第431話 不思議な来訪者 3 アプティ捜索部隊と女性来訪者様




「いない、か……」



 日付が変わるぐらいまで探し回ってみたが、アプティはどこにもいない。




「ん~、商業区、住宅区、農園、港に砂浜と手分けしたけど~手がかり無しだね~」


 みんなが協力をしてくれ、朝から深夜まででソルートンの街の結構な範囲を探すことが出来た。


 世紀末覇者軍団や宿の常連さん達も協力をしてくれたのは、本当にありがたかった。



「ここまで探していないとなると~ソルートンから出ていったってことになるかな~」


 ラビコがソルートンの地図に探し終わった地域を記していく。


 さすがに住宅区の家の一軒一軒を探すことはしていないが、付近でアプティを見かけたという話は聞こえてこなかった。


「……やはりそうなるか」



 アプティは蒸気モンスターで、人間ではない。


 ソルートンに知り合いはいないみたいだし、何か用事でいなくなったとすれば、やはりそれはソルートンじゃない場所にいる蒸気モンスター絡みの何か、となるのだろうか。


 以前、知り合いとやらにジゼリィ=アゼリィのボディソープやシャンプーを送っていたが……その知り合いのところに行ったのかもしれない。



「社の者の力を借りて近場の港街の情報を集めてみましたが、バニーの恰好をした女性は見かけてはいないとのことです。これ以上となると、選択肢が多すぎて……」


 アンリーナがローズ=ハイドランジェの社員さんに呼びかけ、情報を集めてくれた。主にソルートンの外をあたってくれたようだが、アンリーナの情報網にも引っかからないのか。



「……もしかしたら、帰った……のかな」


 アプティはよく分からないが俺を守るために来たと言っていた。


 口ぶりからするに誰かに言われて来ていたっぽいし、その誰かの指示で元の場所に帰ったとも考えられるか。


 だとしたらアプティは実家に帰ったことになるし、それが自然な姿なのかもしれない。


 探すこと自体、迷惑な行為になるのかも……



「社長、それはないよ~」


 俺が沈んだ声で言うと、ラビコが肩をつかんでくる。


「アプティが社長に何も言わずにいなくなるわけがないさ~。だってアプティは社長を守るために来たって言っていたし~。そして守るってなんだろう~? どんな対象からの危害を想定していたのかな~? そしてそれは、これから来ると思うんだ」


 ラビコが俺の耳元で他の人には聞こえないようなボリュームで囁く。


 どんな対象からの危害を想定? どういうこった。


 ラビコは何か気が付いているってことか?


「ね~社長~私と二人でさ~俗世を離れてアプティを探す旅に出ない~……ってあ~あ、これじゃ~あの時の変態勇者と同じ……だね。こういうことか~……当時はなんで勝手に解散なんて、とか思ったけど~歳重ねたらだんだんあいつの考えが分かってきちゃって、嫌だなぁ~……。大事だから離れた、私達を守りたかったってことか~」


 変態勇者ってルナリアの勇者のことか。


 そういやルナリアの勇者って途中でパーティー解散して、今どこにいるのか分からないんだっけか。


「あ~ごめんごめん、ちょ~っと昔を思い出しちゃってさ。アプティは必ず社長の元に帰ってくるよ、そう必ず、ね」


 よく分からんが、ラビコがそう確信しているのなら大丈夫だろう。



「みんな、深夜まで協力ありがとう。今日はここまでにして、数日はアプティを信じて帰ってくるのを待ってみるよ」


 宿の食堂に集まってくれていたみんなにお礼を言い頭を下げる。



 心配そうに見てくるロゼリィ、アンリーナ、クロの頭を撫で、俺は二階の自分の部屋のベッドに疲れた体を沈めこむ。







 翌朝六時。



「……行くか」


 二日連続で変なことが起きていると、なんとなくこの時間に自然と目が覚めてしまう。


 今日で三日目。今朝も彼女は来るだろうか。


 今はアプティのことで忙しいので、早く俺を何事かに誘うのを諦めて欲しいものだが。





「……」


「…………」


 掃除の終わった足湯に寄りかかり、ぼーっと待つ。



 アプティが帰ってこないか、という意味もあるから朝食の時間ぐらいまでここで待ってみるか……



「わらわの元にこないか」



 来た。



 いつの間にやら俺の真横に女性が立っていて、いつものごとく眠そうな目でじーっと俺の目を見てくる。


 軽鎧を纏い、両手には異様な大きさの鉄の鉤爪を装備している。かなりの重さだろうに、この女性は軽々とその爪を扱っている。



「君は誰なんだ。目的を聞いてもいいかな。あと、アプティに何か……したか?」


 ただのタイミングの問題だが、この女性が来た朝以降アプティはいなくなった。


 最初、雰囲気がペルセフォスの隠密であるリーガルに似ていると思ったが、今は違う。


 なんとなくだが、この女性の雰囲気……アプティに似ているんだ。


 人間では出来ないような身のこなし、雰囲気。


 たぶんこの女性、蒸気モンスターだと思う。



「アプティ? キツネの女か? いいや、何もしとらんがのぅ。そして何かしようと動いたのは向こうだと思うがのぅ」


 キツネの女? 


 アプティはバニー姿だから、見た目の特徴で言うならウサギの女じゃないのか? 


 そして向こうが動いた? ああ、話がさっぱり分からない。


 一日目のはラビコ達に言ったが、二日目も来たとはラビコ達に言っていない。


 この女性の正体が俺の予想通りだとしたら、蒸気モンスター相手にラビコが黙っているわけがないからな。


 幸い足元にいる愛犬ベスはそれほど警戒をしていない。


 だとしたら無駄な争いはしたくないし、俺だけで解決出来ないかと思ったが……案の定俺の頭の回転が悪すぎて先読みが出来ない。


 ラビコがいれば上手く話を回せるのだろうが……いや、呼んだら絶対に喧嘩状態になるな。



「わらわは火のアインエッセリオ。人の王であるそなたを迎えに来た」


 人の……王? 何を言っているんだこの女性は。


「わらわの話を聞いて欲しい。そして共に歩む世界を模索しよう」


 分かんねぇ。


 こういう一方的な言い方の裏の言葉が俺では読み取れない。


 とりあえず、話を聞いて欲しいと言っているのが救いか。この三回の接触から計るに、好戦的なタイプには見えないし。



「……よく分かりませんが、人選を間違っていると思います。俺は王ではないし、そういう器でもない。ただの街の人レベルです」


 俺の答えに彼女はゆっくり首を傾げ、右手の大きな鉤爪を向けてくる。なんだよ、王って。


 そういう器の持ち主はサーズ姫様みたいな人のことを言うと思うんだが。


「ほっほ、面白い冗談よのぅ。わらわは見たのだ、この目で。長い、長い時を経てやっとみつけた。わらわ達も疲弊している……もうこの時、この邂逅を逃がすわけにはいかないのだ」


 ダメだ、俺じゃあこの人の真意が読み取れない。


 やはりラビコに頼るしか無いか……。


「……もう何日か待ってくれないか。今は別の問題が起きていて、頭の整理が追いつかないんだ」


 ここにラビコを呼んだら大変なことになりそうなので、この三回の出来事を相談して対策を考えたい。今はアプティのことが最優先だし、それが片付かないと俺は動きたくないのもあるが。


「……よかろう。よい返事を期待しているぞ」


 そう言うと女性は俺の目の前から一瞬で消え去った。





「ふひぃ……参った……」


 俺は冷や汗を拭い、その場にしゃがみ込む。


 以前アンリーナのホテル裏で銀の妖狐に助けられた時、人の言葉を話せる同族に気を付けろとか言われていたが……これか? ってことはあの女性、銀の妖狐クラスの蒸気モンスターってことなのだろうか。


 おっそろしい……そんなん相手に俺が何出来るってんだ。


 先延ばしが限界の手札だっての。







 朝ごはんを食堂で頂いた後、俺はベスを連れ散歩へ。


 出かける前に宿の売店でクッキーが入った袋を購入。簡単な水筒に紅茶を入れてもらい準備はOK。


 ゆっくり歩き、港が一望出来る小高い丘の上にある公園に到着。


 ベンチに座りベスと分け合ってイケボ兄さん特製クッキーをいただく。




「……」


 しばらく待ってみるが誰も来ない。


 ここは俺とアプティが初めて出会った場所。


 しかし出会っていきなりクッキー食われたのはびびったな。なんだか懐かしい思い出だ。




 公園を後にし、夜まで街中を歩き回ってみるが、やはりアプティの情報は無い。







 諦めて宿に帰り、夕飯を食べたら疲れがドッと出てきて、俺はそのまま部屋のベッドに突っ伏してしまった。


 あ……ラビコに相談すんの忘れた……ま、いいや、明日明日……──








「……」


「…………」


 ──ん、なんだ……ベスが俺の上に乗っかって来たが……今何時……だめだ眠い……




「……行きましょう、マスター……」



 なんだか妙に甘い香りが鼻を抜けていく。


 そして聞き慣れた声が耳に入ってくる……な……────














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