第405話 ペルセフォス騎士養成学校に通おう! 2 魔法授業とゲスト教師様




「失礼しました……それでは簡単に学校のシステムの説明をしますね」




 冒険者センターで行われる魔法使いへの転職試験を受けようと奮闘ふんとうしていたら、サーズ姫様のはからいでペルセフォス騎士養成学校に通えることになった。



 まぁ短期、たった五日間の体験入学ではあるが、魔法が使えないから絶対落ちると、俺で遊ぶことしかしなかったラビコに習うよりはよっぽど有意義だ。


 学校に通う間のお世話役しとてハイラが来てくれ、そこはちょっと安心。


 知り合いの一人もいない学校に通うとか不安だったしな。



 しかし会った瞬間暴走し始めて、これは一人のほうがよかったのでは……との考えもよぎる。



 斡旋あっせんしてくれたサーズ姫様としては、今後導入予定の新たな学生受け入れ体制である『一芸いちげいに長けた生徒の優遇入学』のサンプルデータ取りに丁度いいということらしい。




 

「騎士学校では一年間に決められた量の単位を取得すれば試験を受けることが出来、合格すれば一年生から二年生になれます。三年生の最後に騎士試験が受けられ、それを突破出来れば晴れて正式にペルセフォスの騎士、というわけです」


 ふーん、単位式なのか。日本でいうと高校ではなく大学に近いシステムか。


「受ける授業のスケジュールは自分で決めることが出来て、上手く組めば結構自分の時間が作れて自己鍛錬に当てることができますねー」


 俺は別にこの学校を卒業して騎士になりたいわけではなく、冒険者センターで行われる魔法使いへの転職試験に受かりたいだけなのであまり関係無い話かね。


「じゃあまずは行われる予定の授業スケジュール見て、俺が魔法使いに近づける奇跡の組み合わせを探さないと、か」


「そこは大丈夫です! もう事前にスケジュールを組んでおきました。ええ、私はこの騎士学校を卒業したスペシャリストなのですから! 先生は全てをこの私に任せ、心も体も開いてくれればそれでいいのです! もう服も脱ぎましょう! 授業なんかもサボって二人で遠くにっ……いたぁ!」


 なにやら時間割を見せてくれハイラが熱弁するが、スケジュール組んでくれたのに授業サボったら意味ねーだろ。


 俺はハイラの頭をコツンと叩き手を引っ張る。


「アホか。ホラ行くぞハイラ。俺はマジで魔法が使いたいんだよ」


「あ、ああああ! 手つなぎ登校……恋する女子の憧れ……手つなぎ登校じゃないですか! さすが先生……にくいとこ突いてきます! やっぱり学生結婚は最高ですね!」


 その妄想まだ続いていたのか。


 とにかく移動しようぜ……ハイラは有名人だから、周りに学生さんが集まってきてすげぇ見られているんだって。






──朝八時五十分、最初の授業が行われる五階の教室に到着。



 学校は大きな校舎が三つと体育館みたいな巨大な建物が三個連結する形で作られていて、外観は大型ショッピングセンターみたいな作り。建物内部は真ん中が天井まで吹き抜けの五階建て構造。天井の大型な窓から太陽の光が眩しぐらい降り注ぐ。


 すげぇオシャレで明るい校舎。あちこちに豪華なソファーや観葉植物が置かれていて、とても柔らかい雰囲気。


 建物一個ごとに学年が別れていて、俺は一年生の建物。


 なんにせよ規模が半端なくでかいが、どれほどの人数が学んでいるんだろうか。




 先に職員さんがいる部屋にお邪魔し、挨拶あいさつを済ませてきた。


 なんか異世界とはいえ、学校に入ると元高校生の血が騒ぐ。


 売店で紙パックの牛乳売ってねぇのかな。無性に買いたくなる……。





「きゃー! ハイラインさーん!」

「本物だー! すごいすごいー!」


「ハイライン先輩! レース見ていました! 最後まで諦めない姿は正にペルセフォスの騎士の体現でした!」

「飛車輪で壁を蹴る発想、どうやって思いつかれたんでしょうか。ぜひご指導を!」

「今日は講師として来て頂けたのですか!?」



 九時から授業が始まるので、劇場みたいな作りの教室の一番上の端っこでこっそり受けようとしたら、教室内外から生徒が殺到しハイラが質問攻めに。


「あ、い、いえ、短期体験入学の生徒のデータ取りでして……」


 ハイラがしどろもどろで答え、助けを求めて俺の腕をつかんでくる。途端に集まる生徒達の俺への疑惑の目。


「そういえば……この人誰?」

「初めて見ますね、誰でしょうか……」


「あれ、俺この人知ってる。お城の前に出来たカフェでよく見る人だ」

「ああ、そういえばラビコ様ともよく一緒にいるところを見たことが……」


 ──ザワザワ。


 学校の職員さんには話がいっているようだが、昨日の今日でいきなり沸いた話なので、さすがに生徒達には連絡が行き渡っていない様子。



「お前ら座れー! 授業始めるぞ! お、ハイライン君、お勤めご苦労様。いやぁ教え子がウェントスリッターで優勝し、国代表騎士になるとか教師として鼻が高いよ。あはは」



 若い男性の教師が教室に入ってきて騒ぎを収め、ハイラに笑顔で話しかけてくる。


「い、いえ! グラン先生の授業はとても分かりやすくて助かりました!」


 ハイラが立ち上がりビシっと敬礼みたいのをする。


 先生達にとってもハイラは自慢の卒業生なのか。よかったなぁハイラ、レースで頑張って。



 その後、簡単にグラン先生が俺がサーズ様、王族推薦の短期体験入学の生徒だと説明をしてくれた。その途端さっきまでの不審者視線から一気にサーズ様とハイラインさんのお知り合い、という実はすごい人なんじゃないか、の視線に。


 ああ、俺、今現在『街の人』です。


 期待されているところ申し訳ないですが、全然すごくないんですよ。見ますか、俺の冒険者カードに押されたかわいいハンコを。




 午前九時も過ぎているので、授業開始。


 魔法構築学と魔法練度とかいう、謎の授業。



「さっぱり分からん……」


 何やら黒板に意味不明な図を描いているが、本当に意味不明。


「あ、大丈夫ですよ先生。とりあえず今はあれをそのままノートに描いて覚えて、本番で頭の中にイメージ出来ればいいんです。あれは万人向けの基本構築であって、別に自分の分かりやすいように書き換えてしまってもいいんですよ」


 ハイラがフォローをしてくれるが、その言葉の意味すら分からない始末。基本構築……?


 持ってきたノートに絵を真似て描くが、これが一体なんだってんだ……。


 2Dの平面円状に描かれた謎文字列の真ん中を3Dの立体円柱が貫いているような図。円柱にも階層があり、どの階層を2D円に合わせるかで構築式が変わるとか……。




 魔法練度。


 火を放つ場合、燃焼維持の魔力をどういう出力にするかというもの。


 燃えやすい紙なのか木材なのかオイルのような液状なのか、それともガスのような気体なのか。維持魔力の出力をどうするかで魔法が変わるとかなんとか……。当然発火条件もあったりして、なんだかんだで頭ぐーるぐる。




「お疲れ様でした先生! では次の授業の教室に行きましょう!」


 五十分間の授業が終わり、燃え尽きたボクサーのごとく白くなっていたら、ハイラが元気に俺の腕に絡んでくる。


 さっぱり意味が分からなかった……とりあえず魔法ってのは図画工作に近いのかな、と。



 周りの生徒はうんうん頷きながら授業を聞いていたが、理解していたのか。


 なんとなく生徒達を見ていたら、年齢がバラバラ。てっきり全員同い年、例えば高校一年生なら十六歳がほとんどかと思ったら、普通に二十歳越えから五十越えてんだろアンタ、みたいな人もいた。


 ハイラに聞くと、騎士養成学校に年齢上限はないそうだ。


 基本十六歳以上であれば誰でも受験でき、受かれば生徒になれる。若かろうが年取っていようが、才能次第ってわけか。




 午前九時五十分過ぎ。


 次の授業を受けるため二階にある教室へ移動。



「さっきのとこに比べて倍以上広いとこなんだな」


「はい、ここは最大三百人は入れますねー。実演を交えた授業のときに使われる教室ですー」


 なるほど、確かに天井も高いし黒板前のスペースが動き回れるように多く取られているな。入っている生徒は三十人から四十人ってとこだろうか。


 俺が受ける授業は魔法使い転職試験に向けたもので、魔法系をハイラが選択してくれている。


 このペルセフォスという国は基本武器を扱う戦士系騎士が多く、魔法使い系の騎士は少ないそうだ。


 騎士学校に通う生徒も戦士系騎士志望者が多く、魔法系生徒は少なめなので魔法系授業は人が集まらないとか。


 確かにここは三百人は入れるでかい教室なのに、その十分の一しか席が埋まっていないしな。


 まぁ、魔法使いに本気でなりたければ本場である、隣国セレスティア王国に行くんだろう。



「うーん……何かおかしいですね。学校の教員さん達が壁際に警備のように立っていますが、普通はこんなことはしないです……」


 ハイラが教室内を見渡し、不審そうに唸る。


 言われて周りを見るが、この学校の教員と思われる人達がずらっと壁際に立ち、そわそわしている感じ。緊張もしているが、待ちきれない子供のような雰囲気も感じ取れる。二十から三十人はいるだろうか。


 現役騎士でウェントスリッターになった、この学校の卒業生であるハイラがいるせい……でもなさそうか。


 さて、なんだろう。


 危険な雰囲気ではないが……。



「あれ? これからここで授業を行っていただけるレイン先生も壁際にいます。やっぱりおかしいですよ、これ」


 ハイラが見る先にいる女性教師がレイン先生なのか。


 これから授業をするのに、壁際で他の教員達と談笑しながらそわそわ立っているのはおかしいな。



「先生、側を離れないでくだ……」


「はいお待たせ~。本日は特別にこのラビコさんが授業を行うよ~。心して聞くように~あっはは~」


 ハイラが周囲に警戒視線を送り、俺の腕をつかんだところで教室のドアが開けられ、ザ・女教師の恰好をした女性が笑いながら現れた。



 げ……ラビコじゃねぇか。


 なんで騎士学校に来てんだあの魔女。



「……お、おおおおおおお!」

「きゃあああああすごーい!」

「本物……本物のラビコ様だ……すげぇぞこれ!」


 いつもの教師ではない人が入ってきて身構えていた生徒達が、その女性がラビコだと分かった途端雄叫びを上げだした。


 もはや生徒どころか、壁際にズラリといた教員までもが狂気の笑顔で叫んでいる状況。



 騒ぎを聞きつけ、近くの教室にいた生徒達がドカドカと入ってきて、三百人は入る教室が一気に満員に。


 さらに立ち見の列が出来るほどの超満員状態。す、すげぇな……。



「な! ど、どうしてラビコ様が……先生、何か聞いています!?」


 ハイラが驚いた顔になっているが、俺だって驚いている。


「し、知らんぞ……」


 いや……そういや朝、終始ラビコがニヤニヤしていたな。


 

 あの魔女、驚かせる為だけに俺に黙って騎士学校に来やがったな? やられた……俺マジで驚いたし。


 ラビコがニヤニヤ嫌な笑顔で俺を見てくる。


 くそ……あの魔女……いつもの水着にロングコートではなく、ビシッとしたスーツスカートにネクタイに伊達メガネまでしてやがるぞ。


 やる気満々かよ。








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