第455話 花の国の王都フルフローラ 2 とっても美味しい冷製スープ(花)様




「こ、これは一体……」




 現在地花の国の王都フルフローラ、時刻は午前十一時半。



 お昼ご飯を食べようと商売人アンリーナが案内してくれたのは、最近王都フルフローラで流行っているというカフェ。


 人気なせいか列が出来ていたので、並んで入店。


 アンリーナに注文を任せたら、出てきたのは目を疑うランチだった。




「こちらが今フルフローラで大流行のランチ、ブルームンハイデになります。いわゆる冷製スープですね。フルフローラは暑い地域ですので、必然的に冷たい食べ物が人気ということでしょうか」


 冷製スープ。


 アンリーナさん、それはとても食欲が湧くワードなのだが、問題は見た目……。



「うわぁ、すごく綺麗ですねー。具には煮込んだ花びらと、後乗せトッピングの新鮮で色鮮やかな花びらの二種類が入っているんですね」


 宿の娘ロゼリィがニコニコ笑顔で不思議ワードを言う。


 煮込んだ花びらと、後乗せトッピングで乗せられた色鮮やかな花びらが具……。


 えーと簡単に言うと、鶏ダシの冷製スープにこれでもかってぐらい花びらが浸かっている深皿が出てきた。あとパン。



 これは……食い物なのか? 


 てっきりオシャレなカフェのテーブルを彩る、追加の飾り花瓶が六個出てきたのかと思ったぞ。


 花瓶としての見た目は百点、さて食べ物としての評価は……うん、申し訳程度に鶏肉が入っているのだが、この煮込んだ花びらとトッピング花びらが余計。

 

 あと鶏ダシスープが薄しょっぱくてバランスが悪く、美味しくない。


 まぁ、食うけど。



「ほら、スイートスターっていう花を水に入れてペルセフォス王都のカフェで出しているけど~あれの進化版かね~」


 水着魔女ラビコが花びらを食いながら言うが、そういやカフェジゼリィ=アゼリィで出している水にはフルフローラ産のスイートスターっていう食べられる花が入っているな。


 でもあれは無味無臭な水にほんのり香り付けの意味で入れているのであって、煮込んでメイン食材になっているこれとは話が違うような……。


「ニャッハハ、もりもり花を食うとかなかなか出来ねぇからよ、フルフローラに来て良かったよな、キング!」


 山盛り花びら深皿を持ち上げ、流し込むように豪快に食う猫耳フードのクロ。


 いや、別に花を食いにフルフローラに来たわけでは……。いつもならマナーが、とか言って注意するのだが、今回ばかりはあれぐらい勢いつけて食ったほうがいいな。


 いくぜ……!



「ぉぉおおおらぁ! んっふ、おっふ……花……完食ぅぅ!」


 深呼吸をし、俺は気合を入れて花スープをかっ込む。


 ズルズルズルゥッと口に流し込み、あまり噛むこともなく一気に胃袋へ。よし……か、完食だぜ。


 もう食いたくない……口直しにパンを……うぅ、固くて味がない……。


「おほ~さっすが社長~。よっぽど花びらが好きなのかな~」


 別に好きじゃねぇよ。


 生まれてこのかた、色鮮やかな花びらを腹いっぱい食いたいなんて一度たりとも思ったことねぇよ。単に残したら悪いと勢いで食っただけだ。


「……そうなのですかマスター、ではこちらもどうぞ……私は紅茶が美味しいので……」


 俺のカラになった皿と花満載の皿が音もなくスッと入れ替えられ、何事かと驚き見ると、正面に座っていた耳無しバニー娘アプティが入れ替え作業を完了させ無表情に紅茶をすする。


 え、ちょ……なんで一度も手を付けていない皿が俺のとこに……。


「あら師匠、花がお好きなのですか。では私のもどうぞ」


「ちょっと量が多かったので、よろしければ私のも……」


「あっはは~私も~っと。ほら、モリモリ食べろ~」


「おお、アタシの食いかけでよけりゃやるぞキング」


 アンリーナ、ロゼリィ、ラビコ、クロがそれぞれの食べかけを俺の前に置く。


 状況が理解出来ず固まっていると、女性陣は追加でカットフルーツセットを注文し、紅茶片手に美味そうに食い始めた。ベスもリンゴを美味そうに食っている。



 おかしい……なぜ俺の前だけに花瓶が五個もあるんだ。


 つかみんな、ほとんど食ってねぇじゃねぇか……。その、俺も美味しそうなフルーツ山盛りセットが食いたいんですけど。


 いや待てよ……よく考えたら美しい女性陣の食べかけということは、つまり間接なんたらってことでは……! 


 よし行ける、そう考えたらいくらでも行ける……! 


 そうとでも考えなきゃ行けない……!







「いや~さすが花の国フルフローラ、紅茶が美味しかったね~って社長大丈夫~? 好きだからって六人分は食べ過ぎだって~あっはは~」


「…………」


 カフェ近くにあった公園の長椅子に膨れた水っぱらを抱えて横たわっていたら、水着魔女ラビコが動けずにいる俺を指し爆笑。



「ふふ、しばらくこのまま休みましょうか。天気も良いですし」


 笑うラビコにも反論せず、俺は心穏やかに紳士に意識を後頭部に集中させる。


 そう、なんとロゼリィが見かねて膝枕をしてくれているのだ。


 素晴らしい……なんと素晴らしい状況なのか……!


 後頭部には優しげな温もりが、そして目の前数センチ先にはロゼリィのとてもとても大きなお胸様が……! 


 届きそうだ……ちょっと手を伸ばせばあの果実に手が……!



「あれ、なんでしょう……」


 手で触ったら犯罪だし……なら顔で、と首を限界まで伸ばそうと努力をしていたら、ロゼリィが不安げにキョロキョロと周りを見る。


「おやおや~?」


 気が付いたら俺達は重鎧を装備した人達に囲まれていて、ラビコがニヤニヤと量るように彼等を見る。


 鎧の胸部分には三つ葉のマークが施されていて、どうにもこの国の騎士っぽい雰囲気。




「敬礼を、失礼であるぞ!」



 騎士達の後ろからよく通る声が聞こえ、途端彼等がざっと手を構え敬礼をする。



 きりっとした美人系の顔の女性が歩み出て来たが……さて誰だろうか。











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