第454話 花の国の王都フルフローラ 1 到着王都フルフローラ様
「皆様お疲れ様でした、花の国の王都フルフローラに到着ですわ」
アンリーナが魔晶列車の窓を指しポーズを決める。
銀の妖狐の島から脱出後、船の補給で寄った港街ビスブーケ。
せっかくだから観光をとなり、俺達は花の国フルフローラの王都を目指し魔晶列車に乗った。
ビスブーケからは魔晶列車の特急で二時間という距離。
ぼーっと車窓の流れる景色を見ていたら王都に着いていた。
さすが花の国と呼ばれるだけあり、魔晶列車から望む景色は風光明媚で美しかった。思わず魔晶石カメラで何枚か写真を撮ってしまったぞ。
地平線まで広がる花畑や紅茶畑等、本当に花の生産が盛んなんだなぁと実感出来た。花好きのロゼリィなんかずっと窓にしがみつき、子供のように楽しそうな笑顔で車窓を見ていたぐらい。
あ、ズボンは死守したぞ。結局アプティに助けてもらったが。
悪いがうちのアプティは、あのサーズ姫様にも余裕で勝てるクラスの体術の使い手でな。魔法使いのクロと商売人アンリーナ相手じゃ話にならんレベル。
「なんかペルセフォスの移動距離は一日単位だから、二時間ってのはあっという間に感じるな」
「ま~所有している国土の差だね~。フルフローラは北をペルセフォス、南にデゼルケーノ、西に水の国なんていう結構大きい国に挟まれた、ちょ~っとせまい国なんだよね~」
俺の体感時間の発言にラビコが反応してくれたが、そうか、国土の差か。
そう考えたら、端っこにあるソルートンから国の真ん中あたりにある王都に行くのに一日単位かかるペルセフォスってのは、相当デカイ国なんだな。
「国土の広さ=国力の差、なんて言われるから~遥か昔は相当苦労した国っぽいね~。そのへんは王都の地図見たらすぐ分かると思うよ~」
ほう。まぁでも今のフルフローラは花で溢れた平和でメルヘンな国みたいだし、過去にどんな苦労があったか俺には分からないが、それを乗り越え繁栄した素晴らしい国ってことなんじゃねぇの。
「うわぁ、すごく綺麗です! 駅の目の前が花の公園なんですね。圧倒されるぐらい、花で埋め尽くされています!」
駅を出た途端、花の甘い香りに包まれる。
それもそのはず、駅の目の前が大きな公園になっていて、色とりどりの花が多量に植えられていた。ロゼリィが大はしゃぎで公園に走って行ってしまったぞ。
ロゼリィを追いかけ公園に入るが、本当に花で溢れた綺麗な公園だなぁ。
入ってすぐのところにある巨大な花壇。
とても整備されていて、多くの観光客が足を止め見入っている。花壇の真ん中には石で作られた大きな人型の像が飾ってあるが、この国の偉人か何かなのだろう。
「それはこの国の騎士フォリウムナイトだね~。この国を守り抜いた栄誉を讃え像が作られ、ここに飾られたってとこかね~」
ぼーっと像を見ていたらラビコが解説をしてくれた。
この国を守り抜いた、か。確かに像の左手には巨大な三枚の葉を合わせたような盾があるな。
「盾騎士フォリウムナイト。花の国フルフローラを代表する騎士ですわね。守る力に長けた騎士で、盾から放たれる魔法が光る花びらのように展開され、まるで戦場に花が咲いたようになると言われています」
アンリーナも俺の横に並び像を見上げる。
カサッと紙がすれる小さな音が聞こえ、俺の右手親指に湿ったものが塗られ……ってあっぶね、これ朱肉じゃねーか!
俺は慌てて手を引っ込め、アンリーナから距離を取る。
「ちっ……最近の師匠は勘が鋭いですわね。冗談、冗談ですわ師匠。ちょっとしたビジネスジョークです。さ、早くロゼリィさんを捕まえてお昼ご飯にしましょう」
何か細かな文字が多量に書かれた紙を舌打ちをしながらポケットにしまいこんだアンリーナが、公園にある時計を指し街方向に歩き出す。
現在はお昼手前の午前十一時。お昼、お昼か……。
危うくアンリーナが用意した、よく分からない書類に拇印を押されるところだった……。
そういや以前もこんなことあったな……さっき魔晶列車内で自分は奥手だとか言っていたが、奥手な子はこんなことしねぇだろ……。
「あっはは~アンリーナは恋に積極的だよね~。ああいう自分の欲に忠実なところは好きだな~。私も負けてらんないな~っと」
ラビコがゲラゲラ笑いながら言うが、さっきみたいのが恋に積極的って言うのか? 俺の思う恋愛に積極的な女子のイメージとは全然違うんですが……。
つかなんの書類だったんだよ。
「なんかオープニングイベントがどうとか結婚式がどうとか書いてたぞ、アンリーナの紙。ったくよぉ、キングはモテすぎなンだよなぁ。アタシもドンドン仕掛けていかねぇと、この戦いに生き残れねぇなぁ」
猫耳フードをかぶったクロがゴーグルを外しながら言う。そういやクロのゴーグルって双眼鏡みたく遠視が出来るんだっけか。
結婚式……よく内容は分からないが、絶対にサインはしないほうがいい類の書類だな。
忘れていたが、アンリーナってこういう子だった……気をつけよう。
そして俺がモテるって……嘘だろ?
いきなり親指に朱肉塗られて内容不明の書類に拇印押されそうになるのって、この異世界ではモテるって言うのか? ウッソだろ……。
「……マスター、その、耳が欲しいです……。耳が無いと、何かバランスが……」
モテる、の定義についてちょっと考えていたら、背後から意味不明な言葉が聞こえた。
ってああ、アプティか……。
そういやずっと付けていたコスプレバニー耳はアプティが俺にプレゼントしてくれたから、今は耳無し状態だった。耳無し状態……うん、変な日本語だが、間違ってはいないはず。
こないだ判明した衝撃の事実、アプティはなんとあの銀の妖狐の妹さんなんだと。
島にいた水の種族の蒸気モンスターの皆さんは頭に大きなキツネ耳があったし、アプティにもキツネ耳があった。
一応人前でキツネ耳を出すなとは言ってあるが、頭に大きな耳が当たり前にある種族らしいアプティには、例えコスプレバニー耳とはいえあったほうがバランスが良いものなのか。
「分かった、すぐにこの王都で買ってやるからな……ってロゼリィどこ行った! 異国の地で迷子はアカンって!」
なんだか体を揺らしているアプティの頭を撫でていたら、さっきまで大きな花壇の前に座り込んでいたロゼリィがいねぇじゃねぇか。
五分後、花壇から花壇へミツバチがごとく渡り歩いていたロゼリィを見つけ即確保。
ああ……なんで駅から降りただけでこんなにトラブルが起きるの……。いつも思うが、俺のとこのパーティーメンバーって個性強い人多くないですかね……。
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