【書籍化&コミカライズ】異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが ~職業街の人でも出来る宿屋経営と街の守り方~【WEB版】
第459話 花の国の王都フルフローラ 6 カフェ準備とロゼリィの友人様
第459話 花の国の王都フルフローラ 6 カフェ準備とロゼリィの友人様
「師匠、魔晶石コンロをフルフローラ城から五台、知り合いのお店から五台、計十台お借り出来ましたわ」
「助かるアンリーナ、急ぎ設置してくれ。形はソルートンの宿みたく、会場の真ん中設置のオープン式で頼む」
午後から大慌てで簡易カフェ作業開始。
夜十八時開店予定と時間的にかなり厳しいが、ローベルト様が全面協力して下さり、お城から魔晶石コンロ、椅子とテーブルセットなど多量に貸し出してくれたり、国所有のロゼオフルールガーデンにお店を出す許可など、お父上であられる現国王に掛け合ってくれた。
このあたりの本来通りにくい書類申請が通ったのは、この国のお姫様であられるローベルト様本人の申請だからこそ、なんだろう。
あとは商売人アンリーナが知り合いのツテを最大限発揮してくれ、建築会社から資材と作業人員、夕方に閉店となるレストランから料理人、配膳スタッフを十数人呼び寄せてくれ、本当に助かった。ああ、ちゃんと報酬は払うぞ。
こういうのは本当にアンリーナが俺の意図を瞬時に理解してくれ、手早く動いてくれる。さすが化粧品と魔晶石販売の世界的大企業、ローズ=ハイドランジェの次期代表なだけはある。
不安な雨雲もなく、簡易カフェが屋根無しで行けそうなのも時短になったかな。
「じゃあ宣伝行ってくるね~。まずは北側~っと、行くぞ家出猫~あっはは~」
「おう、キングの期待には応えておかないとな! こういう小さな信頼の積み重ねがいつか愛へと昇華したりすっからよ、ニャッハハ!」
簡易カフェ開店の宣伝はラビコとクロに任せた。
ルナリアの勇者のパーティーメンバーとして世界を巡り、数々の功績を上げた大魔法使いラビコ。世界で通用するラビコの知名度を利用させてもらうぞ。
ラビコ一人だと何しでかすか分からないから、態度と言葉使いは荒いが結構常識人クロを補助で付けた。
「……マスター、椅子とテーブルの設置完了しました」
いきなり背後から声が聞こえ振り返ると、今は耳無しバニー娘アプティが無表情で立っていた。
アプティは意外に力持ちなので、椅子とかの設置を担当してもらったのだが、もう終わったのかよ……はえぇ。
「おう、さすが俺のアプティだぜ。あとはオープンしたら紅茶の配膳頼むな」
仕事を終えたアプティの頭を撫でる。
「……はい、マスターと私は結婚なのです。もっと撫でてください」
銀の妖狐の島以降、結婚どうの言い始めたが……今アプティの中で流行りワードなのかね。
ああ、愛犬は俺の足元で大人しくしているぞ。あまり興味なさそうな感じ。
俺のパーティーにはもう一人女性がいるのだが、彼女は簡易カフェ作業には関わらず、ロゼオフルールガーデンのベンチに座り、この花の国フルフローラのお姫様であられるローベルト様のお話し相手をしてもらっている。
というか、ローベルト様がロゼリィとお話しをさせてくれたら何でもする、と言ってきた。
いや、それは別にいいんだが、ん? いま何でもするって……冗談さておき、ローベルト様が盾使いの憧れの存在であるジゼリィさんのお話しを、娘であるロゼリィに聞きたいんだと。
確かにソルートンで見たジゼリィさんの魔法シールドは半端なかったな。
ローベルト様は花の国フルフローラの代表騎士でフォリウムナイト。巨大な三つ葉の形をした盾を装備し最前線に立ち、後方のみんなを守る役目の盾騎士だそうだ。
この花の国フルフローラでは攻撃系騎士ではなく、攻撃能力は低いが皆を守り最前線に立つ盾使いが国を守った英雄として栄誉を得たとか。
そのローベルト様がぐいぐい身を乗り出して大興奮でロゼリィとお話しをしているが、憧れのジゼリィさんの好みの下着は聞き出せたのかね。
「……なるほど! ジゼリィ様は若い頃ソルートンと言う港街でゴロツキ共のリーダーをやっていたと! ちょっとやんちゃしていた時期というわけか、ふむふむ。そこに冒険者としてフラっと街にやってきた青年ローエン殿と知り合い難癖を付け、数回の熱い拳を交えた決闘の末、二人は結婚したと!」
「は、はい、大体そんな感じだったそうです……。お母さんは自分より強い男がいる、と衝撃を受けたとかなんとか……」
メモを取りながら根掘り葉掘り聞いてくるお姫様に困惑しつつ、ロゼリィが昔聞いた、本当か嘘か分からない両親の馴れ初めを話す。
「さすがジゼリィ様! 拳で愛を語るとはなんと勇ましい! 私もそのような激しい運命の出会いをしてみたい! あのルナリアの勇者のパーティーメンバーだった二人の血を引き継ぐロゼリィ嬢は、さぞラビコ様の元で大活躍を……! それでジゼリィ様は普段どんな下着を……」
「……いえ…残念ながら私には何の才能もありません。父と母が戦っている姿もほとんど見たことがありませんし、むしろ戦いとかそういうことに関わりたくないです……怖がりでマイナス思考で……私なんて皆が……大事な友人やとても大事な人が命を懸け必死に戦っている姿を、ただ震えて見ていることしか出来ないんです……」
興奮気味で話すローベルトとは正反対に、ロゼリィは下を向き、膝の上に乗せた両拳を悔しそうに強く握る。
「……あ、し、失礼いたしました……その、父と母は優秀なのですが、残念ながら子の私はローベルト様が思うような存在ではなく……本当にあの二人の血を継いだのが私なんかで申し訳ないと……」
「ふむ。いや、興奮して気が回らず、こちらもすまなかった。私もその辺りの『期待された子の苦労』は分かる話だ。私は代々続くフルフローラの血を継いでいてな、強かった父や過去の王族、さらには隣国の優秀なお姫様と比べられ、日々色々言われていてな」
興奮を抑えベンチに座り、ローベルトが苦笑いで頭を掻く。
「大国ペルセフォスのサーズ姫。あの人は本当に同じ人間なのかってぐらい頭が良くて美しくて……、その上本人の戦闘能力も高く、世界で唯一の浮遊魔法アイテムである飛車輪なんておっそろしい物を自在に操り空を駆り、龍をも難なく落とす龍騎士ときた。無理無理、頼むからあんな無敵の天上人と比べないでくれって、あはは」
ペルセフォス王国がある北側を見た後、自分の制服の胸部分に施された三つ葉のマークを掴みローベルトが勢いよく立ち上がる。
「だが腐ってはいかんぞロゼリィ嬢。英雄になれる、皆の期待に応えられる人間なんてのは世界で一握りの存在。それになれなかったとしても、その才能が無かったとしても嘆くことはない。むしろなれない人間のほうが大多数、私達はほどほどの普通の人間として日々を過ごすのが正解なのさ。お洒落を楽しみ、笑い、美味しい物を食べ、殿方に恋をする。いいではないか、どんな血を継いでいようが気負うことなく普通に生きていこうとしたって。私は私、他の誰の物でもない。私の心はここにある」
「……他の誰の物でもない、私の心……」
ローベルトの言葉が心に引っかかり、ロゼリィがその言葉を呟く。
「顔を上げよロゼリィ嬢。戦う力が無いからと自分を責め、心まで落としていては肌が荒れ、その美しい髪の艶が枯れてしまうぞ? そうなっては意中の、あそこにいる彼が自分に振り向いてくれない、なんてことになるかもしれないぞ、あはは」
「え……! あ、そ、それはだめです! そ、そうです、心の状態が肌と髪の艶にも影響するって恋を叶える十二の方法の本にも書いて……ってどうして恋愛の話になっているんですか! あ、も、申し訳ありません……大きな声で……」
皆に指示を出し、テキパキと簡易カフェの設営を進めるオレンジのジャージを着た少年を指され、ロゼリィが慌てつい大きな声を出してしまう。
「あはは、やっぱりか。ロゼリィ嬢はずーっと彼を目で追っていたし、彼に話しかけられたときのロゼリィ嬢の笑顔は完全に恋する少女だったものでな。だが……余計なお世話かもしれないが、あの少年の心を射止めようとするには周りにいるライバル達が相当に手強いな。一見では分からなかったが、ラビコ様以外のみなさんも戦闘経験豊かな手練の者達といった感じで、しかも美人揃いときた。皆、少年に気があるようだし……あとはあの大企業ローズ=ハイドランジェの娘さんまでいるとか、君達は一体何のパーティーなんだ? そしてこれだけのメンバーを揃えたあの少年は一体何者なのか……」
「はい、確かに恋のライバルですが、皆さんとても強くて、とても生き方が格好がいいんです。尊敬出来る、信頼出来るライバルであり勝手に親友だと思っています。でも絶対に負けたくありませんし、負けるつもりもありません。あの人は……そうですね、まさに私達の英雄でしょうか。楽しいときは一緒に笑ってくれ、心が弱っているときには優しく慰めてくれ、蒸気モンスターに襲われたときも常に前に立ち私達を勇気付け、どんな不利な状況だろうが活路を見出し前を見、絶対に生き残って勝つという強い心を見せてくれる……暗い不安な場所で迷う私達に道を示してくれる、光を放つ勇者。私達はもう何度も彼に命と心を救われましたし、その、時折見せてくれる彼の可愛らしい笑顔はもう……心がキューンてなってしまって……」
ロゼリィがとても嬉しそうに身振りを交え仲間と少年のことを語る。
「……ふふ、さっきとは違って随分と楽しそうな顔になった。ロゼリィ嬢は本当にパーティーの皆が好きなんだな。恋のライバルだけど尊敬出来る親友か、いいなぁそういう関係。そして強いな、ロゼリィ嬢は。ライバルと思っている相手を褒めるとか、なかなか出来ないことだ」
「わ、私は強くなんか……戦いで傷つく皆を見ていることしか出来ない弱虫で……」
過去、蒸気モンスターとの戦い、そして今回少年がさらわれときに何も出来なかったことを思い出し、再びロゼリィが強く拳を握る。
「そうかな? ロゼリィ嬢は例え何度自分が危険な目に遭おうが皆を信じ少年を信じ、逃げ出すことなく今も共に行動しているんだろ? 心の弱い人間に出来る行動ではないさ」
「心……私の心……。多分、あの人のおかげでしょうか……あの人に出会ってから私は少し前を見れるようになったんです。一人のときは怖くて出来なかった、自分の正面をしっかり見るということ。あの人の側にいれば怖くない、そう考えたら自分で一歩前に進めた……」
ロゼリィの言葉を聞いたローベルトが花壇に咲いていた一輪の花を摘み、優しくロゼリィの左胸にかざす。
「これを贈ろう。この花はカタランサスといい、どんな強い日差しにも負けず上を向き五つの美しい花びらを咲かすとても強い花なんだ。今はロゼリィ嬢が彼に助けられているのかもしれない、でも彼はまだ若い、いつかその心が折れるときが来るかもしれない。そのときはロゼリィ嬢が側に寄り添い彼を支えてやれ。彼に貰った勇気を、そしてロゼリィ嬢の今までの想いを乗せ強く願え。怖がらず、一歩前へ出て自分の心に従い願え。そうすればロゼリィ嬢の胸には強く光る勇気の花が咲くだろう」
ロゼリィは花を受け取り、ローベルトの言葉を強く心に刻む。
「はい……! もう見ているだけは嫌なんです……例え戦えなくても、私は逃げない。あの人の側で、あの人の隣で前を向き生きていきたい。それが私の願い、私の想い、私の心……!」
「うん、いいぞ、とてもいい顔になった。ふふ、ロゼリィ嬢、よければ私と友達になってもらえないだろうか。強い心を持つ人は私の好みでな、出来たら身分など気にしない友人関係をお願いしたい」
ローベルトがにこやかに微笑み、手を差し出してくる。
「え、え? わ、私ですか? そ、そんな……私なんてただの宿の娘で……で、でも嬉しいです、ローベルトさんのようなすごい人とお友達になれるなんて。よ、よろしくお願いします……」
「あはは、では友人として最初に聞きたいのだが、ジゼリィ様の下着は……」
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