第406話 ペルセフォス騎士養成学校に通おう! 3 ラビコの魔法授業様




「ラビコ様ーー!!」


「ほ、本物……! 憧れのラビコ様……!」




 騎士学校短期通学初日。



 いち限目は魔法構築学と魔法練度とかいう図画工作を右耳から左耳に聞き流し、限目が行われる教室に来てみたら、そこに先生としてラビコが現れた。


 しかもザ・女教師みたいな恰好に伊達だてメガネまでバッチリ用意してやがる。


 三百人は入れるという広い教室なのだが、騒ぎを聞きつけやってきた生徒が押し寄せ超満員状態。


 教える立場側の教員達も押し寄せ、生徒と同じテンションで叫んでいる。あんた等警備目的で来ていたわけではないんかい、と。


 いや、教員も生徒目線で考え同じ立場とするスタイルの素晴らしい学校なのかもしれない。


 なんというか、マジでラビコって有名人なのな。





「はい皆さんこんにちは~。え~本日はこのラビコさんが授業を担当させてもらいますよ~」


 ラビコがちょっとエロいポーズを決め、俺にウインクをしアピールをしてくる。


 うーん、いつもの水着とは違う感じでいいな……女教師物かぁ……って俺は何の妄想をラビコに当てはめようとしたんだ。




「今は私の世代が支えていますが~未来のペルセフォス王国を支えるのはここにいる皆さんになりますので~現役世代代表として少し助言をしてみようかと思います~」


 ラビコが教壇に立ち喋り始めると、狂気のお祭り騒ぎをしていた生徒達が一瞬で静まり返った。


 ノートを広げ耳を傾け、一言もラビコの言葉を聞き逃すまいとした立派な姿。学生のかがみですなぁ。


 隣のハイラも興奮を抑えきれない顔でラビコの話を聞いている。


 紙にメモる気満々なのはいいが、その紙、俺の短期体験入学のデータ取りのチェックシートだぞ。



「ペルセフォス王国は戦士系騎士が多く、魔法系騎士が少な目なので~皆さんが将来のこの国の魔法の支えになりますので~頑張って頂きたいところです~。まぁ逆に言えばペルセフォスで魔法職は引く手あまたな状態なので~君達の未来は明るいですよ~と。あっはは~」


 なるほど……! 俺の魔法使いのへ道も明るい、と。


 俺は騎士にはなんねーけど。



 つかラビコ真面目モードだな。


 てっきり俺を驚かすためだけに来たっぽいし、授業とか適当に流すかと思ってた。


 やっぱラビコも国王と同権力を持つ身として、ペルセフォスという国の将来を真剣に考えているわけか。


 すまんラビコ、俺の考えが浅はかだった。


 与えられた権力分の仕事もあまりせず、自堕落じだらくに生活していたのはカモフラージュで、実はものすごくペルセフォスのことを普段から心配して……


「あ~授業つっても~そういう基本的なことは学校で習って自己鍛錬しろとしか言えないね~。各自頑張ろ~あっはは~」


 ……ぉい……じゃあ何しに来たんだよ……俺のさっきまでのお前へのリスペクト視線を返してくれ。


「なので~このラビコさんが教えるのは学校で習えるお話ではなく~実戦でしか学べない魔法使いの戦闘スタイルを経験則からちょろっと言ってみようかと~」


 と言うと、ラビコが黒板にサラサラと図を描き始めた。


 球状の物を二つ。一個は完全に塗りつぶし、もう一個の方は球の表面だけ線を描き、中身がカラッポな感じの絵。


 さて、なんだろうか。



「ペルセフォスの騎士ってのは~国を守るため王を守るため国民を守るために戦いますが~それは同時にいつも命の危機にさらされていることになります~。では実戦で騎士の命は誰が守るのかと言うと~それは何のひねりもなく、自身の力になってきますね~」


 ……なんだよ、ちゃんと授業やるんじゃねーか。


「君等はペルセフォスを守るための使い捨てのこまではないので~だからこそペルセフォスではキチンと学校を設けて基本を学んでもらい、少しでも自身を守る力を身に着けて~いち秒でも長く生き残って欲しいと思っています~」



 ハイラに聞くと、ペルセフォスの騎士学校入学試験が世界でも有数の難易度なのは優秀な騎士を求めているから、だそう。


 でもそれはペルセフォス王国の権威を守るためとかではなく、半端な知識と技術の騎士では命を落とす確率が高いから。


 ペルセフォスではわざと騎士学校に入れる難易度を上げ、自身を守れる力をしっかり持った者のみ入学を認めているとか。


 それは『国が騎士の命を守るための行動』であり、嫌な表現をすれば、知識も技術も足りない者が自身を守れず、短期で命を落とした新人騎士を補うために新たに新人を雇うことを繰り返す場当ばあたり的な雇用より、同じ人が長く生き残り勤めてくれたほうが、経験を積んだ騎士が多く所属する強固な騎士団が出来上がる、と。


 まぁ騎士自身もペルセフォスが守るべき国民であるってことか。



「生き残るからこそ戦力であり、生き残れるからこそ王や国民を守る騎士ということになるのです~」


 そういえば俺も何度かラビコに怒られたな……。簡単に死を選ぶな、生き残れって。


「では魔法使いが実戦で生き残るにはどうしたらいいかというと~それは長時間ひたすら魔法を撃ち続ける体力と魔力が必要で~それが尽きる前に勝つしか無いという実に簡単なものです~」


 ま、まあそうだろうな。


「それを実現するには自身の残りの体力と魔力を正確に計れる冷静さが求められ~特に唯一の攻撃手段である魔力は常に計っているように~と」


 体力はなんとなく分かるが、自分の残り魔力を計るってどうやるんだ? ステータス表記でもありゃー分かりやすいが、そういうの無いしなぁ。



「ハイラ、魔力ってどうやって計るんだ?」


 とりあえず横のハイラに聞いてみた。ハイラは剣も魔法もいけるハイブリット騎士だしな。


「えーと、数字では表せないので、これはもう魔法を使い続けての経験則になりますね。何をどれぐらい使ったら魔力が尽きるってのを体に叩き込むんです。たまに体に湧き上がる魔力を大まかに割合で判断出来る天才さんってのもいますけど、それはラビコ様クラスが持つ技術で使える人は極稀ごくまれ、ですねぇ」


 結局経験か。


 よく聞く異世界転生では、ステータス表記が俺だけ見えるとかあるんだがなぁ……そういうのは一切無いうえ、俺は魔法すら使えないという……はぁ。



「あ、そこの冴えない少年君は隣の女性と会話禁止ね~私だけを見て興奮しているように~あっはは~」


 俺とハイラが授業の邪魔にならないように小声で頭寄せ合って喋っていたら、ラビコがイラっとした顔でにらみシャツの胸元を広げ謎エロアピール。


 教室内の男達がラビコの開いた胸元を見て興奮の声を上げるが、確かに女教師の服は水着より隠れている分、服の隙間から肌が見えるのがエロいな……。


「むぅ、そういうのは私がやるからいいんですぅ。ほら先生、胸の谷間ですよー」


 ハイラがラビコの宣告を無視し、騎士の制服の胸元を広げて見せてくれた。おお……ありがてぇ……ハイラも地味に胸大きいんだよなぁ。


「ハイラ~……それ以上やったら魔法実演の実験体やらせんぞ~」


「ひっ……」


 ハイラも精神的に強くなったとはいえ、さすがにラビコの殺意的な物が見え隠れした視線には敗北。身震いしながら姿勢を正した。


 そして一連の行動で集まる生徒達の俺へのアイツ誰よ視線。


 勘弁してくれ……。




「はい、そしてここからが本番で~このラビコさんが実戦経験で得た技術を本日初公開~。二度とこういう授業はしないので~心して聞くように~あっはは~」


 生徒達、職員さん達が身を乗り出し、ゴクリと喉を鳴らす。


 ラビコは十歳から今の二十歳まで、十年以上蒸気モンスターを相手に戦い抜いてきた世界でも屈指の大魔法使い。


 その実戦技術を少しでも聞けるなら、と生徒達の期待は高まる。



「魔法使いが長時間平均的に火力を出し続ける方法、それは放つ魔力をコントロールすることで~見た目は同じでも~威力『0』から威力『100』を瞬時に判断し使い分け放つ技術、ダミー魔法だね~」


 ラビコが先程描いた黒板の絵を指し、俺には理解出来ない魔法言葉を交え説明を始めた。



 難しい技術論は聞き流し、ハイラに聞きつつ俺なりに要点をまとめてみた。




 『ダミー魔法』


 魔法を放つときに魔力を込め魔法を形作るが、その込める魔力をいつも『100』の全力でやっていたらすぐにガス欠になってしまう。


 実戦で魔法ってのは攻撃の為に放つものだが、それは当てるつもりのない牽制けんせい目的だったり、止めの絶対に当てたい目的だったり種類がある。


 牽制目的やフェイント目的に放つ魔法は極力魔力を込めず、その魔力は威力『0』から『99』まででコントロールし、表層だけ形作り魔力を節約して放つ。


 そして本命である絶対に当てる魔法には魔力を『100』の全力で放つ。


 これを瞬時に判断し、威力『0』の魔法と威力『100』の魔法を見た目で威力の差が分からないようになるまで技術を磨け、と。



 なるほど、つまり野球で言うと、投手は速度の違うストレートと変化球を放つモーションを全く一緒にして打者を惑わせと。え、違う? これが理解出来ないから俺って魔法使えねーの?


 じゃあボクシングで言うと同じストレートでも実際に放つ拳と、気迫だけ込めて相手にはまるで次の瞬間ストレートを放つんじゃないかと錯覚させて実際には撃たない拳、フェイントを混ぜて攻撃を仕掛ければ、相手のリズムを崩せてこっちが有利に進められるという……あ? やっぱ違うの? 




「せ、先生……すごいですよ、これ! この技術を教えられる魔法使いさんは本当に少なくて、これをマスターすればそれこそ魔法の本場、セレスティアが誇る魔法騎士にも匹敵する魔法使いになれます!」


 ハイラが大興奮で抱きついてくるが、セレスティアの魔法騎士? それってラビコの弟子を自称しているノギギとかになるのか?


「感動です! まさかラビコ様の魔法技術を教えてもらえるとは……!」


 そんなすごいことなのか、これ。


「あの、さハイラ……俺よく分かんねーんだけど、つまりどういうことなんだ?」


「はい、ラビコ様がお見せになってくれる綺麗な魔法の光を打ち上げるものを覚えていますでしょうか。あれがその技術を分かりやすくしたもので、攻撃魔法を威力『0』で放ち、見た目を楽しむ魔法として昇華したものになります」


 綺麗な魔法の光? ああ、花火みたいなやつか。


 王都のカフェのオープニングでラビコがやってくれたやつだな。あれってそんな高い技術のものだったの……俺、すげぇ気軽に頼んでいたけど。


「しかし華やかな見た目に反しそのコントロールは難しく、魔法の威力を見た目全く同じで『0』から『100』までを使い分けられる技術がないと出来ない高難易度魔法なんです」


 そ、そうだったのか……すまんかったラビコ。気軽に頼みすぎた……。


 そういや思い返すと、異世界に来て初めて見た魔法がラビコの放った威力ゼロの雷魔法だったな。


 深夜こっそりエロ本買いにいったら、俺が借金を苦に家出したと勘違いされて騒ぎになったやつ。



「魔法の国セレスティアに一緒に行った時、あの魔法の光の美しさを競う競技、マリアテアトロという催しがありましたが、セレスティアでは毎年あの高難易度魔法を自在に操れる魔法使いを生み出しているのです。さすが魔法の国、ですね」


 ああ、そういやあったなマリアテアトロ。


 あれは綺麗だったなぁ。そして実はアレもすごい大会だったのか……。



 要するにひとつの魔法でも威力『0』から『100』までの見た目全く同じものを使い分け、牽制やフェイントを混ぜて消費魔力をセーブしつつ自身の稼働時間を伸ばすってことか。そしてそれを相手に気が付かれない技術、か。


 その高難易度技術を、ラビコが図解入りで簡単に説明してくれたようだ。



 やっぱすごいんだなぁラビコって。



 でも内心俺はちょっとほっとしていた。てっきりここで適当な雑談かまして、結局自己鍛錬しろ~で終わらすんじゃないかと心配していたし。




「はいそこの短期入学の少年~、ほげ~っとした顔していないで、ラビコさんの偉大さが分かったら今後は敬語使って態度を改めるように~。あ~今ので肩こったな~ホラ、今すぐ前出てきてラビコさんを絶賛しつつ肩揉め~。今夜のマッサージも予約しておこうかな~あっはは~」


 ラビコがニヤニヤと笑い、俺を指し言う。


 あー……ちょっと尊敬したらこれだ。


 しかもわざと誤解されるような言い回しをしやがって……。



 うーん、さすがに三百人強の「アイツなんだよ、さっきからラビコ様やハイラさんと親しげにしやがって」視線は、熱い。







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