。


 アンリーナと商店街に行き、大量に仕入れられる物、フルフローラを満喫出来るような物として、キノコと海鮮を選んだ。


 王都フルフローラの周りは豊かな自然が広がっていて、ちょっと山に入れば美味しいキノコが手に入るそうだ。


 ローベルト様が田舎王都と呼ばれているとか言っていたが、こうして新鮮な食材が手軽に買えるのは素晴らしいことじゃないだろうか。


 確かに王都の周囲は畑に農園が広がっているので、とてものどかな風景……うん、ソルートンに近い雰囲気……かな。


 田舎……えーと、故郷……そう故郷なんて言い方はどうだろう。



 ああ、でもさすが花の国フルフローラ、紅茶は本場で本物だぞ。


 今は耳無しバニー娘であるアプティの超厳しい審査を合格した茶葉を使用した一級品だ。アプティは紅茶に関してはマジになるからなぁ。


「……ここ五人分……こっち二人……」


 そのアプティが頼まれた紅茶を分身が見える速度で配膳しているが、基本無表情無愛想なのは許してくれ。味は美味しいこと確定だからさ。




「はい並んで並んで~。騒ぐなよ~、ルール守らない輩はラビコさんの雷が直撃だぞ~あっはは~」


 十八時開店ということでラビコとクロに王都中で宣伝をお願いしたのだが、さすがに世界的な大魔法使い、ラビコ見たさに多くの人が臨時カフェに興味を持ち並んでくれている。列の先頭のほうは、準備中だった十五時前から並んでくれていたな。


 そしてラビコが自前の杖を指し棒のように使い、列を警備員がごとく見張っている。


 よく怒られることを雷が落ちるとか言うが、ラビコが言うルール守らないと雷が直撃って、そういう意味じゃないよな……多分ラビコの得意魔法であるマジもんの雷魔法が飛んできそう……。


 行列は予想以上に長蛇になっていて、国から騎士達が警備で出てきてくれた。このへんもローベルト様が協力をしてくれ、騎士のみなさんにはお礼として交代で休んでもらい、セットメニューを無料でご提供している。



「ほらよキング、次の食材だぜ」


「パスタ茹で上がりましたー」


 ラビコの宣伝のおかげでカフェは大混雑となり料理の提供が追いつかなくなったので、俺も空いていた魔晶石コンロを使い調理開始。


 料理が出来るロゼリィと、暇そうにしていたクロに補助についてもらい、次々とキノコパスタを仕上げていく。




「おおおおー!」

「ローベルト様ー!」

「きゃー、イケメン執事様達もいるわよー!」


 開店して三十分程経った頃、行列の向こうから歓声が上がる。


 何事かと思いそちらを見ると、この国のお姫様であり国の代表騎士でもあられるローベルト様がイケメン執事を引き連れ現れた。



「こんな楽しい祭りをやっている時間につまらん定例会議になど出ていられるか! 早々に切り上げ私も参戦しに来たぞ! 皆の者、その持てるおもてなし精神をフルに使い、祭りを盛り上げるのだ! いざ、かかれい!」


 ローベルト様が連れてきた執事軍団に号令をかけると、イケメン達が俊敏に動き、にこやかフェイスで配膳を手伝ってくれた。


 執事達、と不思議な言葉だが、どうにもローベルト様が各地に雇っていた執事を面倒だから、とお城に一同に集めた軍団だそうだ。




「あはは、すごいなこの行列。こんな賑やかなロゼオフルールガーデンは初めて見た。さぁ私も手伝うぞ、野菜の微塵切りは得意なんだ。おっとぶつかってしまった、すまないロゼリィ嬢」


 手慣れた手付きでローベルト様が付け合せのサラダ用の作業を手伝ってくれたが、なんだかぐいぐいロゼリィを俺の方に押してくるんだが……。


「あ、ロ、ローベルトさんが押してくるので体がー……ご、ごめんなさい……」


 ロゼリィも抵抗せずに、押されるがままに俺に体を密着させてくる。


 ま、まぁお姫様に押されたとあっては抵抗出来ないよな……。


 ローベルト様がなんだか楽しそうにニヤニヤと俺達を見てくるが……何だろうか。


「いやぁ、調理場に二人で並んでいる姿はなんだか仲良し夫婦のように見えるな。君等は普段からこんな近い距離感だったりするのかな、いやぁお熱い。な、ロゼリィ嬢?」


「や、やめて下さいローベルトさん。た、たまにこんな感じになるだけです……ふ、夫婦とかそんなんじゃ……でもここが私の場所というか、安心する居場所なのは間違いないですけど」


 ……なんかこの二人、急に仲良くなってないか? なんかあったのかね。



「……ぁぁン? っだテメェ……キングの隣にアタシもいんだろ。なに勝手にフレーム外にしてンだよわっぷ……」


 俺の右側足元の野菜箱からキノコを取り出すためにしゃがんでいた、猫耳フードをかぶったクロ。


 彼女がイラっとした感じで大股を開き、ヤンキー座りで舌打ちしながらローベルト様を威嚇し始めたので、俺が慌ててクロの口を塞ぐ。


 や、やめろクロ……身分上は魔法の国セレスティアのお姫様であるお前と花の国フルフローラのお姫様であるローベルト様は同格なのかもしれないが、お前お忍び状態なんだから正体バレたらあかんだろ。



 ああ……なんていうか、俺、異世界に来てまともなお姫様に出会っていないと思うんだけど。


 ジゼリィさんの下着の情報を興奮気味に欲しがるお姫様とか、ぁぁン? とか表記するのが難しい唸り声みたいな発音+ヤンキー座りで威嚇してくるお姫様とかじゃなくて、なんか豪華な白いドレス着て笑顔が優しい感じのおしとやか系デフォルトお姫様はいずこ。











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