第414話 アリーシャとロージのアルバイト初日と強制チケット発行様




「あ、胸元くーん! 今日からお世話になるよー!」


「よかったぁ……知らない人ばかりだろうって不安だったけど、胸元君がいれば安心出来る」


 


 サーズ姫様に報告が終わった後、お昼ご飯をカフェジゼリィ=アゼリィで頂くことに。



 今日から来るであろう二人を待っている間、お客さんの行列を誘導しながらお店入り口にある等身大ベス像を綺麗に磨いていたら元気な声が二つ。



「ベスッ! ベスッ!」


 二人の女性の声に反応した愛犬ベスがアリーシャとロージに駆け寄っていく。お、うちの愛犬が二人を俺の知り合いだと認めているぞ。


「あっはは、かっわいい! ホラなでなでー!」


「うわっ……さすが胸元君の愛犬だなぁ、賢そう……」


 頭を撫でられたベスが嬉しそうに二人のスカートの中に頭を突っ込む。


「ああっと、このへんは胸元君の愛犬って感じー」


「う、うん……ペットってよくご主人様の行動を真似るっていうし……」


 あ、くっそベス……なんと羨ましいことを……。



 俺の唯一のチート能力、千里眼とやらの力で今ベスが見ている視界と同期出来ねーのか? 録画出来ない遠隔同期は出来ないと、結構無能かよ千里眼さんよぉ……!


 あと二人共、俺って四日間の学校で二人にそんな風に思われるようなエロい行動しましたっけ。





「それでは二人にはお店全体のお仕事をまず見て覚えて貰いますね。ではあとはオーナー代理にお任せしますね」


 まずは店内をぐるっと案内し、従業員さんに挨拶して周る。


 その後、ナルアージュさんによって二人が物販カウンターに配置された。


 物販カウンターはちょっとした小物やローズ=ハイドランジェ商品が並んでいる場所で、他の場所に比べたら忙しくはなく、新人さんに慣れてもらうにはちょうど良いところなのだ。


 まぁここからお店全体の動きを見て、まずは慣れてくれってことだ。


 

 心配だったので、俺も二人の後ろに立つことに。


 二人にもカフェジゼリィ=アゼリィの可愛らしい制服を着てもらっているが、ぼーっと見てしまうぐらい似合っているなぁ。


 制服か……制服……職業物……うっ、いかんいかん! 俺は二人で何を想像しようとした……自制自制。


「胸元くーん、なんか見えない敵と戦っている風だけど、大丈夫?」


「冷や汗すごいよ……? やっぱり大きなお店経営しているから相当疲れているんじゃ……」


 ピンク色の妄想を払うように空中を手で払い、壁に手を付き荒れた呼吸を整えていたら二人にすげぇ心配そうに覗き込まれた。


「だ、大丈夫! ちょっと目眩めまいがね、はは。それより二人共、学業を優先ってのを忘れないでくれよ。うちのカフェは従業員さんがかなり多いから働く時間は融通きくから、本当に空いた時間でいいからね」


 毎日お客さんの行列が夜まで途切れないぐらいだから、ナルアージュさんにアルバイトさんは大量に雇ってもらっているんだ。



「うん、それは大丈夫! でもさ、ナルアージュさんに説明聞いたけど、従業員特典で出勤の日はご飯無料で食べられて、しかも並ばず裏の休憩室でゆっくり出来るんだってね。ここのお店いっつも混んでて、入るのですら大変なのに……それ聞いたらご飯食べたさに毎日時間みつけて来ちゃいそうかも!」


「ここのご飯……本当に美味しいから、むしろご飯食べたさに出勤ってありだよね……」


 二人がヨダレたらす寸前の顔で言うが、いや……学業優先でね……。



 従業員特典。


 ソルートンとは違って王都のカフェでは出勤の日ならご飯無料なんだ。それ以外の休みの日は半額だけど。


 ソルートンのほうはご飯はいつでも半額だけど、あっちは温泉施設無料に宿の部屋が空いていれば無料なので、ジゼリィ=アゼリィで働きたい紳士諸君はお好きな特典があるほうに応募してきてくれ。



「あ、そういえば胸元君に買ってもらったシャンプーとボディソープ使ったよ。これすっごくいいね! 今まで安い物使っていたんだけど、明らかに違いがあってびっくりしちゃった。ほら、髪触ってみてよー」


「あ、私も……使ったよ。腕触る?」


 お店のみんなの動きを見つつ、二人が思い出したかのように頭と腕を差し出してくる。


 そういや買ってあげたっけ。ここでアルバイトするなら売っているローズ=ハイドランジェ商品は是非とも使って、お客さんにも勧めて欲しい。


「お、おう……アリーシャの髪が柔らかいしすげぇいい香り。ロージの腕もしっとりしているなぁ」


 お店の制服を着た二人に触るが、なんかお触りOKのお店みたいで興奮する。


 そんなお店行ったことないけどな。



「………………」

「………………」

「………………」

「………………」



 ん? なんかすっごく皮膚にビリッと来る殺意的な視線を感じたが。四つ。







 夜、十八時。


 二人の初日勤務はここまで。


 とりあえずお店の流れを覚えてくれればいいんだ。



「お疲れ様でした! じゃあご飯頂いてから帰るね! あー楽しみー!」


「ありがとう胸元君、最後まで側にいてくれて……。すごく安心できたよ。私もご飯頂いていくね」


 二人が私服に着替え、本日のディナーセットをお盆に乗せる。


 今日のディナーメニューは柑橘入り鶏団子のホワイトソースパスタに焼き立てパン。



「ああ、お疲れ。しっかり食って栄養を補給してくれ。基本学業優先で、空いた時間でアルバイトにしてくれよ」


 俺がおまけでオレンジケーキをおごりでつけてあげた。


「うわ! ありがとう胸元君! ここのデザートって高級店以上の質で驚くよー。学業は任せなさいって! 絶対今の総合二十位以内を守ってみせるからさ!」


「嬉しい……。胸元君ってモテるの分かるなぁ。優しいし、気配りがすごいし……」


 二人が笑顔でケーキを受け取り、厨房の奥にある従業員休憩室へウキウキと入っていった。




 さて、俺も夕飯頂くか。


「社長~これにサインして~四枚」


 厨房に入ろうとしたら、水着魔女ラビコがにっこり笑顔でチケットみたいな紙を渡してきた。


 な、なんだ? 


 なんか細かく字が書いてあるが……これ何だ? と聞こうとしたが、ラビコの後ろからロゼリィとアプティにクロが現れ左右後ろから圧迫面接。


「お願い出来ますか? ふふ」


「……マスター、サインを……」


「ニャッハハ、頼むぜぇキング」


 ロゼリィの笑顔が怖いんですけど。アプティも無表情ながら、ちょっと不満気な顔。クロは楽しそうだが。


「え、何……わ、分かった……する、するから……」


 サインしないと逃げられない雰囲気だったので、よく分からんが四枚の紙にサインをすることに。



「はい契約成立~! じゃあ明日からよろしくね~あっはは~」


「やりました! 久しぶりに二人きりでお出かけです、ふふ」


「……マスター……私をご自由にもてあそんでください……」


「よっっしゃあ、キングとデートだぜぇ」


 四人が急にご機嫌になり、チケットをそれぞれ掲げる。



 何事かと思ってラビコからチケットを奪い取るが『使用期間、他の女には一瞬も気にかけずチケットの保持者に優しくしデートすること』とある。


 え、なにこれ。



「いい加減本妻ほったらかしにし過ぎ~! 明日からは私達とデートしろっての~! じゃないと許さない~!」


「さすがに少し寂しいです……出来ましたら二人きりでお出かけをしたいなぁと」


「……一緒にマスターの大好きな本探しに行きます、か?」


「キングと初デートぉ! ぜってぇモノにしてやんぜ!」



 あ……そういえば学校終わったときも言われた……アカン、俺だめだな。


 今日もアリーシャとロージに付きっきりだったし。


 


 よし、明日からみんなとデートだな。

 

 ってデートってどこ行って何すりゃいいんだろうか。俺全く経験値ないぞ、その方面。


 アプティの言う、一緒にエロ本探しは違うってことは分かるが。












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