第456話 花の国の王都フルフローラ 3 衝撃のベス先生様




「ようこそ、花の国フルフローラへ。まさか本当にラビコ様に来ていただけているとは……」



 重鎧装備の騎士達を従えた身なりの良い女性が、嬉しそうに水着魔女ラビコに歩み寄る。





 時刻はお昼過ぎ。


 王都フルフローラで人気だというカフェで花びら満載冷製スープを頂いた……のだが、色々あって俺が食い過ぎで動けなくなってしまった。


 水っぱら抱えて近くのちょっとした公園で休んでいたら、何やら立派な装備をした騎士に囲まれる事態に。


 集団のリーダーっぽい女性がラビコに話しかけてきたが、さて誰だろうか。


 クロが猫耳フードをさっと深めにかぶり無言で俺の側に来たが……ってことはそれ系の身分の人かね。




「やぁ久しぶり、だね~。ちょ~っと観光で寄らせてもらっているよ~」


「お久しぶりですラビコ様。駅を警備していた者から、もしかしたらラビコ様御本人かも、と報告を受け半信半疑ではあったものの急ぎ確認を兼ねて来たのですが……いや、失礼をいたしました。お迎えが遅くなり申し訳ありません。遠方からのお越しでさぞお疲れでしょう、よろしければ我らが城でご休憩を……」


 ラビコとその女性の外交接待みたいなトークが始まったが、なんつーかソルートンにいると忘れがちだが、ラビコってマジで世界的に有名な魔法使いなのな。



「クロ、あの女性って誰なんだ?」


 俺は横で深くフードをかぶって静かにしているクロに小声で聞いてみる。


「……ああ、この花の国フルフローラの王族でよ、国の代表騎士もやっているローベルト=フルフローラ様さ」


 うへ、この国の冠ネームを背負いしお方でしたか。





「やっぱラビコってすげーんだな。どこ行っても好待遇どころか国賓待遇だもんな」


 ローベルト様がぜひともお城へとお誘いくださり、ラビコがチラと俺を見た後そのお誘いに乗ることに。


 現在、すぐに呼んでくれた豪華な王族専用馬車で花の国フルフローラのお城へ向かっている最中だ。


「おやおや~? どエロ~い少年の羨望の眼差しが肌に突き刺さってきたぞ~? そうそう、ようやく理解したか~このラビコ様の凄さを~あっはは~」


 狭い馬車内で水着魔女ラビコが胸を張り立ち上がる。


 うわ、普通に褒めたつもりが調子に乗せてしまったか。馬車内はそんな広くないんだから立ち上がんなっての。


 実際ラビコはペルセフォスで国王と同等の地位を与えられている人物、なんだよな。



「ああ、国賓待遇は断ったよ~。面倒だし、そういう目的の訪問じゃないからね~。私個人と~ローベルト個人との再会を祝して、友人としてお茶をごちそうになりに行くだけさ~。居場所を大っぴらに出来ない家出猫のクロもいるし~いつもみたく不機嫌&仏頂面で断ってもよかったんだけど~、社長の夢である世界を見たいっていう目的にちょ~っと協力して褒めてもらおうと思っただけさ~あっはは~」


 王族様相手に不機嫌仏頂面で断るのはまずいだろ……って俺と出会う以前のラビコってマジでそれ普通にやっていたんだっけ? 


 そういやクロは公式な場所にいると色々面倒だったな。


 目的に協力、確かに俺の夢はこの異世界の全てを見ることだが……まぁ、気を使ってくれたのはありがたい話か。おかげでお城に行けるわけだし。


「……いつも気を使わせてすまんな、ラビコ。ありがとうな」


「おっほ~珍しく素直な少年じゃないか~。うんうん、そうやってどんどんこのラビコさんに依存していいんだよ~っと。お金から私生活から体まで、も~っと依存しておいで~。見たか番号付きの愛人共~これが真の正妻の力なんだよね~あっはは~」


 普通にお礼を言いラビコの頭を撫でたら、やはり調子に乗っていたらしく、他の女性メンバーを見てニヤニヤしながら余計なことを言う。



「あ、そ、そういう攻め方はずるいです! お金とか権力とか地位とかを使って知らず知らずに頼らせて、気が付いたら自力で這い出すことが出来ない沼に誘い込むような姑息なやり方です! わ、私は違いますよ、私はそういうのではなく、お互いが信頼し求め合うような素晴らしい愛の関係を目指していますし! まず私はラビコと違ってお料理が出来ます! お洗濯も出来ますし……」


 ラビコの態度にすぐさま反応した宿の娘ロゼリィ。


 異世界に来たばっかの頃、俺にシチュー作ってくれたよな。あれは普通に美味かった。



「そうですわね、そういうお金や権力にものを言わせて恋を勝ち取ろうスタイルはあまり好みませんが、ここまでライバルが多く強力な場合は、己の得意とする武器を持ち立ち上がるのは正攻法かと。遠慮をして出し抜かれて、後で泣き言なんて言いたくありません。日々全力でアタックするのみ! というわけで師匠、まずは我が社ローズ=ハイドランジェがジゼリィ=アゼリィに数々のご協力という形をとったという事実を思い出していただきまして、今回の船など、私は師匠に心と身体を満足させていただく権利が……」


 さらに商売人アンリーナまで反応し始めたし、この流れはすげぇやっかいな方向だぞ……。


 もちろんアンリーナには相当お世話になっているし、日々感謝もしている。



「ニャッハハ……言うねぇアンリーナ。じゃあアタシも己の武器ってのを出しちゃうぜぇ? なぁキング、アタシの名前を知っているだろ? そうアタシはクロックリム=セレスティア。こんな主張ダッサくて普段なら声を大にして言いたかないが、あの魔法の国セレスティアの名を受け継ぐ高貴な血統ってやつでよぉ。どうよ、王族の女を欲のままに汚してみたくねぇか? いいぜぇ、来いよキング。ギッタギタのズタボロにしてやんよ!」


 ク、クロさん……後半ファイティングポーズで別の意味の王者の風格なんですが、武器にした王族の名前どこいった。


 それ、俺が欲のままに抱きついたら返り討ちにあって、二度と世間様に顔出し出来ない状況になるんじゃ……。



「……マスターと結婚……島でならマスターは自由です……人間の文化では出来ないことも、島なら全て許されマスターの言いなりです……私はマスターの全てを受け入れます……」


 今は耳無しバニー娘アプティまで立ち上がり始めたぞ……。


 銀の妖狐の島は蒸気モンスターの島で、人間の決めた法律は及ばないんだっけ。


 強い者が正義で、皆それに従うとか……ううむ、ってことはメイド二十人衆さん達と夜の混浴とか、俺が望めばそれ以上のアレとかこれも自由……! ほぁぁぁ……!



「……ベッス!」


「んっぶふぁ!」


 女性陣が立ち上がり早口で自分の武器とやらを語り、ロゼリィが左腕に、ラビコが右腕にしがみついてくる。


 アンリーナなんか俺のジャージのズボンを下げようと華奢な体に似合わないとんでもねぇ握力を見せてきて、アプティもそれに協力しだして、クロは熱くなったのか服を脱ぎ始めたし、俺も島でフリーダムな素晴らしき欲に満たされた姿を想像してあああああああ、となっていたら愛犬ベスが呆れた感じで吼えた。


 軽い衝撃波が発生し、俺の顔が馬車の壁とキッス。


 女性陣も強制的に椅子に座らせられる形に。





「……す、すいませんベス先生……馬車内で騒いでしまいました……」


「ベッスベス」


 俺が土下座で謝ると、愛犬は「もうすんなよ」的な感じで許してくれた。


 さすが俺の愛犬、お心が海のように広い。



「あっはは~ちょ~っと騒いじゃったね~」


「ご、ごめんなさいベスちゃん……あとでリンゴあげますね」


「ぐ……せめて私のほうに師匠が飛ばされてくれれば不可抗力であれやこれや出来ましたのに……」


「さすがキングの愛犬、半端ねぇぜ……」


「……マスター、この犬私より強いです」



 女性陣もベスに謝るが、後半三人、アンリーナとクロとアプティは謝ってねぇだろ。









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