第418話 ラビコとデートで夢見た憧れ様
「じゃっ行ってきま~。もしかしたら駆け落ちって帰ってこないかもだけど~その時は各自強く生きるように~あっはは~」
順番デート最終日。
そう言い、ラビコがご機嫌に俺の右腕に絡んでくる。
ロゼリィ、クロが苦笑いでラビコの出発の挨拶を聞き、俺達を見送ってくれた。
アプティは俺をじーっと見た後、愛犬ベスと軽く頷き合う。何? 通じてんの? 一応愛犬ベスも用心棒で連れていくけども。
「それ、騎士学校の授業のときの服か」
ラビコが着てきた服は、こないだ俺が騎士養成学校に通っていた時ゲスト講師として来てくれたときに着ていたザ・女教師服。
体のラインをモロに出す灰色のスーツに赤いヒール。伊達メガネをかけ、髪型はいつもの下ろしただけの髪ではなくポニーテール。
これは……ヤバイ。
俺の性の趣向の全てが詰まっているんじゃないか、これ。軽く胸元を開け、胸の谷間をわざと見せアピールも欠かさない。
「そうさ~わざわざ買ったんだし~社長ってばこの服にすんごい反応していたからさ~。これは利用しない手はないと思って~あっはは~」
すげぇ……これはすげぇ……ラビコが女教師服を着ると、通常攻撃の後にボーナスで追加全体攻撃が発生するんじゃないかと思えるレベル。そこにさらにポニーテールときた。
「不思議だが、普段着ている露出の多い水着よりエロく見える……あ、いやすまん。その恰好すげぇ似合っていて可愛いぞ、ラビコ」
女性を褒めるのにエロいはないな、あまりにストレートに想いを言葉にし過ぎた。
「化粧も甘い感じでいいな。俺そういうのすげぇ好きだわ」
「うっは~! さっすが社長~よく見ているね~。ありがと、すごく嬉しい」
俺が素直に褒めたら、ラビコがちょっと照れたように顔を赤らめ微笑む。
ああああ……やっぱラビコってとんでもねぇ美人さんだ……開始早々もうお腹いっぱいです。
早く帰って、この記憶が鮮明なうちに想像であれこれ夜に一人頑張りたいっス……。
朝九時、お城前のカフェジゼリィ=アゼリィを出発。
これでとりあえず順番デートは最後になるが、結局俺は何のスケジュールも組まず、成り行き任せデートになってしまったな。
こういうのは普通男が事前にコースを調べたりして女性をもてなすべきだよな……ちょっと反省。親しき中にも礼儀あり、普段いつも一緒にいるメンバーだからと甘えすぎたかな。
「あ、えーとそうだ! まずはこないだ行ったペルセフォス聖光樹でパワーを得て、お昼は小洒落たカフェで食べて、あとは駅直結の大型商業施設でもブラつくってのは……」
ラビコは俺が学校に通っている間、ほったらかしにされた~って怒ったわけだから、ここでなんとか上手くエスコートしてご機嫌を……。
「ぷっ……パワーとか何急にロゼリィみたいなこと言い出してんの~?」
あれ、俺パワーとか言った? 焦って頭ぐーるぐる、だわ。こういうときホント童貞って行動がザ・童貞で嫌になる……。
「いいんだよ、格好つけなくたって。社長はいつも通り私の横を歩いてくれれば。うん、それだけでいいんだ~。一緒に歩こう? ね、社長」
ラビコが優しく微笑み、俺の右腕に絡みついてくる。
「あ、お、おう……」
「あっはは~社長さ~もっと堂々としなって~。この大魔法使いであるラビコさんの隣を歩けるすごい男なんだって、もっと自覚を持って欲しいな~。この私を顎で使える男なんて社長ぐらいなんだぞ~?」
ラビコを顎で使うとか、そんなことしたことねーって。
実際やったら絶対言うこと聞かねーだろ。
「私さ、社長と一緒に行きたいところがあるんだ~」
そう言い、ラビコが向かったのは小さなお店が並ぶ商店街。
色々見たいなら駅直結の大型商業施設のほうがいいんじゃねーのか、と思うが。
「ここ、このお店なんて雰囲気あっていいかな~」
楽しそうにラビコが指したのは、お世辞にもオシャレとは言えない年季の入ったお店。なんのお店かと思ったら、いわゆる玩具屋さん。
「うっは~なっつかし~。これこれ~ソルートンのお店に並んでいるのをよく見たな~」
お店に入ると、狭い店内に雑然と並ぶ玩具達。
どっちかっていうと低年齢、幼児向けのラインナップが多めか。到底ラビコが好きそうな物には見えないが。
商品を見るが、こういう幼児向け玩具ってのは異世界だろうがそんなに変わらないもんなんだな。さすがに車や飛行機の玩具はないが。
「ね~これ買って~これ欲しい~」
ラビコが手にしているのは女の子の形をした人形で、着せ替えセットが付いた物。七十G、日本感覚七千円か。ラビコにこんな趣味あったっけ?
「いいけど、玩具屋とか……どうしたんだ急に」
商品を奥にいた店主のおじいさんに渡し、お金を支払う。
「やった~。ありがと、社長」
次にラビコが向かったのは子供服を扱うお店。
「うは、こういうお店初めて入ったが、小さい子用なのに可愛らしいの多いんだな」
玩具屋には何度も入ったことがあるが、さすがに子供服のお店は日本・異世界含め初めてだな。普通に可愛い服が多い。
「あっはは~社長が一人でこういうお店に何度も入っていたら捕まるって~。あ、これ可愛い~。ね、社長~これ買って~」
お店入ってすぐのところに飾ってあった、五歳から向けと書かれた女の子の服一式。ひらひらのいっぱい付いたワンピースタイプの灰色の服に小さな可愛い赤い靴。
「え、欲しいって……さすがにラビコは着れないだろ、これ」
「うん、でもこれが欲しい~。お願い社長~」
さっきから何だ? なんか企んでいるのか?
「可愛い服~靴も可愛いよね~あっはは~。ありがと、社長」
よく分からんが……ラビコが本当に喜んでいるからいいか。ちょっとお高く百五十G、一万五千円かかったが。
「もうお昼だね~ご飯にしよ~。え~とちょっと歩いた先のお店なんだけど、いいかな?」
ラビコは楽しそうにしているが、随分と変わったデートだな。
「じゃあお子様ランチ二つ~! あとジュースね~」
お昼にと入ったお店は少し大きめのカフェ。
雰囲気としては、ファミレスに近い感覚のメニューが多い。なんつーか、ご家族向けかね。
ラビコが元気な声で頼むが、その内容がお子様ランチで店員さんが少し驚いているじゃないか。あ、店員さん。ベス用にリンゴもお願いします。
「お子様ランチにジュースって……いつものお酒はいいのか?」
「今日はこっちの気分なのさ~あっはは~」
出てきたお子様ランチはトマトソースで炒められた鮮やかな赤のご飯に卵焼きなど、どう見てもザ・お子様ランチ。さすがに旗は刺さっていないが、カラフルな見た目のメニューは子供が喜びそう。
てっきり羽目外して昼から酒でもいくのかと思っていた。
「うん、まぁいけるな。子供向けの分かりやすい味だ」
「そうだね~。さすがにジゼリィ=アゼリィレベルには程遠いけど、充分かな~」
ラビコが笑顔でお子様ランチにオレンジジュースを、本当に嬉しそう口に運ぶ。たまにチラチラと俺が買ってあげた人形に幼児用の服をじーっと見ている。
「…………あはは……楽しい、楽しいなぁ……本当に……こういうの憧れで……」
持っていたスプーンの手が止まり、ラビコがうつむく。目からぽたぽたと水滴が落ち、声が震えている。
え、ちょ……泣いてんのか? 俺なんかしたのか?
「あっはは……ごめん……ごめんね……泣いちゃった……せっかくの社長と二人きりのデートだってのに……」
ラビコが大粒の涙をぼろぼろと流し泣き始め、さすがに周りからの視線がすごいのでお店を出ることに。
近くに誰もいない小さな公園があったので、そこのベンチに座ってもらい落ち着くのを待つか。
「あ~……まさか私が泣くとはな~。びびったびびった~あっはは~」
びびったのはこっちだっての。なにがあったんだよ。
「ちょ~っと子供の頃の夢でも叶えようかな~って社長を利用させてもらったんだけどさ~、これがやってみると結構その頃の想いが蘇ってきて胸にくるのね~。参った参った、あっはは~」
玩具屋さんで人形、服屋さんで可愛らしい服と靴を買ってもらい、お昼にお子様ランチにジュースを頼む。
そうか、今日やったことってラビコが子供の頃憧れたシチュエーションってやつなのか。
気が付くのが遅いな、俺……。
ラビコは孤児らしい。
直接聞いたわけではないので詳しくは知らないが、ソルートンの孤児院出身だとか。
俺は両親健在のそれなりに恵まれた家庭出身なので、孤児だったラビコの気持ち全ては計りかねるが、相当辛い想いをしたのだろう。
父や母に甘え物を買ってもらい、お昼に家族でご飯を食べる。思い返すが、俺の子供時代は普通に両親がやってくれていた。楽しかったなぁ……。
でもラビコは周りの子供がやっている当たり前のことが出来ない。
甘える親もいない。
孤児院でラビコがどう過ごしていたのかは分からないが、一人孤児院を抜け出しソルートンの砂浜で魔法をお師匠さんから習っていた、というラビコに聞いた話を考えると、おそらく孤児院に居場所もなく心許せる友もいなかったんだろう。
誰にも甘えられず、わがままも言えず、一人で生きるためにラビコは魔法を習った。
……それは必死だっただろう。
出会ったばかりの頃、酔ったラビコが俺の背中に抱きついてきて「おとうしゃーん……」と言ったことはいまだ鮮明に覚えている。子供が甘え、父の大きな背中に抱きつく。実に子供のとる行動で、子供なら当たり前の行動。
当たり前……そんな言葉、恵まれたやつの口から出る言葉、だな。
「ほらラビコ。俺じゃあ代わりにはなれないかもしれないが、今日は存分に甘えていいぞ」
俺は横に座っていたラビコを抱き寄せ頭を優しく撫でる。
「うは~どったの社長~今日は優しいじゃ~ん。甘えていいとか~、な~に年上を子供扱いしてんだか~あっはは~……」
ラビコは特に抵抗することもなく、俺に体重を預けてくる。
「……違うか~社長っていっつも優しいよね……。周りに迷惑なことやったらこの私に普通に怒ってくるし、いいことしたらちゃんと褒めてくれるし……ちょっと心が弱っているって分かったらすぐにこうして優しく頭撫でてくれるし……私のお父さんかっての……」
声が次第に小さくなり、震えだす。
「代わりって何さ……私はそんなの……そんなの……。いや、そうだね……私は社長を代わりに見立てていた……失礼な話だよね、事情も分からず役当てはめられて……ごめん」
父親に見立てられる。そこまで信頼されているって考えたら俺は嬉しいかな。
「ああ、俺はラビコの親じゃあないからな。人生経験も少なけりゃ子供もいないから親の気持ちはまだ分からない。誰かの親とかいう大きな責任、俺には負えない。まぁ、俺自体がまだ子供ってのもあるが」
「俺はラビコの親代わりは出来ないが、ラビコの横を歩くことなら出来る。同じ方を向き、同じ想いで笑い、泣くことが出来る」
ロゼリィ、アプティ、クロもそうだが、ラビコにも俺は何度も命を救われている。この恩は一生をかけて返さねばならん。
「人は一人では生きていけないよ。そんなの……辛すぎる。誰かに頼って、泣きついて、甘えて、褒めてもらって、怒られて、そして笑い合う。これから向かう未来への不安を共に考え、いつか来る最後のときまで共に生きよう。俺はラビコの横にいたいし、俺の横にはラビコがいて欲しい」
ラビコに必要なのは、一緒に横を歩いてくれる存在なんだと思う。
今のラビコは地位や実力が高く、なかなか同列に接することを出来る人がいない。
普通に褒め、普通に怒り、普通に笑い合う。
友達、パートナー、色々言い方はあるだろうが、そんな存在に俺がなれたらラビコの助けになれるんじゃないだろうか。
いつかラビコにもいい人が現れるかもしれないし、それまでは俺が横にいてあげたい。
「はぁ~……社長さ~誰にでもそういうこと言うのやめたら~? じゃないと勘違いしちゃうじゃないか~……私みたいな甘えっ子の子羊なんか狼さんの甘い言葉を真に受けてイチコロだっての~」
誰が子羊で誰が狼か。
どっちかっていうと俺が子羊でラビコが狼だろ、普段。
「でも嬉しいよ、一緒に歩いてくれるって言ってくれて~。一人って辛いんだよね……もうああいう想いはしたくないんだ……一人は嫌なんだ……一緒がいい……横にいて欲しい、一緒に歩いて欲しい……私は社長と共に生きていきたいんだ」
そう言うとラビコがガバっと顔を上げ、俺の口にその柔らかい唇を重ねてきた。
「……あっはは、甘えさせてくれたお礼っと。みんなに言うなよ~? いつもクールな私が泣いたとか格好悪いだろ~。このキスも……二人の秘密、ね」
俺が動けずに固まっていると、ラビコが自分の口元に人差し指を当て、し~っとポーズを取る。
涙でちょっと腫れた目や、赤らんだ頬、そこに最高の笑顔を乗せてきたか。参った。
良い笑顔のその姿は子羊や狼ではなく、かわいらしい小悪魔だな、と俺は思った。
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