第419話 続恐怖の温泉 1 自然増殖の恐怖様





「あっはは~飲むぞ飲むぞ~! シュレド~酒じゃ~酒持ってこ~い!」




 ラビコとデートを終え、カフェジゼリィ=アゼリィへ。


 待っていたみんなと合流し夕飯を頂くことに。




「だ、旦那。いいんスか、ラビコ姉さんやけにご機嫌ですが……」


 このお店を任せているイケボ兄さんの弟シュレドがラビコに肩をバンバン叩かれ困惑している。


「ああ、いいんだ。一人じゃなく、みんながいる今飲みたいんだろ。持ってきてやってくれ」


 シュレドが俺に許可を求めてくるが、俺はラビコの飼い主じゃねーんだが。


 いや、正確には俺がラビコを雇っている形だっけ。なら合っているのか?



「酒かぁ、アタシも飲みてぇなぁ。チラチラ。なぁキングー、今日は未成年でも飲んでいいンじゃねーの? にゃっはは!」


 猫耳フードのクロがチラチラという擬音を口に出し俺を見てくるが、お前は十七歳だろ。絶対だめだ。お酒は二十歳から、な。


「……マスター。紅茶をお酒で割るという飲み方があるそうです……」


 バニー娘のアプティまでもがお酒を飲みたがってきたが……どうしたんだよ。アプティって二十歳越えてんだっけ? 確か以前普通に飲んでいたよな。じゃあ好きにしろ、と。


「ベッス! ベッス!」


 我が愛犬ベスがシュレド特製お犬様ディナーに大興奮。本能に任せ、獣のように食っている。



「ふふ、みなさんいい笑顔です。やはりあなたと一緒が一番ですね、私達は」


 ロゼリィが俺の左腕に絡み、お茶片手に微笑む。



 俺が街の人クエストや騎士学校に通ったりで女性陣と離れる時間が多くなり、かなり寂しい想いをさせてしまった。一人ずつデートをすることでなんとかみんな機嫌を直してくれたようで、少しほっとしている。


 ロゼリィが言うように、みんないい笑顔。


 そう、これ、俺が守るべきものはこれなんだ。


 少しでも長く、こういう時間をみんなと楽しみたい。







「あっはは~、ひっく。社長は背中がおっきいなぁ~……安心する~」


 騒がしい夕飯を終え、酔ったラビコを背負い部屋を借りているお城へと歩く。



「次アタシなキング! もういいだろラビ姉、代われよ!」


「わ、私も飲んではいませんが酔った風なのでお願いします」


「……お疲れでしたら私が抱っこしますか? マスター」


 クロにロゼリィにアプティが順番待ちをしているが、お前ら酔ってないんだから歩いてくれ。俺って元は貧弱高校生なんだからよ、体力ねーっての。


 ラビコ一人で限界っす。




 すでに日も落ち、街には魔晶石ランプの明かりが灯っている。


 本当に王都ペルセフォスは綺麗なところで、太陽に照らされた緑の多い昼間の街中もいいのだが、夜はまた別の顔になる。


 オレンジの明かりに照らされ陰影のハッキリした街並みは、何気ないお店だろうがそれだけで写真を撮りたくなるぐらいザ・異世界。


 紳士諸君がいるそっちの世界に、撮った写真を送りつけたいぐらいだ。



 まぁこの辺は王族であられるペルセフォス一族や騎士の皆さんが街中含めしっかり整備、管理をしているから綺麗に保たれているんだろう、と思う。


 そういやデート期間中、サーズ姫様やハイラが静かだったな。


 俺が騎士学校に通ったデータを元に会議をしたりと、仕事が他にも忙しいんだろうが。


 さすがにそろそろソルートンに帰る予定なので、明日にでも挨拶に行かないとな。







「覗きに来るなよ男子~。裸が見たかったら変な回り道しないでストレートに言うように~あっはは~」


 二十一時過ぎ、じゃあ風呂でも入って寝るか、とお城一階にある大浴場へ。



 基本お城に務めている騎士達専用なのだが、サーズ姫様に特別に俺達も入っていいと許可を頂いている。


 借りている二階の部屋にも小さいながらお風呂はあるのだが、やはり大きなお風呂の開放感は別物。



「いかねーって。大浴場には他にも女性の騎士さんがいるんだし、行ったらマジで捕まるっての」


 ラビコがニヤニヤしながら俺を煽ってくるが、俺はそういうことしねーよ。


 ……何? エロ本は欲しがるくせに? 


 覗きとエロ本は別だろ。犯罪と合法、ほら違う。


 俺がエロ本買ったら未成年なんたらで犯罪だが、それは言うなよ。


 無粋、な?


 つかラビコ、ピンピンしてんじゃねーか。さっきのお酒に酔って歩けないのは演技だったっぽいな。




 女性陣が先に女性用大浴場に向かい、俺も一人男性用の大浴場へ向かう。


 ベスは美味いご飯食べて満足したのか、部屋ですぐ寝てしまった。我が犬自慢だが、ベスは寝顔もかわいくてなぁ。いつまででも見ていられるぐらいなんだぞ。お見せできないのが残念だが。



「────?」



 二階各所にいる警備の騎士さん達に挨拶をしながら豪華な装飾の施された階段へ。


 これを降り、右にある男性用大浴場へ足を向けるが……やけに静か。そして照明が落とされ薄暗い。


 さっきまで数メートルおきにいた警備の騎士さんが一切いない。


 いや、男子風呂に警備なんていらんか。必要なのは女性のほうだろうし……にしても不自然なぐらい静か。



 そういや以前こんなことがあったような。


 記憶が途切れ途切れで正確には思い出せないが──



──ボトッ──



 何か音がしたので廊下の先を見ると、人の大きさぐらいの何かが不自然に置かれている。なんだあれ。


 近付き見てみるが、それは水色のクマさんの着ぐるみ。


 恐る恐る中を見ようとしたところ、ここはT字路になっているのだが、右側に異様な存在がいることに気が付いた。



「!? うわああああああああ!」



 そこに立っていたのは女性の身長ぐらいの背丈の、ピンクの着ぐるみのクマさん。


 やけに呼吸荒く、肩で息をしている状態。な、なんだこいつ……思わず怯えた声でちゃっただろ。


 薄暗い照明、しかもこの辺は天井の照明が消えていて、床を照らす低い位置にある照明しか付いていない。


 その光はピンクのクマさんを下からあおる照明となり、ホラー映画のような陰影が付いている。結構怖い。



──モフッ──



 俺がちょっとした恐怖で動けずにいたら、そのピンクのクマさんの背後からもう一個の足音が。


 ピンクのクマさんの着ぐるみの背後から現れたのは、同じ背丈ぐらいのピンクのクマさんの着ぐるみ。


 同じ言葉を繰り返す早口言葉みたいだが、ば、ばかな……もう一体いた……だと……。


 このお城に変なピンクのクマさん着ぐるみが住み着いていることは知っていたが、まさか二体いたとは。



──ガサッ──


 俺がさらに驚いていると、手前のピンクのクマさんが筒状に丸められた紙を勢いよく広げ、はぁはぁ吐息を漏らしながら俺に押し付けてくる。


「な、なんだよこの紙……え、読めって? えーと、何、ざいじょう……ざ、罪状?」


 紙の上部に書かれていたのは「罪状」の文字。


 何だよこれ。


 俺が女性のお風呂に向かったのなら覗きの罪で罪状突きつけられるのは分かるが、こっち男湯だぞ。


「うわっ……は、離せ!」


 二体目のピンクのクマさんがざざっと真っ直ぐ走り、壁を蹴り方向転換。背後から俺を拘束するように抱きついてくる。


 何だよ、この俊敏なクマさんは。



 よく分からんがこのピンクのクマさん、ペルセフォスのお城で自然増殖しているんじゃないか? 


 この二体のクマさんに拘束された状態から生きて帰れるか謎だが、もし生きて帰れたら愛するペルセフォスの平和の為、サーズ姫様にお城に不審なクマさんがいて増殖してるって報告をしなければならない。











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