第400話 跨がりたいサーズ姫様と弟リュウル様の貢物様





「妹、サーズがご迷惑をお掛けしたようで、本当に申し訳ありません」




 進行中の街の人クエスト。



 街の人と会話をしてみよう! は冒険者センター指定の人以外でも、有名な人ならいいとか。


 ならばコネを使ってペルセフォスの隠密おんみつ、リーガルあたりにでもサインを頼もうとしたのだが、せっかくなら王族を攻めようとかラビコが言い出し、サーズ姫様に頼むことに。


 事情を話すとサーズ姫様が笑顔で了承してくれたが、ただし俺と二人きりでの個室会話を、と条件を出された。


 よく分からんが籠城用ろうじょうように作られたとういう外からは絶対に開けられない強固なプロテクトが施された部屋に連れ込まれ、興奮したサーズ姫様に襲われかけたがアプティを呼び鍵を解除。無事俺は外へと出ることに成功した。


 別に命の危機ではないぞ。性的な危機、ではあったが。




「い、いえ! こちらこそ申し訳ありません! 個人的な職業クエストに皆様を巻き込んでしまいました!」



 今がどういう状況かというと、籠城用の部屋の外で待ち構えていた魔女ラビコが激怒。


 絶対に開けられないはずの部屋にバニー娘アプティが普通に入ってきてほうけた顔になっていたサーズ姫様だったが、すぐに正気に戻り「つい偶然暴走してしまった」と頭を下げてくれた。



 サーズ姫様がお詫びとして、姉であり現国王であられるフォウティア様の元に案内してくれ、俺の会話クエストのサインをしてくれることになった。


 事情を聞いたフォウティア様が謝ってくれたが、俺の個人的なことにお忙しい王族の皆様の貴重なお時間を使ってしまい本当に申し訳ない……。俺も精一杯頭を下げ、謝る。



「それにしても本当にあなたは不思議なお方です。こちらのお願いをほとんど聞いてもらえなかった魔女ラビィコールを従順に従え、元勇者パーティーの皆様や冒険者の方々の力を結集しソルートンを銀の妖狐という強力な蒸気モンスターから守り、気が付けばお城の前にカフェジゼリィ=アゼリィというお店を開いていました」


 国王フォウティア様が優しく微笑み俺を見てくる。


「あなたがソルートンという街に来てからというもの、このお城であなたのお話を聞かない日は無い、というぐらいあなたの多方面でのご活躍が耳に入ってきます。短期間でこれほどペルセフォスという国に影響を及ぼした人物は、おそらく指折り数えることが出来るぐらい少ないでしょう。思えば英雄であるルナリアの勇者様もソルートン出身ですし、あの街にはそういう奇跡を起こす何かがあるのでしょうか、ふふ」



 そういやルナリアの勇者さんってソルートン出身なんだっけ。


 まぁ俺も目覚めたらなぜかソルートンにいたけど、そういうのは単なる偶然だろう。


 偶然がたまたま重なって良いことが起きると「奇跡だ」と思い、そう処理するのが一番簡単に人の心を納得させる方法だしな。



「国王という立場を利用して上から言わせていただきますが、出来れば我が妹サーズと結婚していただきたい。サーズもあなたのことを相当慕っていますし、あなたにはずっとこのペルセフォスという国に居て欲しいのです。そして以前言いました特別騎士になって……」


 フォウティア様の発言に周りにいたお付きの騎士達から驚きの声が上がる。当のサーズ姫様もちょっと驚いた顔をしている。



「あっはは~絶対におっ断りだね~。誰がうちの社長をこ~んなド変態なんかに引き渡すかっての」



 俺も一瞬何を言われたのか理解出来ず口をポカンと開けていたら、ラビコが俺の前に立ち発言中のフォウティア様を睨みつける。


 さすがこの国の王と同権力を持つラビコさん。フォウティア様相手にも遠慮が無ぇ。いや、権力とか関係ないな。


 ラビコは誰に対してもひるまない女だった。



「国の力として利用するのはこの私だけで充分だろ~。うちの社長に騎士という身分を与えて国に縛るのはこの私が認めないよ~。社長の夢はこの世界の全てを見ることなんだ。それの障害となるような物は、このラビコ様が妻として全てぶっ壊してやるのさ~あっはは~」


 ラビコが俺の右腕に絡み言う。


 誰が妻か。


「……この国を守りたいって言い分は理解出来るけど~その気持ちだけでうちの社長に言い寄るのは許せないね~。サーズがお姫様という立場ではなく、一人の女としてうちの社長が好きだって言うんなら、同じ女として幸せを掴もうと行動するライバルとして認めてやってもいいけど~あっはは~」


 まぁラビコは見た目の美しさや持っている権力実力、お金、体目当てに相当数ハイクラスの男達に言い寄られていたらしいしなぁ。


 ああいうのは心底嫌なんだろう。



「……申し訳ありません。妹を想うあまり気持ちが焦って、言い方は悪いですが餌をちらつかせて丸め込もうと姉である私が先走ってしまいました。ですがご指摘の部分は心配には及びません。妹サーズは表面上国の為、ペルセフォスの為と行動してくれていますが、その実は大変男性に興味があり、好みど真ん中である強くて優しくて行動力のある彼に本当に一人の女として恋をしているようです。ちょっと特殊なへきはありますが……」


「うわあああああ! ま、待ってくれ! 何もこんな場所で全部言わなくてもいいではないかフォウティア姉さん! 今のは無しだ、私の積み上げてきた謙虚誠実イメージが丸つぶれだ! それに私に特殊なへきなどない!」



 妹を想い、姉であるフォウティア様がラビコに弁明をしたが、その正直な想いは牙をきサーズ姫様に襲いかかる。


 サーズ姫様が顔を真っ赤にしながらフォウティア様に突撃していってしまった。


 ちょっと泣いている。


 つかこんな叫んだり慌てふためいたサーズ姫様は初めて見るな。



「あっははははは! バラされちゃったね~これでもう国王公認の特殊性癖持ちド変態姫だ~あっはは!」


 さて……こういうとき、庶民はどういう顔をすればいいのかね。


 ラビコとセレスティア王族のクロは笑っているが、俺とロゼリィは笑うことも出来ず困り顔。アプティはいつも通り興味なしの無表情だが。ベスは俺の足に絡みついてスヤスヤ。


 騎士であるハイラもいるのだが、今更いまさら驚くこともないといった余裕の表情。



「お、落ち着きなさいサーズ! 隠していたっていつかは露見するものです。ならば早めに情報を出し、あなたの全てを受け入れてもらえる本当の意味でのパートナーを……それにラビィコールは言いました、国の為ではなく、一人の女としての幸せを求めるのなら恋のライバルとして認めると。これはチャンスなのですよ、一人の女として何も着飾ることなく裸のあなたをアピールすればいいのです。サーズ、彼が本当に好きなのでしょう? ならば立ち向かいなさい! 聞くところ、ここにいない女性含め彼を狙っているライバルが多数いるとか。これは負けられない戦いなのです。妹が頑張るというのなら、姉であるこの私も全力で応援しましょう! 使える物は全て使い、ターゲットを射抜いぬき撃破! そして女の幸せを勝ち取りなさい!」


 フォウティア様が涙目のサーズ姫様の顔をがっしりつかみ激励。


 仲の良い姉妹の睦まじい姿なのだろうが、このままでは俺はターゲットとして撃破されてしまうのか。



「あっはは~いいぞ~そう来るならこのラビコさんも一人の女として受けて立とうじゃないか~。ま、コテンパンにしてやっけど~」



「はは、ははははは……もういい、もう我慢なんかしない! 私は男が好きなんだ、好みの男に襲いかかりたい! はは、逃げる対象を追いかけ撃破するのは得意でな……逃げられない場所まで執拗しつように追い込み押さえつけ服をぎ、怯える男の上にまたがりたいんだ! そこの女共! 私は本気だぞ……彼を守れるものなら守ってみせろ。だが私はその全てを蹴散らし跨がり女の幸せを掴む!」



 どうしよう、サーズ姫様が壊れてしまった。



 ラビコが面白がって真面目なサーズ姫様を煽るからこんなことになるんだよ。あとで謝らせないと。





 その後、とりあえずラビコに謝らせ、サーズ姫様と握手をしてもらった。


 ラビコは不満そうだったが、余計な火種投下したのは事実だ。俺を守ろうとしてくれた気持ちは嬉しいが、後半面白がっていたろ。


 フォウティア様が俺の街の人クエスト『街の人と会話しよう!』の台紙の空いたスペースに直筆サインを入れてくれた。


 これすごくないか。


 サーズ姫様に国王であるフォウティア様のサインが入った台紙だぞ。


 ネットオークションがあれば高額で売れそう。


 いや、売らないけどね。これ提出しないとクエストクリアにならねーし。







「……あ、お姉様達とのお話は終わりましたか? 僕も英雄さんにご協力がしたいです」



 フォウティア様がいらっしゃった王の間からの帰り道、廊下を歩いていたら背後から小さな声が聞こえた。



 はて、誰だろうか。


 柱から手だけが出ていて、俺を呼んでいる。


 アプティがチラっと後ろを見たが、無表情のまま興味なさそうに前を向き歩き出す。まぁお城の中に変な奴はいないだろうしなぁ。



「ん~? ああ、じゃあ私達は先に行っているよ~。男同士エロい話でもしておいで~あっはは~」


 ラビコが声の主が男だと分かり、寛容なお言葉。ロゼリィとクロ、アプティとハイラも歩いていってしまい、俺の足元には愛犬ベスのみという状況。




「……呼んだのは俺ですか? その、どなたでしょうか」



 柱の手に向かって声を掛けるが、手招きするのみ。


 誰なんだよ。


 俺は柱に近づき声と手の主を見るが……あれ、この少年……。



「お久しぶりです英雄さん。リュウル=ペルセフォスです。その紙に王族のサインが欲しいとか。僕も子供ですが王族です。憧れの英雄さんにご協力がしたいです」


 この子ペルセフォス王族の一番下の男の子、リュウル様だ。


 そういや以前「僕に魔法を教えて下さい」とか言われたな。見た目九歳ぐらいだろうか。でもさすがペルセフォス王族の血を引く少年。

 

 絶対将来美青年になるぞ、これ。



 女装してくれたらいける……か、って俺は何を考えているんだ。



「あ、これはリュウル様。お久しぶりです。この街の人クエストの紙にサインをしてもらえるのですか? それはありがたいです」


「はい。僕もお手伝いがしたいのです」


 なんか随分懐かれていないか、俺。なんかしたっけ? 


 リュウル様がさらさらと紙にサインをしてくれ、笑顔で俺に紙を渡してきた。


「出来ました。もっと字が上手ければいいのですが、すいません」


 申し訳なさそうにリュウル様が言うが、まぁ確かに子供の書いた字ではある。


 いや、年相応でいいじゃないですか。俺の字なんてこれ以下ですよ。



「僕もお部屋の端っこでお話を聞いていました。それで慌ててサーズ姉様のお部屋に行って英雄さんが好きな物を持ってきました。サーズ姉様のこと、よろしくお願いします。それでは」


 ほう、リュウル様もさっきの王の間にいたのか。


 何やらポケットから小さく丸められた布を俺に渡し、走って行ってしまった。


 何事。


 サーズ姫様の部屋から持ってきたと? なんですかね。



「…………ホ、ホアアアアア!」



 こ、これは……もしや伝説の装備……サーズ姫様のおパンツ様では……!


 小さく丸められた物を丁寧に広げると、それはどう見ても女性物のアレ。


 すごいぞ! こんなレアアイテム、絶対に手に入らないぞ! やった……! 異世界に来てよかった……!



 あの子、確か歳が達したら王位をフォウティア様から継承するんだっけ。


 大丈夫、ペルセフォスは大いに発展しますよ。


 この相手の好みを見極め、瞬時に行動し貢物を渡してくる外交力。



 俺、あの子について行きます!











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