第415話 クロとデートでマリア=セレスティア様




「ニャッハハ! アタシが一番だぜ! いやぁすまねぇなぁお前等。ここでアタシが決めちまうから、二番目さん達に出番はねぇかもなぁ、ニャッハハ!」




 翌日朝九時、カフェジゼリィ=アゼリィ前。



 猫耳フードをかぶったクロがご機嫌に「一番」と書かれた棒を振り回し、二番さん三番さん四番さんを威嚇する。



「いいか~夕方までだかんな~。夕飯は全員でカフェジゼリィ=アゼリィで食べるってのは守れよ~!」


 ラビコがつまんなそうにふくれっ面をしながらクロを睨む。


 どうやら番号の書かれた棒を引き合い順番を決めた模様。


 最初はクロか。


 夕飯までって、これ一人一日ペースでやんのか。



「ク、クロ……その、無茶はしないで下さいよ」


 ロゼリィが棒を握りしめ、心配そうに見てくる。


「……マスター、何かあったら呼んで下さい……必ずお守りいたします」


 アプティは棒をバニー姿からはみ出た胸の谷間に無造作に押し込む。行動と言動が一致していないけど、大丈夫か。ああ、ぜひその棒を引き抜かせてくれ。



 うーん、素で考えたら四日連続違う女性とお出かけってすごいことだよな。


 羨ましい? ああ、まぁ文面で聞いたらそう思うだろうが、ロゼリィ以外の女性が個性ありすぎて俺はちょっと怖い。


 ラビコは権力者で大魔法使いと肩書きはいいが、基本ワガママで俺をオモチャ扱いするし。


 クロは魔法の国の王女様だが、どう見ても性根と言動がヤンキー。


 アプティに至っては蒸気モンスターだし。


 何番目かは知らんが、宿の娘ロゼリィとが一番心癒されそう。


 まぁ皆さんお美しい女性なので、俺ごときが贅沢言うな、か。




「どうかなぁ、こういうのって約束破ったもン勝ちっつー話もあってなぁ……ニャッハハ! 二人の気持ちがボワッと盛り上がってどうしようもなくなったら、保証は出来ねぇなぁ! 気が付いたらキングと駆け落ちしてどっかの田舎で家庭を持っていたりって未来も……っと、無駄話の時間ももったいねぇ。行ってくるぜぇ!」


 クロが超ご機嫌に俺をぐいぐい引っ張って行くが、この四日間のお出かけは怖いからボディガードに愛犬ベスを連れて行こう。



 サーズ姫様とハイラは今日はお仕事でいないのが救いか。


 これ以上メンツが揃うと、トラブルの予感どころか確実性が増してしまう。



 美女とデート。


 ホラ、こう書けば何の問題もない。ああ、楽しみ。


 




 クロと並んで歩き、混雑するお城に続く道を抜けペルセフォス駅方面へ。


 まさかいきなり魔晶列車乗ってセレスティアに行ったりしないよな。


「ペルセフォスってのは年中気候が良くて暖かいよなぁ。この辺は羨ましいぜ。セレスティアは冬は雪が積もって寒いのが大変でよ」


 クロが猫耳フードを外し、眩しそうに照りつく太陽を見上げる。


 今日の気温は二十五℃ぐらいだろうか。風もなく、動いていると汗ばむ感じ。


「やっぱ冬は大変なのか、セレスティアは。以前一回行ったけど、観光で数日いる分には雪も綺麗だと感じたが」



 魔法の国セレスティア。


 そこで行われるイベントに今年の代表騎士になったハイラが行くことになり、サーズ姫様と共に行ったっけ。


 雪が降り積もった街中は白く綺麗で、夜になると街灯の明かりでとても幻想的だった。粉雪が軽く舞う夜に行われた花火っぽいイベント、あれはすごかったなぁ。マリアテアトロって言ったっけ。


 寒いは寒いが、夜空に咲く色とりどりの花火の見た目の美しさで寒さを忘れることが出来た。



「雪が積もるとよ、道路が埋まっちまって交通が麻痺して大変なンだ。綺麗は綺麗なんだが、雪をどかす重労働を考えたら住む側としてはマイナス要素って思っちまうかなぁ。人を呼ぶ観光要素でもあっからなんとも言えねぇけどな、ニャッハハ」


 クロが苦笑いするが、確かに毎日それが繰り返されると考えると雪は綺麗だけではなく、どかす作業が重労働ってなるか。


 セレスティアの第二王女様、か。家出前、普段はどんな生活していたのかね。



「それで、これどこに向かってんだ?」


 知らん間にペルセフォス駅通過して、どっちかっていうとデートって雰囲気より普段の買い物って雰囲気の場所にきたが。


 愛犬ベスが辺りの食材店から漂う美味しい香りに鼻をヒクヒクさせている。


「ああ、じ、実はアタシこういうときってどうしたらいいのか分かンなくてよ……つい行き慣れたパーツ屋に足が向いちまって、ニャッハハ……さっきみんなの前で大きく出といてだっせぇよな……」


「別に。俺だって同じだよ。女の子とデートなんてまともにしたことないし、改めてデートって言われてクロと向き合うと、こんな美人さんと何喋っていいかも分からない状態だし。まぁ初心者同士、肩肘張らずにいこうぜ」


 出掛け際の勢いはどこへやら、クロがしょぼんと下を向いてしまった。


 俺は慌ててクロの頭を撫でる。


 こっちのがどうしていいか分からず焦ってんだっての……。デートって何すりゃいいのよ。


「ニャヒヒ……やっぱキングはかっけぇなぁ。男として器がでけぇっつーか、気配りすげぇっつーか。お世辞とはいえ美人とか言われっと体かゆくなるけど、ちょっと嬉しいぜ」


 クロが顔を赤くして恥ずかしそうにするが、お世辞ってなんだよ。


「お前な……自分が美人って自覚ねぇのかよ。どうりで普通に野宿とか出来るわけだ……。ハッキリ言うがなクロ、お前すげぇ美人さんなんだぞ。そんなお前が野宿やってたとか……いいかこれ以降二度と野宿はやめて俺の側にいろ。お前が他の男にどうにかされるなんて絶対いやだぞ」


 この整った顔立ち。スタイル抜群のボディ。


 それ系の目的だけを求める男の格好の餌食になんぞ。まぁ俺の側にいる限り、絶対守るけどな。


「ニャ……?」


 ん、なんだ……クロが目を見開いて動かなくなったが。


「ニャニャ……ニャヒーー! だ、だから冗談でもそういうのヤメロっって言ってンだろ! 俺の側にいろ、他の男には指一本触れさせない、お前は俺の女だとか午前中のこんな人通り多いとこで言うなよ! アタシそういうの慣れてねぇから、まんま言葉通り受けとンぞ!」


 クロがいきなり大興奮で俺を壁に押し付け壁ドン体勢で迫ってくるが、他の男に指一本だのお前は俺の女だのは一言も言っていないですが。


「お、落ち着けクロ。俺は冗談なんか言っていない。お前は美人さんなんだから野宿には危機感持てって言ったんだ。その証拠に……そうだな……駅直結の大型商業施設まで戻るぞ。お前がどんだけ美人さんなのか自覚させてやる」


 俺はそう言い、目を白黒させているクロの手を引っ張り駅まで戻る。






「いらっしゃい、お待たせ。今日はどのように仕上げ……あらぁお客さん、かわいいのに髪すっごい傷んでるー。化粧もしていないしー……ねぇ彼氏さん、やっちゃっていいかしら? フルコースで仕上げてあげる。イメージとかある?」


 連れてきたのはペルセフォス駅直結の大型商業施設内にある美容院みたいなとこ。


 担当してくれた男性店員さんがクロを見て色々チェックをし始めた。


 クロがここどこだよって緊張とオネェ店員にマジで怯えている。


 しかしどうしてこういうところの男ってオネェっぽいのが多いんだ。異世界でも共通なのかよ。あと俺は彼氏ではない。


「はい、お願いします。イメージですか……うーん」


 クロに似合いそうな髪型は……と、よくよく顔を見たらクロってさすがセレスティア王族、以前オウセントマリアリブラから見えたイメージ映像の女性、マリア=セレスティアさんそっくりなんだよな。


 クロはこういうのに全く興味が無いらしく、髪はボサボサで自分で切ったみたいな不均衡な整え方してんだよな。実にもったいない。


 女性っぽく柔らかく仕上げれば、とんでもない美人さんになると思う。


「こういう感じでしょうか……」


 俺が映像の女性を思い出しつつ髪型のイメージを絵に描き、オネェ店員さん(男)に渡した。





 出来上がるまでベスをカゴに入れ、適当に大型商業施設を見て回る。


 仕上がり予定時間になったのでお店へ。




「彼氏さん、お待たせ。バッチリ仕上げたわよ。見てぇこんな美人さん滅多にいないクラスよー。個人的にはサーズ様かラビコ様に匹敵する逸材ね、この子」


 店員さんに案内され、仕上がったクロを見るが……これは……予想以上にマリア=セレスティアさんだぞ。瓜二つレベル。


 軽く化粧をされ色っぽくなった顔にプロの技で仕上げられ整った髪。


 そこには一般人では放てないオーラを纏ったセレスティア王族様がいらっしゃった。


「すごい……これぞお姫様……おっと、みたかクロ、これがお前の持つポテンシャルだ。こんな美人、なかなかいないぞ。これは惚れるなぁ」


 俺がマジの感想を言うと、ブルブル震えだしたクロが美容院の椅子からガバッと立ち上がり勢いよく俺の両肩を掴んでくる。


「お、おいキング……! お前どういうつもりだ! これどう見てもマリア様……セレスティア王の部屋に飾られている、王族しか見ることが出来ないマリア=セレスティア様の肖像画そっくりじゃねーか! 普通の人にマリア様の絵を見る機会なんてねぇはずだが……なんでお前が知ってンだ!」


 クロが俺が店員さんにイメージとして描いて渡した紙を振り回し迫ってくる。


 いや、なんでって言われてもな……。なんか映像で見た、とは言えないし誤魔化すか。



「い、いや俺は知らんって。単にお前に一番似合いそうなイメージを描いて渡しただけだよ。実際似合っているし、すっげぇ可愛いいんだから問題ないだろ」


「ニャアアアア! 惚れたとか可愛いとか言うなぁああ!」


 や、やめろクロ……あんまり暴れるとせっかく整えた髪が乱れるって。


 言いたかねーがこのフルセット代、結構お高かったんだぞ。





「こ、これがアタシ……」


 美容院を出てお昼ご飯。



 入ったお店で店員さんに笑顔でカップル向けメニューを勧められ、一個のコップに飲み口が二つに別れたハート型のストローやらが出てきて二人でびびった。


 残すわけにもいかず、苦笑いで交互に飲んだが。


 

 ご飯も食べ終わり、クロが大型商業施設内で俺が買ってあげた手鏡で自分の顔をじーっと見ながら震えている。


「いい加減慣れろ。もう野宿とかすんなよ。あと短パンだからって足広げてだらしなく座るな。背筋ピンと伸ばして姿勢良くしろ」


 見た目は大きく変わったが、中身はヤンキーまんま。


 あとはこういう細かな仕草や姿勢変えれば、それだけでオーラ放つ王族様の完成なんだがね。


 さっきからクロをいかがわしい視線で見ている男が増えたなぁ。


 気持ちは分かるが、横にいる俺を憎しみの目で見るのはやめてくれ。



「アタシの親父かよ! くそ……アタシの全てをキング好みに変えやがって……分かってンだろうな! この責任は取ってもらうからな!」


 なんだよ責任って。


 女性が可愛くなった責任なんて俺には取れねぇよ。


 周りにいる獣みたいな男共から守ることは出来るけど。



 あと俺好みに変えたんじゃないぞ。


 クロに一番似合いそうな仕上がりにしてもらっただけだからな。びっくりするぐらい可愛くなってビビったが。



 クロも認めたが、マリア=セレスティアさんにそっくり。


 いつの時代の人か知らないが、とんでもない美人さんだったんだろうなぁ。






「ただいまー。いやぁ大型商業施設での昼ごはんは微妙だったから、早くシュレドの料理が食いたいぜ」


 夕方、カフェジゼリィ=アゼリィに帰還。


 三階の予約用個室に集まっていたみんなと合流。


「よ~し時間通り。大丈夫だったかい社長~あの家出猫に襲われなかった……」


 部屋に入った途端ラビコがガタンと席を立ち、俺の右腕に絡んでくる。


 が、俺の後ろにいたクロを見て動きが固まった。



「な、なンだよラビ姉。笑うなら笑えよ。ああそうさ、こっちが襲うどころかアタシの全てをまるっとキング好みに変えられたってことだよ!」


 お、おいクロ……その言い方はよせ。


「か、可愛い……! すごい可愛いです! どうしたんですかこの髪? あ、化粧もプロっぽいです。へぇ、黄色を乗せるとこうなるのですかぁ……うわぁ、いいなぁいいなぁ!」


 同じくクロを見て驚いたロゼリィだったが、可愛らしく変身したクロに大興奮。髪にペタペタ触り、化粧の仕方に驚いている。俺には分からん。


「……マスター、無事……」


 アプティはクロに興味無いらしく俺の全身をじーっと見て回り、厳しいアプティチェックに見事合格したらしい。



「ちょ~っ、これ……マリア=セレスティアじゃん! セレスティアで見た肖像画そっくり……って社長の好みってこういうのなのか~。それで~、クロを力尽くで可愛く仕上げて真っ昼間から抱いたってこと~? どういうプレイだったのか詳しく聞かせてもらおうか~、社長~」


 さすがにラビコはマリア=セレスティアさんの見た目を知っているのか。


 そして力尽くで可愛く仕上げて抱くってなんだよ。クロは元から美人さんだったろうが。ちょっと髪型を変えようと美容院に行っただけだっての。


 これがデートだったのかどうか分からんが。



 あと、どういうプレイも何もねぇ。


 俺が大興奮でやるとしたら、可愛くなったクロをじーっと見て覚えて夜に想像で一人頑張っちゃうプレイだよ!


 背後からの無表情な視線に怯えながら、な……。










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